魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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FILE #18-S 常磐ななかの野望!?2 燃える鶴乃の怒り!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんなっ!!」

 

 返ってきたのは耳を劈くような怒号。しかし、女王(・・)と呼ばれし少女はそれを真面に受けても、眉一つ動かさなかった。

 

「意味が分からない!! どうしてわたしが治安維持部なんかに!!」

 

「参京区は」

 

「っ!」

 

 『参京区』――――その単語を出されて、鶴乃の顔が歪む。

 

「もう、後が有りません」

 

「…………」

 

 ななかの端的だが、これ以上無く的を得ている指摘に、鶴乃は苦々しく思いながらも押し黙るしか無かった。

 参京区の旧商店街は、はっきり言ってしまえば、鶴乃がどうあがいた所で未来が無いのだ。

 経営者の高齢化、若者の都会への流出、それらによる地場産業の停滞が商店街全体の衰退を招いた。

 それだけではない。

 サンシャイングループの台頭も理由の一つだ。経営難に陥っていた店舗は尽くグループの傘下に入った。

 サンシャイングループの企業戦略は、地域密着型を目指し、人々の生活を傍で支援する、というものだ。その方針そのものは間違ってはいないが、問題はその強引な経営手腕にあった。

 サンシャイングループは、10年前から国が推し進めている神浜市の都会化計画に積極的に乗り出すと、瞬く間に事業を展開。古くからその地で根ざし、人々から親しまれていた企業や店舗や工場、果ては福祉施設すらも、その豊潤な財政力を背景に次々と傘下に治めた。

 全ては、地域に住む人々に、あらゆる方面から画一的なサービスを提供する為――――というのが、サンシャイングループの弁だが、実際は神浜市を関東進出の拠点にしようと目論んでいるのは、鶴乃の目から見ても明確だった。

 

「大企業から恩恵を授かったとしても、一時的な延命にしかなりません」

 

 ななかの鋭い指摘は続く。

 サンシャイングループにとって参京区はあくまで、足がかりに過ぎない。

 それが分かっていても、商店街の各店舗は、諦めてシャッターを閉めるか、大企業に泣きつくかの二択しか無いのだ。

 しかし、だからといって全てが後者を選んだ場合、必ず救われるとは限らない。

 新たに発生する問題として、商店街は継続に必要な重大なる要素である『個性』を失うことになる。個性の欠落した商店街が近い将来、廃退し、シャッター街と成り果てたケースは調べた所で枚挙に暇がない。

 ななかの言う通り、大企業の力は、一時的に寿命が伸ばすぐらいしか効き目が無いのだ。

 それでも飛びつく経営者が後を絶たないのは、それだけ現在の生活が苦しい、ということだ。みんな一ヶ月、一年先のことよりは、今日明日の食事のことを第一に考える。

 

「とても過酷な状況ですが、市は何も政策を打っていない」

 

「だからっ! 私はここを守ろうって、必死で!!」

 

「貴女一人で守りきれるものではありません」

 

「っ」

 

 きっぱりと断定された。鶴乃はクッと顔を歪ませる。

 

「由比鶴乃さん。貴女には『仲間』が必要では無いのですか? 同じ思いを持つ、同志の様な存在が……」

 

「それは……」

 

 鶴乃が苦い顔のまま、俯かせる。表情に生じた迷いをななかはすぐに読み取った。

 

「でしたら……何卒、私の手を取って頂きたい」

 

「どういう意味……?」

 

 鶴乃が横目でななかを見る。冷静なままの表情だが、よく見ると、僅かに眉間に皺が寄っていて、瞳を鋭く細めている。どこか意を決した様な力強さが感じられた。

 

「市政に疑念を抱いているのは、私も一緒だからです」

 

「っ!?」

 

 意外な言葉に、鶴乃が目を見開いた。

 

「古きものを切り捨て、新しいものばかりを受け入れる市の体制を、私も認たくは有りません」

 

 俯かせた顔を上げて、ななかの顔をしかと見る。

 まさか――――と心の中で仰天した。

 たった今彼女が強い口調で言い放った言葉は、自分が抱いていたものと全く同じだったからだ。こんなところで同じ気持ちの持ち主と出会えるとは思ってもみなかった。

 しかし……

 

「……ハッ」

 

 それは相手が治安維持部であるが故の対抗心か、鶴乃は目を逸らして鼻で笑った。

 

「あんたがそれを言うわけ? 体制側の人間がさ」

 

「それは、そうかもしれませんね」

 

「……えっ」

 

 挑発のつもりで吐き捨てた言葉を、ななかは鶴乃が驚く程、素直に受け入れていた。

 

「ですが、内側でなければ変えられない物もあります」

 

「……」

 

 鶴乃は顔を背けたまま、黙ってななかの話を聞くことにする。

 

「リスクも少なくて済みます」

 

そうだね(・・・・)……」

 

 思わず同調が出てしまった口を、鶴乃は慌てて抑える。

 

「っ!!」

 

 瞬時に、自分を殴りたい気持ちでいっぱいになった。

 今、自分は間違いなく彼女の言葉に、納得していた――――それは拙いことだ。何せ相手はあの常磐ななか。何を企んでいるのか分からない。安易に言葉を紡ぐのは愚策だと思っていたのに!

 どうしてあんなことをぽつりと言ってしまったのだろうか。

 困惑に満ちていく思考の中で、鶴乃はある答えを見い出した。

 

 自分は、救われたい(・・・・・)のだろうか?

 

 誰かが自分の手を取って、暗闇の底から引っ張り上げてくれて、一緒に歩いてくれることを、心の片隅で期待しているのだろうか?

 

「私と貴女は似ています」

 

 悩んでいると、ななかの次の言葉が飛んできた。

 ハッとなって彼女の顔をしかと見つめた。相変わらずの氷の表情だが、瞳の紅蓮が強く瞬いて見えた。まるで激しく燃え上がる炎の様に。

 それに宿っていた感情は……

 

 『怒り』

 

 自分が抱えているものと、全く同じものを彼女は携えているのだと察した。鶴乃は驚きのあまり我を忘れて、注視した。

 

「大切な物を守る為に、戦う覚悟を固めた。しかし、その為には、体制そのものを変えていかなければならない。由比鶴乃さん。貴女にその覚悟があるのなら……」

 

 ななかは、そこで一泊置くと、柔らかな微笑を浮かべて、静かにこう言った。

 

 

「私と一緒に、内側から変えていきませんか?」

 

 

 頭を鈍器の様なものでずがん、と叩かれた様な衝撃だった。

 同時に光が差し込み、混迷を晴らしていった。

 間違いなく、その申し出は鶴乃にとって甘美な響きだ。

 自分と同じ思いを、同じ感情を抱いた人間が協力してくれるのだ。これほど心強いものは無い、とさえ思う。

 

(!! でも――――)

 

 頭が希望に満たされる寸前で、振り払った。

 

 ――――これは、甘い罠かもしれない。

 

 ここで手を取るのは早計だ。何せ、相手はあの常磐ななかなのだ。

 表情は全く嘘を言っていない様に見えるが、それすらも演技かもしれない。彼女の狙いが明確に分からない限り、懐に飛び込むのは危険行為でしかない。 

 考えがそう行き着いた時、鶴乃の答えは決まった。

 

「断る」

 

 ななかの顔をしかと見据えながら、きっぱりと言いつける。ななかの表情から笑みが消えた。

 

「何故?」

 

 意外に思ったらしい。呟かれた二文字には、僅かに怪訝の感情が乗っていた。

 

「あんたのこと、まだ信用できないから」

 

「……」

 

 二人は真剣にお互いの顔を見合わせた。

 

「おんじから聞いてるんだよ。あんたの背後にある組織、ソウカイヘイって言うんだっけ? 言っちゃ悪いけど……ヤクザ、なんだよね?」

 

「ええ、ですが現在は悪事から足を洗っております」

 

「でも……あんたの今があるのは、その組織の力が有ったからなんでしょ?」

 

「……否定はできません」

 

 ななかは、僅かに顔を逸らすと、人差し指で眼鏡をクイッと直した。

 

「私もサンシャイングループと同じかもしれません。揺るぎない力を背景に、他の力を制圧してきました。例え手が汚れようとも」

 

「そうしなきゃいけない、訳は……?」

 

「決まっています」

 

 ななかは顔を戻して、力強く訴えた。

 

「大切な人々を、力から守る為です」

 

「っ!!」

 

 その言葉が、抑え込んでいた鶴乃の怒りを呼び覚ました。

 

「だとしてもっ!!」

 

 鶴乃の身体は自然と飛び出していた。ななかの両肩をグッと掴んで、激しく怒鳴り付ける。

 

「一度手を汚しちゃったら!! もう洗い流す事はできないんだよ!!」

 

「……っ!?」

 

 強い力で両肩を掴まれてななかの顔が一瞬、痛みで歪む。

 

「希望とか幸せなんか掴めっこないっ!! ただ苦しさと痛みが残るだけ!! なんでそんな簡単なことが分からないの!! ちょっと頭をひねれば分かることでしょ!?」

 

 矢継ぎ早に放たれる怒声に、ななかは完全に面食らっていた。

 とんだ失態をしたものだ――――と、彼女は自身を胸中で罵倒する。

 

「……無礼極まる発言、誠に失礼致しました」

 

 どうやら、自分の発言が鶴乃の地雷を真上から踏み抜いてしまったらしい。

 即座に、頭を下げて謝った。

 途端、鶴乃はハッと驚いた顔を見せた。どうやら我に返ったらしい。

 

「……ごめん。こっちも言い過ぎた」

 

 ななかの両肩を握り締めていた両手から力が抜けた。

 顔を俯かせて謝る鶴乃に、ななかはあるものを胸ポケットから取り出すと、スッと差し出した。

 綺麗に四つ折りにされた、小さな紙切れだった。受け取って中を開くと、何かの番号が楷書体で書かれていた。

 

「これは?」

 

「私の番号です」

 

「……断るって言ったよね」

 

 鶴乃が横目で睨みつけるが、ななかは一切動じない。

 

「貴女が私の力を必要とされる時が、必ず来ると信じてますから」

 

 寧ろ、柔らかに微笑んだ。何処か薄ら寒いものを感じて、鶴乃は警戒を強める。

 

「……根拠は?」

 

「今の貴女の力では、ご家族の方々はかろうじて守れても、参京区全体は到底守りきれません」

 

「…………」

 

 図星だ。鶴乃は黙るが、それは肯定と同じだった。

 

「もし、守る為の計画がお有りでしたら、是非、教えていただきたい」

 

「…………」

 

 再び、二つの紅蓮を輝かせて問いかけてくるが、鶴乃は何も答えられなかった。ただ、苦々しい顔を浮かべるだけ。

 ななかは、はあ、と一度嘆息すると、先程とは打って変わって穏やかな口調で、

 

「由比鶴乃さん。いつでも門戸は開いております」

 

 そう、伝えてきた。

 

「もし、『力』が欲しいと本当に思ったその時は……遠慮なく、いらっしゃってください。私は、どんな貴女でも受け入れる覚悟は出来ておりますので」

 

「…………」

 

 その言葉を、どう受け取っていいか分からなかった。

 

「着いたぞー」

 

 黙りこくっていると、前方からおけらの声が飛んできて、バッと顔を上げる。

 顔を見回して景色を確認すると、もう自動車教習所の駐車場に車が停められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





 常磐ななかさんのキャラは、原作と違いますが、これには理由が有ります。
 それは後の話で……。
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