逆十字の天使 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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看破

だから一輝は方針を固めた。

───まずは様子見。相手を探る。

そしてヨルもまた決断した。

 

───探らせては危ない。速攻で終わらせる。

 

両腕を身体の前で畳み、上半身を丸める。その姿はまるで襲い掛からんとするネコ科の肉食獣のようだった。

そして三度ヨルが突撃。強力に地面を掴む足指がスパイクとなり、ヨルは低い姿勢で、爆発的な勢いで突き進む。

一輝はその突進を横に回って流しつつ彼の頚を刎ねようとして、

 

(いや、回り込んだら喰われる!)

 

寸前で踏み止まった。

あの姿勢制御力では、すかしてもノータイムで向き直られ攻撃直前の隙を突かれて終わる。

だから一輝は、攻勢をもって応じた。

 

『!?黒鉄選手、逆に突っ込んだあ!』

 

相手は身体的スペックで押し潰しに来る。自分がまた何かしらの技術で応戦することを織り込んでいるはずだ。

――だからこそ正面突破が不意打ちに化ける!

助走をつけた一輝は全身の筋肉を連動させ、ヨルの顔面を全力で貫きにかかった。

 

「《犀撃(さいげき)》ッッ!!」

 

目を僅かに見開いたヨルは上半身を振ってこれを回避。

しかし自分の速度プラス相手の速度、もう一つ足して相手が突く速度という計算式の結果は凄まじく、躱しきれずヨルの側頭部を掠めた鴉の濡れ羽色が鮮血を宙に舞わせた。

当然ながら軽傷で戦闘の継続に支障はない。

一輝が驚いたのは、ヨルの回避の動きだった。

再び全身の筋肉を連動。突いた刀を瞬間最大加速で引き戻し、脇腹に放たれたボディーブローを《隕鉄》の柄尻で受ける。

通常なら拳が砕けるが、一輝の手に返ってきた感覚はまるで巨岩だった。

直後に顔面を狙って飛んできた《不可視の打撃》を首を振って回避、顔の横の空気が消し飛ぶ感覚。胴体を薙ぐように刀を振るうが、ヨルはまたそれを上半身を回して掻い潜った。

その動きはまるで、

 

ボクシング(ピー・カー・ブー)っ!?」

 

(ちげ)えよ。多分な」

 

ヨルはボクシングの心得がある訳ではない。

刀剣を持った相手に対して得物に対する面積を減らし、刺突や斬撃を回避しながらの一撃を叩き込むにはこの形が最適だと行き着いただけだ。

滑るような足運びで踏み込もうとするヨルに、一輝もまた腰を落とした姿勢で対抗。

まるで刀華の戦いの意趣返しのように、下段を狙って刀を振るう。

 

「おっと………!?」

 

ヨルは慌てて足を引くが、しかしぴったりと追随する一輝は離れない。リーチの差がここで効いていた。

ヨルがやはり刀で狙いにくい低空から攻撃を仕掛けてきたら、同じように低空で迎え撃つ。戦いにおいて同じ選択肢同士が激突したら、先に手の届いた方が勝つのだ。

ただし、戦いとはそんなジャンケンで決まるような単純なものではない。

一輝が振るった《隕鉄》の軌跡を、ヨルが脚を上げて躱す。

その瞬間、持ち上げたヨルの足が『消えた』。

 

「─────!!」

 

一輝の顔面を掠めて、《不可視の打撃》が突き抜けた。

ただの擦過傷のはずなのに、傷口から焦げた煙の臭い。

 

(『やっぱり』、脚でも撃てるのか………!!)

 

回避されたヨルはやや驚きの表情を見せつつ、蹴った足でそのまま大きく前に踏み込む。強引に刀の間合いを潰し、空間を縦に裂くようなアッパーカット。迫る鉄槌を一輝は《隕鉄》の柄で強引に受けるが、そこにまた見えざる鉄槌が襲いかかる。

 

『なっ、何が起きているんだぁ!?ヨル選手の攻撃がまるで目に見えません!ヨル選手の手足が消える度に黒鉄選手が追い込まれていきます!』

 

『ん、あー……成る程ねえ。そういうからくりかい』

 

『!西京先生、あの《消える攻撃》のタネとは一体!?』

 

『うーん、対戦中に人の技術のタネを解説しちまうのはフェアじゃねーんだよなぁ。黒坊がわかってんならいいんだけど』

 

「構いません。もう見破りました」

 

放たれた《不可視の打撃》を、一輝はひょいと頭を下げて回避する。

既に刀を構えているのを見たヨルは、一旦脚を引いて後ろに下がる。それを読んでいたかのように一輝は彼にぴったりと追随し。

後ろに引く途中だったはずのヨルの脚が突如として消え。

そして放たれた《不可視の蹴り》が、一輝の胴体に向けて進撃し───それはあっさりと回避された。

同時に叩き込まれる、全体重を乗せた袈裟斬り。

 

「Shit!!」

 

ヨルが軸足のみで後ろに飛び、刃圏から全力で飛びすさる。

服は斜めに切れているが、傷は皮一枚に止まっていた。

───あのタイミングでまだ斬れなかった。

やはり恐るべき瞬発力とボディバランス。

その驚嘆は圧し殺し、一輝は一計を案じた。

かつて一輝が《狩人》相手に緊張のあまり適切な戦術を選べなかったように、全開のステラを相手に心が折れそうになったように……心理的な側面はとても大きい。

自分の優位を突き付けるように、彼は言い放った。

 

「今、蹴りが消えたことで確信しました。ヨルさん、あなたは────手足で居合い抜きを行っているんですね」

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