魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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FILE #86.5-S 黒鉄の巨影―その名は『ドロシー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――カツン、カツン、と。

 

 暗晦の中で、少女が足音を響かせる。

 見渡す限り黒、黒、黒……の一色に塗り潰された空間――凡百の人間が此処に潜り込めば、恐らくは一生光の下に戻ることは叶わない。魔法少女でさえ、暗闇に充満する骨身に染みる程の極寒の冷気は、酷だろう。

 だが、今、漆黒を闊歩する栗色の髪の少女にとっては、暗黒も、極寒も、痛痒には成り得なかった。

 寧ろ、逆。

 

 

 

私を覆う漆黒の夜

 

鉄格子にひそむ奈落の闇

 

私はあらゆる神に感謝する

 

我が魂が征服されぬことを

 

 

 

 自然と頭の中で、ウィリアム=アーネスト=ヘンリーの『インビクタス』の詩が流れる。

 そう、この詩を詠む度、栗色の髪の少女は思い出す。

 闇も寒さも“希望”であると――――故に、自らの存在意義を明確に理解できる。

 自分が“何者”であるのか。

 此処で、“何”を為すべきなのかを。

 

 

「プロフェッサー・マギウス」

 

 

 目と鼻の先に女の声がして、深淵の王・『プロフェッサー・マギウス(里見灯花)』は目を見開いた。

 漆黒の中に在る者は全て認識できる。自分より僅かばかり背丈が上の、白衣を纏った少女らしき人物が佇んでいた。

 

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 

「うん」

 

 白衣の女の右眼が翡翠色に瞬いた。

 主は笑顔で応え、後ろを付いていく。

 

 プロフェッサー・マギウスと並ぶ最高幹部の梓みふゆ、日秀源道さえ辿り着けぬ暗黒の中枢――“深淵”は、里見灯花のテリトリーだ。存在を許されるのは、主と、主に選抜された『助手』のみである。

 灯花と肩を並べる白衣の女は、『助手』の一人だった。

 組織の誰もが存在を知らない、正に主のみぞ知る、トップシークレット・エージェントであった。

 

 

 暫く、暗闇を闊歩する二人が辿り着いたのは、広大な空間だった。

 

「ご覧ください」

 

 白衣の女に促されて、灯花は頭を上げる。

 刹那、愉悦が口元から溢れた。思わず、“くふっ”と含み笑いを零して、灯花は“それ”に見惚れる。

 飛行機や戦車を、初めて間近で見た時と同じ興奮が、胸の中で蘇っていた。

 

 “それ”は、巨大。鋼鉄。強固。頑丈――――何より、無機質。

 

 だから、良い。

 ()()()()()()()()()()無機質な所が、堪らなく、愛おしい。

 視界に映る“それ”は、灯花の要求を限りなく満たしていた。望んで止まないものが、出来上がったのだ。

 

「オーナー・サンシャインの息が掛かった重工企業の優秀な技術者達の総力、そして私の科学力の全てを注ぎ込みました。……如何でしょうか? プロフェッサー」

 

「……! 素晴らしいよ、『よんひゃくきゅーまる』。これが」

 

「そう。人型戦闘用機動兵器――――『Doll-TypeC』。通称、“ドロシー”です」

 

「くふっ」

 

 愉悦が抑えきれなかった。

 主の御満悦な様子に、『よんひゃくきゅーまる』も嬉しそうに笑う。

 

「まだ、試作品ではありますが……」

 

「でも、これで兆しは見えて来たねー」

 

「はい」

 

 白衣の女が頷いた。主の恍惚の双眸が“兵器”を捉えて離さない。

 

 

「全ての魔法少女は、いずれ()()()()()()をアップデートする……」

 

 

 白衣の女の言葉に主は頷いた。

 

「そう……唯一無二の、弱い肉体なんていらない。必要なのは、痛みさえ感じない程、固く、強く、美しく、何より、替えの効く入れ物」

 

「例のプロジェクトが完遂し、この“ドロシー”が完成・量産された暁には……」

 

「そうだよ、『よんひゃくきゅーまる』。世界が変わる――」

 

 

 ――“革命”だよ。

 

 

 そう豪語する主の瞳は、鮮血の如き真紅に光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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