魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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※こちら、『サイドストーリー集』は、本編に於いて、作者が手癖で書きすぎた結果、横道に逸れてしまった話を、カット&ペーストしたものです。

※読まなくても、特に本編に大きな影響はございません。あくまで補完としてお楽しみ頂ければ幸いです。


FILE #11-S 女帝か独裁者か!? 明京町の常盤ななか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神浜市明京町役場――――

 

 和装的な造りの執務室には、この部屋の主と思しき少女と、七海やちよの姿が有った。

 

「明京町の犯罪率1%未満達成。おめでとう」

 

 やちよが和やかな笑みを浮かべて賛辞を送るも、少女の顔は冷たかった。丁寧なお辞儀とともに口から発せられた「ありがとうございます」という短い言葉からも一切の感情が乗っていない。

 彼女の名前は常磐ななかという。明京町役場に在籍する治安維持部隊のチームリーダーである。

 

 やちよとは対照的に、全身を紅蓮に染め上げた彼女は、その見た目から想像できる通り、烈火の如き激しさと勢いで、町内での権勢を強めていった。

 ――――元々、明京町は町長の小林正志と、ななかの前任者が日和見主義な性格であったせいで、治安が荒れていた。流れ込んできた余所者の魔法少女達が軽犯罪を繰り返し、魔女は各区域で暴れ回り、住宅の損壊や負傷者を拡大させていた。

 治安維持部が頼れないなら、警察に頼るしかない――――そう考えた町民たちが、それらの被害届を警察に持ち込むのは必然だった。

 しかし、如何にエキスパートとは言え、魔法少女と魔女相手には流石の彼らも為す術が無く、捜査は難行を極めた。

 最終的に町警察署長が「市民の命も大事だが、部下の命も無碍にすることはできない」と宣言し、捜査を尽く打ち切りにしたせいで町民の不満は、爆発した。

 役場と警察署前で、毎日の様に町民による激しいデモ活動が行われた。更に公務員や警察の一部が、これに謝罪せず、反発したせいで一気に泥沼化。

 その話は、市役所にも届く事になり、町民同士の一触即発の事態に成りかねないと見たやちよと市長が、町長の小林と治安維持部チームリーダーを叱責する為に、腰を上げたが……

 

 その時、救世主が現れたのだ。それが、常磐ななかだった。

 

 彼女は明京町の治安維持部に配属されると、直ぐに町長に直談判して一喝! その威勢の凄まじさに恐れを成した小林は、直ぐ様ななかの言う通り、治安維持部で胡座を掻いていた当時のメンバーを一斉解雇。彼女達を役場から追放した。

 残ったのはななかだけ。つまり、チームリーダーの任も、そのまま流れるようにして、ななかに委譲された。

 直後、彼女は行動を起こす。

 役場の職員、一般市民、情報屋、フリーの魔法少女、警察……至る所から情報収集、及び協力を持ちかけると、各区域で暴れる魔法少女の確保と魔女の殲滅に努めだした。

 必死の行動の甲斐もあって、三ヶ月後には、明京町は元の平安を取り戻した。

 そして、ななかは、町を救った英雄として、市民から絶大な支持を得た。光の如き速さで、役場での地位を不動のものにしたのだった。

 

 彼女の勢いは留まることを知らない。

 捜査と魔女討伐に協力してくれた魔法少女の内、特に『優秀』だと見抜いた者を自らスカウトすると、治安維持部に誘致した。

 その中で、『純美雨』(チュン=メイユン)を味方に引き込めたのは、ななかにとって大きな役得だった。

 中国拳法を用いた高い戦闘力もさることながら、冷静に状況を見抜き、的確な判断が下せる思慮深さは自身の参謀役として付けるのはうってつけだったし、何より、彼女のバックボーンの巨大組織と繋がりを持つことができた。

 

 『蒼海幇』…………中国生まれの日本人によって創立され、戦後のヤミ市から発展した、中国系マフィア組織だ。

 戦後から神浜市を裏から支えてきた――謂わば市の発展に一役担ってきた――組織であるだけに、その影響力は市内でも絶大。名を口にするだけで、神浜市の表舞台に立つ多くの企業家や政治家は怯えて口を閉ざしてしまう程だ。

 現在でも多数の構成員が市内に存在し、互いに情報を取り合っている。

 

 その力の一端を手に入れたななかを止められる者は、もう明京町内のどこにも居なかった。

 直属の上司であり、町長である小林も、町警察署長も、各公的機関の長も、たった16歳の少女が何か要求をすれば、首を縦に振らざるを得ない状態にあった。

 

 明京町の影の支配者、真の町長――――ななかをそう称する声も少なくない。

 

「市長も、感激なされていたわ。治安維持部始まって以来の快挙とね」

 

 とはいえ、治安維持部に於ける彼女の働きは優秀そのものであった。チームリーダー任命当初から「犯罪撲滅」を掲げてきた彼女は、部隊内での活動を全てそちらに極振りしている。

 先程やちよが伝えた『犯罪率1%未満達成』はその努力の証であった。

 

市長から(・・・・)その様なお言葉を賜って頂けるとは……! 光栄至極に値しますね」

 

 市長――――その単語がやちよの口から出た途端、ななかの顔に感情が表現された。口の端が僅かに上がり、喜色に彩られた。

 微笑を浮かべながら、呟かれた言葉には、やちよに対する挑発が多分に込められている様だった。まるで、「貴女ではなく、市長に褒められたのが嬉しい」とあからさまに伝えているかの様だ。

 

「ただ……貴女が立てた功績の裏には注意しなければならない点がいくつもあるわね」

 

「それは?」

 

 だが、やちよはそれには意を介さず、話を続ける。ななかが、睨む様に目を細めてきた。

 

「まず、貴女は業務にフリーの魔法少女を協力させているわね」

 

「?? 七海部長、それは貴女も現在進行系で行っているではありませんか」

 

 治安維持部の魔法少女が何らかの都合で不在になってしまう場合は、町の治安をフリーの魔法少女に預けても構わない。その代わり、頼んだ魔法少女に対しては、労働に応じた金銭を支払わなければならない、と市条例で定められている。

 やちよの場合、町外へと出張する場合に限り(・・・・・)、フリーの魔法少女達に頼んでいるのだ。

 だが、ななかは……

 

「貴女の場合は、日頃から、賄賂を手渡している」

 

「賄賂とは人聞きが悪いですね」

 

 氷の眼差しをぶつけるが、ななかは震えない。むしろ、フッと笑い飛ばした。

 

「業務に協力させるのはあくまで、私達が『不在時に限る』のみよ。常時協力させる様に仕向けるのは、条例に反しているわ」

 

「魔法少女たるもの、自分が住む町を守りたいと思うのは当然の感情です。彼女たちは何れも自発的に我々に協力してくださっています。七海部長、貴女が見ていないところで」

 

 ななかの瞳が、鋭くなる。僅かながら熱気の籠もった眼差しが、やちよの凍り付いた眼差しと空中でぶつかった。

 

「私は、働きに応じた“報酬”を支払っているだけです」

 

「だとしたら、その内容を逐一報告してもらいたいものね」

 

「それは、なりません」

 

 ななかは首を振った。

 

「情報はあまり多くの人間が持つべきではありません。どこかから漏れれば、尾ひれが付いて、歪曲して誰かに伝わってしまう可能性があります。……貴女が『賄賂』と断定したように」

 

 遠回しにやちよに対して、貴女は信用ならない、と告げるななか。

 

「そもそも、賄賂とは、誰から聞き及んだのですか?」

 

「おけらからみたまが聞いた、と言ったら?」

 

 おけらとは、明京町で調整員を務める魔法少女――――『八坂おけら』の事である。

 小学生の様に小柄で騒がしい性分だが、料理人としては一流の腕前を持っており、彼女が役場の一階で経営している居酒屋『鏡屋』は、毎晩繁盛している。

 

「おけらの事は、私達の方が良く知っています」

 

 微笑を浮かべて答えるななか。おけらは義理固い人物で、役場の人間や魔法少女達からの信頼も厚い。そんな彼女が、ななか達にとって不利益な情報を流すなど有り得ない。

 

「……()でしょう?」

 

「…………」

 

 一拍置いてから、低い声でそう指摘してやった。

 やちよは答えない。あくまで冷ややかにななかを見つめているだけだ。

 

「無言は肯定と受け取ります。部長としての立場を立証させたいが為に、嘘を付くなど言語道断。同じ魔法少女を纏める立場の者としてお恥ずかしい限りです。もし、本当に聞いていたのなら、ボイスレコーダーでも持参なさるべきでしたね」

 

 ななかにとって、やちよの無言は、立場を逆転させる絶好の好機だった。即座に叱責する側に回り、自分の方に正当性があるのだと主張した。

 やちよの瞳を見ると、冷気が更に伴っている様に見えたが、最早自分にはどこ吹く風だ。

 

「……『賄賂』でないと分かれば、それで十分よ」

 

「認めてくださるのですね。ありがとうございます」

 

 愉快気な笑みを見せつつ、恭しくお辞儀をするななか。

 

「でも、貴女の掲げる『犯罪撲滅』は常軌を逸している様に見えるわ」

 

「……」

 

 やちよはまだ言いたいことが有るようだ。ななかは顔を上げて、威圧を込めた瞳で見据える。

 

「万引きを働いた中学生を、二時間も拘束して尋問したそうね」

 

 棘の含んだ指摘に、ななかの片眉がピクリと動く。

 

「その子が『いじめっ子の指示でやった』と白状したら、解放した。フリーの魔法少女の監視を付けて」

 

 やちよは声色を低くして話を続ける。ななかは黙って聞いていたが、眼光の熱が増々上昇した。

 

「そして、いじめの現場を確認したら、いじめっ子達を取り押さえて、厳しく罰した。一人三万円の罰金を課したそうね」

 

 中学生からしてみれば随分な大金だ。

 これらの強権的な罰を治安維持部が独断で執行したとなれば、普通は大問題になる。だが、表沙汰にはなっていなかった。

 今や、町民の誰もがななかを信用しているのと同時に――――恐れを抱いているのだ。騒ぎ立てれば、蒼海幇の力を背景に何をされるのか分からない。

 最悪、学校に根回しをされて退学を言い渡される可能性だってある。

 よって、いじめっ子達も、その親御達も、黙って従うしか無かった。

 

「それだけじゃない。貴女は町内で起きた刑事事件にも主体的に関わっているわね。警察の意見も聞かず、独自に捜査を進めて……」

 

「…………」

 

 ななかはそこでやちよに背を向けると、自身のデスクへと歩み寄った。

 椅子に腰を掛けて、足を組み始める。

 

「容疑者を確保して、尋問して証拠を吐かせた後に、警察署に突き出している」

 

「……」

 

 両腕を組んで僅かに顔を俯かせるななか。やちよには何かを考えている様な仕草にも見えたが――――真意が読めなかった。

 

「本来これらは警察の義務であって、私達の役割では無いはずよ。ましてや、軟禁して尋問なんて、条例どころか人倫に反した行為ね」

 

 不審に思いながらも、やちよはそうピシャリと言って締める。

 ななかは、黙りこくったままだ。

 暫く静寂が二人の間を支配したかと思うと――――ななかの首が更に深く倒れた。口元に手を当てる。

 

 

「ふふっ……」

 

 

「!?」 

 

 刹那――――含み笑い声が耳朶を叩いてきて、やちよは愕然となる。

 間違い無い! 発信源は、塞がれたななかの口からだ。

 

「ふふふっ……! 七海部長」

 

 笑いを堪えきれず、肩を震わせながらななかは顔を上げる。喜色満面の笑みが、やちよの能面に僅かな変化をもたらした。

 

「何がおかしいのかしら?」

 

 眉間に皺をグッと寄せて、脅す様な声を叩きつける。だが、ななかには全く通用しない。一頻り笑った彼女は、

 

「申し訳ありません。貴女の仰っていたことがあまりにも滑稽で……堪えきれませんでした」

 

 等と、無礼千万を、さも平然と口に出した。やちよは目を鋭くして睨みつける。

 

「滑稽?」

 

 

「ええ、七海部長、貴女は……本気で仰っているのですか(・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 花が咲いた様な可愛らしい笑顔と共に放たれた言葉は、酷く冷え付いている様に聞こえた。

 

「疑わしきは罰せり――――次の事件が起きてからでは遅いのですよ」

 

 ななかが目を見開いた。大きな丸目からは紅蓮の光が煌々と輝いている。

 

「我々、治安維持部は小規模ではありますが、公的な警察組織の筈です。その名が示す通り、治安を維持するために、犯罪の芽は刈り取らなくてはなりません」

 

「それでも、魔法少女の力は強すぎる」

 

 やちよは静かに反論した。

 

「世間に示し過ぎてはならないわ。人々が今以上に恐怖心を募らせてしまえば、魔法少女に対する偏見と差別がより一層強まる可能性も……」

 

 

「何を馬鹿な事を」

 

 

 一言が、振り下ろされた太刀となって、やちよの言葉を斬り捨てた。

 ななかからしてみれば、彼女の言葉の数々は滑稽を通り越して愚昧(ぐまい)にしか聞こえなかった。

 生ぬるい――――だから、この女は仲間を二人も死なせたのだ。

 それで悔い改めれば良かったものを。今現在やっていることといえば、人材確保による組織の強化ではなく、意味の無い市外への営業やTV出演といった宣伝活動ばかりじゃないか。

 それに、警察がなんだというのだ。

 警察なんて組織は、自分が治安維持部に配属される以前から、役に立たない連中であった。自らのプライドと保身の為に、市民を見限る連中を気遣う必要など、何処にあるのだろうか。

 魔法少女と魔女の存在が公になった昨今、無力な彼らが一体人々の何を守ってくれるというのか?

 

「……最近、市内で飛び回っている『黒い虫』の事をご存知ですか?」

 

 ななかの両目が、ギラリと瞬いた。獰猛な、野心の瞬きだった。

 コクリと頷くやちよ。

 

「ならば話が早い。連中の目的はまだ知りえませんが、もし、一斉に蜂起した場合、護れるのは私達だけです」

 

「…………」

 

 やちよは首を縦にも横にも振らずに黙って聞いている。

 

「七海部長。私達は早急に証明しなければならないのです。人々にとっての守護者が『誰』であるかを……」

 

「警察が黙っていないでしょうね」

 

「彼らが如何に喚き散らそうとも、人々の認識さえ改める事ができれば、警察も自然と私達の事を認めざるを得ないでしょう。寧ろ……軍門に下るのでは無いでしょうか」

 

 猟奇的な微笑みと同時に放たれたその言葉は、警察と一戦交える事も辞さないという覚悟の現れでもあった。

 ななかの年齢は16歳、魔法少女の経験年数は2年――――やちよから見れば小娘に過ぎない筈だった(・・・)

 だが、彼女の纏う風格は、まるで任侠の世界で数十年も修羅場を潜り抜けた女傑の様な威厳が有った。やちよですら相対していく内に背中にじっとりと汗が浮かぶ程の緊張感が齎されていた。

 自分よりも遥かに大きな人物が目の前に君臨しているように、やちよには見えた。

 だが――――

 

 

深月(みつき)フェリシア」

 

 

 その名を呟いた直後――――ななかの顔つきが歪む。

 

「彼女は半月前に、貴女に解雇を言い渡されているわね」

 

「……それが、何か?」

 

 表情の変化をやちよは見逃さなかった。じっと見つめる。ななかは睨み返してくるが、瞳から熱は消え失せているように感じた。

 

「ええ、その子が黒い虫の一員だと思ったんじゃないかってね……」

 

 深月フェリシアは、この明京町役場で常磐ななか指導の下、研修中の身であった魔法少女だが――――前述した様に半月前に、解雇を言い渡され、仮住まいとしていた宿舎からも追い出されている。

 その後の行方は、誰も知らない。

 

「彼女に羽根はありません」

 

 ななかは首を振る。やちよは疑わしそうにななかを睨んだ。

 

「だとしたら……物凄い問題児だったってだけ?」

 

「ええ」

 

 問いかけると、ななかはコクリと頷く。

 憮然とした表情だが、話題を『深月フェリシア』にした途端、ななかから気迫が感じられなくなった。それがどうしようもない違和をやちよに齎す。

 

(…………)

 

 やちよは此処に足を運ぶまで、明京町の人々が口々に噂していた『深月フェリシア』という少女の事を思い返してみた。

 

 

 曰く、決まりごとは一切守れず、一般常識から乖離した行動ばかり取っていたという。

 

 寝坊や遅刻、早退に欠勤は当たり前。目を離した隙には、家に帰って昼寝をしていたことが常にあったという。

 その自由奔放振りは、ななかですら頭を抱える程であったとか。

 

 曰く、魔法少女としての力を制御できない。

 

 なんでも、研修中に『武』の心得を身に着けさせるべく呼んだ柔道講師を、思いっきり投げ飛ばして壁に叩きつけてしまった。大怪我を負い、救急搬送されたという。

 

 曰く、連携力が絶望的に乏しい。

 

 ななかが、チームワークの強化や町民との交流を考えて、中学生のサッカーやバスケットの模擬試合にフェリシアを参加させた際……ワンマンプレーを存分に発揮した。

 ボールを手にした途端、向い来る選手を弾き飛ばしながら、ゴールへ一直線に突撃! その猛烈さは、猪突猛進どころか(サイ)突激進と言っても過言ではなく、立ち向かった学生達は、全てが打撲や擦り傷などの軽傷を負うハメになった。

 それだけでなく、ボールが他人の手に渡った場合は、たとえ同じチームの味方だろうが、タックルを仕掛けて潰そうとした。

 

 ……ななかは、学校関係者や学生の親御さんたちに、平謝りをして周ったという。

 

 そんなフェリシアが、魔女と対峙した時に、ななかと美雨の指示と作戦を素直に聞いてくれるかどうかは……お察しの通りだ。

 

 曰く、町では窃盗や食い逃げ、喧嘩騒ぎを日夜繰り返していた。

 これは、町民の誰もが知っており、ある意味、深月フェリシアという少女を語る上で、一番有名な話題だった。

 

 

「その子が別の町で騒ぎを起こすかもしれないわね……。そういった性質の魔法少女を矯正していくことも私達の義務ではなかったのかしら?」

 

「彼女は『獣』ですよ、七海部長。人の子ならいざしらず、獣を人に仕立て上げられる者など、世界中を探しても存在しません」

 

「貴女にしては随分弱気ね」

 

「何とも受け取って頂いても構いませんが、我々は今後深月フェリシアと一切関わるつもりはありませんし、明京町に一歩足りとも踏み入れさせるつもりもありませんので」

 

 ななかの口調はどうも早口で忙しなく、深月フェリシアに対して生理的な嫌悪感が見え隠れしていた。

 素行の悪さとは別に何か有ったのだろう、ななかですらその感情を抱く程の、何かが――――最も、そう推測はできても、問いかけることはしなかった。

 はぐらかされるのは目に見えていたからである。

 

「……失礼するわ」

 

 話はこれで終わりだ

 最後までななかが態度を改めることは無かったが、聞くことは聞けたので一応は良しとしよう。

 やちよは、背中を向けて執務室から退出しようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七海部長……。だから貴女は甘いと謂われるのです」

 

 背中にピシャリと、言葉を突き立てられた。やちよの足がピタリと止まる。

 

「今、我々が“非情”に徹さなければ、市民の安寧は到底守れそうに無い。故に、その魔法少女が如何なる労苦や事情を抱えていたとしても、不穏分子で有れば即行で排除しなければならない。……違いますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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