「シリアルキラー……って、そのまんま殺人鬼って意味でいいのかしら」
「話の内容と、やってる事で言うならね」
その日の晩、自室のソファに並んで座り、ステラと一輝は黒乃から聞いた話について思いを巡らせていた。
破軍学園の生徒なら抑え込める……それはつまり、いざヨルが暴れた時にストッパーにならねばならないのは自分達ということになるのだ。
「そんな危ない奴、学園の中で自由にさせて大丈夫なのかしら。ナンゴウ先生もずっとここに居れる訳じゃないんでしょ?」
「生徒会の監視が付くんじゃないかな。刺激しないように大っぴらにはやれないけど、付かず離れずでマークされると思う」
「……ニトログリセリンみたいね。まんま危険物じゃない」
はー、と深く息を吐くステラ。
「《
「も、問題児つながりですか」
「………ところでイッキ、アイツの事なんだけど。アイツ、本当に大量殺人鬼だと思う?」
一輝の顔を覗きこむようにステラが問う。
「……激戦区で傭兵をやってる訳だから、もちろんそれなりの数の人を手に掛けてきてはいると思うけど、そういう話じゃないんだよね?」
「うん」
「そうだね。見た目はともかく、雰囲気からはそれこそ目についたものを壊しまくるような感じはしなかったかな……。説得力はあったけど」
「………説得力?」
うん、と。
一輝はヨルに組まれた肩に触れて、低く重い声で解説する。
「実際に触れられてみてわかったよ。
サイズの大きいコートで隠してたけど、体格のシルエットの割に身体が異様に重たかった。
並の筋肉の質じゃああはならない。
ゴムで包んだ石像に抱き着かれたような気分だったよ………握手した感触から逆算しても、握力もまず四〇〇キロは下らないだろうね」
「四〇〇!?」
一輝ほどの実力者になると、握手とはただの友好の証ではない。
握った手の握力からは身体全体の筋力を、腕のブレからは体幹の強さを、さらにそれらを支える意思、その奥底まで推し量る。
思わず目を剥くステラだが、剛力無双の彼女にはそれ以上の力がある……しかしそれは
魔力による強化ナシでそれだと、それこそ人の領域の数値ではない。
戦争と剛力。無数の傷痕。
その三つから二人は奇しくも、同じ人物を思い浮かべていた。
「それって、やっぱり……」
「極限状況下での進化、という点では同じだろうね。………けどヨルさんは、兄さんとは根本的な何かが違う」
「根本的な?」
「うん。兄さんは無愛想だけど、強さへの想いは真実に真剣だ。自分に絶対の自負があるから他者に迎合することもないし、まして自分に挑もうとする相手を避けたりしない。
ヨルさんは少し強引だけど、態度は友好的だし平和的だ。だけど」
だけど――
「……彼の目は、最初から僕やステラを見てなんかいなかった。強さを測ろうとしてた訳でもない。彼が何を見ようとしていたのか、僕には一つもわからなかった」
例えば大会中に一輝のすべてを折ろうと企てた天宮紫音。
彼もまた偽りの顔で一輝に近付き、奥底に羨望と憎悪をひた隠していた。
しかしそれともまた違う、具体的な意思のない『何だかよくわからないもの』が、友好の皮を被ってこちらをじっと見詰めてくるその感覚―――
「―――正直、少し震えたよ」
―――この学園はその体内に、とんでもない劇物を孕んだのではないか。
そんな予感が、二人の腹の底からぞわぞわと這い上がっていった。
学園内にある、ほぼ個人の所有物に近い茶室。
そこに胡座をかいた一人の男と、正座した一組の男女が向かい合っていた。
男の方は言うまでもなく、南郷寅次郎とヨル。
黒い茶碗に注がれた緑色の液体を啜るヨルに、南郷が朗らかに話しかける。
「日本の『茶の湯』の味はどうじゃな?」
「苦ェ」
「ひょひょひょ」
感じた味と同じ顔をしたヨルを南郷が笑う。
一応全部飲み干したヨルは脇に茶碗を適当に放り、食前酒めいた会話から本題に入るべく口を開く。
その目に宿る光は剣呑で、一輝とステラに見せたフレンドリーさは欠片も残っていない。
こちらが本性、というか素なのだろう―――兵器のように無機質な鋭さに、室内の空気が一気に張り詰めた。
「で、こんな狭っ苦しい場所で何だ。今日はもう寝りゃいいだけって話だっただろうが」
「いやいや、用があるのは儂ではないぞ。隣のこの娘が、どうしてもお前と話がしたいと言ってのう」
南郷は自分の隣に目を向ける。
そこには南郷と同じように正座をしている、破軍学園の制服を纏った一人の少女がいた。
長い茶髪を二本の大きなおさげに括った彼女。
傍らには丸眼鏡と日本刀――顕現された彼女の
「初めまして。破軍学園生徒会長、東堂刀華と申します」