魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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七海やちよ 4話 「三番手 武神 (チャン) 咲蘭(シャオラン)」(第一部 最終ボス戦)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“我こそは”と願い出る者はいないか!?」

 

 

 静寂。

 

 蒼海幇宗師・(ワン) 海龍(ハイロン)の声が演武場全域に高らかに轟くも、帰ってくる声は一つも無い。

 当然だ。

 先に戦った(ラウ) 蓮穏(リェンウェン)は門下生の中で最年長。つまり、蒼碧拳門下生の中では最古参であり、その実力は老師衆『五強聖』に匹敵すると言われていた程であった。

 その彼女が、完敗した。自分達の中国武術より格下と見ていた日本武道。それも、10代の少女に。

 

「そんな、蓮穏姉様が負けるなんて……」

 

 故に、門下生達の困惑は計り知れない。

 誰もが、擂台(レイタイ)の上に立つ少女の姿に震え慄いた。

 細身の体躯の上その御伽噺の姫君の如き美貌と、可憐な佇まいは儚さすら感じられ――為れど、その強さは阿修羅の如し。

 だからこそ、誰もが有り得ないと思った。目の前に起きている光景に、頭の中で“バグ”が起きていたのだ。故の、恐怖、混乱。

 

「どうした!! 挑む者は誰もおらぬのか!? 君たちの気概とは、その程度か! このままでは我が拳の敗北を認めることになるぞ! 中国武術を最強と信ずる君らにとって、それは到底許せることでは無い筈だ!!」

 

 音一つ無い静寂を破るかのように、海龍の鼓舞する声が響く。

 門下生達は騒めきだした。しかし、聞こえてくる声々は、いずれも非常に消極的なものばかり。

 

「そんなこと言われても……!」

 

「蓮穏姉様より強い人はこの中にいないよ……」

 

豪杏(ハオジン)姉様か美雨(メイユイ)姉様さえいてくれれば……!」

 

「ううん、梅華(メイファ)姉様じゃないと無理でしょ、アレ……」

 

 だが、黙して座ったままでは、蒼碧拳の敗北は確定である。

 それはとても認められることではない――が、七海やちよに勝てる自信も無い。

 門下生の声には、その葛藤が渦巻いているように聞こえた。

 

 

(いいぞ……。このまま、門下生共が一人も立ち上がらなければ……!)

 

 やちよの勝利は確定し、こんな茶番はお開きとなる筈。

 ひなのは、拳はグッと握り締めて、その結末を期待していた。

 

(だが……)

 

 しかし、一つ懸念がある。

 観客席の最奥。門下生に紛れてじっと黙している女性、開明新聞社の静原の事である。

 ()()()()が撮れていないのにも関わらず、落ち着き払っている様子だ。まるで何かを確信しているように。

 

(嫌な予感がする……)

 

 だからこそ、ひなのの顔は浮かない。

 海龍は、大手の新聞社と契約して静原をこの場に呼び寄せた。大方、“特大のネタ”が有ると言ったに違いない。故に、このまま穏便に終幕とは思えなかった。

 

 だが、できれば――――。

 ひなのは祈る気持ちで、やちよを見つめる。

 終わって欲しい、このまま。何事も無く。

 

「もう一度聞く!! 神浜の英雄に、“我こそは”と挑戦する者はおらぬか!?」

 

 

 瞬間――――

 

 

 

 

「私が参りましょう」

 

 

 

 

 “それ”は()()()()()、音も無く立ち上がっていた。

 

 その人物を見た途端、ひなのの顔から血の気が引いた。

 

 声の方向を見た瞬間、やちよが身構える。

 

 

 

 

「征くか、武神よ」

 

 海龍がフッと笑い、隣立つ女性を横目で見る。

 蒼海幇・蒼碧拳最強を誇る師範衆『五強聖』の一角、(チャン) 咲蘭(シャオラン)老師――――!!

 

「御意」

 

 咲蘭は穏やかな笑みを浮かべて、そう答えると――飛翔!

 天井に届く程の宙空で変身したかと思うと、何故か擂台ではなく、場内の最奥まで飛び退く。

 訳も分からず、門下生達は一斉に後ろを振り向き、不思議そうに咲蘭を見つめた。

 そして――

 

 

 こっ、と。

 咲蘭は爪先で床を()()叩いた。

 

 刹那――

 

 

 

「えっ!?」

 

「なになになになに!?!?」

 

「ちょっと~~~ッッ!?!?」

 

「ひゃあああああああああ!!!」

 

 

 少女達の悲鳴。

 突然椅子が、がたがたがたがたがたとけたたましい音を立てて揺れたかと思うと。

 

 轟!!

 

 ――と真下から突風が発生。

 咲蘭の前方にある数十もの座椅子が門下生ごと宙に高く浮かび上がった!

 

(――ようにしか見えないっ!! なんだこれはっ!?)

 

「くぅぅぅうぅぅッ!!」

 

 その光景と全身の響く衝撃に、ひなのは混乱。

 ガタガタと揺れる椅子を浮かび上がらないようにどうにか両手で抑えてふんばる。

 恐らく衝撃破のようなものを発生させたのだろうが――あんな爪先の小突き一つで!? ここまでの波動を!?

 座椅子が高く浮いたことで、当然ながら、門下生達も次々と床に落下していく。

 咲蘭が飛翔。

 刹那、その場に居る者の多くが、次の光景に驚嘆する。

 宙に浮いた椅子の座面を次々と蹴りながら空中を滑空する咲蘭の姿が見えたからだ。

 その動作、まさに木々を飛び移る野猿が如し。為れどその速度は、乱反射する光の如く超高速。

 やがて、最後の椅子を蹴り飛ばして、咲蘭は擂台に着地。七海やちよと相対する――

 

「っ!」

 

 が、何かに勘付き、咲蘭は眉間に皺を寄せた。

 自分の下に迫る高速の物体を感知。その数――観測不能。何れも先端が鋭利。同じ物体。

 身構える間も無かった。

 それらが咲蘭に墜落したのと、ひなのと門下生らが耳を塞ぎ頭を伏せたのは同時だった。

 けたたましい炸裂音と金属同士の衝突音が無限に演武場内で反響する。

 

(くっ!! ……一体何が……)

 

「っえ!?」

 

 自前の爆弾が爆発した音よりも遥かに激しい音だった。

 やがて、音が鳴り響くと、キンと痛む耳を解放してひなのは擂台の上を見る。

 煙が晴れた先に映った光景に、驚愕した。

 

 七海やちよと――その前に立っているのは、鄭 咲蘭ではなく。

 七海やちよの『槍』。

 一本……いや、一本や二本どころではない! もはや数えきれない! はっきりと見えたのは、“山”であった。槍で形成された剣山の如き小山が、つい先まで咲蘭が立っていた場所に生えていた!!

 

 

 つまり。

 咲蘭は“生き埋め”にされたのだ。

 いや、生きているかどうかさえ、定かではない。

 無数の槍が、四方八方どころか“半径180度”から、一斉に飛来してきたのだから。

 

 全身が串刺しになっていても、おかしくは無かった。

 

 

 

 

 ――――

 

「嘘でしょ~?!」

 

 竜誕生館医務室のベッド上にて。

 療養中の劉 蓮穏は、テレビ画面での中継を通して、戦いの様子を鑑賞していた。

 ――が、まさかの光景にビックリ仰天する。

 まさか、自分の敬愛する“姉者”が、このような不意打ちを喰らうなんて予想だにしていなかった。

 

「あれだけの数の槍をわたしや姉者にさえ悟られないように、こっそり仕組んでたって訳かい!?」

 

 演武場全域に。

 宗師、老師を含めた堕龍(デュオロン)の勇士が集うあの中で。

 いつ、どうやって配置したのか、蓮穏には皆目見当もつかない。 

 

「……えげつなぁ~っ!!」

 

 ――――

 

 

 

 

「やったぞっ!!」

 

 思わずガッツポーズを取り歓声を挙げるひなの。

 咲蘭の状態が気になるが、これで七海やちよの勝利は確定――

 

「……っ!?」

 

 ――と思ったのも束の間。

 横目で海龍を見ると、口元が吊り上がっていた。まるで、やちよの攻撃が

 

 

 

 

 べきっ

 

 

 

 

「ふっ……」

 

 ――――()()()だと言いたげに。

 

 

 

 

 

ばきんっ!!

 

 

 

 骨をへし折るかのような音が、破裂音の如く場内に大きく響いた。

 その直後に目に映ったものに、ひなのの顔が蒼褪める。

 門下生達は皆一様に驚いた。だが、彼女達の顔は次第に喜色に染まった。中には歓声を挙げる者。涙を流す者までいた。

 

 反響する音と同時に、槍山がバラバラと崩れ去る。

 やちよは恐れも、ましてや驚きもせず、じっとその様子を見据えていた。

 

 中から現れたのは――――無傷の鄭 咲蘭。

 その表情に一辺の焦りも無し。席を立つ前と変わらず、“仏”の如く穏やかに笑む相貌のまま。

 

 やちよはまず両手に注目した。咲蘭の指の間には、やちよが放った槍の先端の刃が無数に挟まれていた。

 つまり、あの一瞬の間に、咲蘭は全ての槍を明確に補足。その全てを“指”の間で捕らえ、“指”の力のみで全てへし折ったというのだ。それだけで、先の鈴紗と蓮穏などと比べ物にならなかった。

 洞察力と判断力と俊敏性、更に膂力。全て、次元が違う。

 

「……流石は老師」

 

 再び、やちよの前に、咲蘭が相対する。

 指に挟んだ先端を投げ捨て、咲蘭は最初と全く変わらぬ様子で悠然と歩み寄ってくる。

 

()()()()の不意打ち等、児戯に過ぎませんか」

 

 近づくにつれ、凄まじいプレッシャーが襲い掛かる。

 しかし、やちよは一切動じず、氷の表情を保つ。今の状況が、当然の結果だと分かっていたように。

 

「ふふ……同じ土俵に上がる前に不意打ちとは、戦いを心得ていますね」

 

 咲蘭は嬉しそうに笑う。

 まるで“仏”のように――と、これは“そのまま”の意味だ。

 やちよが最初に咲蘭を見た時から、彼女の両目は閉ざされたままである。

 つまり、先のやちよの不意打ちを見えないまま全て凌いだ、ということだ。半径180度からの同時攻撃を、視認せず、暗闇の中で。

 

「……でなければ死んでしまう。私は、師からそう教わりましたから」

 

「正解ですよ。七海やちよさん」

 

 しかし、と咲蘭は渋い顔を浮かべる。

 

「いささか甘かったですね。竜誕館に入る前に槍をたくさん召喚して置き去りにする。鈴紗ちゃん、蓮穏ちゃんとの試合中、皆が自分に意識を集中させている間に、外の槍を動かし、演武場内にこっそり配置……と、ここまでは良かった。しかし、蓮穏ちゃんとの戦いが激しくなったせいで、意識が配置した槍から聊か削がれてしまったようですね。宗師と楊老師と、私には、バレてしまっていましたよ?」

 

「やはり、そうでしたか。ご教示頂き感謝致します」

 

 やちよは頭を下げる。咲蘭はふふっと微笑む。

 戦いとは油断大敵。それを十分に理解しているやちよだからこそ、咲蘭か、秘輝(ミーフゥイ)か、海龍のいずれかが、最後に自分の前に立ちはだかると、予測していた。

 

「では。蒼碧拳師範・『五強聖』鄭 咲蘭、参ります」

 

「七海やちよ。お手合わせ願います」

 

 咲蘭は拱手を。

 やちよはお辞儀で挨拶を交わす。

 

 二人が間近で相対すると、その体格差がより明確になった。

 咲蘭の身長は147cm、対してやちよの身長は165cm

 頭一つ分は咲蘭の方が小さく、第三者から見たら子供と大人くらいの差は感じるだろう。

 無論、年齢なら咲蘭の方が、やちよより一回りも上である。しかし、その体躯と無垢な相貌のせいでやちよより遥か年下の少女に見えてしまうから不思議なものだ。

 

(けれど……)

 

 やちよは知っている。

 東洋的武術は、西洋的格闘スポーツと違って、体重や体格差に意味は無い。

 そもそも、人間は不安定な生き物だからだ。

 一般的な動物と異なり、二本足だけで全身を支えている。故に、その重心は非常に崩れやすい。つまり、動いて“さえ”いれば、いつでも崩せるという意味だ。

 

 実際、彼女が尊敬している故・塩田剛三氏や、合気道の師であった亡き祖母・七海(そら)も細身であり小柄だった。だが、その神技の如き武術で数多の格闘家を投げ飛ばしてきた。体格差など関係無しに。

 やちよは実際にそれを見てきた。だからこそ、分かる。

 

 ――――目の前に立つ御仁は、強い。

 

 やちよが今まで戦ってきた誰よりも。

 先程見せたものなど、デモンストレーションに過ぎないだろう。

 

(この人の中には、どれだけの“強さ”が秘められている……?)

 

 純粋にそれを見てみたいと思った。

 故の欲求。

 この人の本気を、引き出してやりたい。

 

 

 やちよは槍を出現させ、構える。

 相手は真の武術家。

 本来なら徒手空拳で渡り合いたいところだが、最初からそれを行うのは危険過ぎると判断。よって、まずは獲物を使って相手の攻撃の様子を伺う作戦だ。

 槍をぐっと握り締め、冷徹な瞳で、咲蘭を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




門下生ず

劉 蓮穏 26歳(独身)

洪 梅華 25歳(子持ち)

純 美雨 17歳

呉 豪杏 17歳


五強聖

王 海龍 34歳

鄭 咲蘭 29歳

楊 秘輝 31歳(ザンス)


実力順で並べるとこんな感じ。
そんな訳で第一部ラスボス戦、開幕となります。

ちなみに、咲蘭のキャラクターイメージ、再揚です(カスタムキャスト、Picrewで作成)


【挿絵表示】

※Picrewの「makeYo1」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=hpvbh0LAzU #Picrew #makeYo1

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