それでも、今の一輝にはさっきまで無かった強さがあった。
触れ合った身体から伝わるお互いの体温が、心を通って愛しさに変わる。
後の行動はもう決まっていた。
二人は意識するでもなくまるで磁石と同じ、そうなるのが当然だというように、一輝とステラの唇はその距離を縮め────
「あー、すまん」
第三者の声に全力で反発しあった。
腰からもげる勢いで仰け反った二人が咳き込む。
「げほっ、げっほ……り、理事長!?」
「取り込み中のようだったから終わるまで待とうとも思ったんだが、そういうシーンを見られるのもどうかと思ってな」
「どっちにしろタイミング悪すぎよ!わざとじゃないにせよ!」
要するに何をしようとしていたかはモロバレだった訳である。
真っ赤な顔でクレームを入れる二人に、破軍学園理事長、《
「え、ええと………僕達に何か御用でしょうか?そこそこ緊急のようですが」
「なぜそう思う?」
「流石にこの場所にいる僕達を見付けるというのは偶然という訳でもなさそうですから」
その通りである。
ここはそれこそ移動教室の時しか使わないような、普段人通りのほとんどないスペースなのだ。
意図して探さない限り、ここにいる人の存在に気付く可能性は少ないだろう。
だからこそ一輝はここにいたのだし、見られた気まずさも激増なのだが。
「ふ、正解だ。本当なら放送か何かで呼び出そうと思ったのだが、ちょうどお前たちを目撃したと聞いたのでな。折角だから直接言うことにしたのだが……」
「そっそれはもういいでしょ。それで用事ってなんなのよ、理事長先生」
「ああ」
そこで黒乃の目の色が変わる。
その様を見れば、今この学園にただならぬ事態が発生している事は明白だった。
固唾を飲んだ二人に、元世界ランキング三位は重々しく告げる。
「───この学園に、転入生が来る」
「……て、転入生?」
予想外に平和的なイベントに、ぱちくり、とステラが瞬きする。
「転入生というのも言葉の綾だな。極短期間の留学生とでも言うべきか……」
「そ、それのどこが緊急の用事なの?それってわざわざ私達に言うんじゃなくて、集会か何かで紹介するものじゃないの?」
「その知らせはするが、大々的には行わない。そもそも異例尽くしの対応だからな……一応公式ではあるが、あまり公にしてはならんのだ」
「……そういう人物である、という事でしょうか」
「そうだ」
一輝の質問に黒乃が頷く。
「それでこのグレーゾーンの話をなぜお前たちに話したかという理由だが、これを説明するには………、
………………おい」
おい、と黒乃が顔をしかめるのとステラは同時に、一輝はそれよりも早く全力で自分の横側、自分と恋人の間にある空間を見る。
明らかに空気の流れがおかしくなったのだ。
自分達と黒乃の三人以外に、まるで『もう一人いる』かのような───
果たして『彼』はそこにいた。
それはステラには、獣のような目元をした白髪の青年に見えた。
そして一輝には────顔面が赤く焼け爛れ、口が真っ二つに裂けたバケモノに見えた。
「「────────ッッ!」」
全力でその場から飛び退く二人。
何の気配もなくこの至近距離まで近寄られた。
その技量に戦慄する二人を差し置いて、黒乃と彼は二人が聞いたことのない言語で喋り始める。
「『南郷先生はどうした。お前を案内していたはずなんだが、どうしてお前だけがここにいる』」
「『好きに見てこいって放されたんだよ。適当に迎えに行くって、あのジイさん完全に俺をガキ扱いしてやがる』」
「『まったくあの人は……。あとここでは英語で喋れ。ここじゃ流石にシリア語は通じないからな』」
「All right.(問題ねえよ)」
そう言って彼は言葉を切り替えた。
咄嗟に出現させた《
「……彼が、理事長の言う転入生の方でしょうか?」
「そうだ。……おい、ついでに自己紹介でもしていけ。話には聞いただろう。そこにいる二人が黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンだ」
もうそこから立ち去ろうとしていた彼を黒乃が呼び止め、彼もその言葉に興味を持ったのか歩みを止めて振り返る。
Wow,と若干目を丸くした彼は去ろうとしていた踵を返し、回りをうろうろして二人を観察し始めた。
ステラのスタイルを見て口笛を吹くその仕草に一輝の眉根が寄るが、そのステラから燐光が漏れ出したのを見た彼がおどけたように両手を上げる。
「……アンタ、いきなり不躾じゃないかしら」
「OK,OK.悪かったから得物を収めてくれ。ったく、話に聞くよりアツい女だ」
……一応、敵意は無いらしい。
改めて自己紹介しようと口を開こうとしたらしい彼だが、ふと何かに思い当たったらしい。
黒乃と少し言葉を交わし、しばし発音の練習をしていた。