魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
一万字の壁をあっさり超えてしまう。どうして……?(現場猫風
ちなみに、アニメ、マギアレコード二期が始まりましたね。
でも、続き見たくなっちゃう病が発症すると拙いので、4話ぐらい撮り溜めてから見る予定……!!
「三本、七海やちよの勝利」
審判・
それも当然、これまで積み上げきた中国拳法の技術が何一つ、通用しなかったのだから。
でも、それ以上に……
「うっ……」
じわり、と鈴紗の両目に水が浮かぶ。そして、
「うわあああああああああああああああああああああああああああああん!!!」
まるでダムが決壊したかのような大量の涙を流して、泣き喚いた。
周りが何事かと鈴紗を注視する。負けたことが余程悔しかったのだろうか?
「せっかく七海やちよさんのサインを貰えるチャンスだったのにぃぃぃぃいい!! 私のバカ!! 間抜け!! 貧弱!!! 雑魚! 雑魚! 雑魚おおおおおおおおお!!」
なんだ、そんなことか……と同門の魔法少女達は一斉に脱力。
だが、七海やちよだけは、真剣な顔で鈴紗に歩み寄った。
彼女の眼の前で片膝を付き、鈴紗に手を差し伸べる。
「えっ?」
きょとん、となる鈴紗に、七海やちよは柔らかく微笑んだ。
「良いですよ、サイン」
「えっ! えっ!? 本当に良いんですか!?」
鈴紗は目を丸くして驚いた。驚きの余り、心臓がビクン、と飛び跳ねた。
七海やちよの頭上には、丁度天井からの照明が差している。笑顔の美しさも相俟って、鈴紗の眼には、後光を浴びた女神様に見えた。
「で、でも負けちゃったしなぁ……」
「私と戦ってくださったお礼です。是非」
「そ、そうですか!? それじゃあ……」
鈴紗が懐から真っ白なサイン色紙とペンを取り出すと、やちよはそれを受け取って、さらさらと書いた。
「どうぞ」
「~~~~~~~ッッ!!!」
色紙を返された瞬間、鈴紗の身体が歓喜に打ち震える!
「ありがとうございます!! ありがとうございますっ!! うわあああああああああああああああああああああい!!!! やったあああああああああああああああああああああ!!!」
鈴紗はやちよに深々とお辞儀した後、ピョンピョン飛び跳ねて大喜び。
この一連の様子を眺めていた同門の魔法少女達も一様にコメントを挙げていた。
「優しいね」
「うん、あれも武士道ってやつなのかな?」
「でも本当に強いよ、鈴紗姉さんが一発も当てられなかったなんて……」
「七海やちよ……やっぱり凄い人なんだ!」
「ナイスファイト!」
「かっこいい~!!」
七海やちよの鮮やかなる武術。そして、敗者に手を差し伸べる優しさを目の当たりにした彼女達は一斉に拍手を送り、七海やちよに賛辞を送った。
やちよは立ち上がると、彼女達に向けて深々とお辞儀をする。
「……これでご理解頂けたでしょう。
一方、都ひなのは拍手を送りながらも隣に座る龍王を睨んでいた。
「七海やちよは武術の達人。決して貴女方中国拳法家に引けは取らないと」
「ふふ……」
「我々と親睦を深めたいのでしたら、こんな闘劇は非合理の筈。今すぐ辞めるべきです」
「成程……。つまり、都副部長の考える合理と私の考える合理は、別次元にあるようだ」
微笑を携えながら言い放たれる一言に、ひなのの眉がピクリと反応。
「何……?」
「彼女には、我々の“域”に達して貰わねば、困るのだよ……」
七海やちよも海龍の方を向いていた。
「流石だ、七海やちよ。あの程度では朝飯前の運動にもならないか」
「お戯れが過ぎます、海龍宗師」
蒼海幇の中国武術の神髄。
それを見せるのは、一門下生に過ぎない鈴紗では無い筈。
無論、神髄に打ち勝たねば、龍王とは対等にはなれず、治安維持部に未来は無い。
氷の如く冷え切ったやちよの鋭い視線に、海龍は笑みを隠せなかった。
微笑み合う両者だが、その瞳にはお互いを威圧する程の凄まじい気迫が込められていた。
「安心したまえ。二番手は…………もう決まっている!」
それが、合図だった。
刹那、背後から殺気!!
「……!」
やちよは振り向かずに上体を横に逸らした。こめかみスレスレに『槍』が飛んできた。
一体、どこから……
「!」
推察する間も無く、今度は頭上から殺気を感じて、半歩下がる。眼と鼻の先で同じ形状の『槍』が落下して、床に深々と突き刺さった。
「っ!」
一息付く間も無く、やちよの勘は次の殺気の方向を捉える。
――――足か!!
やちよは左足を軽く上げる。
「せいやっ!!」
“相手”の張り上げた声が響くのと同時に今度は、殺気が真横から迫っているのを直感。
狙いは脇腹――やちよは半歩下がって、槍の刺突を回避すると、柄を握り締めている“相手”の左手首を両手で掴み、
「っ!」
合気道の技・“小手投げ”を決める。
手首を固められて自由を奪われた相手の身体は、軽々と投げ飛ばされた。
両足が宙で半円を描き、床に背中を叩きつける――――
「ニッ」
直前で、相手は不敵に嗤った。
「チョイさぁっ!!」
いつの間にか、右手には槍が握られていた。
投げられた際の遠心力を利用して、思いっきり横薙ぎする!
やちよは瞬きながらも、刃が、自分の眼を狙っていると一瞬で判断した。
自身も槍を召喚し、両端を握り込んで、顔前で構える。
がきぃん、とけたたましい金属音が火花を散らして吠えた。眼潰し攻撃はギリギリで受け流した。
「はっ! はっほっふっ」
左手首を放したことで自由になった“相手”は両足で着地すると、連続バク転でやちよと距離を取った。
やちよは、“相手”の全容を視認した。
澄んだ湖を思わせる、蒼穹のショートカットヘアに、一見穏和そうに見える顔付きの、小柄な女性だった。
「初めまして。劉 蓮穏(ラウ=リェンウェン)です」
拱手をしながら、女性は自己紹介した。
子供のような顔つきからは想像もできない程の、凄まじい魔力を感じる。
先の鈴紗とは比較にならない。正に達人と言うべき雰囲気と威圧感だ。
「……七海やちよです」
お辞儀をして、自己紹介を返す。
と、審判の秘輝が
「
「魔法少女は四六時中が戦場、一瞬の油断が命取り、じゃなかったんでしたっけ??」
「むぅ……」
が、
「七海やちよ。君の噂はよく聞いているよ」
「……」
「神浜
やちよは黙したまま、姿勢を落とした状態で、
彼女がどのタイミングで襲いかかっても対処できるように。
「わたしも、蒼海幇最強の槍使いなんだ。そして……天下一の槍使いを自負している」
ゆるやかに微笑む
「だから……君みたいな小娘に、わたしを差し置いて“最強”を名乗られるのは、少々気に入らないね」
やちよに対して明確な敵意を突き付ける。
凄まじい気迫だ。一瞬でも油断すれば躊躇なく心臓を捥ぎ取るだろう。
だが、やちよは臆する事無く、瞳に闘志を宿して語り始める。
「“最強”とは、神浜市の人々が勝手に呼称したもの……まったく、迷惑な話です」
「へえ。では大人しくわたしに譲ってくれるのかな?」
「いえ……」
やちよの眼光が冷気を放つ。
「ここで、“天下一の槍術使い”を破り、真の最強の名を手にするのも一興。さすれば、人々は私の名を聞くだけで畏れ慄き、市内で悪事を働く輩は、存在しなくなるでしょう」
「なるほど、ね。良い度胸だ」
蓮穏は満足そうに笑って、槍を構える。
やちよも、相貌を引き締めて、槍を構えた。
両者共に、獲物の牙を向き合い、鋭い眼差しで睨み合う。
「私の流儀は、“なんでもあり”でね。どっちかが先に降参するか、気を失うまでやり合うってのはどうだい?」
今まで、そのスタイルを貫いて負けたことが無いのは、容易に想像できた。
やちよは、自信満々な
「良いでしょう」
「楊老師も、それでいいかい?」
「……仕方が無いザンスね」
秘輝はふう、と溜息を付いた。
この場での責任問題を考えれば、あまり流血沙汰は起こさないで欲しいのだが、聞く耳を持つ二人ではない。
「それでは……試合、始め!!」
審判の合図と同時に、踏み込んできたのは
一気に間合いを詰めて神速の勢いで槍を突き出す。
今まで戦ってきたどの相手よりも洗練された動きだ。だがやちよは冷静。体の軸をずらさずに、槍の両端を握り、
このまま防戦一方と思われたが――
「っ!」
胴に迫っていた
ここで注目すべきが、やちよの槍は穂先が三又。
対する
突き出されたやちよの槍の三又の間に、
「およっ?」
急に槍の自由が効かなくなり、
確認して、槍を引き抜こうとする。しかし、穂先は知恵の輪の如く、相手の槍の穂先とガッチリ絡み合ってしまい、ガチャガチャと音を立てるだけで抜く事ができない。
瞬間――やちよの眼が光った。
「っ!!」
瞬間、
自分が握っていた槍に手首が捻られたような感覚がしたのと同時に、身体が宙に浮いた。
「おおっとぉ」
視界が地面に向かう前に、咄嗟に槍を手放す
その瞬間――武器を手放し、隙を見せた所――をやちよは見逃さなかった。
既に足を強く踏み込んで、勢いをつけた槍の穂先を
だが、
「っ!!」
気でも触れたか――と思ったのも束の間。
眉間に差し込まれた槍に、手応えは無く。
「まーさか、槍で“合気”を使ってくるとはね……」
「っ!」
背後から“
言わずもがな、両手で槍を握って攻撃に備える
「成程、技術が互角なら……」
「!!」
やちよが狙うは胴。既に予期していたのか、その前で槍を構える
だが、微笑と同時に行われた動作に、やちよは瞠目。
「打ち合わなきゃ良い訳だ」
両手を開き、自身の槍を床に落とす。
そのまま、迫りくるやちよの槍を両手で受け止めた!
「っ!?」
やちよは槍を振るう動作に、全神経を集中させていた。
槍と自身を一体化させていた事が仇となる。
凄まじい膂力で握り込まれてしまい、やちよの身体が一瞬、硬直した。
隙有り――
「むむっ?」
が、今度は
右拳がやちよの顔面に入ったのは良いが、パシャンッと音を立てて吸い込まれたのだ。
まるで、
<残念ですね。貴女が捉えたのは>
やちよの全身が波を打ちながら変化していく。
「……!!」
「私の手です」
一瞬で『自分の拳を、右掌で受け止めた状態のやちよ』が目の前に立っていた。
「っ」
瞬間、
――――
だが、
「なるほど。自由を奪ったつもりかな?
昔、ある武術家に、“全く同じ技”を掛けられたことを思い出して、
「姉者……
「…………」
冷徹にじっと見下すやちよだが、
「肘から膝にかけて、骨が粉砕した」
やちよの眼が、微かに揺れるのを
今度は
次の瞬間、やちよは息を飲んだ。
やちよは咄嗟に、
「ひゃっはあああああ!!!」
空中で逆立ち状態となった
――――手首が固定された。これでは動けない。
やちよが見上げると、獰猛に嗤う
「せいやああああ!!!」
気合と同時に、やちよの顔面目掛けて、槍の穂先を突き落とす
再び水に変化して回避――しようと思ったが、魔力の消費量も大きく、長期戦必至の相手には現実的な手法ではない。
なので、やちよは直前で顔を横に逸らした。刃が頬を掠めて鮮血を散らす。
「っ!?」
まさか今の状態で避けられるとは思ってなかった
――――今だ!!
やちよが左手をぐっと伸ばす。
槍を握り込む
――拙い……やちよと自分の右手は握りあったままだ。落ちる力を利用して“合気”を掛けられる可能性がある。
そう考えた
それが、狙いだった。
やちよは放されたばかりの右手をぐっと伸ばした。落ちる
瞬間――――蓮穏の身体が放り投げられた。
宙返りをして、床に背中を叩きつける――
「ふんっ!!」
――よりも早く両手を勢いよく床に着いて難を逃れた! そして、反動で後ろ向きに飛び退く。ドロップキックの要領で垂直に伸びた両足蹴りがやちよに迫る!
やちよは、槍の両端を握り込んで防御の姿勢を取り、受け流そうと考えたが――――直後、瞠目。
「ちょいさあああああ!!」
裂帛の気合を両大腿に込めるのと同時に、やちよの身体を無造作に投げ飛ばす。
やちよは背中から床に勢いよく叩きつけられた。瞬時に
機関銃の如き、速射音が響き渡った。
回すように拳を撃ち込むことで間断無き連続突きを可能にした、詠春拳の必殺技――俗にいう『チェーンパンチ』をやちよの頭部めがけて打ち込む。
咄嗟にやちよは両腕で顔面を庇った。しかし、一発いっぱつの拳の威力は凄まじく、打たれる度に腕の骨が激しく軋んだ。
「くっ」
だが、攻撃が頭部のみに集中していたのは不幸中の幸いか。
絶え間なく襲い来る激痛に堪えながら、やちよは足を蹴り上げて、
不意打ちを喰らい、
「ぐへっ」
直後、顔面に“何か”がぶつかって、間抜けな声を挙げる
床を見ると、何故か厚底ヒールが転がっていた。
顔を前に戻すと、立ち上がったばかりのやちよが居た。右足に靴は履いておらず、裸足である。
どうやら、飛び道具替わりに靴を飛ばしたのだろう。
「……ふんっ」
――――小癪な真似だ。けど、面白いじゃないか。
やちよも槍を持ち直して、再び防御の構えを取った。
残り1mのところで
甘い。わたしの本気の一撃は、如何なる防御も貫通する!
「っ!?」
槍ごとやちよの首の骨を叩き壊すつもりだった
やちよの身体は
やちよは腰を落として、頭を屈めながら袖口を掴むと、股下に何も履いてない右足を潜り込ませた。
「っ! うぁっ!?」
――瞬間、
右足から電流の様に激痛が走り、思わず両膝を床に落とした。
見上げると、自分を冷たく見下ろすやちよが居た。
彼女が“何を”したのか、直ぐに悟った。
自分の足に絡ませて“技”を仕掛けようとしたんじゃなく、ただ、
踝の裏にある“筋肉の無い溝”――そこに存在する、刺激のツボを。
裸足の、親指で。
「……っ」
そのために靴を脱いだのか、と
すかさずやちよが飛び掛かってくる。
やちよが技を仕掛けた! 手首と肩を掴んで
「無駄無駄ぁッ!」
だが、この程度の束縛で蓮穏は止まらない。
爪先で床を強く蹴ると、下半身が高く浮いた。海老ぞりとなった両足が、自分を抑え込むやちよの首をギュっと挟み込んだ。
「ぐっ」
ぎりぎりと頸動脈を圧迫されて、やちよが苦痛に呻く。必然的に腕の拘束が弱まった。
やちよの首に
「死ね」
瞬時に
だが、窒息を待つ程、
腕を振り上げて、脳天を叩き割ろうと肘鉄を落とすが――寸前で、表情が苦悶に歪んだ。首の拘束を解くと、慌ててやちよから飛び退く。
衣装から露出した右大腿からは、真紅の歯型がくっきりと浮かんで、血を流していた。
やちよが噛み付いたのだ。
「…………」
「…………」
やちよも立ち上がると、
「「っ!!」」
そしてお互いに先端を向き合わせて、衝突する!!
☆
数十分が経過した。
そんな“ルーチン”が高速で、4,5回繰り返されていた。
やちよと
周囲に座る門下生達は、どちらを応援するでもなく、ただ緊張と興奮に肩を震わせながら、じっと、何も言わずに見守っていた。
彼女に対抗できるのは、“紅鬼”と称される剣豪、
負ける姿など、誰も見たことが無い。
だが、七海やちよは、そんな
常に冷静に相手の動きを観察し、隙を付いて合気道か古武術の“技”を使って、確実に虚を突いている。
「これはもしかすると、もしかするかもしれんな……」
海龍の呟きに門下生全員が頷く。
――――絶対的な存在が、崩れる。
それは、例えプラスかマイナスの結果であろうと、目にした人の心に強い感動を与えるのは違いない。
だが、中国武術か外の武道に敗れるなど、あってはならない。
門下生達の眼には、強い期待と不安が浮かんでいた。
「せいやああああ!!」
「っ!!」
6度目のルーチンが終わった直後、両者は互いに槍を一閃。けたたましい金属音を響かせて、交錯した。
体にダメージは無い。
しかし、直後、目の前で繰り広げられた光景に、門下生一同が驚愕した。
いつの間にか、両者は会場全体に、槍を“設置”していた。
無数に宙に浮かぶそれらがひゅんひゅんと音を立てて直進! 空中で互いに衝突。間断なく耳朶を刺激する金属音と、雷と見紛う程の火花を連続で散らす。
擂台の上が、爆風と光で包まれて、二人の姿が一瞬、見えなくなる。
「…………」
「…………」
――――やがて、それらが晴れると、試合開始前と同じく、槍を向き合った状態の二人が見えた。
お互いに槍の豪雨に晒されながらも、一本たりとも決定打には至らなかったのだ。
門下生一同の背筋が凍った。
――――二人とも、人間ではない。まさに、“化け物”……!
「っ!」
「おぉっとぉ! ストップ! タンマ、タンマ!」
突進を仕掛けようと足を強く踏み込んだやちよだったが、
「……?」
足にブレーキを掛けて、蓮穏を伺うやちよ。
「わかったよ、七海やちよ。君の強さは認める。技術のレベルは同じ。身体能力も同じ。おまけに考えてることまで同じとあっちゃあ、いつまで経っても埒が開かないよ!」
「……」
「だから」
蓮穏の瞳が、ギンと瞬く。
「次で、確実に勝負を付ける」
獰猛に嗤ったのと、足元に魔法陣が出現したのは同時だった。
水流が足元から発生して渦巻き状となり、
「わたしと君の魔法の元素は、奇しくも同じ“水”。だから」
パシャン、と水流が弾け飛んだ。
<こんなことができる>
「……!」
テレパシーが聞こえて、やちよは警戒した。槍を両手で構えながら、腰を落として周囲を見渡す。
――――どこから仕掛けてくる? 一体、どこから……。
「ここだよ」
頭上から、
途端、観客席からやちよを見上げる門下生達の表情が、一斉に愕然となった。
「ここだってば」
「……!」
何か冷たいものが、自分の頬を撫でた。
それが
だが、背中から腰に掛けて違和感が有った。冷たい感触。子供を一人負ぶったような重みが、確かに。
そして、“自分だけに”驚きの視線を集中させる門下生達。
それらが、やちよの身に何が起きているかを、教えてくれた。
――――蓮穏が、
「理解してくれたみたいだね」
再び、頭上から穏やかな声。
“やちよの背中から上半身を生やした状態”の
それが、やちよには恐ろしくて堪らなかった。悪寒が全身に走り、表情が、蒼褪めていく。
「固有魔法の応用さ。わたしの水質を、君の水質と同じにしたんだ」
「っ!」
歯を喰いしばって怯えを噛み殺すと、やちよは咄嗟に槍を自身の背中に薙いだ。
高速の槍が
だが、パシャンと音を立てて、通過する。
「わたしと君は同じだって言ったばかりだろう? 君の水で生成した槍で、叩けると思ったのかい?」
「くっ」
やちよが忌々しく歯噛みする。
「君も同じ魔法の使い手だが、ここまではできまい。結局は鍛錬の数と経験値の差が全てだ。才能は天才的でも、わたしと戦うには、まだ若すぎたね」
水に浸けるように、とぷん、と。
「君の身体を乗っ取って、降参してあげるよ」
「…………」
不快感が酷い。顔から血の気が引いていく。
まるで、
やちよは、足元に転がる槍を、拾い上げる。
「だから、君の槍じゃだめだって言ったろう。水質が同じなんだから、通用しないってば」
頭がぼうっとしてきた。
やちよは手にした槍を、渾身の力を込めて、背中に向けて振った。
先と変わらぬ結果になると理解していたからだ。
英雄と呼ばれし魔法少女にしては随分、無駄で、浅慮な抵抗だと、鼻で笑った。
刹那――――バンッと、音が響いた。
「いっ! ……えっ?」
一瞬、何が起こったのか、分からなかった。
蓮穏は、きょとんとしていた。
雷鳴の如き破裂音が響いたのと同時に、首筋が焼けるような熱を感じた。
「なん、で……?」
全身が痺れ、激痛が襲った。
まさに起死回生。やちよの必殺の一撃が蓮穏の急所を仕留めたのだ。
しかし、何故、
混乱のまま、蓮穏の意識は、そこで飛んだ。
やちよの背中から、ぬるりと、蓮穏の全身が抜けるように零れ落ちた。
床に背中を叩きつけて、動かなくなった。
「…………私の槍は、今の貴女には通じない。けれど」
ふう、と一息付いた後、やちよは、気絶した蓮穏を見下ろして、語り始める。
やちよが握り締めている槍。
それは一見、やちよが普段扱ってる槍と、何ら変わりない。
だが、表面に水が滲んで、床に流れ落ちた。
中身を見て、門下生達が、あっと驚く。
「貴女の槍なら、通じる筈」
それは、蓮穏の槍だった。
「確かに私には、貴女程の真似はできない。でも……」
蓮穏の槍の上に、自らの“水”を纏わせ、あたかも自分の槍であるかのように“コーティング”を施したのだ。
いちかばちかの賭けは、見事に功を為したのだった。
審判の秘輝が、そこで声を張り上げた。
「
やちよは蓮穏に、深々とお辞儀をした。
☆おまけ―― 次回予告
「そんな、
「あの人より強い生徒はいないよ」
「でも、誰が戦うのよ……」
――――どうにか、二試合目を制したやちよ。
――――残るは一試合。驚異的な強さを示すやちよを前に、動揺を隠せない門下生達。
「……私が、参りましょう」
――――だが、一人の女が立ち塞がる!!
――――蒼海幇最強の武術家・五強聖の一人。
――――名は……
「
――――『武神』の異名を持つ、深翠の龍。
「さあ……貴女の“修羅”をお見せなさい。七海やちよさん」
「……っ!!」
――――蓮穏を遥かに上回る武術の数々。
――――中国武術の神髄に、七海やちよ、手も足も出ず……!?
「…………この一瞬に、全てを懸ける――――」
――――だが、武士の魂、屈せず。
――――ただ前を向いて、地上最強の相手と戦い抜く。
――――それが例え、無謀であったとしても。
――――命を落とすとしても。
――――“英雄”であればこそ。
――――“修羅”であればこそ。
――――神浜の為に、未来の為に、やちよは全力で槍を振るう!
次回、七海やちよ・
最終話、第一部・ラスボス戦、開幕!!
近日公開予定!!
【挿絵表示】
今回登場したオリジナル魔法少女、劉 蓮穏(ラウ=リェンウェン)の
イメージです(カスタムキャストで作成)
はい、という訳で激動の三話目となりました。
今回は、槍対槍だったので、とにかく映像的、文章的資料を探すのに、一苦労。
精霊の守り人の原作・アニメ版や、中国の歴史ドラマのアクションを参考にどうにか書き上げてました。
なお、作者は武道家では無いため、合気道にせよ、中国武術にせよ、ガバガバが酷いかもしれませんが、ご容赦を。
次回は、いよいよ第一部、ラスボス戦となります。
何卒、よろしくお願い致します。