魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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#50の前日譚的なやつ。


FILE #50-S スーパーIT企業経営者と危険な傭兵  

 

 

 

 

 ――――2年前。

 

 ――――神浜市・大東区。沿岸部・スラム街。

 

 

 

 “穴場”と聞いて、ミコ達に連れていかれたのは、路地裏でひっそりと経営しているアメリカンバーであった。

 薄暗い空間を、オレンジ色の光が暖かく照らしており、耳心地の良いジャズミュージックが緊張感を緩めてくれる。

 あちらです――――と、ミコが奥を指さした。

 目を向けると、4人で囲める円テーブルの一席に、一人の女性が足を組んで座っている。

 

「おう、来たか」

 

 女性は自分達を――というより視線的には、皇 稜斗を――目にした途端、嗤った。

 一言で表せば、綺麗な女性だった。

 黒いゴシックロリータの衣装に、艶やかなショートカットの赤毛。見てくれだけならフランス人形さながらの美しさだ。しかし、狼の様に鋭い目つきに燃えるような灼眼、そして笑顔を魅せた時に口の奥で瞬く犬歯が、彼女の内に秘めた獰猛さを物語っていた。

 

「この方は……?」

 

 やちよが尋ねながら横目で(すめらぎ) 稜斗(りくと)を見ると、いつの間にか禿のカツラを外していた。

 豊かに伸びた金髪にアイスブルーの瞳。浮浪者から一瞬で、イカした西洋紳士風に変身した稜斗は、

 

舞花(まいか)サチさん。ここじゃあ顔役の傭兵です」

 

 やちよの眉がピクリと動いた。

 “傭兵”――――それは金やグリーフシードの為ならどんな汚い手も使える、プロの魔法少女の事だ。

 このスラム街に足を踏み入れた時も、門番の魔法少女達に襲われたが――あれは下の下。傭兵というよりもどこかの街の隅で腐っているのを拾った、破落戸という印象だった。

 だが目の前の舞花サチは違う。彼女は正真正銘、本物だ。それは、前述した彼女の顔付きから判断できる。堅気の魔法少女達とは違う世界を生き抜いた猛者なのだと。

 しかも顔役――――となれば、実力も相当な筈。

 やちよが肩を強張らせながら稜斗を見つめる。彼と彼女の関係は、一体……?

 

「ほーう。テメェが七海やちよが。生で見るのは初めてだな」

 

 ……正直、このスジ(・・)の方々にまで知られて欲しく無かった。

 そんなやちよの複雑な心境など知る由も無く、サチは興味深そうに見つめてきた。

 

「……恐れ入ります」

 

 言いながらも、身体は無意識の内に臨戦態勢を取っていた。その反応にサチは声を挙げて笑う。

 

「アハハ! 固くならなくていいさ。テメェとアタシは同じ魔法少女だ。いつも命を掛けて、全力で生きてる。そこに違いはない。仲良くしよーぜ」

 

 やちよはホッと胸をなでおろした。

 大人の余裕というものか、それとも自分如き小娘など物の数にも入っていないという強者故の慢心か――――いずれにしても、刀傷沙汰は起きずに済みそうだ。

 サチが、「まあ、座りな」と促したので、三人は空いている席に座った。

 

「舞花さんは……皇会長とはどういったご関係で?」

 

 いの一番にやちよがそう尋ねる。

 当然ながら、サチを目にした時から警戒していた。

 二木市をデジタル都市へと改革した救世主、皇 稜斗。その才覚と、彼が率いる企業の力が欲しいやちよだったが、反社会的な事に手を出しているのであれば、そこまでだ。

 即刻見切りを付けて、違う方法を考えなければならない――――

 

「ハッ、そう身構えんなよ」

 

 ――が、サチはそんなやちよの考えなどお見通しのように、鼻で笑った。

 

「警戒してるつもりは……!」

 

「嘘つくな。眉間にシワが寄ってるぜ?」

 

 やちよは咄嗟に額を撫でた――――が、

 

「ハッハッハッ! 悪い、嘘だッ!」

 

「っ……!」

 

 サチに笑い飛ばされてムッとなる。からかわれて良い気はしない。

 だが、

 

 

「あんた、ホントは怖いんだろ?」

 

 

 次にサチから飛んできた言葉は――――想定外だった。

 赤く滾った灼眼でやちよを射貫くように見据えると、そう呟いた。

 

「……え」

 

 やちよの思考が、止まった。

 違う。今、自分が彼女に抱いたのは、間違いなく警戒心であり敵意……の筈。

 でも、ギクリとしたのは、どうして? まるで本心を言い当てられたみたいで、胸中が一気にざわついた。

 

「顔は間違いなく怒っていた。だが、翻ってみて、仕草はどうだ? あんたさっきから右手で左手を撫でているな」

 

 やちよはハッとなり、目線を下に向けた。

 テーブルの上に置かれた両手が、サチの指摘した通りの仕草を示していた。

 無意識だった。自分の体の動きが、全く気づかなかった。

 

「右手は聖者の手、左手は罪人の手――っていうの、知ってるか? そいつは自分の弱いところを撫でて励まそうとしてるサインだ。あんた、傭兵を生で見るの初めてだろ? アタシを見てからずーっとそうしてる」

 

「だけど、この街に入った時には……」

 

 続く言葉が言い訳でしかないのを、サチに見抜かれた。

 

「ありゃただのクズだよ。どっかの端で落ちぶれたのを拾って使ってるだけ。捨て犬と一緒さ。餌あげてりゃ懐く」

 

 そこまで言うと突然、サチはやちよの腕を掴んだ!

 

「……! 何をッ!?」

 

 反射的に腕を振り払ってしまうやちよ。

 サチは自分の考え通りと言わんばかりに、ニタニタと笑い始める。

 

「間違いない。皮膚の温度が5℃下がっている」

 

「ッ!?」

 

「怖がっている原因は何だ。アタシに何かされるかもって不安か? それとも……助けを求めた隣の大富豪が反社会的な事をしていたらどうしようって罪悪感か? あるいは両方?」

 

「…………まさか」

 

「声のトーンが落ちてる。目を反らして小さく首を振った。それも恐怖の信号だ。もう逃げられないぞ」

 

「はい、そこまでっ」

 

 尋問の様な雰囲気になる前に、稜斗は手で静止した。

 

「サチさん、相手はまだ17歳ですよ。いくらなんでも大人げない」

 

「言っただろ、毎日必死で生きてんのはお互い様だって。だからコイツとアタシは対等だよ。まあ、少しビビらせすぎたのは悪かったと思うけどね」

 

「あの……つまり、どういうことですか?」

 

 やちよが助け舟を求めるように横目で稜斗を見た。

 彼は、ふぅーっとため息を零すと、サチに「余計なことは言うなよ」と言わんばかりの眼力で見据えて、言った。

 

「ごめんなさいね。七海やちよさん。つまりは、こういうこと(・・・・・・)なんです。彼女は我が社の新製品開発の協力者なんですよ」

 

 やちよが目を丸くする。

 こういうこと、とはつまり、サチが自分の仕草や表情を見て、感情を言い当てた事が、か? それが新製品開発とどう結びつく?

 考えていると、肩をトントンと突かれた。稜斗とは反対側に座るミコに顔を向けると、肩に下げたポーチからリモコンの様な機械を取り出した。

 

「それは……?」

 

「ポリグラフです」

 

 それが新商品だというのか?

 ポリグラフとは嘘発見器のことだ。一般的に警察の取り調べで使われている。心拍数と呼吸、皮膚電気反射を計測して使われるものだが…

 

「まだ開発中ですが、世界初の携帯式となる予定です。更に従来とは一線を画す機能が付いています」

 

「それは?」

 

「認証式です。持った瞬間に上半身を認証して、表情筋、肩、手の動き、皮膚の温度を分析して、感情を判別するのです」

 

「最早魔法は日常的にありますからね。何が嘘で何が本当か、見抜くのが極めて難しくなってきていますから」

 

 もはや従来式じゃ信用ならないんですよ――――と、ミコの説明に、稜斗が得意気な顔で補足を加える。

 

「だから、表情を」

 

「ええ。表情心理学をご存知ですか? 人の表情は万国共通。郊外の主婦も爆弾テロ犯も同じ感情を持ち、真の感情は顔に出る。サチさんと話しててお分かりになったでしょう? ここに住む方々は、言葉以上に顔で会話しているんです」

 

「洗脳された奴だって、顔見りゃ一発だ。心から言ってない言葉にゃ、ぎこちなさがでる」

 

 サチが笑いながら稜斗の言葉に付け加えた。

 なるほど、それは盲点だ。着眼点も発想も素晴らしい。

 皇グループはここに住む人々と協力して、ポリグラフの開発を進めているのだろう。

 

「じゃ、後はよろしくー」

 

 思っていると、サチが席から立ち上がった。

 

「気になさらず飲んでいけばいいのに」

 

「込み入った話だろ? 用の無い女はお暇させてもらうよ」

 

 言いながら、カウンター越しにいる中国系のバーテンダーに「釣りはいらねえよ」と言って諭吉を一枚渡すと、足早に去っていく。

 

「会長、恐らく舞花さんはおバア様のことが心配になったのです」

 

「だろうね……」

 

 

 

 

 

 今回登場したオリジナルキャラクター

 舞花サチのイメージです(カスタムキャストで作成)

 →

【挿絵表示】

 

 

 大東区沿岸部のスラム街における傭兵事情は、基本的に彼女と伊月ジュンのツートップです。

 

 

 

※以下没

 

 ミコの言った、サチのおバア様とやらが気になったが――稜斗が視線をこちらに向けてきて、

 

「では、本題に入りましょう。七海やちよさん」

 

 力強い口調で宣言したので問う事ができなかった。

 “帝皇”と呼ばれし男の眼力は、凡百の魔法少女の比ではなく。

 やちよは縫い止められたように、身体が硬直するのを感じた。

 

「貴女は僕に何かを依頼する為に、ここまできたのですね?」

 

 圧倒的な緊張感が全身を支配するが、やちよは負け時と姿勢を伸ばして、力強く応えた。

 

「ええ……!」

 

 やちよは話した。参京区の現状を。

 住民の人命救済の為に、サンシャイングループ系列の企業に再開発を依頼している事を。

 

 だが、実際は――――!

 

 やちよは、結菜の話を思い出し、クッと歯噛みした。

 商店街の人々が築き上げたものを、文化を守るには、もはや皇 稜斗の力を借りるしかないのだ。二木市のように……!

 

「……なるほど。お気持ちは察します」

 

 自然と熱が入ってしまったらしい。

 でも、稜斗にはしっかり伝わったらしく、話の中で彼は何度も深く頷いてくれた。

 

「ですが」

 

 だが、話し終えた直後に、彼は冷たい眼で再びやちよを圧倒する。

 

「サンシャイングループの考えも道理ですよ」

 

 それは重々承知だ。

 日秀源道の最終的な狙いは間違いなく参京区の商業支配。

 優秀な経営者の“優秀なモノだけ”が欲しいのだ。

 それは間違いないだろう。

 

 しかし、参京区全域の建物の不燃・耐震化による防災性、交通の利便性の向上は急務。

 ショッピングモールと遊園地が建設されれば商店街が賑わうのも間違いなし。

 何よりこの事業の総責任者は夕霧青佐市長であり、サンシャイングループを中心に多くの企業も密接に絡んでいる。

 陸翔とやちよの判断だけで容易に覆せるものではない。

 

「ええ、存じております」

 

 やちよはフッと笑い返した。

 

「そのご様子だと……何か作戦があるようですね」

 

 おっと目を見開く陸翔。

 面白くなってきた。

 七海やちよは自分の想像を上回るか、否か――――稜斗は期待に愉悦が抑えきれず、口元に弧を描いた。

 

「ええ、再開発計画に横槍を入れるつもりはありません。ですが、彼らが築き上げた文化を失わせる訳にはいきません」

 

「なるほど……その方法とは」

 

「それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 オリジナルキャラクター
 舞花サチのイメージです(カスタムキャストで作成)
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 大東区沿岸部のスラム街における傭兵事情は、基本的に彼女と伊月ジュンのツートップです。
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