魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
――――14:00 参京商店街
食事を終えてから数十分後、いろはと葉菜は万々歳を出て、街道へと繰り出していた。
「いろは、ほら」
「ありがとう、葉ちゃん」
葉菜は露天でわたあめを購入し、いろはに差し出す。
受け取ったいろはは、早速一口頬張った。ふんわりとした甘さが、考えすぎて固くなった頭を解してくれるようだ。
だけど、表情は、浮かない。
「元気出しなよ」
「だけど」
「気にしすぎ。あんまり人のこと心配してたら、自分のことがおっつかなくなるよっ」
葉菜の言ってることは、良く分かる。
いろはだって、成さなければいけない目的がある。鶴乃一人にいちいち構ってはいられない。
でも、だけど――――。
わたあめ棒を掴む力が、ギュッと強まった。
鶴乃が最後に話してくれた、“あの子”のことが気がかりだ。
多分、再会して、本当の気持ちを伝えない限り、鶴乃は幸せになれない気がする。
――――結局、自分は鶴乃にとって、どう足掻いても他人でしかない。
自分が、人の幸福か不幸かの問題に、どこまで足を踏み入れていいのか――――悩む。
はっきり言って、烏滸がましいだけかもしれない。
だけど、このままではいけない気もする。どうしたらいいのか――――
「あら、いろはじゃないの」
いろはの肩がギクリと強張った。
ちょうど“あの子”の事を考えてる最中に、聞き覚えのある声が聞こえたからだ。
振り向くと、
――――直視できなかった。
いろはと葉菜は二人揃って目を覆った。
何故かって? それは眩しいからである。
何が眩しいのかって? それは天女様がおわしましたからである。
青、白、黄、碧の衣を纏った麗しき天女様は、太陽の如き後光を背負って、この地上に降臨なされたのだ。
「……って、んなワケないよね」
いろはは目を擦って、もう一度現実を見据える。
七海やちよ、八雲みたま、粟根こころ、夕霧 碧――――神浜屈指の美女軍団が勢揃いだ。更に、彼女たちの美しさを色鮮やかな晴れ着がより際立たせている。
それらが眩しくて、目が眩んだ。
「やちよさんっ?!」
「か、神浜が天女が集まる街ってのは本当だったんだ……!」
いろははびっくり仰天。
葉菜は大きく見開いた目をパチクリさせながら声を震わせる。
「天女ってそんな……っ」
賛辞を受けたこころが頬を赤くして照れる。
「でも何で晴れ着なんですか?」
「宣伝よ」
商店街の技術を公表する為のね――と、やちよは付け加えると、こころに目を配る。
「私達の晴れ着は関呉服店で作ってもらったんだよ」
「碧さんのだけ違うような……」
いろはが呟くと、碧は待ってました! と言わんばかりにくるりと回転。
他のメンバーとは違ってフリルの付いた裾の短い着物がふわりと舞い上がる。
「私は和メイドでーっす☆」
「わー! かっわいいっ!」
碧の衣装だけは明らかにコスプレっぽいが、美人が着飾ると一輪の花に見えるのが凄い。
葉菜が賛辞を送ると、「でしょでしょー!」と犬耳?をピコピコ動かしながらピョンピョン飛び跳ねる。
「皆さんどちらへ行かれるんですか?」
「撮影会が終わったから、休憩がてらにカミハマンショーを見に行くのよぉ」
彼女たちで撮影会を展開しようものなら、それはもう、大熱狂したに違いない。
それにしても、『カミハマン』って何だろう……?
みたまの答えの中に、全く知らない名前が出てきて、いろはは首を傾げる。
「なんだいろは知らないの?
「えっ? そうなの!?」
さらっと答えた葉菜に、いろはは目を丸くした。
葉菜がスマホで調べると、3年前に誕生した“魔女と戦う”ヒーローらしく、子どもや魔法少女たちから高い支持を得ているとか。
「せっかくだから一緒に観にいかない?」
「え? いいんですか?」
「でも、アタシらが皆さんに交じるのはちょっと……」
葉菜といろはが揃って渋い顔を見合わせた。
二人共、容姿や相貌にそこまで自信がある方では無い。
瞬間――――待ってました、と言わんばかりに、やちよの瞳が獰猛に瞬いた。
「じゃあ、着飾ってあげるわ。みたま、碧さん」
「はーい♪」
「ラージャー!」
こころだけが「あっマズイ」と思った顔になるがもう遅かった。
「「えっ?」」
既に二人はいろはと葉菜の背後に回って、抱え込むとどこかへと連行した。
☆
――――それから、15分後。
商店街の中央にある空き地には、大掛かりなステージが特撮されており、既に多くの子供達がカミハマンの登場を心待ちにしている様子だった。
「凄い人気なんだね」
いろはが葉菜に声を掛けると彼女はうんうん頷く。
「男性ヒーローなんだけど、アクションが魔法少女並なんだって。……まあ、それはともかく、ナニコレ……」
葉菜が自分といろはの衣装を見渡し、呆気に取られる。
先程、みたまと碧に誘拐された二人。
『関呉服店』に連れて行かれて強制的に着替えさせられたのは――――何故か和メイドであった……。
「晴れ着が良かったのにぃ~……」
「あらぁ、だってカワイイって言ってたじゃなぁい♪」
道行く人々の視線が突き刺さってこの上無く恥ずかしい。
涙を流しながら嘆く葉菜だが、みたまに即座にツッコまれた。
いや、確かに言ったは言ったが……あれは碧の和メイド姿が可愛い、という意味であって――
「仲間が増えて碧はカンゲキでーっす☆☆☆」
「「わっぷ」」
二人が言い訳を考えていると、碧に思いっきり抱きつかれた。
その胸に実る豊かな球体が顔面を圧迫して、息苦しい。
得意気な顔をするやちよとみたま。こころだけが「あはは……」と申しわけ無さそうに苦笑いしながらも、
「二人とも、似合ってるよー!」
とフォローを入れてくれた。
「そろそろ始まるわよぉ」
みたまの声を合図に、全員がステージの方を向いた。
―――――カミハマンショーが始まった。
ストーリーは、実にヒーロー活劇らしい、単純明快な物語だ。
過酷な戦いを強いられている魔法少女達を救いたいという、世界中の子供達の願いが生み出した英霊――――カミハマン。
彼は魔法少女すらも上回る超人的な強さで、各地の魔女を次々と討伐し、魔法少女を窮地から救っていく……。
ある時、人間「神所 浜良」(じんじょ はまよし)に変身し、街を散策したカミハマンは、慶治町で町長の秘書を務める【美凪ささら】と出会い、親交を深めていく。
レスキュー隊員の父親のように立派な人間になりたいと、日々努めていく彼女の生き方に、浜良(カミハマン)は感銘を受ける。
しかし、次第に人々の為に自分のことを後回しにしていく様子に、浜良(カミハマン)は不安を覚えるのだった。いつかその生き方が彼女を滅ぼしてしまうのではないか――――と。
浜良(カミハマン)の予感は的中。
街で出現した魔女を倒す為に飛び込んだささらだが、魔女に捕らわれてしまった。
浜良(カミハマン)は、ささらを助けるべく、結界に飛び込むのだが……
【グッフッフ~……魔法少女よ。もう後がないぞ】
魔女(着ぐるみ)が、触手みたいな両手でささらを拘束しながら脅す。
「くっ、貴女如き、私一人で……!」
【小癪なっ!!】
「ああっ!!」
ささらが強い嫌悪感を双眸に表し、魔女を睨み据える。
だが、魔女は腹部を強烈に締め上げてきた! ささらの顔が一瞬で苦悶に染まる。
【くっくっく……どの魔法少女も同じようにほざいては、最後にオレサマに食われたのだぁ~。お前も同じ目に合わせてやるぞぉ~!】
「魔女って、喋れないんじゃ?」
「いろはちゃん、そこはツッコんじゃダメよぉ」
と、ここでステージ上に煙が発生し、浜良が参上!
「美凪ささら! 一人で抱え込むのはやめるんだ!」
「貴方は……浜良さん!!」
ささらが浜良を見て、大きな声を挙げる。
浜良はお決まりのポーズを取り――――
『変・身ッ!!』
――――いろはと葉菜の目を疑うような光景が広がった。
浜良の体を一瞬、水流が渦巻のように纏われたかと思うと、鎧武者の様な白装束――――カミハマンに変化していたのだ!
「……あれ? でも、元々はカミハマンだから、変身とは言わないんじゃ?」
「いろはちゃん、そこもツッコんじゃダメよぉ」
お馴染みのテーマソングが流れて観客大盛況!
特に子どもたちからは一斉に“カミハマンエール”が発声される!
多くの声援と拍手喝采を浴びながらカミハマンが魔女を指差し、宣戦布告!
『魔女め! 人々の為に命を張る魔法少女を食らうとは許せん! 私が退治してやる!』
【来たなカミハマン! 貴様の命運もここまでだ!】
魔女(着ぐるみ)の頭部にある6つの目が怪しく瞬く。喋ってることは完全に三下怪人だが、こういう部分はリアルで悍ましい。
【喰らえ!】
刹那――――魔女(着ぐるみ)の背中に生えた触手が二本、グンッと伸びてカミハマンに向かって直進!
直撃の寸前でカミハマンは身を屈めて回避すると同時に、真上に伸ばした両手で触手をグッと掴み――――
『カミハマン・サンダー!!』
【ぎゃあああああああああ!!!】
お馴染みの必殺技が炸裂!
魔女(着ぐるみ)の体とバチバチ発光するのと同時にガクガクと痙攣し、ささらを開放する。
『ささら、行くぞ!!』
「ええ!」
カミハマンの隣に立ち、獲物のレイピアを構えて、魔女に向かって身構えるささら。
【オノレェ!! ゆけーい!!】
魔女(着ぐるみ)が背後から使い魔(ボール)をポンポン飛ばしてくるが、ささらが回転しながら流麗な剣さばきで次々と叩き落とす!
「カミハマン! 今よ!!」
ささらの合図と同時に、カミハマン、天高く飛翔!!
『カミハマン・キ―――――ック!!』
直撃の寸前で魔女(着ぐるみ)の体が爆発のような白煙に包まれた!
雷撃のような爆音が響いた一瞬後には、魔女は影も形もなくなり、グリーフシードが一つ落ちていた。
『ささら、これを』
背景が魔女結界から夕陽に変更。
カミハマンはグリーフシードを拾うと、ささらに手渡した。
「いいの? カミハマン」
『ああ、俺には君たち、“魔法少女の力になりたい”という世界中の子供たちの願いがある』
それが無限の力を授けてくれるのだ。だからグリーフシードは無用――――と解説するカミハマン。
『何かあったら、風に向かって俺の名を呼べ。君は、もう一人じゃない!』
そこでエンディングテーマが流れて、カミハマンは背中を向けて去っていく。
「……ありがとう。カミハマン」
ささらは、慈しむように背中を見つめながら、お礼を送るのだった……。
カミハマンのイラスト募集中(?)