魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
☆
思えば、小学生の頃は、比較的に穏やかな家庭で過ごせたと思います。
本格的に、二葉家が他の家庭と決定的に違うと思ったのは、中学生になった頃でした。
漱也お兄さんの教育のお陰で私は、「水名女学園」に入学することができました。
聞いたこと……ないですか? この神浜市では、一番入学するのが難しい学園と言われているんです。
え? だったら入れたのは凄いって? ……いや、あのぅ……本当にギリギリだったんです……だから、そんなに凄くなんか……っ!
と、とにかく……! 私が中学生になると、環境がガラリと変わったんです。
「凄いね二葉さん、水名女学園に受かったんだ」
「うん……」
「やっぱり二葉さんって、私なんかとは違う世界の人だったんだね……」
「え……?」
「いい家の子ってやっぱりお金も有るし、頭良いんだなって思ってさ、二葉さんと比べたら私なんか普通過ぎちゃって……惨めに感じるんだよね……」
「…………」
「ごめんね。これから、二葉さんと友達でやっていける自身……無いかも……」
小学校時代に仲の良かった友達は、そう言って、次々と減っていきました。
中学校でも……
「今度の夏休みさあ、どこか行く予定ある?」
「あたし、沖縄。なつみは?」
「ハワイ」
「海外かぁ、すっげ~」
「二葉さんは?」
「え?」
「家族でさあ、どこか行く予定あるでしょ?」
「えっと、その……」
クラスメイトの子から急に話を振られて、私は迷ってしまいました。
話を聞いてると、他の子も私の家と同じ名家だったりするのですが……お父さんと、お母さんから、厳しくされているとは思えませんでした。
みんな、両親から大事にされてるみたいだし、みんなも家族を大事に思ってて……長期休暇の前になると家族旅行の話をこうやって持ち出すのです。
「私は、特に予定、無いかな……」
「え~~以外。二葉さん家って金持ちのイメージだからさあ、イタリアとかニュージーランドとか行くって思ってた」
「お父さん、あんまり旅行とか好きじゃなくって」
好きとか好きでない以前に、『そんな話題が出ることすら無い』のですが……そこまでは言いたく無くって、誤魔化しました。
みんなの目つきが変わります。
「……まぁ二葉家だし」
「二葉家だからねぇ、厳しいか……」
「…………」
私はその言葉に首を振りも、頷くもしません。ただ、黙りこくって、俯いてました。
確かに、二葉家は他の名家と比べても格式が高い家柄と知られていました。だから、自分よりも厳しくされているんだって思われていました。
その時の、みんなの哀れみの籠もった目線が、嫌でした。
みんなと私は違う……。大事にされているみんなと、されていない私、その“差”をはっきりと感じてしまって……。
だから、クラスメイトとは、自然と距離を置くようになってしまったんです。
☆
家庭の方はというと、私にあまり関心を持たなかったお父さんが、お兄さんからの教育に介入する様になってきたんです。
ええ。それからは、はっきり言って地獄でした。
「なんだこの成績は」
その年の一学期が終わった直後、お父さんは、私の部屋に上がり込むと開口一番にそう言ってきたんです。
中学生になってから私の成績は伸び悩みました。テストの成績も平均60~70点台が大半でした。
それもこれも、今にして思えば……お父さんがアレコレ余計な口を出してプレッシャーを掛けてきたからなんです。
漱也お兄さんだけに教わっていれば、ここまで酷くはなっていなかったのに……。
最も、当時は、そこまで考える余裕なんてなくって……家庭ではお父さんが絶対権力者として君臨してましたから、大人しく言うことを聞くしか無かったんです。
「水名女学園に受かったと思ったら、この様か」
お父さんは、鬼の様な顔で私をじっと見下ろして、言いました。
低い声がまるで全身を押し潰す様に重たくって……私は、自然と床に正座してしまいました。
「……ごめんなさい」
「漱也があれだけ見てやったというのに……情けない奴だ」
お父さんは、ふーっと、深い呼吸を付きました。次の一言に備えて私は身構えます。
「ぬか喜びさせおって!! お前には二葉家の長女としての自覚が無いのかぁっ!!」
全身を震わす程の怒声でした。
以前、漱也兄さんすら脅える程の怒りを、遂に私に叩き付けたのです。
私は怖くて怖くて、跪きながら、ただ……怯えてガタガタするしかありませんでした。
「この馬鹿娘がっ!!」
見上げると、ギクリとしました。お父さんは、右腕を上げて、私に何かを放り投げようとしたんです。
それはよく見ると、私の夏季テストの束でした。ひっ、て……自然にうめき声が挙がりました。
ぶつけられるのが分かって、咄嗟に顔を両腕で庇ったんです。
「おい、やめろよ」
「!!」
しかし、誰かが低い声で静止しました。お父さんが咄嗟に後ろを振り向くと、そこには帰宅したばかりのあっくんが、廊下に立っていたんです。
「いーだろ別によぉ。姉ちゃんは姉ちゃんなんだし」
どこかうんざりとした顔で素っ気無く言うと、自分の部屋へと向かっていきます。ですが、お父さんが大人しく引き下がる筈がありません。
「待て篤志!!」
「あ、悪いけど、俺に二葉家とか世間体とか言うの無しね。俺は俺の自由に生きたいから」
背中に怒声を叩き付けますが、あっくんは怯まずに平然と返しました。
「待てと言ってるのが聞こえんのか貴様っ!!」
でも、その態度のせいで、お父さんは標的を、私からあっくんに切り変えました。
真っ赤な顔であっくんに迫ります。あっくんもジロリとお父さんにきつい目を向けて睨み返しました。
「ああんっ!?」
「自覚が無いのはお前もだ!! 最近勉強を疎かにして学校の友達と遊び呆けてばかりいるそうじゃないかっ!!」
「どっから聞いたんだよ……ストーカーか!」
あっくん、小学6年生になってから……反抗期を迎えていたんです。
お兄さんの教育に反発して、よく友達と遊ぶようになっていきました。
ええ、それはそれで良い傾向かなって私は思ったんですが……夜遅くまで遊んでるし……頭をキラキラの金髪に染めて、耳にピアスを開けてたり……顔に痣を作って帰ってくることもあったりしてて……悪い友達と付き合ってることは明白でした。
「俺はスポーツ推薦で受かるんだよ」
でも、あっくんは、スポーツが大好きでした。
何も無い私とは違って……やりたいことが明白でした。将来はサッカー選手を目指したいと言って、肉体改造に熱中していたんです。
絶え間ない努力で彼は『才能』を伸ばしていって……有名な中高一貫の体育学校から沢山声を掛けられていたんです。
お父さんも、それは認めていました。ですが……
「スポーツができる内はまだいいが、怪我をした時の事を考えているのか!?」
「は?」
その時のお父さんの言い方が、不快に感じた様でした。目がキッと鋭くなったのを覚えてます。
「もし、脊椎や頚椎を傷害を負って半身不随にでもなったりしたら……自分の頭一つで社会と戦わなきゃいけないんだぞっ!! だから勉強は今の内にしっかりやれっ!!」
あっくんはスポーツが大好きでした。それを人生にしたいと思うぐらいに。
でも、お父さんの言い方は、あっくんの願いを頭ごなし否定しているかの様にしか聞こえませんでした。
あっくんが歯をギリリと噛み締めました。
まずい――――私は、そう思ったんです。
「いちいちうるせーなぁ!!」
キレてしまいました。
「元々は他人の癖によぉ、親父ヅラしてんじゃねーよッ!!」
「クソがッ」なんて汚い言葉を投げつけて、廊下の壁をガンッと蹴飛ばします。
……こうなるとお父さんも黙ってはいません。
「貴様ぁッ!! 父親に向かってその口の利き方は何だ!!?」
「都合の良い時だけ『父親』かよ!? それで?! 父親らしいことを一つでもやってくれたのかよっ!!?」
「黙れぇ!!」
お父さんは拳を振り上げて、あっくんに殴り掛かろうとしたんです!
私は咄嗟に叫びました!!
「やめてぇっ!!」
でも、その声はもう届かない程、お父さんの理性は爆発していました。
振り下ろされた拳は、止まること無く、あっくんの顔面に――――
「お父様!! もう止めてください!」
ぶつかる、その直前でした。
漱也お兄さんが飛び込んでお父さんの体を後ろから抱えてくれたんです。
私と、あっくんは、ビックリして、呆然と見つめていました。
「漱也、お前もかぁ……っ!」
お父さんは、じろりと、お兄さんを忌々しく睨みつけました。
「どうして、みんな……私に逆らうんだ……っ!?」
お兄さんに羽交い締めにされて、お父さんは弱々しく訴えます。
呪わしさすら感じられる程の悔しそうで、苦しそうな声が、耳に突き刺さって離れませんでした。
「っ!! そんなつもりはありませんお父様!!」
「お前が、さなと篤志をキチンと教育しなかったせいで……私に歯向かうようになってしまった……っ!」
「全ては僕の責任です! 二人には、よく言っておきますので……この場はお下がりください!!」
お父さんの抵抗が収まったのか、お兄さんは開放しました。
お父さんは、はー、はー、と過呼吸の様な荒い息を何度も吐き続けると――――お兄さんにギンッと睨みつけて、ポツリと呟いたんです。
「そうだ、何もかも……お前のせいだ……漱也。お前の……責任だ……!」
お父さんはもう正気を失っていました。お兄さんに全て擦り付けると、逃げるように書斎へと去っていきました。
「……っ!」
お兄さんは一瞬、苦い顔を浮かべましたが、すぐに、あっくんの方へ顔を向けました。
「にーちゃん……!」
「篤志、今回は不問にしてやるが……次に同じ騒ぎを起こしたら只じゃ済まさないぞ」
冷ややかに告げると、あっくんは「チッ!」と舌打ちを打って、床にドッと座ります。
「分かったら勉強だけはしっかりやれ、いいな!」
あっくんは憮然とした顔でそっぽを向いてしまいましたが、お兄さんはもう気にはしませんでした。
次に私の方へと目を向けました。
いつもの穏やかな様子とは明らかに違って、明確な怒りが感じられる表情でした。
それを捉えた私の心が、ドキリと飛び跳ねます。
「さな、お前もだ」
お兄さんの矛先は、私にも向けられています。心に冷たいものを感じて、私は怯えて肩を震わせました。
「!……はい」
「次の模試で、篤志より点数が低かったら……家庭教師をもう一人付けるぞ」
「……はい」
厳しい言葉を投げ付けると、お兄さんは部屋から去っていきました。
☆
「なぁねーちゃん……」
「……なぁに?」
お兄さんの足音が聞こえなくなり、嵐は全て過ぎ去りました。
部屋に残ったのは、私とあっくんだけ。
「家族って、こんなに窮屈だっけ?」
あっくんがポツリと呟いた一言に、私は冷たいものを感じて、耳を傾けました。
「……え?」
「いや、その」
あっくんは、頭をガリガリと掻きました。言葉に悩むとその仕草をするのです。
「あの頃はさ……お腹は空いてても、寂しく無かったんだよな……」
あの頃――――最初は何時を指しているのか分かりませんでした。
「かーちゃんと、ねーちゃんと、三人だけで暮らしてた頃はさぁ……」
そこまで聞いて、私は、ああ、と頷きました。
あの頃は、確かに食べるものも無くって、毎日お腹を空かせていたけど……不思議と寂しくは無かったんです。
家族3人の距離が近かったから。私とあっくんはいつも寄り添ってたし、お母さんも私達のことだけを考えていてくれてたから。
「そうだね……」
私も同意見でした。
今の二葉家は……息苦しいぐらい窮屈です。
お父さんは、家と世間体と、自分のプライドのことばかり。
お母さんは、そんなお父さんのご機嫌取り。
お兄さんは、長男として気負うあまり、年々厳しくなっていく――――私とあっくんが望んでいた家庭からは、掛け離れていたのです。
「っ! でも、ダメだよ、そんなこと、いっちゃ……!」
咄嗟に首を振ってその思考を払いました。
私は、静かに、叱るつもりで言いました。あっくんは振り向かずに黙って聞いています。
「私達、この家の人達に食べさせてもらってるんだから、期待には、答えないと……」
「ねーちゃんはさ……」
ギィッと椅子に音を立ててあっくんが振り向きました。伺う様な視線を向けてきます。
「本当に、それが良いと思ってんの?」
「…………」
心に刺さる様な指摘を受けました。私は恐らく、顔を歪ませて黙りこくってしまったんだと思います。
「他のクラスメイトから聞かね? 家族旅行に言ったとか、親父と一緒に○○に行ったとかさ……ウチ、そんなんねーじゃん。みんな言ってくるんだぜ? そんな親父はお前んとこだけだって……。ねーちゃんはさ、あんな奴でも期待してんの? 一生懸命頑張れば、どっかに連れてってくれるかもって、親父らしい事をしてくれるかもってさ……?」
「それは…………!」
図星を刺された気がして、咄嗟に反論しようにも、言葉に詰まりました。
「何も期待してねーから、頑張らねーんだろ」
あっくんは、何気なく呟いた最後の言葉が、私の心を凍てつかせました。
私は、そう言われるまで、気づかなかった。いえ……自分を誤魔化すばかりで、気づこうとはしなかったのかもしれません。
お父さんは中学生の私に求めるようになっていきました。
「二葉家の威光を示せ」と。
……そうですよね、環さん。自分の家のことなんて、分かりっこないですよね。
でも、お父さんは私に強く希望するようになりました。具体的にそれが何か……未だに分かりません。
多分、前に漱也お兄さんに伝えた「与えられた義務を完璧にこなし、自分を完全に律する」がそれに値するのかもしれません。
……はい、環さんの言う通りだと思います。そんなことが可能な人間っていないと思います。
未だにそれが、
あ、お爺ちゃんっていうのは、お父さんのお父さんのことです。
私とあっくんは家庭の事で生き詰まるとよく、お爺ちゃんの所へお見舞いがてら相談に行ってました。
相談……といっても、ついつい家族の不満とか愚痴を零しちゃうんですけど……ニコニコと笑顔で聞いてくれるんです。
でも、この時ばかりは様子が違いました。
☆
お爺ちゃん――――二葉
豪快で優しくって、何より偉大で……神浜でも有数の名医であり実業家でもあったお爺ちゃんは、都市化が進む市の発展に多大な貢献をされた方でした。
でも、私が中学生になる頃には、体調を崩し、病院で寝たきりの生活を送っていたんです。
「全く……見舞いに来てくれるのもとうとうお前だけになってしまったな、さな」
しおらしく呟きながら、お爺ちゃんは、私の方に顔だけを向けました。
「ごめんなさいお爺ちゃん。あっくんは部活で忙しくって……」
「いや、いい。一人でも来てくれれば嬉しいものだ」
昔は漱也も一人でよく来てくれてたんだがな、とお爺ちゃんは独りごちると、フッと軽い笑みを浮かべます。
お爺ちゃんは、家柄や世間体よりも、“家族”との繋がりや和を大事にする人でした。
でも……どういう訳か家族からは、次第に見放されていたんです。
(こんなに立派な人を、どうして――――?)
お父さんとお母さん、お兄さんに苛立たしいような気持ちと沸々と芽生えながらも、私は、二葉家の現状を伝えます。
いつもなら、豪快にガッハッハって笑って「気にするな!」なんて言ってくれるのですが――――
「そうか、漱也まで、そんなことを……」
この日だけは、心を痛めてるんじゃないかって思えるぐらい、とても辛そうな表情で、そう呟いたんです。
「全ては、儂の責任だ……」
「え?」
突然、お爺ちゃんの口から出た意外な一言に、私は呆気に取られました。
「義和……儂はあいつの、育て方を間違えた……」
お爺ちゃんは訥々と話し始めました。
お父さんは、二葉義和は、“敗北者”でした――――
二葉家は大五郎の出現以降、名医や高名な学者を世に輩出する家柄となり、お父さんも若い頃はその期待が掛けられていたそうですが…………ダメだったみたいです。
4人兄弟の長男として生まれ、将来家を背負う為に一生懸命勉強をしたそうですが、どういう訳かお父さんだけは「才能」に恵まれませんでした。
他の弟――――叔父さん達は、東京に進出し、大型の国立病院で院長や理事長をやっているのに、お父さんはどれだけ努力しても、地元の大学の医学部で一教授を務めることが精一杯だったんです。
その悔しさが根底あるからでしょうか……。私達への教育の仕方が、明らかに度を超えていたのは……。
「儂は義和だけに、厳しくし過ぎてしまった……。家を継がせる為に、熱心に指導をしてきたつもりだったんだが……。今にして思えば、あいつの事を儂は何も理解していなかった……」
お爺ちゃんは、そこまで話してくれると、私から顔を逸らして窓の方へと向きました。
目先にある川で、親のアヒルが、子供のアヒル達に餌を分け与えていました。
「儂が……奪ったのだ。あいつから、“二葉家の
「二葉家の、理念……?」
「偉大なる先祖――――二葉大五郎は、今際の際に、子供達を集めて、こう伝えたという」
「以来、二葉の者はその言葉を胸に、家族を、家を守り続けた。家族と向き合い続ける信念こそが、幸福への道と信じてきた。……だが、儂の代で失敗したのだ……」
「っ!!」
そんなこと無い! って、私は否定しようと口を開きました。
でも、その時でした。
……お爺ちゃんが、顔を戻したんです。
見た途端、ビックリしました。
涙を溜め込んだ瞳から、つうっと、一筋の涙が流れたんです。
あのお爺ちゃんが、まさか泣くだなんて、夢にも思っても無いことでしたので…………私は、言葉を忘れて呆然と見つめてしまいました。
「儂がもっと義和の自由にやらせてさえいれば……!」
お前達がこんな苦労を背負うことは無かったのに――――と、お爺ちゃんが苦々しく呟く後ろの窓の外では、親から餌を貰った子供のアヒル達がバラバラに散って、好きな方向へと進んでいました。
今にして思い出すと、お見舞いに行くたびに、お爺ちゃんはアヒルの親子を見つめていました。
寂しそうであり、羨ましそうにも見える視線を、いつも……送っていました。
「このままでは、漱也も……ッ!」
それは、自分も
お爺ちゃんはそこで大きく目を見開くと、ガバッと起き上がりました。
いきなりどうしたのか――――そう思ってると……ゲホッ! ゲホッ! と大きく
「お爺ちゃん!?」
「ゲホッ! ゲホッ! ガハッ!!」
お爺ちゃんは咄嗟に、脇に置いてあるティッシュボックスから、数枚紙を取り出すと、噎せ込み続ける自分の口元へと当てました。
次の瞬間、背筋がぞーっとしたんです……。
ティッシュの束が、一瞬で真っ赤に染まっていたんですから……!!
「すまない、さな……全ては儂が悪いのだ……!」
お爺ちゃんは、血で染まったティッシュをじっと見つめながら、わなわなと……まるで何かに怯える様に震えて……そう言ったんです。
「だから、本来……二葉の血を引かぬお前にこんなことを頼むのは、烏滸がましいかもしれん……だが、どうしても、聞き入れてもらいたいことが、ある……」
「なに……?」
この訴えだけは聞き逃してはならないと、私は真剣に耳を傾けます。
「“二葉家の理念”を、お前に引き継いで欲しい」
「えっ?」
でも、言われたことはあまりにも衝撃的で……私は少しばかり、目眩が頭がクラクラしました。
「家の者の中で、それができるのは、お前しかおらん……!」
「そんな……」
私は、そんな大それた人間じゃない。だから、二葉大五郎の言葉を受け継ぐなんて出来ない――――そう言おうとしたのですが、
「幸せな家庭を築け、さな……。儂と義和の過ちを、繰り返すな……!」
お爺ちゃんは、とっても静かで穏やかな口調で……でも、有無を言わさない瞳で私を見つめて、そう伝えてきたのです。
私は、ただ……お爺ちゃんの心からの願いを、どう受け入れていいのか分からず……闇雲にコクリと頷くしかありませんでした。
お爺ちゃんは、その日以来、みるみるうちに衰弱していって……最後は意識も朦朧とし始めて、一切喋れないぐらいになってしまいました。
それでも強靭な心臓の強さに支えられていたのですが、半年後に……息を引き取りました。
そして、本当の地獄がやってきたんです。
勢いに任せてジジイ出した。
思ったけど6話で終わる気がしません……orz