魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
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※ 今回は一部のキャラクターに対する罵詈雑言があります。
そこは、まるで深淵の様な深い暗闇に覆われていた――――
カツン、カツン――――と、一人の女性がその静寂に満ちた闇中を、靴音を響かせながら歩いている。
彼女の向かっている先は、自らが最も敬う者達が君臨する最奥部であった。全く光の無い世界だが、女性には
女性は、優れた美貌の持ち主であった。誰からも『綺麗』と呼ばれ、街を歩けば振り向かない者は居なかった。胸部に実った豊かな双球も、その美しさの一翼を担っていた。
表の世界で、彼女は
歩き続けていると、やがて、視線の先に二つに並んだ玉座が見えた。目を凝らすと、二人の人物が国王と女王の様に座していた。女性はまず、右の玉座の人物を注視した。
――――男性。黒いスーツを身を包んだ、実業家の様な様相の老人であった。
歳は70~80と言ったところで、生え際から真っ白な髪が伸びており、顔の至るところに皺が深く刻まれている。
だが、双眼からは、まるで獲物の顔を捕まえた猛獣の如き激しさが瞬き、彼が幾多もの修羅場を潜り抜けた歴戦の勇者であることを彷彿とさせた。
彼は、女性にとって最も尊敬する人物だ。次に彼女は、左の玉座を見据える。
――――少女。ゴシックロリータに似たフリル付きのドレスを纏った、小さな子供だった。
年齢は誰も知らないが、恐らく二桁になって間もないだろう――――熊のぬいぐるみを大切そうに抱きしめている姿からも幼さが感じられる。
座っている玉座が高いせいで、浮遊する両足をブラブラと揺らしながら、愉快そうな笑みで「ふんふ~ん♪」と鼻歌を唄っていた。
老人と横並びになっている姿を見ると、祖父と孫にしか見えなかった。
だが、女性は知っていた。
この深淵に住まう者達の誰もが、少女を『君主』と
「みふゆ、か……」
自分が歩み寄ってきていた事に気づいたらしい。右の玉座から声が聞こえてきた。見た目に相応しい、威厳に満ち溢れた声色だった。
「マギウス、お祖父様」
みふゆと老人に呼ばれた女性は床に片膝を付くと、恭しく頭を下げる。
「羽根部隊が漸く到着致しました」
「通してー」
左の玉座から深淵とは不釣り合いな、素っ頓狂に明るい声が響いてきた。甲高くて、一度聞いたら、しばらく耳に残るぐらいの特徴的な声色だった。
「はい」
女性が二人の主に返事をすると、立ち上がって、後ろを振り向く。墨で塗りたくった様な漆黒が視界全面に広がった。
「お入りなさい!」
だが、無数の気配を察知したみふゆは睨み据えると、力強く指示を下した。
刹那――――赤装束を纏った長身の人物と、白装束を纏った全く同じ背格好の二人組が、みふゆの前に参上した。三人とも、フードを深く被っているせいで、顔の上半分が覆われてしまって表情が伺えない。
先頭に立つ赤装束の人物が、みふゆの隣に並ぶと、
「お初にお目に掛かります。『マギウス』。サンシャイングループ代表、
綺麗なソプラノを口から紡ぎ出した。
先のみふゆと同じく、片膝を床に付いて、恭しくお辞儀しつつ挨拶した。
「君が、双樹ルカか」
源道と呼ばれた右の玉座に座す老人が、赤いフードの少女の名を呼ぶと、口端がニッと吊り上がった。
立ち上がると、赤いフードをグッと掴んで後ろに捲り上げる。一本に縛られた黒い長髪が解放され、空中で綺麗な半月を描いた。
「『マギウスの翼』実働部隊――――通称・羽根部隊の隊長『紅羽根』を務めさせて頂いております。以後お見知りおきを」
美しい黒髪を生やした少女は、育ちの良さが伺える淑女然とした態度で、“マギウス”と源道に二度目のお辞儀を丁寧に行う。
「君の事は、みふゆから聞いているよ。目覚ましい活躍振りのようだね」
ルカの表情を興味深く見つめると、笑顔を向けて称賛する源道。
「ありがとうございます」
「紅羽根! ワタシの許可も無くお二人に素顔を晒すなどと……!」
満面の笑みで会釈するルカだが、彼女の先の行為が祖父と主に対して失礼と感じたみふゆが、眉間に皺を寄せて割り込んでくる。
「いや、構わんよ。我々は同じ目的の元に集った同志だ。お互いの顔を知らなければ、コミュニケーションとチームワークは成り立たない……だろう?」
「仰る通りです。わたくしも、組織の運営者たる日秀会長とマギウスには、是非とも顔を覚えていただきたいと想いまして」
フードを取った次第です――――そう付け加えながら、横目でみふゆを見るルカの微笑みは、嘲りが含まれている様に見えた。
「っ……!」
みふゆが忌々しく歯噛みする。
最初からそうだった。自身が幾度と無く叱責を行おうが、こいつが反省の意を見せた事は一度も無い。今の様な軽薄な笑みを返されるだけ。
「『白羽根』の君たちも遠慮せず、顔を見せてくれ給え」
そんな孫娘の懊悩を尻目に、源道は視線を奥へと向けた。みふゆとルカの後ろで、縮こまっている二人組の白装束にそう伝える。
「え? そんな……!!」
左側に立つ白装束の少女が、驚愕に口を開けた。隣立つもう一人の白装束と源道に「いいの!? 本当にいいの!?」何度も確認しながら顔をキョロキョロと忙しなく見回す。
「し、失礼するでございます……」
右側に立つ白装束の少女が、恐る恐るフードを掴んで捲り上げる。隣立つ白装束も、合わせる様にフードを捲り上げた。
――――茶色の束がサラサラと流れる様に、宙を舞った。正に鏡写しといえる程の瓜二つの少女の顔が、出現した。
「
源道は、人の良さそうな笑みを浮かべると、双子の少女に向けて、会釈する。
「は、はじめまして……」
「な、名前を覚えて頂きまして、光栄にございます……!」
まさか、組織のトップの一人である彼から、頭を下げられるなんて思ってもいなかった。月夜と月咲は声を震わせながら、上体90度に倒してお辞儀をする。
「ははっ、そう固くならなくてもいいさ。仲間同士、気の置けない仲をこれから築いていこうじゃないかっ!」
源道はひらひらと手を振って愉快気に笑う。
厳格な人柄と聞いていたので、てっきり自分の親族と同等の人物像を思い描いていたが……杞憂に終わった様だ。彼は中々の
二人はホッと安堵の息を付いて、頭を上げる。
「……“みにくいアヒルの子”はどうかね? みふゆの話では大分集まったと聞いているが……」
三人の顔を確認し終えると、一息付いてから、源道はルカに尋ねた。ルカはフッと笑みを零すと、
「上々です、日秀会長。サンシャイングループの皆様のご協力のお陰で『黒羽根』の数は50人を超える事ができました」
言い終えてから、パチンッと指を鳴らした。
瞬間――――源道が目を見開く光景が視線の奥に映る。白装束の双子の背後を覆い尽くす暗黒から、黒装束を纏った少女の集団がぞろぞろと姿を現し始めていた。
彼女たちは双子の真後ろでピタリと一斉に足を止める。五行十列の綺麗な隊列を組んで。
「盛観だね」
源道は、ほう、と感嘆の息を漏らすと、黒羽根と呼ばれし少女達一人ひとりの表情をまじまじと眺める。何れも一切の感情が映っておらず、能面だ。また、全身を黒装束に覆っているせいで、容姿が分からず個性が見えない。
あまりにも無機質に極まる集団――――例えるなら、量産品の安物の人形を、大量に購入して並べた様な光景に見えた。
――――成る程、彼女の“アレ”も実用段階に入ったということか。
源道は、そう勘づくと隣に座る“マギウス”を横目でチラリと見る。
彼女はニコニコと屈託無い笑みを浮かべながら、黒ずくめの集団を眺めていた。彼女達の人形の如き様を心の底から嬉しがっている様子だった。
――――全く、末恐ろしい
源道は、彼女には勘付かれないように、ふぅ、と消え入りそうなぐらい小さな溜息を吐くと、顔を戻す。
「それにしても、随分遅くなりましたね……」
視界の前方では、未だ顔を顰めたままのみふゆが、羽根達に叱責を飛ばしていた。
黒羽根達は一切反応せず――――だが、先頭に立つルカと天音姉妹は、同時に彼女の方へと振り向いた。
羽根部隊が到着する予定時刻は本来19:00。だが、今の時刻は19:35――――かなりの遅刻だ。組織に務める者である以上、時間厳守は絶対だと、みふゆは考えていた。
一人でも守れなければ、チーム全体の緩みに繋がると危惧していたからだ。
特に今回は、組織のトップである二人を長時間待たしてしまった。許されるべきではない。
「申し訳ありません、
ルカが、丁寧にお辞儀をしてみふゆに謝った。後ろの双子も合わせる様に頭を下げた。
「わたくしは、貴方様より部隊を預かる隊長の身分。時間は必ず守らねばと心に誓っていたのですが……っ!」
ルカは頭を抱えて横に大きく振ると、拳をドンッと胸に当てて、大げさに声を張り上げる。
「月夜さんの準備が予想以上に長引いてしまいまして……」
そして、ゆっくり後ろを振り向き、鋭い目つきで双子の片割れを睨んだ。
標的にされた月夜はうっと息を飲む。同時に両肩がビクリと大きく震えた。
「……月夜ちゃん」
隣の月咲が呆れた目を向ける。月夜はわたわたと両手を振って狼狽えつつも、必死に言い訳を伝えた。
「あ、あれは……っ! 稽古が長引いてしまいまして……」
仕方が
「月夜さん」
ルカがにっこりと微笑む。
「……っ!」
可愛らしい相貌とは対極的に、絶対零度に冷え付いた声が、鋭い太刀となって月夜の心に突き立てられた。
心臓を鷲掴みにされた様な感覚が襲いかかり、月夜は“死”を覚悟する。
「お言葉を間違えていますよ?」
「も、申し訳ないでござ……申し訳ありませんでした」
言葉の刃物が、心臓にプスリと触れた。月夜はグッと刺し込まれない内に、謝罪する。ちゃんとした言葉遣いに直して。
「よろしい」
ルカはパチパチと小さな拍手を送ると、声色を和やかに変えた。
命拾いした月夜は、自分が生きている事を確認する様に「はあーっ、はあーっ」と荒い呼吸を繰り返す。
「……責任は隊長である貴女にもある筈ですが、紅羽根」
だが、自分の部下に責任を擦り付け、あまつさえ攻め立てる光景はみふゆに筆舌に尽くしがたい不快感を齎した。
怒りを顕にした表情でルカを追撃する。
「そもそも、遅れると分かったらその時点で連絡するのが常識ですよ」
鋭い指摘を続けるみふゆだが、ルカは一切意に介していない様子だった。相変わらず不敵な微笑みで、みふゆを眺めている。
その態度が小馬鹿にされている様に感じて、みふゆの怒りは沸点を超えた。
「聞いているのですかっ!?」
「待てみふゆ」
今にも掴みがかろうとするみふゆを、源道が声で静止する。
「お祖父様……?!」
「遅れた要因は、他にも有ったようだね?」
「流石は日秀会長、お察しが良くて助かります。
ルカは一瞬だけ、フッと罵る様な横目でみふゆを見た。その言葉と態度が、遠回しに「頭が固い」と告げていた。
みふゆは、更に忌々しさを募らせる。
「それは、ワタシの事でしょうか……!?」
「そう思うのでしたら被害妄想も良いところですね」
苛立つみふゆを足蹴にすると、にこやかな笑みを浮かべて源道の方へと歩み寄るルカ。
「実は……此処に参る直前に、ネズミを二匹発見致しまして……少々駆除に時間を掛けてしまいました」
ネズミ、の単語がルカの口から出た途端、今まで黙していた左の玉座に座す“マギウス”が反応を示した。片眉がピクリと動く。
「しとめたのは、あなた?」
“マギウス”が問いかけると、ルカは首をふるふると振った。
「いえ、わたくしではありません」
顔を後ろに向ける。居並ぶ黒装束の集団より更に後ろの方から――――ずるりずるりと、何かを重たいものを引き摺る様な音が聞こえてくる。
「実力の披露にもなりませんが……『蒼羽根』が捕らえています」
引き摺る音は次第に大きくなっていく。比例して、ルカの口端も徐々に愉快さを増して、釣り上がっていった。
やがて、『蒼羽根』と思しき、真っ青なフードに身を包んだ少女が、居並ぶ幹部達の前に姿を現した。
「……っ!?」
「「……っ」」
「ほお……!」
「ふ~ん……」
――――その両手に携えている物を見た時、みふゆは愕然となり、月夜と月咲は息を飲んだ。
源道と"マギウス”の目に僅かながら驚きの感情が表現された。
引きずられていたのは、血塗れの少女二人だった。
『蒼羽根』は、二人の首根っこを掴んでいた。両者とも、腹部には大型の刃物で刺された様な深い裂傷が有り、鮮血がドクドクと溢れ出している。
最早、虫の息同然だった。その場に居る幹部たちを愕然とさせるには十分な光景だ。
「はじめまして、日秀会長、マギウス」
『蒼羽根』は挨拶すると同時に、フードをグッと掴んで捲り上げた。
みふゆによく似た色素の薄い頭髪、その一本一本の毛先が針の様に尖っていた。ばさりと舞うと、銀色の光を乱反射する。
同時に、端正な顔に表現されたのは、まるで全ての感情を削ぎ落としたかのような殺し屋の瞳だった。研ぎ澄まされた刃物の如き眼差しが、組織に君臨する二人を強く射抜いていた。
「君が羽根部隊、副隊長の天乃鈴音くんか。噂に違わぬ仕事ぶりだ」
だが、源道は怖気づくどころか、寧ろ手を叩いて称賛して見せた。隣の“マギウス”もニコニコと笑っている。
「お褒めに預かり、光栄です」
称賛を素直に受け取る鈴音だったが、その顔には喜色が一切浮かんでいなかった。
「たかがネズミ風情に、彼女を使う気は毛頭無かったのですが……月夜さんと月咲さんが怖気づいてしまいまして……」
ルカは再び、ゆっくりと振り向く。声色はとっても穏やかだったが、双子の姉妹に向けられた眼差しは、息を飲むぐらいに、鋭かった。
矛先を向けられた二人はギョッと目を見開いて身体を震わせた後、
「ご、ごめんなさいっ!」
「め、面目
咄嗟に頭を下げて、同時に声を張り上げて謝った。しかし――――
「月夜さん」
ルカの目が、鋭く瞬いた。
「あっ……」
顔から血の気が、サーッと引いていく様な感覚を月夜は覚えた。
――――また、言葉遣いを、
自身を見るルカの顔は再び満面の笑みを浮かべていた。だが、月夜は知っている。彼女がその顔を自分に向ける時は――――
「先程、わたくしが教えた事を、もうお忘れになったのですか?」
――――大抵、腹が立っている時だ。
ルカはにこにこと笑いながら歩み寄ってくる。声は至極穏やかで、まるで母親が乳飲み子に告げる様な慈愛が込められていた。
ドクンッと、月夜の心臓が飛び跳ねた。額にジワリと脂汗が浮き出る。背筋も急激に発汗したのか、寒気を感じた。月夜は恐ろしさの余り、一歩身を引いて顔を俯かせる。
「情けない」
頭上から押し付けられる声。見るまでも無い、彼女は屈託ない笑顔を浮かべている。腹の底にあるものをぐつぐつと煮えたぎらせながら。
「申し訳ないでござ……い、いえっ! 申し訳ありま」
咄嗟に、謝ろうと口を開いた瞬間だった。
――――パァンッ! と、弾ける様な音が空間を震わせた。
ルカが、月夜の横っ面を裏拳で強く叩いた。
月夜の華奢な体は、真横に薙ぎ倒されると、そのままコンクリート製の床に全身を叩きつける。
「「な……っ!!」」
「……!」
その光景に隣立つ月咲とみふゆは愕然となった。源道も僅かに目を見開く。
「がっ……!!」
倒れた際に米神をコンクリートぶつけたらしい。頭痛と同時に視界がグラリと歪んだ。
無理に動かそうとすると不快感が頭部に伸し掛かって、自然と呻き声が挙がってしまう。
「月夜ちゃん!?」
咄嗟に駆け寄り、姉の体を抱きかかえる月咲。
「まったくまったく……水名女学園に入学した程ですから、その頭脳には期待していたというのに……」
ルカはやれやれと言いたげな呆れ返った表情で、溜息を付くと、
「本当に貴女には、ガッカリさせられてばかりですよ……月夜さん」
再び笑顔を向けて、侮蔑を存分に込めた冷眼で月夜を見下げた。
その言葉に、月咲がキッと顔を歪ませる。
「ルカぁ……っ!」
強い怒りを込めて、睨みつける。これには双樹も意外に思った様で「おっ?」と目を見開いていた。
「月夜ちゃんを、馬鹿にするな……っ!!」
怒りの形相のまま、武器を構えて歩み寄る月咲。ルカはにたりと笑うと、腰元に手を伸ばし――――
「おやめなさい!! 月咲ちゃんっ!!」
月夜の怒声が響く。月咲の歩みが、ルカの獲物を引き抜く手が、一斉に制止された。
月咲の表情が一瞬に驚愕に彩れる。
「月夜ちゃん!?」
振り向くと、両手を使ってなんとか立ち上がろうとする月夜が居た。慌てて駆け寄り、介助すると、月夜はよろよろと覚束ない足取りでルカの眼前まで歩み寄り、
「『紅羽根』、わたくしの気が緩んでいたばかりに、不快な想いをさせてしまい、申し訳ありませんでした……」
深々と、上体を倒して謝った。ルカは満足気に笑っている。
「月夜ちゃん、なんで……!?」
月咲は、頭を下げる月夜に掴み掛かる。
なんで、こんな酷い目に遭ったのに!? なんで、こんな奴に――――!! そう叫ぼうとした矢先だった。
(!!)
身体に触れた瞬間――――愕然となる。
月夜の身体はガタガタと震えていた。双子である月咲には、その振動の原因が直ぐに理解できた。
間違いなく、ルカが齎した恐怖によるものだ。
「逆らっては、ならないのでございます……この人にだけは……っ!!」
そして、月夜は、その恐怖に
「……!」
月夜がゆっくりと顔を向けてくる。脅えきった顔の上半分が、大量の汗で濡れていた。口の中を切ったのか、端からたらりと一筋の血が流れている。
震えた瞳で、消え入りそうな声で訴える姉の姿に――――月咲は何も言う事も出来ず、ただ呆然とするしか無かった。
「お見苦しい所をお見せ致しました」
苦悩する双子の事など、もう興味関心は失せているかの様だった。ルカは、再び源道と“マギウス”に向き直ると非礼を詫びる。
「随分ご熱心な指導を施しているのですね」
一部始終を見ていたみふゆが、声色を鋭くして皮肉気に告げる。その顔にはルカに対する嫌悪感がありありと映っていた。
「二人を想う愛情故です」
だが、ルカにはせせら笑いで返される。みふゆは追撃を止めない。
「パワーハラスメントは組織にとってマイナスにしか成りえません」
「月夜さんと月咲さんは甘やかせばすぐに調子に乗ってしまいますので……少々厳しく接する必要が有ると思い至りまして」
刺さる様なその言葉は、背後の二人に向けられていた。月夜の震えが更に大きくなる。
「月夜ちゃん!!」
今にも足が崩れ落ちそうな月夜を抱きかかえてなんとか支える月咲。
「ごめんなさい、月咲ちゃん、わたしが不甲斐ないせいで、ごめんなさい……っ!」
「っ!!」
月夜はガタガタと震えながら、目尻に涙を溜めて、必死に謝り続ける。
月咲は愕然となりつつも、「大丈夫だよ!」「気にしないで!」と必死に声を掛け続けた。
「あれが……あんなものが『愛情』だというのですか……!」
「“愛”の示し方は人それぞれですよ、元締」
心苦しいですが、他者に理解して頂けないのは当然です、と付け加えると、ルカはみふゆが放つ怒りの感情を素っ気無い態度で受け流した。
「今すぐに、お止めなさい……!
キッと目を向けるみふゆ。
「
だが、言葉尻をルカに取られた。彼女は目を細めて、不敵に口の端を吊り上げる。嘲笑う様な残忍な顔つきで、問いかけた。
「……っ!」
言葉に詰まり、歯噛みするみふゆ。ルカは視線を鈴音の方へと向ける。
「蒼羽根が捕らえたあの子達の様にするとでも? それはそれで結構。生殺与奪の権利は貴女にありますので、どうぞわたくしの身を煮るなり焼くなりお好きになさったらよろしいでしょう。但し……」
ルカはそこで顔を戻すと、ゾッとする様な氷の眼光を瞬かせて、言い放った。
「
「っ!!」
その一言が、みふゆの地雷を真上から踏み抜いた。
刹那――――彼女の脳裏に、言葉の数々がフラッシュバックする。
忘却の彼方に何度追いやっても――――戻ってきてしまう。心底忌々しく、腹立たしい、あの言葉の群れが。
―――――
――――
「ルカッ……!!」
みふゆの怒りが遂に堪忍袋の緒が切り裂き、内に入れていた爆弾の導火線に火を付けた。
ワタシは能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない。能無しじゃない――――
特別に生まれ、特別に生きてきた。だから、普通の女の子になりたいと願った――――だから!!
ルカの胸ぐらを掴み上げる。彼女の笑みは崩れず、侮蔑に込めた瞳で見下げていた。それがみふゆの火に油を注ぐ。
「貴女に……! ワタシの
言うのですか!!――――そう叫ぼうとした矢先だった。
「落ち着かんか、みふゆ」
源道の静かな声が背中に叩きつけられる。その一言で、みふゆはハッと我に帰った。
「!! ですが、お祖父様……!!」
ルカを開放すると、バッと源道の方へと振り向き、訴える。
「彼女の蛮行を、過ぎた言動を、見過ごせと仰るのですか……!」
「双樹ルカは優秀だ。それはお前が一番良く分かっているだろう?」
毅然と言い放つ祖父の言葉に、みふゆが唇をきつく噛み締める。表情が苦々しく歪んだ。
「彼女を批難する資格は誰にも無い。お前にも、私にも、そして……マギウスにもな」
同意を求める様に、隣の“マギウス”に横目を向ける源道。
「そうそう! おバカさんたちの教育、ごくろうさま。双樹ー!」
「……っ!」
“マギウス”もニコニコと笑みを浮かべて称賛を送る。ルカは「ありがたき幸せ」と言って、深々と頭を下げた。
敬愛する二人がそう言ってしまえば、みふゆは、ただ黙り込むしかなかった。拳を震わせながら、苛立ちをなんとか堪らえようとする。
「それよりも……」
ルカは頭を上げると、再び鈴音の方へ向いた。彼女にアイコンタクトを送る。
「この子達は、どうします?」
鈴音はルカにコクリと頷くと、源道と“マギウス”に向かってそう問いかける。自身の両手に握られている二人の少女――――その処遇を。
「ふむ……」
源道は顎に手を当てて考え込む仕草を見せる。
「……その子らが、我々を追いかけたのは、各々の強い正義感に基づいての行動と推測できる。その勇気は称賛に値すべきだろう」
源道は僅かに微笑みながら、手を二回叩く。
だが、直ぐに顔の中心に皺をグッと寄せて、表情をきつく顰めた。
「だが……自らの実力を見誤り、組織力も無いまま我らに立ち向かうは、無謀で有り、愚か極まる」
人はこれを“蛮勇”と呼ぶのだったな――――と呟く源道の顔つきは、幾多の修羅場を潜り抜けた戦士と化していた。
虫の息の少女達を冷えきった目で見据えて、そう評する。
「マギウスよ、この子達の処遇、貴女にお任せ致しますぞ」
「んー??」
“マギウス”は「なんでー?」と言いたげに不思議そうな目を源道に向ける。
「孫娘と同じぐらいの少女を断罪しろ、というのは、老骨には心苦しいものでしてね……これ以上、心身に負担を掛けたく無いのですよ」
源道はそう呟きながら、胸の――心臓に当る部位を擦る。鬼の如き形相に僅かながら苦々しさが含まれている様に見えた。
“マギウス”はハア、と溜息。
「ありゃりゃー、相変わらず人間の身体ってフッベンよねー! まあ、いいけどー」
心底呆れた様な悪態を付くと、鈴音に顔を向けて応える。
「じゃあ――……」
マギウスは首を傾げて暫し考え込む。居並ぶ幹部達の誰もが彼女の下す選択を心待ちにしていた。
特にみふゆ、天音姉妹は緊張の面持ちで見つめている。
「素材にしよっか☆
どこまでも無邪気な少女の笑顔と明るい声量が、深淵の中で光り輝いていた。
だが、一端の情け容赦もないその一言には、背筋を震え上がらせる者、恍惚を口元に浮かべる者、無を貫く者――――反応は様々だった。
まず、みふゆさんファン、天音姉妹ファンの皆様、本当にごめんなさい……。
なんかオリキャラがおっさんかジジイばっかりな気がする……(震え
さて、満を期して登場、マギウスの翼ですが……相変わらずオリジナル要素満載と同時に、人員強化しまくっていますね……はい。
あと、原作かずマギでは年齢不詳の双樹ですが、一応今作では18歳の設定となります。
今回もいろいろ走らせてしまいましたが、正直不安でいっぱいだったりします……。