「悪いな、一晩借りたぜアンタの男」
「……別に構わないわよ。あんたが女だったら燃やしてたところだけど」
「睨むじゃねえか。俺ぁその分の仕事はしたぜ?俺のベッドテクの全てをこいつに」
「ちょっとヨルさんそれは言わないで下さい!」
「ちょっとそれ詳しく」
「私にもぜひ」
「ステラ!珠雫!!食い付かないで!!」
何の気無しに滑り出そうとした爆弾発言を全力で抑え込もうとする一輝だが、しかし一瞬遅かった。
血の臭いを嗅ぎ付けたピラニアみたいな勢いで食い付いてきたステラと珠雫を引き下がらせるのに大変な努力を必要とした。
「ま、いいわ。用事が済んだのなら帰りましょ」
「だけどもう空が薄明かるくなり始めてるな。眠り方を工夫しないとまともに授業を受けられそうにない」
「おいおい、お前そんなんで明日……いや今日か。大丈夫なのかよ」
「心配ありませんよ。その時にはきちんと万全に整えておきますから。たぶん許可も出るでしょう」
ならいい、とヨルは踵を返して仮の住まいへの帰路に付く。一輝もまたステラや珠雫と連れ立って自分の寮に戻ろうとした。
………その時?許可?
彼女らの頭に引っ掛かりが生まれたその時。
彼ら二人は同時に相手の方を振り返った。
「それじゃあ。今日、また闘技場で」
「yah,特Aのミートパテにしてやる」
白む朝日が、目に痛かった。
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───────やあ、ナイト!
随分と久し振りじゃないか。
ずっと何の音沙汰もないものだから、僕はてっきり君がもうヴァルハラに旅立ってしまったものと………冗談さ。君が死ぬ時はきっと、天にラッパの音が鳴り響く時だろうね。
しかし本当にどうしたんだい?
君から連絡が来ること自体、考えてみれば尋常の沙汰ではないのだけれど………
………………。
ああ、いや、失礼。
あまりにも予想外だったもので言葉が見付からなかったんだ。
それにしても、わざわざそんな婉曲な手段を取るなんてね。もしかしたら君の行動原理に気付いているのかもしれないが、そうなると………
………差し出がましいが君に言うべきことがある。
君のその状況は、大きな勢力が絡んで作り上げたものだ。当然問題の規模も君個人で収まる範疇にない。
世界が君を見定めようとしているんだ。
心してくれ。
そこで君が取る行動によっては────君のいる世界全てが、君を殺すロンギヌスの槍になりうるのだと。
…………。
ハハ、そうだね。君ならそう言うと思ったよ。
君の在り方は曲がらない。
黙示の日までそのままなんだろうさ。
それにしても、そんな大勢力が絡んだ動きを僕が知らなかったというのは中々ショックだよ。
あれから随分とのし上がってきたつもりでいたが、僕もどうやらまだまだのようだね。
僕の方かい?
それがあまり思わしくないんだ。
壊滅させた武器や薬の売人が集まって、再び活動を再開しようとしているらしいんだけどね。
片っ端から人を集めてるみたいで、資金源やルートが煩雑で特定が難航しているのさ。
しかもその中には《
策謀でも、暴力においても相当な争いになる。
一刻も早く駆逐せねば、近隣の街や集落は取り返しの付かないことになるだろうな。
………そう怖い声を出さないでくれ。
僕にだって日頃からの備えがある。
例え厳しくとも絶対に負けはしないよ。
君は君のいる場所で、君を貫いていればいい。
それに何より。
あの時、君の力を借りなければ出来なかった事を───自分の力で行うのが、今の僕の使命だ。
─────それは唐突だったのか、起こるべくして起こった事態なのか。
その答えはもう意味を無くしてしまった。
誰の目にも見通せない閉鎖的な大嵐は、間もなく最大の風速を迎えようとしている。
鋼鉄の翼が黒鉄一輝をヴァーミリオン皇国に送り届ける、その二日前。
黒鉄一輝と《傭兵》ヨルの正面衝突が決定した。