「まさかこうなるたぁな」
「何を今更。こうする事を望んだのはあなたでしょう」
「まぁそうなんだが」
『騎士が互いを理解するならこの方法に限るわい』―――急に己の根幹を質問されて戸惑う刀華を他所に南郷寅次郎が提案したのがこの決闘だった。嘘を言っている様子ではなかったので、じゃあそれで教えてくれと……確かに頼んだのはヨルの方だ。
しかし。
「ではこれより東堂刀華とヨルの模擬戦を始める。二人とも、
「ゲンソウ?……ああ、あれか」
直前になって南郷から教わったものである……こうだったか?と
今まで感覚でやっていたものを急に学問的に発展させろと言われても困るのだ。審判役の女が頷いたのを見る限りでは成功したらしい。
何でもこれだと相手にケガをさせることなく、ただそれ相応の体力を奪い取るだけで済むとか―――
―――何の意味があるのだろうか?
安全な場所で踏む勇み足ほど無意味なものはない。
己以外の全てが敵になったとしても、なお命を懸けて貫く意思。
それこそがこの世で唯一真なるものだ。
なぜなら自分は、今までそれを学び続ける生涯だったのだから。
「ただ立場上大声では言えませんが、私としても嬉しい所はあるんですよ。………強者と戦り合えるのは、またとない経験と成長の機会ですから」
「……そりゃ光栄だ」
静かに闘志を燃やす刀華に気の無い返事を返すヨル。
所詮ぬるま湯。こりゃ時間の無駄だったか、と既に思い始めていた。普通に言葉で聞けばいい話だった。このお遊びでどうここまで来たのかは知らないが、少なくともこの女が強者であることに違いはないのだから――――
「よし。では始めるぞ―――
その瞬間、ヨルは己の認識が間違っていたことを知る。
鞘から刃を抜き放つ彼女の目は、確かに命を屠らんとする戦士の目であった。
炸裂する重低音を引き連れ、三日月型の雷撃がヨルに向けて殺到する。
「《
その伐刀者の技、
ヨルは迫り来る雷撃の嵐を見て舌打ちをした。
―――自分でもおかしいとは思わなかったのか!?
普段と真逆の環境に戸惑い、正常な判断を失っていた………あれほどの『圧』を放つ者に、命を懸ける覚悟が無いはずがなかろうに!!
自分への苛立ちと刀華に対する少しだけの謝意、しかしそれは即座に彼の中から排除された。
即座にスイッチが切り替わる。
髪の毛の先を電熱で焦がし、地面を這うような低姿勢の突撃で《雷鴎》を頭上にやり過ごす。
(攻めに転じる決断が早い!)
雷の斬撃を放ちながら驚く刀華。
強靭な体幹が可能とする超低空のダッシュ。回避と接敵を同時に行う、黒鉄一輝と同じ選択。
(速い、だけど黒鉄くん程のスピードはない。その間に対処が出来る!)
刀華の《雷鴎》のパターンが変わった。
ヨルそのものを狙う波濤のような連射から、ヨルとその上下左右を狙う面制圧の爆撃に。
「(上手い、これでただ潜り抜けることは出来なくなった。あの《雷鴎》の間隔と角度、ただ避けるだけじゃ必ずどこかで捕まる!)」
見ていた一輝が思わず手を握る。
ヨルの回避するルートを計算して放たれた《雷鴎》、さらに身体を流れる微弱な電流を読んで敵の動きを予知する《
しかしヨルはその計算の外を行った。
「なっ……」
本来飛び込むべきではない所に飛び込み、避けて潜り抜けて時に跳んで、刀華の計算外の場所から《
適切ではない場所への回避で何度も身体が倒れるが、しかしヨルはそれを意にも介さない。
体勢を直すのではない、そのまま進む。
手で地面を掴み、身体を捻る勢いで跳び、新体操じみた動きで攻撃を掻い潜る様には何一つ危なげというものがない。
そして恐ろしいことに、これ程アクロバティックな動きをしていながら―――前進のスピードは欠片も減衰していないのだ!!
(まるで風のよう。全身の隅々までを自分の支配下に置いている)
「やはりこの程度で倒れる程甘くはありませんか!」
口の端を好戦的に歪め、刀華が腰を落とし中段に構える。
紫電の騎士と傭兵は、既に得意な射程圏内に互いを収めていた。
「凄いな……」
刀華の小手調べに対するヨルの反応を見て、一輝は感嘆の声を漏らす。
「あんな動きで速度を落とさないなんて、鍛えた程度のボディイメージやバランス感覚じゃ不可能だ。重心が全くブレていない」
「腕一本で全力疾走と同じ速度が出せるのもそうね。瞬発力が異常よ。魔力量から考えても魔力による補強もないし、どうなってるのよあいつの身体」