逆十字の天使 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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エブリスタとはかなり仕様が違ってあっぷあっぷしてます。


虐殺者の来訪
七星剣王の懊悩


第62回七星剣武祭から三日。

月影総理から最悪の未来の話を聞き、お好み焼き屋『一番星』での打ち上げ会も終わり、そして日常は戻ってきた。

未だ破軍学園内の祝勝ムードは止まないものの、いつものベッドで目を覚まし、いつもの場所で鍛練をし、いつものように友人と語らう。

慣れ親しんだこの空気を吸っていると、様々な意思や思惑、思想や陰謀───それらと熱狂とが混ざり合ったあの闘争の坩堝が、ふとどこか遠い夢のように感じそうになってしまう。

それでもあの日あった事は紛れもなく現実で。

掴み取った栄冠は紛れもなく真実だ。

空もそれを讃えるように晴々しい。

にも関わらず、黒鉄一輝の表情は難しかった。

 

「………うーん……」

 

人気の少ない校舎横の小さなスペースにある段差に腰掛け、難しい声で唸っている。

 

悩みの種はもう数日に迫った、最愛の恋人……その祖国への訪問について。

より詳しく言えば、その恋人の父親への挨拶についてだ。

 

(やっぱり直接『娘さんを僕にください』と……いやまずは健全な交際であることを……それよりもそこに至るまでの会話の流れが………)

 

どうしよう、と一輝は頭を抱える。

これも本日何度目になるかもわからない自問自答だ。片や王族で非の打ち所なく才色兼備のAランク騎士、片や家にすら見捨てられた名家出身(哀)の跳ねっ返りFランク騎士。

改めて考えると恐ろしいほどに釣り合わない。

完全に悪循環になっているが、考えれば考える程に土下座がベストなのではないかと思えてしまう。

こんな事では来るその日にどんな窮地に陥ってしまうか───

戦いの最中に相手の思考やその根幹すら暴いてしまう彼の洞察・思考力は、こういうシチュエーションでは笑える程に役に立たなかった。

 

「もお、どこにいるのかと思ったらこんな所にいたのね」

 

───ふわり、と柔らかな香りが一輝の鼻腔を擽る。

鮮やかな紅髪に神話の一節から抜け出したかと見紛う美貌。

黒鉄一輝最大の好敵手にして最愛、《ヴァーミリオン皇国》の第二皇女、ステラ・ヴァーミリオンその人だった。

 

「ああ、ステラ。ごめん、少し考え事をしてたんだ」

 

「わかってるわよ、どうせアタシのパパになんて話を切り出すか迷ってたんでしょ?四日前からこんなに悩んでたら、向こうに着く頃にはハゲちゃってるわよ」

 

「そ、それはイヤだな……」

 

ただの冗談と知りつつも、本能的な恐怖で思わず生え際を押さえる一輝。

たとえそれがまだ若者だったとしても、自分の頭髪の将来を思い恐怖を覚えない男はいないのだ。

 

「情けないけど、本当にどう切り出していいかが分からなくてさ。父さんはどうしたのかなって、思い切って父さんに相談してみたりもしたんだけど」

 

「政略結婚みたいなものだった、とか……?」

 

「うん。そうなんだよね……」

 

がく、と頭を垂れる一輝。

一番参考にならないパターンだった。

というか、下手をすれば自分は愛によって生まれた子供ではないのか、というヘビー級の葛藤を抱えていてもおかしくはない。

……だけど、とステラは思う。

一輝の父、黒鉄厳と一輝の折り合いの悪さはステラも知っている。

というかその現場を目撃した彼女はそれに対して本気でキレかかった事がある。

それでも一輝は厳を父親と思っているし、厳も一輝を悪しからず思っているようだが……それでも父親に相談事を持ちかけるのは、彼にとって少なくない勇気が必要だったはずだ。

ステラはそんな恋人の苦悩の全てを理解した。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。アタシのパパはハッキリ言って、控えめに言って大バカだけど」

 

(控えてるのかな、それ)

 

「あの決勝戦でアタシが斬られた時、本気で軍隊を動かそうとした大大大バカだけど」

 

(親バカの領域を振り切ったッ!?)

 

だけど、とステラは一輝に微笑んだ。

 

「それでも、確かにアタシを大切に想ってくれてる。その私が『この人しかいない』って言うのよ。パパは絶対に私の想いも、イッキの想いも無下にしたりはしない」

 

「ステラ……」

 

「だから、イッキは自信を持って堂々としてればいいの。イッキは今まで、壁にぶち当たって悩んでも、最後には絶対に乗り越えてみせたじゃない。その努力と成果を認めない人なんて、世界のどこにもいないんだから」

 

そう断言した彼女の笑顔を見て、一輝は自分の心にのし掛かっていた重圧が、一気に消え去っていくのを感じた。

どうにか出来るだろう、という自信が湧いてくる。

いつもいつも不思議なのだ。

どんなに辛い状況でも、彼女が「頑張れ」と励ましてくれただけで───何でも出来るような気がする。

 

「ありがとう。ステラ」

 

一輝も笑みを浮かべて、隣に座る彼女の肩を抱き寄せる。

『ぽにゃっ』と嬉しそうに顔を緩めて、ステラもまた一輝に自分の身体を預けた。

しかし結局、彼は直前になって、また頭を抱えて悩むことになるのだが………

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