魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
――――カツン、カツン、と。
暗晦の中で、少女が足音を響かせる。
見渡す限り黒、黒、黒……の一色に塗り潰された空間――凡百の人間が此処に潜り込めば、恐らくは一生光の下に戻ることは叶わない。魔法少女でさえ、暗闇に充満する骨身に染みる程の極寒の冷気は、酷だろう。
だが、今、漆黒を闊歩する栗色の髪の少女にとっては、暗黒も、極寒も、痛痒には成り得なかった。
寧ろ、逆。
自然と頭の中で、ウィリアム=アーネスト=ヘンリーの『インビクタス』の詩が流れる。
そう、この詩を詠む度、栗色の髪の少女は思い出す。
闇も寒さも“希望”であると――――故に、自らの存在意義を明確に理解できる。
自分が“何者”であるのか。
此処で、“何”を為すべきなのかを。
「プロフェッサー・マギウス」
目と鼻の先に女の声がして、深淵の王・『
漆黒の中に在る者は全て認識できる。自分より僅かばかり背丈が上の、白衣を纏った少女らしき人物が佇んでいた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「うん」
白衣の女の右眼が翡翠色に瞬いた。
主は笑顔で応え、後ろを付いていく。
プロフェッサー・マギウスと並ぶ最高幹部の梓みふゆ、日秀源道さえ辿り着けぬ暗黒の中枢――“深淵”は、里見灯花のテリトリーだ。存在を許されるのは、主と、主に選抜された『助手』のみである。
灯花と肩を並べる白衣の女は、『助手』の一人だった。
組織の誰もが存在を知らない、正に主のみぞ知る、トップシークレット・エージェントであった。
暫く、暗闇を闊歩する二人が辿り着いたのは、広大な空間だった。
「ご覧ください」
白衣の女に促されて、灯花は頭を上げる。
刹那、愉悦が口元から溢れた。思わず、“くふっ”と含み笑いを零して、灯花は“それ”に見惚れる。
飛行機や戦車を、初めて間近で見た時と同じ興奮が、胸の中で蘇っていた。
“それ”は、巨大。鋼鉄。強固。頑丈――――何より、無機質。
だから、良い。
視界に映る“それ”は、灯花の要求を限りなく満たしていた。望んで止まないものが、出来上がったのだ。
「オーナー・サンシャインの息が掛かった重工企業の優秀な技術者達の総力、そして私の科学力の全てを注ぎ込みました。……如何でしょうか? プロフェッサー」
「……! 素晴らしいよ、『よんひゃくきゅーまる』。これが」
「そう。人型戦闘用機動兵器――――『Doll-TypeC』。通称、“ドロシー”です」
「くふっ」
愉悦が抑えきれなかった。
主の御満悦な様子に、『よんひゃくきゅーまる』も嬉しそうに笑う。
「まだ、試作品ではありますが……」
「でも、これで兆しは見えて来たねー」
「はい」
白衣の女が頷いた。主の恍惚の双眸が“兵器”を捉えて離さない。
「全ての魔法少女は、いずれ
白衣の女の言葉に主は頷いた。
「そう……唯一無二の、弱い肉体なんていらない。必要なのは、痛みさえ感じない程、固く、強く、美しく、何より、替えの効く入れ物」
「例のプロジェクトが完遂し、この“ドロシー”が完成・量産された暁には……」
「そうだよ、『よんひゃくきゅーまる』。世界が変わる――」
――“革命”だよ。
そう豪語する主の瞳は、鮮血の如き真紅に光り輝いていた。