逆十字の天使 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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夜の護り手(knight of night)

 

ぎぎぎぎぎ、と。

足の指で地面を掴み、不自然極まりない動きで彼は地面に起き上がっていく。

鮮血に塗れなおも凄絶に笑い立ち上がるその様は悪夢そのものだ。

ゴウ、と燃えるような音を上げて彼の胸から闇が噴き出す。

魔力だ。

Fランクに過ぎないはずの魔力が急激に増加を始めていた。

立て続けに起こるあってはならない現象。

観衆同様に絶句していた寧音は、そこであるものに気付く。

 

大きく抉られた胸の奥──何か輝く物が見える。

 

『……嘘だろオイ。流石に予想できねぇっての。

道理でどこにも無え筈だ、道理でわからねえ筈だ!デバイスってのはあんな所にも顕現するモンなのかい!?』

 

思わず身を乗り出す寧音。

高揚か戦慄か、荒くなる語気はそのまま眼前の異様さを表していた。

 

『身に纏うタイプなんてもんじゃねえ。

あいつの《固有霊装(デバイス)》は───()()()()()()だ!!』

 

 

「……感謝するぜクロガネ。お前のお陰で、俺は俺の原点を思い出せた」

 

話す言葉に淀みはなく、表情には苦痛の色もない。

口角から赤色を足らしつつ、彼は歓喜を滲ませた。

 

「そうだ……答えはあったんだ。アイツが戦う理由もまた、誇り(PRIDE)だった」

 

その時、彼の魔力に変化が起きた。

光を通さぬ暗黒の色をした魔力。

その闇の中に、白い輝きがある。

それは一つ二つと数を増やし、やがて暗黒よりももっと相応しい呼び名へと姿を変えていった。

その変容は進化ではない。

今の彼と、目の前の相手を相応しいと認め、彼の権能がようやく本当の力を発揮させたのだ。

 

───そういえば、これの名前なんて考えたこともなかったな。

 

己の名前をそうあるように名付けたように。

名も無きモノに力はない。

その瞬間に自然と沸き上がってきたのに、まるで最初からその名を知っていたような感覚に。

 

彼は。

初めて己の武器と権能の名前を呼んだ。

 

 

 

「心命に刻め───《原罪の聖痕(エスティグマ)》!!」

 

 

 

その瞬間、彼の魔力が一気に膨れ上がった。

天を衝く瀑布のように轟音を上げて噴き上がる力の奔流に、全員が言葉を失った。

威圧されたと同時に、美しかったからだ。

大小様々な輝きの灯った闇色が広がっていく様が、まるで満天の星を抱いた夜空のようで。

 

変動する彼の魔力量。

一輝の背筋を震えが駆け上る。

このプレッシャーは嫌でもわかる。

 

今の彼は、特級のAランクだ。

 

「……審判(ジャッジ)。今更で悪いが開始の号令を頼むぜ」

 

「っ」

 

「ここのやり方に則ってやんよ。……俺はこいつを、より深く理解する」

 

息を呑む黒乃は、理解した。

確かにわかる───今からが始まりなのだ。

互いを確かめる挨拶は終わり。

自分の中の合図で、何かが変わる。

 

その重圧に負けてはならない。

 

かつてなく重みを感じる右腕をもう一度掲げ、振り下ろす動きで黒乃は戦乱の幕を切って落とす。

 

 

「────試合開始(LET's GO AHEAD)ッッ!!」

 

 

 

弱き者の盾となれ。

正しき者の矛となれ。

大悪を以て巨悪を誅せよ。

悪の知識と暴力で、埋まった善を掬い出せ。

 

───それがクズの自分に与えられた天命。

 

だから彼は「夜」と名乗るのだ。

闇に溢れるこの世界で、星のような正しい輝きを包み忘れないように。

その輝きを──守れるように。

 

 

 

 

「教えてくれよ。───お前の光を!!!」

 

 

星空と蒼光が最短距離で激突する。

 

 

片や天に定められた運命を引き千切った者、片や天に己の道を指し示された者。

 

 

一分後、二人は全ての者の脳髄に焼き付ける。

 

 

生も求めず死すらも厭わぬ───凄惨にして壮烈な、死合の果ての結末を。

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