逆十字の天使 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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sideヨル:終わらぬ戦禍

閃光と爆音。

日の落ちた荒野を支配するものはそれだった。

しかしそれらは近代兵器が産み出す災禍ではなく、ただ二人の人間によるものだ。

星空と深緑が衝突し、その度に破壊の衝撃が撒き散らされていく。

 

ある地域で違法組織の残党が活動を開始した。

その煩雑な資金や薬物・兵器の取引ルートを掴めないことに業を煮やした某国の上層部は人材を結集し、「取引物資をどこかに集めているはずだろう」という考えの元、どこにあるか手掛かりも掴めないそれを叩けという非常に頭の悪い命令を下した。

しかしそうして組織されたその軍隊、否、その軍隊の司令官の働きは目を見張るものだった。

敵が『市場』とするであろう地域とその一帯の地理などから最も効率的に各所に分配できるだろうポイントをいくつか特定して兵に潜伏させ、そしてその内の一つが見事に当たった。

そこに全兵力を結集、敵も戦闘員を用意していたが流石に一国が用意した精鋭は相手が悪い。

最後に残った根を絶やすのは時間の問題だ。

 

そう思われた。

敵もまたこんな事態を想定し、一人の《伐刀者(ブレイザー)》を雇っていた。

資金源の復活という利害が一致した《解放軍(リベリオン)》から差し向けられたその男は、恐ろしいまでの力を誇っていた。

その暴力を前に精鋭の軍は為す術もなく蹂躙され、死に物狂いで撤退するも相手には彼らを逃がすつもりなど毛頭なく、もはや壊走といってもいい。

 

一輝との戦いを終え日本を発ったヨルが『友人』の大仕事を気にかけ、現場に直行していたのは本当に運が良かった。

寸での所で乱入した彼により敵の逆襲は押し留められ、多数の犠牲者を出しながらも撤退に成功。

そしてヨルは今もその男と戦い続けている。

 

「ああ゛っ!」

 

立て続けに襲い来る蹴りを前腕の回転で弾く。

足に蓄積するダメージに焦れたのか男は腰背部に一際力を込め、真っ直ぐに蹴り込んだ。

───これは弾けない。

即座に判断したヨルは戦法を変える。

迫る男の蹴り足の内側に、そっと掌を側面で触れた。

力でぶつかるのではない。ただそっと逸らす。

そのまま内から外へ円を描いたヨルの手が、男の蹴りを音もなく横へと受け流した。

同時にヨルは逆の手の拳を固く握り締め───全力で腕を捻りながら突く。

ジャイロボールと同じ回転が空気抵抗を消し、さらに重さと破壊力を大きく増強させて男に向けて突き進む。

日本での戦いで手にした《回転の力》。

ヨルは既にその術理の肝を掴み、弾き(パリング)だけでなく、合気や攻撃に応用していた。

 

──ただし。

それでもなお、その男は───現段階のヨルよりも実力が上だった。

 

一際大きな轟音が大地を揺らす。

百メートル近くも蹴り飛ばされたヨルが地面にめり込んでいた。

『危険人物』が標的と戦闘を開始、大きな劣性に立たされている。

その状況をそう報告された司令官が拳を握り締め立ち上がった。

 

「おい、駄目だ逃げろ!死ぬんじゃない!!救援を出せ、あの男を助けるんだ!」

 

「不可能です、現時点で我々に戦闘を継続する余力は残っていません!そうでなくても、あの戦いに割り込める者など……!それに司令はあの男が何者かご存知ないのですか!?」

 

「ああ知っている、だから行くのだ!例え私一人でも構わん!我々の責務は、義を以て戦う者の背に隠れ逃げることではない……っ!」

 

狼狽える部下を前に激情を叫ぶ司令官だが、それは完全な感情論で何の現実性もないことは自分でも理解していた。

努力を重ねた。結果を手に入れた。

それでもどうにもならない領域がある。

自分には、彼らのような特別な力はない。

ままならぬ自分の無力に彼がただ歯を食い縛っているのと時を同じくして、ヨルが吹き飛んだ破壊痕の中心。

 

(……みてぇな事になってんだろうなぁアイツ……)

 

度重なるダメージでまともに動けないまま、自分の想像で思わず笑ってしまったヨルの傍に砂を踏む音がする。

 

「終いだ。手間取らせやがって」

 

ベルモンド──それが彼の名だ。

ヨルと同じ傭兵だった男。

無論友好的な関係であるはずもないが、お互いに名の通ったもの同士で二人には面識があった。

味方だったり敵だったりとその時々の関係は変われど何となくお互い生き延びてきたが、どうやら今日、いよいよ片方が終わるらしい。

 

「……《解放軍(リベリオン)》に入ったのか、お前」

 

「腕を上げてより待遇の良い所につく。当然の事だろ」

 

真実かどうか知らないが、名のある家の妾の子で、随分と忌み嫌われ育った……みたいな噂話をヨルは聞いたことがある。

そんな事を思い返す位なら反撃に出たいところだが、生憎血も体力も失い過ぎた。

実力で敵わないことは早々に理解したが、その戦いの中で黒鉄一輝との戦いで中断されてしまった戦闘技術の精錬を再び実行。

着実に差を縮めていったが、うなぎ登りとまで言えたヨルの成長は突如としてストップし───そして今、王手をかけられている。

 

「しっかしテメェもわっかんねえな。ゴミクズの身分で正義ゴッコに精を出して、テメェに何の利があるってんだ?」

 

「正義であるつもりも無えが……お前にゃ……わかんねえだろうよ」

 

「あー。その必要もねえしな」

 

ベルモンドはヨルの血塗れの胸板に足の裏を載せる。

 

「祈る声は届かねえ。どんだけテメェが肩肘張っても結局はこのザマだ。神とやらの為に暴れてどうなる?この通り恵みもクソも施しゃしなかっただろ」

 

無益を説くベルモンドを、死に瀕したヨルはなおもせせら笑った。

 

「神は聾唖(ろうあ)だ……祈りの言葉は聞こえてねえし、祝福の言葉も口にゃあ出来ねえ……。戦って戦って、死に物狂いで踊らなきゃ………目に留まってもくれねえのさ………」

 

「……あっそ」

 

見知った仲の会話は終わりだ。

後は己の一手次第となったベルモンドは幕の降ろし方を考える。

───こいつの力は得体が知れない。

力の総量が増減し、純粋な火力系統かと思えば、やや不完全ながらも傷を塞ぐという治癒的な面も持っている。

致命的な一発をいくつか食らわせたのにまだ喋れているのがまず脅威なのだ。

 

(頭を砕くか?)

 

そう考えたが、やめた。

力が増減する条件が不明なのだ。

今はヨルの状態を反映してか魔力量はFランク程度だが、頭を砕かれるという状況に再び力が増幅する可能性がある。

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