魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
※後書きの後も続きます
――――2018/10/21 PM17:30
市長の長い話が終わり、二人はようやく市役所の外へ開放された。
帰路に経ついろはは先ほど、市長と八雲みたまから渡されたものを天に掲げ、まじまじと見つめていた。
――――これが、『マギアストーン』。
掌にちょこんと乗るくらいの赤い石。
一つだけではお守り程度の効力しか発揮しないという――謂わばご当地のパワーストーンといった所だ。
だが、市内にある各町から全て集めた時、真価を発揮する。
――――神浜町のは手に入れた。残りは慶治、立政、明京の三つ。4つ揃った時、私の目標が一つ、達成できる……!
以前記述したが、大賢者試験とはまず、大賢者に会う前に、各町の役所の治安維持部隊で働き、実績を上げて、担当となるチームリーダーと町長から高評価を貰う必要がある。
その合格の証として、手に入るのがマギアストーン。
つまり、これらが、大賢者への鍵となる。
具体的なことはちっとも分からない。あの狸みたく腹の黒い市長が教えてくれるはずが無い。
ただ、“道が開かれる”とだけ、いろは達は言われた。
どのように開かれて、どのように大賢者の下へ誘われるかは、その目で確かめろ、ということだろう。
――――なんだか、笑っちゃうよね。
沈みゆく夕陽の光を真紅に変えて乱反射させる紅石を見上げていると、つい吹き出してしまう。
“特殊な誰かと会うために、特別なアイテムを、条件をクリアして、各地から全て集めろ”なんて、まるで昔遊んだRPGゲームか漫画でしか見たことないような展開なのに……今は、現実の世界で、自分がやろうとしている。
普通に考えたら有り得ない話過ぎて、“笑う”しか無かった。
それしか、感情の表現のしようが無かった。
荒唐無稽過ぎて、いろはの頭が処理しきれなかったのだ。無論、いろは自身とっくに魔法少女なので、今更な訳だが……。
――――でも、何より驚いたのが……!
ちらりと、横目で“彼女”を見る。
同じように、マギアストーンを見上げていた。
自分より少しだけ背丈の高い少女のツインテールに下がった金髪が、夕陽を浴びて、煌びやかに瞬きながら揺れている。西洋の血が混じったその顔立ちも端正で、白人系美少女が宝石を天に掲げる視界の光景は、さながら一枚の絵のような美麗さだ。
しかし……
「これ、いくらで売れるかなっ?」
「あうっ」
この“口”さえ無ければ……!
何か有る度に、即行で“イケナイ事”を考える金髪白人系美少女――深月フェリシアの発言に、うっかりズッコケそうになるいろは。
「もう。ほんっっとに、フェリシアちゃんってデリカシー無い……!」
頭を抱えながら、いろはは反射的にツッコむ。フェリシアはヘラヘラ笑い、
「ああ。オレ、そーいうのは、母ちゃんの子宮の中に置いてきたから」
「どこで覚えたの、そういう言葉遣い……」
等と生理的にキツイ冗談を返してきて、いろはは辟易する。
とはいえ、彼女もまた、大賢者試験を受けるとは意外だった。そもそも、あんな事件を起こしたのに、警察沙汰もなく、やちよさんと市長が許したのも驚愕した。
確かに、自分一人では不安しか無かったので、色々と経験豊富(※本人談)な彼女が傍にいてくれるのは、正直心強い。
(なんか、やちよさんと市長の狙い通りに動いてる気がするのは、正直癪だけど……。これで)
戦える。
安心して、前を向いて。
その為にも、フェリシアと向き合おう。
彼女とはこれから、長い付き合いとなる。だから、自分の気持ちを包み隠さず、誠心誠意伝える。
覚悟を決めて深呼吸すると、いろははフェリシアと向き合った。
「フェリシアちゃんっ!!」
「!? な、なんだっ?」
突然、いろはが大きな声を張り上げてきたので、フェリシアは面食らう。
「私、あの……あなたの事は正直、嫌いだけど……一生懸命受け入れていくように頑張るから!」
「お、おう……?」
フェリシアは、目を丸くして困惑。
いろはは真剣な顔のまま大きく開いた瞳で、彼女の顔をしっかり見つめつつ、
「だから、改めてよろしくね、フェリシアちゃん!!」
自分よりも白く長い右手をギュっと掴み上げて、強引に握手を交わす。
「よ、よろしく……??」
いろはの勢いに気圧されたフェリシアは、訳も分からないままそう返すしか無かった。
☆
「よし! ……じゃ、帰ろうか」
「あうっ」
一頻りフェリシアの手を振りまわして、いろはは満足したらしい。
パッと手を放して、何事も無かったかのように帰路に経つ姿に、フェリシアはズッコケそうになる。
「いや、なんだったんだよ今のは……? ――って、おい。ちょっと待てよいろは!」
「えっ?」
先に帰ろうとするいろはの首根っこを、グッと上腕で抱え込むようにして捕まえるフェリシア。
「な、なに……!?」
今度はフェリシアの行動にいろはが困惑する番だ。
フェリシアはニッと嗤い、いろはに囁く。
「せっかくコンビ結成した訳だし……今日は、二人で宴会しよーぜ」
「ええ!? でももう夕ご飯の時間だよ!? 早く帰んないとみんな心配するよ!?」
「知るか! ンなもん連絡入れときゃいいだろ! よし、焼肉いこーぜ!! そんでカラオケでオールな!!」
「オールって朝までっ!? ちょっと勝手に決めないでよ!? で、でも焼肉かぁ……♪ え、え~っとこの辺だと、炎宴亭が一番近くて安い筈……」
「バッカお前! ゴムみたいな肉しか出さねークソチェーン店なんか行く訳ねーだろーが!! 高級肉の個人店知ってんだそこ行くぞ!!」
「ええええ!? で、でも、将来を考えて貯金しないとだし、一日使うお金は制限しなきゃ!!」
「15のガキが何ババくせーことほざいてんだ!! 明日の事は明日にならなきゃわかんねーし一日ぐらいパーっとやったって文句ねーだろが!!」
「で、でもカラオケなんて行ったことないしぃ~~!!?」
「テキトーに知ってるの歌えば十分だろ!! オラ行くぞ!! オラオラァ!!」
「ひぃぃぃいいいい~~!!!」
ズルズルズル……と、力任せに引き摺られていきながら、いろはは心の中で嘆く。
(や、やっぱりこの子を受け入れるの無理かもぉ~~~~っ!!!)
お父さん。
お母さん。
うい。
ごめんなさい……。
みんなを迎えに行ける日は、もう少し長くなりそうです……。
以上で、一部は完結となりました。
途中、難航の余り次話投稿が1カ月後になってしまったり、約1年半休載してインプットに専念したり、腰痛に苦しんだり、今も腰痛に苦しんだり、色々ありましたが、どうにか書き切りました。
終盤はかなりテンポ重視で展開しましたが如何でしょうか?
二部からウワサ編を開始する予定ですが、書かなきゃいけないことが……
そう、『ラスボス戦』です……
(#68.5 七海やちよ 魔法少女ストーリー 参照)
※この先、閲覧注意
※この先、原作キャラクターの『死ネタ』があります。
特に 御●●り● ファンの方はご注意してお読みください
――――深い暗闇の底には、『ひまわり畑』と呼ばれる場所があった。
「アリナ君」
「ハロー、オーナー・サンシャイン。けど、何度来ても無駄なワケ」
“少女”の軽快な門前払いに挨拶をバッサリと斬られてしまい、彼は嘆息した。
組織に於いて、オーナー・サンシャイン=日秀源道は、トップの一人だ。
彼を前にすれば幹部の誰もが、その身を竦め、姿勢を正し、頭を垂れる。
だが、この少女――――アリナ・グレイだけは違った。
アリナは決して、誰かに頭は下げない。敬意を払わない。誰かを畏れる事も無い。ましてや、権力に媚びへつらうなど愚の骨頂。
だって、この“アトリエ”は、アリナ・グレイの聖域なのだから。
アリナが主であり。支配者であり、神も同然。故に、土足で踏み込んだ者は例え誰であろうと礼儀を見せる必要は無い。虫を払うかのように、適当にあしらっておけばいいぐらいに考えていた。
「最初にオーナーが言ったんですケド? ここには邪魔が来ないから、自由に絵を書いていいって。だから、オーナーが何を頼みにきたところで、アリナには邪魔なワケ。シーユー?」
アリナは振り向かず、一心不乱に“それ”を描き続けている。
源道は、暫くじっと見つめて――――やがて、意を決したように。
「御園かりんが、死んだ」
一言、そう言った。
ぴたりと、アリナの筆が止まる。
「…………what's?」
「魔女と戦ったそうだ。小さな子供を守る為にね。治安維持部が駆け付けた時には、既に遅し……見るも無惨な状態で発見されたそうだ」
「…………」
アリナは、振り向かない。
「……御園かりん君は、立派な子だったと思うよ。崇高な、輝かしい信念を持っていた。そう……君が好きな、マジカルきりん、だったかな? その漫画の主人公と、同じ様にね……」
しかし、と源道は一度息を付く。
「『誰にも頼らず、独りで戦い抜く』という自己犠牲精神は、尊くも受け入れ難いものだ」
かりんはその精神に心酔した。
感銘を受けて、懸命にリスペクトして、行動した――結果が“この様”だ。
源道の感情は分からない。アリナはその顔を見ていないから。
だが、いつもの冷厳たる声色の中には、深い哀しみのような感情が纏われていた。
「…………」
「アリナ君。もし、悲しんでいるのなら……このジジイの頼み事を一つ、聞いて欲しい」
アリナの感情は分からない。
だが、いつもの憎まれ口が返ってこないということは――――
源道は確信した。だからこそ、アリナの背をしかと見据えて、伝えた。
「第二フェーズの指揮を、君に任せたい」
「…………」
アリナは、振り向かない。
世界の中で彼女だけの時間が止まったかのように。
彫刻のように。
「
「……大人って、いつもそうだヨネ。自分の勝手な都合で勝手な事を子供に言って、勝手に子供の気持ちを分かった振りして……それで満足しちゃってるワケ。正直、嫌なんですケド。そういうの、いい加減……」
アリナは振り向かない。彫刻のように、その筆は動かない。
だが、声は帰ってきた。源道にとって“その色”は意外なものだ。悲しみというよりも、怒りのような激情が強く纏われているように聞こえたからだ。
「無論、返事はいつでも良い。気に障ったのなら、断ってくれても結構。だが……」
源道は顔を伏せた。独り言のように、呟き始める。
「……今の社会では、全ての魔法少女は救えん。御園かりんのような子を二度と生み出さない為には、この世の仕組みを変えていくしかない……それは、分かってくれるね?」
世界でどれだけ魔法少女への理解が進んでも。
“魔女が存在する限り”、魔法少女に犠牲を強いる現実は変わらない。
そして、かりんが愛し、人生の教科書とした漫画、『マジカルきりん』のように。
魔法少女――元は『ヒーロー』という概念そのもの――にとって、“自己犠牲こそが美徳”だと子供に押し付ける創作物が氾濫している限り、何も変わらない。
「そ。アリナには関係ないですケド」
だが、源道の哀憐を込めた訴えに対して、アリナの返答は素っ気ない。
「そうか。では、失礼したよ」
ウィン、と駆動音。
源道は踵を返すように電動車椅子を旋回し、その場を去ろうとした。
「――――ストップ。オーナー」
そこで、アリナの声が掛かり、源道は車椅子を急制動する。
「!? ……何かね?」
「……さっき、『断ってくれても』って言ってたケド……他に誰か適任が要るワケ?」
「孫娘がいる。心許ないが、アレに任せるとするよ」
再び、車椅子を動かし、源道はアトリエから姿を消した。
どこまでも続くか分からないトンネルのような、深い闇の中へと――――
―FIN―