緊張
観客のない決闘というのはほとんどない。
それが大々的に行うようなものでなくても大体においてどこかから情報は漏れだして、興味を持った者がやってくるものだ。
しかもそれが破軍学園生徒会長、《雷切》東堂刀華が出る決闘となれば尚更だ。彼女の勇姿見たさに大勢の生徒が押し寄せてくるだろう。
しかし今回の観客席は異様だった。
観ている客の人数も、その面子も。
今観客席でフィールドの行く末を見届けようとしているのは、破軍学園『生徒会』のメンバーと―――一輝とその回りの者だけだった。
「……人、少ないわね。トーカ先輩が戦うんだから、もっと人が沢山いてもいいはずなんだけど」
「多分、徹底的に情報を隠してるのね」
一輝の友人の一人、長身痩躯の(性別では)男、《
「確か『転入生』の彼、籍は一応ステラちゃん達のクラスになったのよね。彼の存在は皆知ってるかしら?」
「ええ。教室で自己紹介とかじゃなくて、写真を見せられて『刺激するな』の一言だったけど………範馬○二郎について教わる新米警察の気分だったわ」
「流石にその存在は教えておかなきゃならないものね……。少なくとも生徒達には、彼が危険な人物だって認識は出来てるはずよ。
だからこうして一般生徒がこの決闘を見ることは絶対に防がなくちゃならないの」
その言葉の意味が一瞬わからなかったステラだが、そこでハッと息を呑んだ。人の上に立つ《皇女》という彼女の立場が、その真意を彼女に気付かせたのだ。
その回答を代弁するように、一輝の実の妹、《
「聞けばこの決闘、挑んだのは向こうからとか。――――もしも生徒会長……学園代表である彼女が負けたら、凄まじい混乱が発生する。だからそれを見せてはならない」
秩序の象徴の敗北。しかも相手が《
だからこその処置なのだ。
「だから、こうして決闘を見届ける人を選んだんだ。生徒会の人達は勿論、七星剣武祭に出場した僕たち……その権利を勝ち取っていたアリスも。
万が一に備えて、万全の対策が取れるようにって」
「お兄様。この勝負、どちらが勝つと思いますか?」
「難しいことを聞くなあ」
珠雫の問いに苦笑いする一輝。
「少なくとも、大きなアドバンテージを持っていそうなのは東堂さんかな。彼女の《雷切》は事前情報も無く初見でどうこうできる次元にはない。
気付かず間合いに入った瞬間に終わり、なんて展開も充分にあると思う。
ヨルさんは……凄まじい身体能力を持っているのは間違いないけど、流石に現段階では未知数すぎるよ。
唯一わかっている事と言えば……」
「?」
「相手の情報を知らないのは東堂さんも同じで……ヨルさんには『数値で表せない強さ』があるらしい事だ」
一輝は厳しい眼差しをリングに送る。
そこには既に審判の神宮寺黒乃を挟んで、東堂刀華と傭兵が対峙していた。
「ぬう……IPS
「傷の多さが強さの証ってわけでもないでしょ。かいちょーが無敵って訳じゃなくても、やっぱかいちょーが負けるビジョンは浮かばないなー」
「しかし敵は未知数だ。ランクこそFのようだが、大隊規模の軍勢を兵器ごと皆殺していたと聞く。流石の会長も序盤は様子を見るだろうな」
「そんな事ないよ!もう初っぱなから《雷きフムグッ!?」
「ちょっとちょっと、その敵の前でペラペラ味方の情報を喋ってどうするのさ」
生徒会書記《
難しい顔をする砕城や緊張気味の恋々とは対称的に、泡沫の表情はゆったりとしたものだった。
「心配しなくても刀華は負けないさ。見境なく人を殺しまくるような奴なんかには、絶対にね」
一方で違うことを考えていたのは生徒会会計、《
彼女は刀華と共に幾度となく《特例招集》に赴き、数々の犯罪者を相手に実戦経験を積み、数々の悪意や陰謀を目の当たりにしてきた。
だからわかる。
刀華と相対しているヨルという男。
その目に宿っているのは蹂躙への愉悦ではなく……
(凍える程静かに燃えている。快楽殺人鬼の眼ではありません………あの眼光は、思想犯の眼と同じです)
恐らく刀華も同じことを思っているだろう。
今までの敵とはあまりにも異質な存在を前に、カナタに出来ることはただ、それと相対する刀華の勝利を祈ることだけだった。