何かとてつもないものが来る。
雷光そのものと化した刀華のプレッシャーは、心の底にある本能に直にそう訴えてきた。
直後に己に向けて解き放たれるだろう脅威を前にして、ヨルは────
「………ああ。なんだ」
気の抜けたようにそうボヤいた。
戦うためのあらゆる緊張が抜け落ち、その表情からも険しさが消える。
纏った魔力も雲散霧消した─────
一瞬にして一切の戦意を放棄したヨルは、余りにも想定外の展開に思考がフリーズしてしまった刀華に躊躇いもなく背を向ける。
「止めだ。もう戦り合う理由も無い。………お前の『それ』は、もう知ってるやつだ」
それだけ言って、ヨルはすたすたと歩き出す。
リングから降りるその直前。
「……、……………」
険しい顔で自分を見る一輝と少しだけ視線を合わせ、彼はそのままリング出口からさっさと出ていってしまった。
背中から討たれる可能性を全く考慮していない………いや、考慮した上で背中を向けたのだろう。
本当に彼はこれ以上の戦闘行為に意味を見出だしていなかったのだ。
(自分が挑んだ勝負に自分で見切りを付け、結末も無視して戦意ある相手に背を向ける)
ぽつり、と一輝は呟いた。
「なるほど。………『騎士』じゃあ無い、か」
張り詰めた気が抜けてとうとう失神した刀華に、生徒会のメンバーが慌てて観客席から駆け寄っていく。
医務室に運ばれる準備が迅速に行われていく中で、一輝はヨルが出ていった出口をじっと見詰めていた。
そして─────
「ん………」
決闘から一時間後、気絶していた刀華が目を覚ました。
ぼやける意識を起こしてベッドの横を見ると、そこには心配そうな顔をした生徒会の仲間たちがいる。
「刀華、おはよう」
「かいちょー、大丈夫……?」
「うん、大丈夫だよ。心配させてごめん。………そっか。負けたんだね、私」
窓から射し込む傾いた陽を受ける刀華に、生徒会のメンバーはかける言葉がない。言葉による慰めなど彼女は望まないだろう事がわかっているからだ。
「刀華ちゃん。……どうでしたか。彼と戦って」
カナタの質問に、刀華は一つずつ答えていく。
彼の瞳に凍える炎を見たこと。
自分の雷が通じなかったこと。
諸々から推測される彼のスペック、そして自分が最後に使おうとした技のことなど。
「……ヨル。あの男は会長にそんな自爆技を使わせる程であったというのか」
「で、でもずるいよね。たまたま皮膚が分厚かったって、そんなの運じゃん」
「ううん。あれは体質なんかじゃないよ」
恋々の言葉を刀華はそう正した。
「打ち合ってる最中に見たんだけどね。あの人の手、もう傷が付いてない所なんてなかった。多分服の下も。あの人の皮膚は何度も破れて何度も再生して、そうやってどんどん強靭になっていったんだよ。何千回傷付けばあんな適応が起こるかなんて、想像もつかないけど。……それに」
「それに?」
「彼は……ヨルさんは多分、この戦いで全力を出してはいなかった」
空気が止まった。
それは全員が感じていた事だからだろう。
持ち得る全ての手札を切り土壇場でジョーカーを繰り出した刀華を相手に、ヨルは息一つ切らさずその全てを叩き落としたのだ………最後の《
それ程の力を持った者に何らかの思想がある。
そしてもしもこの学園の中でその思想に触れてしまうような出来事があったら、その時は───
(あまり、考えたくはありませんね)
刀華はベッドのシーツをぎゅっと握り締める。
ここで自分が負けたことの意味と自分への不甲斐なさが、じくじくと彼女を苛んでいた。
闘技場からの帰り道。
先の戦いについて話していた一輝とステラだが、ステラはそこで一輝の受け答えがどこか上の空である事に気が付いた。
「『お前のそれはもう知ってるやつだ』、か。アイツ、過去にあのタケミカヅチと同じものを受けたことがあるのかしら?だとしたらよく二本足で歩けてるわね。………、イッキ?」
「……………、ああ。どうだろう。何か別のものを指してるのかも知れないけど……」
「ねえイッキ、さっきから難しい顔で何を考え込んでるの?」
「計算が合わない」
計算?とステラが聞き返した。
「そう。ヨルさんは地面を抉る打撃を持ち、戦局の最後には《
でも、これっておかしいんだ。
《雷槌》は射出方向の関係で身体を回転させなきゃならない分《雷切》より到達時間が長くなるけど、それでも超音速。放たれてから回避するのは不可能に近いんだよ。
打撃に至っては体幹を捻らず腕力だけで打つ『手打ち』、なのにあれほどの速度と破壊力。
ヨルさんに肩を組まれた時からおおよその筋力は把握していたけど────
───ヨルさんのパラメーターでこの二つを実行するのは、普通に考えて不可能だ」
「………つまりアイツには、それを可能にしている《武術》がある?」