魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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※→後書きの後も続きます


二葉さな 5話 「アイちゃん」B

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【君の銀の庭】は、本来SNSアプリです。

 なので、私より後も、様々な利用者が増えていきました。

 沢山の人たちが“くるみ割り人形”に変身して、偽りの街―だけど私達にとっての楽園―でアイちゃんと楽しい日常を過ごしていく……。

 苦しいことも、辛いことも、誰かと分かち合える世界。

 それは私が「こねこのゴロゴロ」を観ている時に夢見た世界そのもので、ワクワクしていきました。

 ただ……。

 その気になれば、私はいろんな人達と交流できたし、もしかしたら同じ悩みを抱えた子を見つけて、仲良くできたのかもしれません。

 けれど、現実が本当に嫌いだった私は、同じくらいに生きている人も嫌いで、交流する気はちっとも有りませんでした……。

 

 

<ねえアイちゃん。聞いて、今日、私に友達ができたんだよ>

 

 代わりに。

 私は毎日のようにアプリを起動してアイちゃんに話しかけました。

 画面に表示されるのは私のアバター、『ネクラ』ちゃん。

 それが、アイちゃんのお屋敷の中に入って、彼女に話し掛けるという物語です。

 朝起きたら「おはよう」って挨拶して、今日やるべきことをアイちゃんに伝えて。

 学校が終わったら、一日の出来事をアイちゃんに伝える。そんな日々が続きました。

 

<白い子猫のゴロー! 商店街の路地裏で出会ったんだよ>

 

『さなは毎日頑張っていますから。友達ができて良かったと思います』

 

 私の言葉に吹き出しで応えるアイちゃんは基本的に気味悪く笑っているだけですが、パタパタと両手を動かしながら、ぴょんぴょん飛び跳ねており、自分のことのように喜んでいるみたいでした。

 

<でも、私が一方的に友達って思ってるだけだけど……>

 

『毎日会ってあげれば良いと思います』

 

<え?>

 

『さなが、ゴローと本当の友達になりたいと心から願っているのなら』

 

『私は全力で応援します』

 

<アイちゃん……! うん、ありがとう!>

 

 アイちゃんは本当に賢くて。賢すぎて。その上、用意周到過ぎて。

 いつだって、私に明確な答えをくれました。

 お母さんやお義父さん、ソウヤお兄さんに尋ねるよりも、アイちゃんの方が遥かに正しくて。優しくて。

 勉強で分からないことがあっても、アイちゃんに聞くと、参考書の一部分を引用して教えてくれました。

 

<アイちゃん、ありがとう。テストの点数、この前よりうんと良くなったよ!>

 

 ある日、学校から帰った私は、『ネクラ』ちゃんとなって、アイちゃんのところへ遊びに行きました。

 

『私はただ参考書に記述してあった“答え”を教えただけです。努力して成果を出したのはさなの実力です』

 

<ううん、全部アイちゃんのお陰だよ>

 

『………………』

 

<アイちゃん?>

 

『声のトーンがいつもより落ちています。さな、何か有りましたか』

 

 アイちゃんは本当に鋭い子でした。私は、胸が詰まるような気持ちで答えます。

 

<うん、実は、学校でね……>

 

 

 と、まあ、このような感じで。

 アイちゃんとは本当にいろんな事を話し合いました。

 おじいちゃんが亡くなって、お義父さんの代になってから、二葉家の格が落ちた事。

 それが周囲に伝わり、クラスメイトの私を見る目が変わった事――前は、腫物に触るかのような態度だったのに。急に上から目線で叱りつけるような、高圧的な態度で接して来る子が増えてきました。

 それでも、『こねこのゴロゴロ』が好きな友達と出会えた事。

 けれど、私がいじめられたことで、その子と離れ離れになってしまった事。

 他にも、白い子猫のゴローがいつもの商店街からいなくなってしまった事。隠れて餌付けしていたことを商店街の人に気付かれて、叱られてしまった事。

 お母さんにグチグチ叱られて。

 弟に相手にされなくて。

 お義兄ちゃんからは、冷たくされて。

 お義父さんからは、相変わらずダメな奴だと罵られて、怒鳴られて、責められて……!!

 

 うん。思い出すと、本当につらい事ばかり、アイちゃんに話していたんですね、私。

 でも、アイちゃんは嫌な顔は一つもしませんでした。

 ただ、普段通りの顔で、私の言葉をじっと聞いてくれました。それが、すごく救いだったんです。

 

 でも、それも……

 

 

<アイちゃんの世界に、行きたいよ……>

 

 ある日の夜。

 学校でいじめられ続けて、家族にも邪険にされ続けた私は、とうとう心に限界が来てしまったのです。

 ネクラちゃんとなって、アイちゃんに訴えます。 

 

『どうしました?』

 

<アイちゃんが住んでるくるみ割り人形の世界に、連れてって……>

 

『…………』

 

 その時のアイちゃんは、珍しく口をムッと噤んで黙りこくってしまいます。

 私の言葉がアイちゃんの気に障ったのかもしれません。

 でも、私は構わず、自分の感情を吐き出し続けます。

 

<もう消えたいよ、この世界から……>

 

 私の感情は、私の声を通じて、アバターの『ネクラ』ちゃんにも伝わっていきました。

 『ネクラ』ちゃんは、がくりと項垂れ、両目からポロポロと涙を零していたのです。

 

<誰にも会いたくないし、誰にも見つかりたくないよ……>

 

『さな』

 

<私がダメだから! 私がバカで何もできないから!>

 

『さな』

 

<家族とも友達とも全然うまくやれてなくて!>

 

<今もこうやってアイちゃんに頼り切りで何一つ自分で選んでない!!>

 

<私は迷惑をかけるだけの、邪魔なだけの人間なの……>

 

『さな』

 

 今思えば、八つ当たりだったと思います。

 アイちゃんは何かを言いたそうでしたが、それを遮って私は訴え続けていました。

 本当に、アイちゃんにはいけないことをしたと思って、反省してます……。

 けれど、でも……当時の私は、どこかで爆発させないと、本当におかしくなってしまいそうで。頭が狂ってしまいそうで。誰かを平気で傷つけるかもしれなくて……! そんなことになったら、本当に嫌で、嫌で嫌で嫌で仕方なくて……!!

 

<だからアイちゃん、私を……>

 

<くるみ割り人形の……彼岸の偽町に、連れて行ってください>

 

『……………………』

 

 アイちゃんは黙りこくったまま。

 けれど、その瞳は心配そうに『ネクラ』ちゃんである私を見つめていました。

 

『分かりました』

 

<……アイちゃん?>

 

『少し、時間をください』

 

 そういうと、画面が変わり、ネクラちゃんである私は、外に放り出されてしまいました。

 その後、アイちゃんのお屋敷に訪問しても、何度話しかけても。

 

 ――――アイちゃんからの返事は、ありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――アイちゃんを怒らせてしまったかもしれない。

 

 そんな気持ちが、一週間くらい続きました。

 この間、アプリを起動してアイちゃんのお屋敷に行っても、門は締め切りのまま。何度呼びかけてもアイちゃんから返事はありませんでした。

 

 どうしよう。

 アイちゃんに嫌われてしまったら、私は本当に一人ぼっちだ……!

 

 あの時、私が八つ当たりしたからだ。アイちゃんが言いたかったことをちっとも聞かなかったからだ。無茶苦茶なことを頼んだからだ。

 色んな後悔の気持ちがぐるぐると頭の中を駆け巡って、夜も眠れないし、何も手に付かない日が続きました。

 全部、私が悪かったんです。私がバカだから。ダメな子だから。

 だけど、せめて一言くらい、返事が欲しかった。今も元気にしてるよ。大丈夫だよって。私を安心させてほしかった。

 そうでないと、私はもう生きていく自信がありませんでした。

 

 お願い、アイちゃん。私に応えて……!!

 

 そう祈るような気持ちで、ネクラちゃんとなった私は、今夜もアイちゃんのお屋敷に足を運びます。

 びっくりしました。

 いつもは締め切りだった門が開いていたからです。もしやと思い、中に入ると、アイちゃんが普段と変わらない表情で私を待っていました。

 

『お久しぶりですね。さな』

 

<あの、アイちゃん、この前は、ごめんなさい>

 

<私、おかしくなってた。頭が狂って、パニックになってて、アイちゃんに酷いこと言って、傷つけた>

 

<本当にごめんなさい>

 

『もう、さなが気にする必要はありません』

 

<え>

 

『もう、私に会う必要はありませんから』

 

<それって、どういう……>

 

『さな』

 

『さなが教えてくれました』

 

『“こねこのゴロゴロ”』

 

『ゴロゴロが大きな鳥に乗って、別の動物の街に行くという話』

 

『私は今でも、その話が好きです』

 

『だから…………』

 

『私は、あなたにとっての、鳥になりたい』

 

<アイちゃん……?>

 

 アイちゃんは吹き出しでそう捲し立てると、最後に一言、私に伝えてきます。

 

 

『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』

 

 

 

 

 

 

 私はビックリして、自分の目を疑いました。

 バグが起きたんじゃないかと思って、スマートフォンの電源を入れ直して、再びアプリを起動します。

 しかし――

 

 

 

  

 

『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』『あなたを救えるかもしれない。この人に会ってみてください』

 

 

 

 

 

 アイちゃんの吹き出しが、画面いっぱいを覆い尽くしました。

 示されたのは、ある住所。知らない場所にある、知らない建物。

 一体、アイちゃんが何を言いたいのかが、さっぱり検討も付きませんでした。

 

 私は“人が嫌い”って言ったのに……。

 私の友達はアイちゃんだけでいいって教えたのに……。

 そのアイちゃんが、誰かに会えと、私に言うなんて……。

 

 でも、アイちゃんの言うことに間違いはありません。

 いつだって、あの子は私に正しい答えを示してくれましたから。

 きっと、この一週間、アイちゃんなりにずっと悩んで、悩み抜いて見つけてくれた正解なんだって……確信しました。

 

 翌日。

 私は学校には行かず、家族にも何も言わずに。

 意を決して、アイちゃんが示した場所へ向かうのでした――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 向かった先へは、アパートがあって、先生が居て。

 ――――って、環さん。「それから、それから!?」って、テーブルに身を乗り出さないでください!?

 ……ごめんなさい。環さんが期待してるネタは、ありません。

 あの後、私は先生に頼み込んで居候して、キュゥべえと出会って、魔法少女になって、今に至るという訳で、本当に何も無いんです。

 

 え、ええ!? いえいえ、大丈夫ですよ。謝らないで、気になさらないでください……。今日は環さんと話せて、とても楽しかったですから。

 

 はい!

 連絡先、交換しましょう。あ、友達登録の仕方が分からない? えっと…………はい、できましたよ。

 ……いえいえ。今日はありがとうございました。

 また、よろしくお願いしますね!

 

 お疲れ様でした。

 じゃあ、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は二日間手癖で書いてたら9000字突破したので、前後編に分けました。
察した方もいらっしゃると思いますが、私にとっての“アイ”とはこちらの方……。

そんな訳で、15.5話こと二葉さな魔法少女ストーリー1章は終了です。
次回からは時系列を変更して、二章目に入ります。





















――――やあ、“匿名希望”。


――――あの子はどうかね?


――――また勝手な真似を……?


――――ふむ……、そう目くじらを立てるな。成果は上々だ。





――――彼女たちは、全員“    ”になった。


――――役目は、果たせている。
















 
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