ハイスクールD×D ~龍の兄と鬼の弟~   作:ショタ専用○ンダム

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十二話 神綺さんは俺を殺してくれると言った

「・・・約束を守れなければ死ぬというの?」

 

 

神綺さんが長い沈黙を破りその重い口を開く。

 

 

「アキラちゃんは昔、約束したのよね。『人の心を持った鬼になる』って。約束を守れなければ、ただそれだけの理由でアキラちゃんは自分の命を投げ出すの?」

 

「・・・知っていて言ってるなら意地が悪いですよ」

 

 

確かに約束を守れないって言うのは俺にとって最悪に等しい行為だ。

 

だからって約束を守れないことを理由に死を選んだりしない。

 

それは逃げの行為に等しいから。

 

もし約束を守れないなら俺はその失敗を繰り返さないため破った約束を戒めに一生を悔やみ続ける事を選ぶ。

 

 

「いえ、神綺さん知っている筈です。俺がもし『俺が望んだ鬼』に成れなかった場合の末路を」

 

「・・・」

 

 

神綺さんは答えない、答えられない。

 

知っているから。

 

俺が鬼になってしまった場合の末路を。

 

 

「俺が鬼になれば・・・人間としての理性を失い自分の持つ全ての力を使い破壊の限りを尽くす事を。最悪、この街が・・・いえ、最悪、日本が滅ぶ可能性まである事を」

 

「・・・何処で知ったの?」

 

「本能的に分かっちゃうんですよ。俺はもう半分くらい鬼に侵食されてますし妖怪としての性質ももう少しだけ持っているので」

 

 

俺の宿した鬼は『別世界』の存在だ。

 

そして別世界の鬼・・・いや、妖怪はその存在を人間の恐怖や畏怖によって保ち続けるしかない。

 

そして俺が鬼になったら俺の存在はやはり人間から得るしかない。

 

だがこの世界では鬼になった俺の存在を維持するのに必要なだけの恐怖や畏怖は存在しないだろう。

 

鬼は妖怪の中でも別格の存在。

 

維持するだけにも膨大な『負』の感情が必要不可欠だ。

 

だったら鬼になった俺は存在を保つために何をする?

 

答えは簡単だ。

 

存在を保つため人を襲い続ける必要がある。

 

俺自身が人間にとって恐怖の象徴であり畏怖の対象となり続け存在に必要なエネルギーを得るまで。

 

そして鬼になった俺には人間としての感性が失われる可能性が高い。

 

もし鬼となって妖怪としての感性を持ってしまえば人間を襲う事に躊躇などしない。

 

そうなれば俺は存在を保つため数千、数万の人間を襲い続け人間の恐怖が俺の存在を保てるまでに膨れ上がるまで止まる事などないだろう。

 

 

「だから俺が鬼になったら止められる人は貴女しかいないんだ、神綺さん。事情を知ってるのも俺を殺せるだけの力を持つのも」

 

「・・・はぁ、私が止めてもアキラちゃんは鬼になるのよね」

 

「はい、俺はずっと憧れてきましたから。鬼という存在に」

 

「・・・じゃあ、もう、止めない。うん、私が保証するわ。もしアキラちゃんが自分の望む鬼になれなかったら・・・私がアキラちゃんを、殺します」

 

 

神綺さんは凄く辛そうな顔で笑いながら俺に約束してくれた。

 

俺が忘れていてもずっと俺を見守ってくれた人。

 

子供の時に救った悪霊に捕われていた女の子の母親。

 

優しく暖かな魔界の神様。

 

神綺さんは真っ直ぐと俺を見ながらもう一度泣きそうな顔で微笑んでいた。

 

 

・・

 

・・・

 

「出てきて、萃香」

 

 

掌に力を集中して俺の中にある鬼の力を萃める。

 

こうする事によって集められた鬼の力を媒体に俺の中に眠る鬼に仮初の体を与える事ができる。

 

 

「・・・はぁ~、久々の娑婆だってのに気分は最悪だ。この世界はとことん妖怪と相性が悪いらしいね」

 

 

出てきたのは全長10cm程の俺の同じ栗色の髪をした角の生えた女の子。

 

最強である鬼の中でも頂点の一角。

 

彼女の名は伊吹萃香。

 

俺が憧れた鬼と漸く再会できた。

 

 

「久しぶり、萃香」

 

「あぁ、こうやって面と向かって話すのは八年振りだ。神綺も色々アキラが世話かけたみたいだね。私からも礼を言うよ」

 

「いいのよ萃香ちゃん。私が好きでやった事なんだから」

 

「あ~、その萃香『ちゃん』ってのはいい加減辞めて欲しいんだけどねぇ。ムズ痒くて仕方ないや」

 

 

萃香は神綺さんの肩に飛び乗りその方にちょこんと座った。

 

こうしてみると人形にしか見えないが本来は強大な力を持った存在だ。

 

今は俺にその力の大半を譲渡してしまったため普段は俺の中で意識のみでしか存在できないほどに弱ってしまっている。

 

俺がこうやって鬼の力を体外に密めて仮初の体を構成する事によって萃香は俺の中から出てこれる。

 

 

「さて、アキラ。再会を喜ぶのはまた後でだ。成るんだろ、鬼に」

 

「成るよ。昔約束しただろ?人の心を持った鬼に成るって」

 

「・・・そっか、言っとくけど私は嘘が嫌いだ。だから約束は守りなよ」

 

 

昔は反対していた萃香だけど今は何も言わすに俺が鬼になることを認めてくれる。

 

いや、認めてはいないけど俺の意志を曲げるのも出来ないとわかってるんだろう。

 

結局、萃香が認めなくても俺は鬼に成ると分かっているんだろう。

 

 

「じゃあ、私はそろそろ戻るよ。やっぱり、この世界は居心地が悪いからねぇ」

 

 

そう言って萃香は体を構成していた鬼の力を疎らし俺の中へと戻ってくる。

 

 

「・・・さて、続きはまた俺が鬼に成ってからですね」

 

「うん、頑張ってねアキラちゃん。アキラちゃんが望む鬼に成れるかはアキラちゃん次第なんだから」

 

 

さて、始めるか。

 

俺の将来を決める宴を。

 

 

・・

 

・・・

 

案内されたのは店の奥にある一室だった。

 

薄暗く肌寒く蝋燭の明かりが一本灯っているだけの寂しい部屋。

 

 

「この部屋は?」

 

「何時かこんな日が来るのはわかってたから随分前から用意してたの。私が持てるだけの力を使って最高の結界を張ってあるから鬼に成ったアキラちゃんが本気で暴れても数時間は持つわ」

 

 

成程、前々から準備していたらしい。

 

元々この店も俺の為に作ってくれたものだろうし当然といえば当然か。

 

 

「じゃあ、始めるんで神綺さんは外で待っててください」

 

「・・・アキラちゃん。アキラちゃんが居なくなると私だけじゃない、アリスちゃんも悲しむ。だから私にアキラちゃんを殺させるような事はさせないで」

 

 

それだけ言うと神綺さんは扉を閉める。

 

 

「アリス・・・か」

 

 

懐かしい名前だ。

 

昔出会った神綺さんの娘。

 

人形のような可愛らしい女の子だったな。

 

 

『なんだいなんだい、アキラはあの人形使いが好みかい?』

 

「・・・萃香、勝手に人の心を読むな。それと俺が知ってるアリスは子供の頃のアリスだからそれを好みとか言ったらロリコンだろうに」

 

『でもアキラは私の記憶も持ってるだろう?だったらあの人形使いが成長した姿も知ってるだろう?』

 

 

確か・・・萃香が起こした異変で萃香はアリスと戦ってるんだよな。

 

空を飛び金色の髪を靡かせて人形を操る少女の記憶が俺の脳裏によぎる。

 

他にも普通の魔法使いや半霊の剣士、完全で瀟洒な従者(・・・・・・・・)の記憶もある。

 

 

「あぁ、グレイフィアさんに既視感ってこれか」

 

 

つまり俺の中にある萃香の記憶が無意識に外見的に共通点の多いグレイフィアさんと紅魔館のメイド長を勘違いしてたわけだ。

 

俺は萃香の記憶と経験を受け継いでいる。

 

赤龍帝の籠手は俺と兄ちゃんが生まれる前は二人で共有して持っていたものだった。

 

だけど兄ちゃんが生まれたとき赤龍帝の籠手は兄ちゃんに引き寄せられた事で俺から抜け落ちてしまった。

 

俺はその後、生まれる事はできたものの赤龍帝の籠手が抜けてしまった事によって瀕死の状態だったらしい。

 

そこに偶然に異世界から訪れた萃香が自分の存在を俺に埋め込む事で赤龍帝の籠手の代わりとなり俺の命を永らえさせた。

 

その結果、俺は萃香の力や記憶、経験を受け継ぐ事になったんだ。

 

今の萃香は俺に与えられた萃香の意思が残した意識だけの存在。

 

俺の鬼の力は元々は萃香の物だったから少しは干渉出来るが殆ど無力な存在だ。

 

 

「なぁ、萃香。俺は萃香に憧れてたんだ。俺の記憶には強かった頃の萃香の記憶もある。誰よりも強く誇り高く人を愛した鬼。そんな鬼に俺はなりたかった」

 

『私はそんなに立派じゃないさ。妖怪ってのは自分本位なんだ。鬼だってそれは変わらない。私は自分がしたいようにしてただけだ。アキラが憧れるような立派なものじゃない』

 

「でもさ、それでも俺は萃香みたいになりたかった。萃香みたいな鬼になりたかった。だってさ人って汚いんだよ。他人を貶めたり他人の不幸を嘲笑える。ただ快楽のためにだぞ。妖怪は生きるのに必要な事だけど人は無意味に他人を踏みにじるんだ。そりゃ人間全部がそうだとは言わないけど・・・それでも人間ってのは何処か汚れてるんだよ、俺も含めて」

 

『・・・それが人間ってやつさ。私達鬼はそんな人間と数万年を共にしてきた。汚いところがあるっていうのも全部知ってるさ。それでも私達は人から輝きを見出せる。人は誰かの為に命を捨てられる、自分を犠牲にできる。ま、結局は手酷く裏切られて地底に引きこもったんだけどね』

 

「俺は・・・鬼を裏切った人間なんて嫌いだった。だから鬼になりたかった。人間を捨てて鬼でありたかった。でも、それと同じくらい俺は人でもありたかったんだ。萃香が好きな人間でいたかったんだ。萃香に誇れる・・・鬼が好きで居てくれる人間でありたかった」

 

『鬼に憧れながら鬼に誇れる人間でもありたかった・・・か。でもアキラは鬼になる事を選んだんだね』

 

「だって・・・そうしないと萃香をまた封印しなくちゃならないだろ!!」

 

 

俺が人で居るという事は俺の中にある鬼の因子を・・・つまり萃香を封じる事に他ならない。

 

萃香を封じてしまえば萃香は一生俺の中で眠り続ける。

 

俺とこうやって意思疎通することも出来なくなり俺が死ぬまで一人ぼっちで消えてゆく。

 

 

「俺は嫌なんだ!萃香は俺の恩人なのに俺のせいでそんな目にあって欲しくないっ!!」

 

『なんだい、そんな事を気にしてたのかい?私は別にそんな事は気にしないさ。どうせアキラと出会ってなかったら私は消えてたんだ。アキラが人を選んで消えられるならそれはそれで本望さ』

 

「馬鹿言うなよ。俺は萃香に消えて欲しくない。萃香が消えるなら人間くらい幾らでも辞めてやる」

 

 

物心ついた時からずっと一緒に居た存在。

 

誰よりも・・・それこそ兄ちゃんよりも大事な友達だった。

 

萃香が居てくれたから俺は生きる事ができた。

 

命の恩人であり俺が抱いた理想の姿そのもの。

 

いつか萃香のようになりたいと何時も思ってた。

 

8年前の事件で萃香の記憶と鬼の力を失ってからやっと再会できたのに。

 

 

「俺はこんなところで終わらないよ。可能性は低いけど人の理性を保ったまま鬼になる可能性だってあるだろ?」

 

『・・・万に一つも無い可能性だよ。アキラはその可能性に賭けるってのかい?』

 

「賭けるさ。それで萃香と一緒に居られるならその程度の可能性くらい掴んでみせる」

 

 

ここからは俺自身の問題だ。

 

俺がどんな鬼になるかはある程度俺自身の意思が反映される。

 

普通は人が妖怪になると妖怪の性質に飲まれ人の理性を喰らい尽くされるがそれを俺の意思によって曲げる事ができるかもしれない。

 

ただ妖怪は人よりも格が上の存在。

 

鬼となれば人よりも遥かに格上の存在であり人の意思によってその性質を捻じ曲げるなどというのは不可能に近い行為だ。

 

けれど俺はそれをやらなくちゃいけない。

 

じゃないと萃香が消えてしまうから。

 

ここで力を得ないと兄ちゃんを助けられないから。

 

 

「じゃあ、始めるか」

 

 

俺の中にある鬼の力を密める。

 

一転に集中された鬼の力は俺の残りの人である部分を一気に侵食を始める。

 

あと一時間もしない内に俺は鬼になるだろう。

 

ただ純粋な鬼になり神綺さんに殺されるか、

 

俺が望んだ形の鬼となり萃香と共に歩むのか、

 

全ては俺の意思の強さ次第だ。

 

鬼に侵食されていくにつれ俺の中の何かが変わってゆく。

 

俺の中にある最も大事な部分、

 

無くてはならない根本的な部分が改変されていく。

 

そして次第に意識が薄くなり・・・やがて俺は人としての意識を失った。

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