やがて納得のいく発音ができたのか、彼はようやく自分の名前を名乗った。
「向こうで傭兵やってるモンだ。俺の名前は……そもそも名乗る名前は無えが、ニホン語で言や『ヨル』で通してる。
言葉は英語で勘弁してくれ。向こうじゃジャパニーズにゃ会わないし、覚える機会もないもんでな」
ヨル、と。
その青年はそう名乗った。
異様な外見だった。
一輝よりもやや大柄な背格好を、黒のタンクトップと丈の長いモッズコートで覆っている。
乱雑に伸びた髪は白く―――さらに異様なのが、その顔。
顔の左半分が真っ赤に焼け爛れているのだ。
ケロイドに覆われた左側の顔は頬の肉も剥ぎ取られており、上顎と下顎、左の犬歯から奥歯までが完全に露出している。
一輝とステラが違う顔に見えたのはそのせい。
右側から見たステラには普通の顔に、左側から見た一輝には爛れた方が見えたという訳だ。
その顔と髪と名前(?)のせいで、全く素性がわからない―――せいぜい一輝よりやや歳上かもしれないと推測できるのみだった。
「……ステラ・ヴァーミリオンよ。いつまでこっちにいるのかは知らないけど、まあよろしく」
「僕は黒鉄一輝です。この国じゃあまり女の子をじろじろ眺めるのは失礼ですよ?」
するとヨルの注意がステラを眺め回した行為をさりげなく刺した一輝に向いた。
眉を寄せてこめかみに手を当て、何かを思い出そうとするように唸る。
「ん、クロガネ?クロガネ………クロガネ……
……――――クロガネ・オーマ――………?」
「!兄さんを知ってるんですか?」
「Yeah!ビンゴだ!やっぱお前オーマの弟か!」
手を叩いて快哉を上げるヨル。
「お前の話はオーマから聞いてんぜ。何でも稀代のペテン師なんだってな?
ぜひ俺にも手口を教えてくれや。どういうトリックで《紅蓮の皇女》を斬り伏せたんだ?ん?」
「は、ははは……」
恐ろしく情報が捻じ曲がっていた。
どんな謗りを受けようが今更ぶれる事もないが、情報を発信する側には正しい意味で伝わるようにそれなりの責任を持っていただきたい。
肩を組んでそんな要求をされたところで、一輝の口から出るのは渇いた笑いだけだった。
一方笑いではなく身体から火の粉を出しているのは、一輝の血ヘド吐く努力と苦悩、そして誠実さを『トリック』呼ばわりされたステラだった。
「アンタ、イッキの何が――」
「おっと、流石にあんたと踊る気はねえよ。何も馬鹿にした訳じゃねえんだぜ?なあクロガネ、仲良くしようや。Hey」
ずい、と肩を組んだまま差し出された手。
どうやら握手を求めているらしい。
流されるままにその手を握った一輝に満足そうに笑うと、ヨルはモッズコートの端を翻して二人に背中を向ける。
「んじゃ行くぜ。また出会すこともあんだろう。
それとお二人さん……今のラブ・シーンが演劇とかじゃねえのなら、もっと人目につかねえ場所でやりな」
にい、と人間の方の顔で口の端を歪める彼。
そこを通っていた他の生徒を仰天させながら、ヨルはそこから姿を消した。
………最初から見られてた!!
最後に投下された爆弾をなんとか受け流そうとするように、一輝は黒乃に問う。
「………肩を組まれた時、彼から魔力の流れを感じました。やっぱり、彼……ヨルさんも
「まあな。ところでステラ・ヴァーミリオン。お前の見立てでは、奴の
話を振られたステラは少し考えて答える。
「戦った時の実力はわからないけど……ランクでいえば、Fランクだと思います」
学園の新入生を基準に言えば、Cランクは二五〇人中五人いれば多い方。
Bランクは一校に一人いれば幸運。
Aランクに至っては、それこそ十年に一人という稀少性。
ほとんどがD・Eランクの中、Fランクは真に最底辺だ。
だけどそれはその者を馬鹿にできる理由にはならない。それを覆してのけた剣の鬼が、今ステラの隣にいるからだ。
彼女の言葉に、そうだな、と黒乃は頷く。
ステラの見立ては正しかった。
その上で黒乃は、こう言った。
「実際に戦って奴を連れてきた南郷先生曰く―――
――――
その言葉は二人、特に一輝にはとても信じがたいものだった。かの侍、黒鉄龍馬と肩を並べた《闘神》―――南郷寅次郎が戦った相手の力量を測れないなどあり得ないからだ。
しかしそれは真実なのだろう。
あの《闘神》が『戦って』、『感じた』ことなのだから。
「『あれは数値に当て嵌められるものではない』との事だ。警戒せねばならないのは確かだがな」
「……一ついいですか?」
「なんだ」
「色々と頭が追い付かないけど、傭兵で
その国で認可されている