魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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タイトルにいろはとありますが、フェリシア編
最終回、後半。


FILE #93 いろはの新しい道②

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして一方のフェリシアも、真面目に働いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【氏名】蒲原友梨佳―かんばら ゆりか

 

【生年月日】平成7年 6月24日(23歳)

 

【職業】金融会社勤務

 

【住所】神奈川県××市△△町西2-3-3

 

 

 

「今日はこいつか」

 

 薄暗い室内で、フェリシアは七海やちよから受け取った、容疑者の身分帳に目を通していた。

 

「犯罪歴は……」

 

 テーブル越しにやちよが説明する。

 

「9歳の頃に父親が死亡し、母親も蒸発。その後、食べ物に困り万引き……以後、窃盗と傷害を繰り返しているわ」

 

「魔法少女になったのが11歳の頃。で、12歳。施設内の子供に、傷害を負わせて、少年院にぶち込まれて……14歳の頃に、一件屋に侵入、現金を盗み……16歳の時に、同級生の少女を刃物で脅してカツアゲ……札付きのワルだな」

 

「地元の暴走族に入ったのが17歳の時よ。魔法少女の能力と、腕力で一気に総長へとのし上がっていった」

 

「で、暴力団幹部の目に止まり、養子に迎えられたって訳か」

 

 ここまでは、フェリシアから見れば、別に珍しい話では無い。

 蒲原のような経歴の魔法少女は、裏社会には有り触れている。社会に報われず、魔法少女としてもたまたま生き残ってしまった者が、最後に行き着く先こそ“傭兵”という職業だからだ。

 

「18歳の時、暴力団幹部(そいつ)が経営している金融会社に入社。事務員として配属されたわ」

 

「表向き、な。本当は、『番犬』と『取り立て人』だろ」

 

「察しが良いわね。そこは所謂、“闇金”と呼ばれるような会社で、違法寸前の取り立て行為が問題で県警からマークされていたわ」

 

「で、デカを追っ払う為のコイツってな。珍しい話じゃねーよ」

 

 一口に傭兵といっても、種別は様々だ。

 フェリシアから見て、蒲原友梨佳のような魔法少女は、“猟犬”に値する。

 “猟犬”とは、暴力団や、それが運営するフロント企業に只管従属する、飼い犬のような魔法少女の事だ。組織の為なら何だってできる反面、命令が無いと何も考えられず、何もできない者ばかり。つまり、傭兵の中では、最低ランクに当る。

 

「で、こんなゴミみたいな奴のナニが問題になってる訳?」

 

「身代金よ」

 

 やちよが詳細を説明する。

 蒲原友梨佳は一昨年12月に、ある大企業経営者の一人息子を誘拐し、3億円の身代金を要求した。

 県警本部は万全の体制を以て、蒲原を確保するつもりだったが……

 

「子供は解放されたものの、3億円を渡してしまい、蒲原には逃げられた」

 

「大失態だな」

 

「で、つい先日、私が蒲原を現行犯逮捕したの。万引きでね」

 

「うわ、しょぼっ」

 

 呆れた声を挙げながらも、フェリシアの目は鋭く光ったままだ。

 3億円も手に入れたのなら、とっとと国の外にでも逃げればいい。

 そうでなくとも、県を飛び越えさえすれば管轄が変わる為、どうしても捜査は難航せざるを得ない。

 だが、そうしなかったのには、何か事情が有ると見た。

 

「三億円はどうした?」

 

「それよ。蒲原はどうしても口を割りたがらない」

 

「また、むずそーな奴を……みたまにソウルジェム弄って貰えば一発じゃね?」

 

「対象が落ち着いてくれればね」

 

 迂闊に読み取ろうとすれば、みたまの身に危険が及ぶと、やちよは説明する。

 確かに調整員は、ソウルジェムから記憶を読み取れるが、それは相手の同意があってこそだ。しかも、気持ちをリラックスして貰わなければ叶わない。

 フェリシアが溜息を付いたところで、やちよの端末が鳴り出した。

 

「七海です」

 

『塚内だ。かなり手強いぞ』

 

「と言いますと?」

 

『皇グループ製の最新式ポリグラフでも効果無し、だ』

 

 『ポリグラフ』とは、世界的IT企業・皇グループが開発した機器で、今や日本各地の警察組織に配備されている。スマートフォン並みのハンドタイプで、カメラで対象の顔を映すと、表情を細かく読み取って今抱いている感情を読み取れる、という仕組みだ。

 要は、最新型の“ウソ発見器”である。

 

「分かりました。ただちに彼女を向かわせます」

 

『よろしく頼む』

 

 端末を切るやちよ。

 そして、フェリシアに向けてにっこりと、“良い笑顔”を向ける。

 

「話は分かったわね? 深月さん?」

 

 また無茶苦茶な――――と出そうになった文句を飲み込んで、フェリシアはぶっきらぼうに応える。

 

「はいはい、承知いたしました。ブチョー様」

 

 後頭部を掻きながらも、フェリシアは取調室に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女が犯罪を犯した場合、刑務所等に収容される。

 

 

 世間一般の認識はそれであり、警察もそのように公表している。

 だが、冷静に考えて欲しい。一般人を遥かに超える力を持つ魔法少女の身柄を、人間の力で、人間の造った施設で拘束することなどできようか?

 答えは言うまでも無い。

 

 では、魔法少女の犯罪者は、逮捕された場合、その行方はどうなるのか?

 SNSでは一部の若者によって様々な憶測がされている。『肉体を雁字搦めに縛り上げて、身動きを取れなくさせている』、『“殺す”しか手が無いのに、“逮捕した”と嘘をついている』。『政府の研究機関が身柄を引き取って、最新科学兵器の実験体にしている』等、陰暴論めいたものも。

 

 正直に告げると、魔法少女犯罪者を収容する施設そのものは、実在する。

 警察庁も、各警察組織も、その存在も場所を認知している。

 しかし、その施設の()()()を知っているせいで、“今は”公開に踏み切れないのが実情なのだ。

 

 

 

 

「よう」

 

 そこは『ミラーズ』と呼ばれていた――――

 

 深海のような。

 分かりやすく言えば、大きな水族館の内部を歩いてるような、幻想的な蒼藍が視界一面に広がる施設。

 そこのある一室に深月フェリシアは入った。見えたのは自分を映す大きな鏡くらい。しかし、中央に用意されたパイプ椅子に腰かけて、声を掛けると、鏡の向こうが一変した。

 

 顕れたのは、『取調室』。

 

 無機質なグレーの空間に、何も置かれていないテーブル。フェリシアと対面するようにそれを挟んで、蒲原友梨佳が座っていた。

 

「……っ? 何も話せることはないよ」

 

 警察ではなく、自分より遥か年下の少女が顕れた事に、蒲原は若干目を見開きながらも、冷徹にそう告げた。

 

「だって知らないもんな。いいよ、別に興味ねーし」  

 

 犯罪者を目前にした所で、フェリシアの平常心は揺らがない。

 ヘラヘラと笑いながら、挑発混じりに言うも、蒲原の表情に反応無し。

 

「…………」

 

「お前が尻尾を振ってる暴力団(くみ)の事は知ってるぜ。どうだ、山崎のオヤジは元気か?」

 

「さあね……」

 

 蒲原はフェリシアが、元傭兵と知っても表情に変化は無い。

 口を堅く結び、見つめたまま。

 

「ふーん、まあいいけど。…………おっ、そうだ! これやるよ」

 

 おもむろにフェリシアは上着のポケットから白い玉のようなものを取り出すと、蒲原に向けて、コロコロとテーブルの上に転がす。卵だ。割ってはならないという無意識が働き、反射的に蒲原の右手が伸びた。

 

「……なに?」

 

 受け取った卵はどうやら生のようだ。この時ばかりは、蒲原も相手の意図が読めず、眉を顰めた。

 

「見てわかるだろ? 生卵だ。碌なモン喰ってねーだろ、オレからの餞別だ。受け取れよ」

 

「…………」

 

 普通なら馬鹿にしてると思われても仕方の無いフェリシアの物言いだが、蒲原の表情は頑なに動かない。

 右手で受け取った卵をまじまじと見つめたまま。

 

「ところで――――」

 

 と、その様子を確認したところで――フェリシアの目が光った。

 

 

 

「お前、かーちゃんは好きか?」

 

 

 

 ――――仕掛ける。

 

「母はいないよ」

 

 蒲原は即答。表情に変化無し。

 

「お前はかーちゃんのことを何て呼ぶんだ」

 

 フェリシアは意に介さず、嗤いながら、畳みかける。

 

「…………」

 

「クソババア」

 

「…………」

 

「母」

 

「…………」

 

「かーちゃん」

 

「…………」

 

「おかーさん」

 

「…………」

 

「ママ」

 

「…………っ」

 

 ピキッ、と。

 蒲原の右手の中で、小さな音がした。眼を向けると、驚いた。

 

 僅かだが、生卵に“罅”が入っていた――――!!

 どうして。力は全く入れてない筈だったのに。まさか――

 

「で、“ママ”はお前のことを何て呼ぶんだ?」

 

 等と、考える余裕は蒲原には許されなかった。

 ()()()()()質問が続く。フェリシアの目が鋭く、残忍に光る。

 

「…………」

 

 罅割れた生卵を右手の中に、蒲原は顔の鉄仮面を保つ。

 

「クソガキ」

 

「…………」

 

 蒲原の表情に変化は無し。

 

「むすめ」

 

「…………」

 

 これも無し。

 

「友梨佳」

 

「…………」

 

「ゆりちゃん」

 

「っ!?」

 

 パキッ、と。

 割れる音と右手の冷たい感触。同時に蒲原が両目が、またも驚愕の感情を顕わに剥いた。

 右手の生卵の殻が完全に割れて、中身が飛び出ていた。

 

「えっ」

 

 なにこれ。まさか、“無意識”だったのか。

 相手の質問に感情が刺激されて、つい、力が――――

 

「なあ」

 

 呼ばれて、慌てて前を見た。

 勝利を確信したかのように、満面の笑みで嗤う子供が見える。

 

「かーちゃんは、お前を捨てて蒸発したのに、随分仲良しなんだな?」

 

「…………」

 

 再び、鉄仮面を被る蒲原。しかし、無駄だった。

 

「まばたきをしたな、数回。それは“追認識”だ。何か裏がある」

 

「……くっ」

 

 蒲原の口元が、あからさまに歪む。

 

「で、跡形も無くなった生卵だけど……そいつは“ウソ発見器”だ。極めて原始的のな。西アフリカで使われていた。被告に持たせて、割れたら不安があると見なし『有罪決定』したんだってな」

 

「ママは、身代金とは、関係無い!!」

 

 有罪の言葉が引き金となった。

 瞬間、蒲原が立ち上がり、フェリシアの頭上に向けて吠える。

 

「ん? オレは、お前が起こした事件が、お前のママに関係ある、なんて一言も聞いちゃいねーけど??」

 

「ぐっ……」

 

 またも、引っ掛けられた。

 フェリシア椅子から立ち上がると、屈辱に顔を歪ませる蒲原の脇により、その肩を掴む。

 

「でも、お前のママのことは気になるな。ママは今、何してんだ」

 

「…………」

 

 蒲原は沈黙。表情も動かさないように、意思を強く保つ。

 しかし、

 

「家にはいないよな。じゃあ、どっかの施設にいるとか……?」

 

「…………」

 

「まさか、病院か? かーちゃん、病気か?」

 

「…………」

 

 沈黙のまま、まばたき、数回。それが答えだった。

 

「頭がやられた? 脳梗塞とか?」

 

「…………」

 

「違う病気か?」

 

「…………」

 

「もしかして、癌?」

 

「……………」

 

 蒲原はまばたき。

 

「末期癌だから、治療の為に、金が必要ってワケ……か!」

 

「…………っ!?」

 

 フェリシアの右手が移動した。

 肩を掴んでいた右手は一瞬の内に、蒲原の左手をギュッと掴んでいた。

 

「皮膚音が5度は下がったな。脈も速い。心臓がバクバクしている。“パニック”だ」

 

「っ!!」

 

「オレは元“メカニック”だ。相手が悪かったな、猟犬」

 

「くっ…………」

 

 そこで、取り調べは終了した。

 蒲原は何も答えなかったが、全て白状した。少なくともフェリシアには、何を隠しているのかが伝わってしまった。

 

 

「『卵を恵む奴には気を付けろ』……傭兵の常識だ。覚えとくんだな、ねーちゃん」

 

 

 囁かれた一言の後――力無く、彼女は項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、諦めた神原が詳細を自白した。

 

 

 蒲原は、18歳の時に、母親を発見した。

 ホームレスになっており、重病に犯されていた。救急車を呼んで搬送して貰い、近隣の総合病院に入れてもらうも、被保険者では無い為、医療費は高額だった。

 暴力団幹部が蒲原に近づいたのは、その直後。

 蒲原は、母親の入院費を稼ぐ為に、幹部の誘いに乗り、暴力団に加わった。しかし、それが罠。暴力団に加わったせいで、母親の生活保護申請ができなくなってしまったのだ。

 しかし、それでも母親の入院費の為にはと、懸命に働いた。例え悪事であっても、母親の命を紡ぐ為には、倫理など関係無かった。

 だが、母親の癌は進行する一方。

 

 暴力団幹部(義父)はそこで、更なる一手を打った。

 『名医を紹介する。そいつの下に母親を転院させろ』と――――。

 

 

 

 

 ――――後日。

 

 

「そこは暴力団幹部(義父)と仲良しの闇医者が経営する医院だった。蒲原はまんまと騙された訳ね」

 

「で、末期癌の治療に3億円掛かるって言われた訳か」

 

 さっさと稼いで来い、等と言われて急かされたのだろう。

 

 ――――後日、県警本部が捜査に当たり、闇医者は逮捕された。暴力団幹部(義父)の方は海外に逃げたようだが、こちらも時間の問題だろう。

 事実を知った蒲原友梨佳は酷く荒れたそうだが――――数日後には落ち着きを取り戻し、罪を償って組を脱退する決意を見せた。裁判次第だが、罰を受けた後は、保護観察官指導の下、『離脱指導』を受けるつもりだ。

 

 やちよとフェリシアは、警察から渡された捜査資料データを閲覧しながら、ミラーズの通路を歩く。

 神秘的な深蒼の世界に二人の足音だけが響く。

 

「こういうのは……貴女達の世界では、よくある事なのかしら?」

 

表社会(こっち)と同じだよ。“正直者は馬鹿を見る”ってな」

 

 端的な言葉だが、やちよは納得した。

 表も裏も関係ない。自分で何も考えられない者は、頭の良い者に縋るしかない。そして何もかも―食料や財産、精神さえ―搾取されても、全く気づかない。

 

「蒲原みてーなヤツは、いっぱいいたし、見てきた。だから、喰われねーように、強くなったんだ」

 

「なるほど……ね。頼りにしてるわよ」

 

「ハッ」

 

 やちよが微笑みを見せると、フェリシアに鼻で笑われた。

 

「それより、さっさと帰って、夕飯にしよーぜ!」

 

「ざんねん。その前に、市長から呼び出しよ」

 

「な……っ!!?」

 

 ガーン、と。

 フェリシアが頭を抱えたのは、言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※実際では、取調官が、被疑者に差し入れを渡す事は原則禁止とされています。
また、補助官も本来は取調室に存在しなくてはならないのですが、文章量の都合上カットさせて頂きました。
あくまで、フィクションとしてお楽しみいただければ幸いです。


相変わらず原作フェリシアどこいった状態なフェリシア……

次回で締める!
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