魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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前回のあらすじ……

 由比鶴乃を無事、救ったいろはは、
 後日、浅香美代と再会。
 約束通り、今度は自分の頼みを聞いてもらうことに。

 大賢者のことを尋ねると、断片的にだが、教えてくれた。
 そして、秘術:『魔義空(マギア)』と『怒病婁(ドッペル)』のことも……。

 だが、夕霧青佐ならもっと詳しい筈だ、と言われ、
 神浜市役所の市長室へ赴くいろは。

 前に、『大賢者のことは知らない』と嘘を付かれたので、
 激おこぷんぷん丸ないろはだったが、
 それは、いろはの成長を促す為についた嘘だった事を知る。

 そして、夕霧青佐に大賢者のことを尋ねる。
 青佐も、居場所までは知らなかった。
 しかし、良く知っている者達のところへ案内するという。
 青佐はいろはと額を合わせる。
 すると、不思議な力によって、いろはは異世界へ導かれる。

 目が覚めると、『天国のような楽園』にいた。

 いろははそこで、九尾の大狐:ヨヅルと出会い、
 『教授』と呼ばれる者の下へと案内される。

 その先で、いろはは、『教授』=柊 ねむと運命の再会を果たす。

 しかし彼女は、“いろはの記憶の中の柊ねむ”とは違っていた。
 しかし、いろはとは確かに“親友”であったと、ねむは語る。

 大賢者のことを尋ねると、七海やちよが鍵を握ってると教わる。
 他にも、“調整”を受けた魔法少女の秘密と、
 いろはが、運命の導きによって、神浜市で『主人公』としての役割を背負ったことも教わるのだった。




 一方、秘密結社:マギウスの翼では、
 プロフェッサー・マギウス(里見灯花)が助手『490』と共に、“何か”を開発し、
 物騒な計画を企てていた……。

 その名は<ドロシー>……。

 果たして、それは一体……?


4章 深月フェリシア編 FILE #56~66 ざっくり解説!

FILE #56

 

 次の日、神浜市役所。

 柊ねむの言いつけ通り、

 大賢者の事を、七海やちよに尋ねるいろは。

 

 

 ※ここでざっくり解説! 大賢者の試練とは?

 

 会う方法は、2通り!

 

 1・治安維持部のチームリーダーを2年以上勤務

    &神浜市から表彰される実績を挙げる事。

 

 2・各治安維持部隊に3カ月間所属し、品行方正に業務を従事し、各チームリーダー及び各町長から功績を認めてもらうこと。

 

 (要は神浜町、慶治町、立政町、明京町の役場で3ヶ月ずつちゃんと頑張って、評価されてきてね! という意味)

 

 いろはが挑戦できるのは、2の方だよ!

 でも、上記を見て分かる通り、試練を受けるには、治安維持部に入職しなくちゃだよ!↓

 

 

 ※ここでざっくり解説! 治安維持部の入職って?

 

 基本的に人手不足だから、希望が有れば取る方向。

 ・年齢は13歳以上ならOK。

 ・筆記試験と簡易な適性診断を実施するよ!

 

 

 試験当日、市役所で鶴乃と合流し、

 治安維持部本部へ向かう二人。

 

 だが、そこには問題児がいた。

 

「だーかーらぁ、ちあんいじぶに入れろっつってんだろー!!」

 

 受付で白木にしつこくクレームを入れてるのは、

 あの、常磐ななかすら手を焼いたという、

 クソガキ深月フェリシアだった。

 

 必要書類も無ければ、家(=住民票)も無い……

 要は条件に達してないから試験は無理。

 ……と、何度も伝えているのに、聞く耳が無い……。

 

 白木は困り果てた様子だが、

 そこで七海部長が現れて、

 

「要は家が有ればいいんでしょう? 早速手配します」

 

 そういって、外勤中のピーターに連絡。

 フェリシアの住所を、『みかづき荘』に決めて、

 問題をスピード解決してしまうのであった。

 

 

 そして、部長執務室に案内される三人。

 全員入職希望者。

 実は、鶴乃もその1人であった。

 

 自分の事を気にして、無理しているのではないか……

 そう心配するやちよだったが、

 

「だいじょーぶ。正職じゃなくて臨時希望だし、店のこともちゃんとやるって! それに、師匠の手助けもしたいしね」

 

 鶴乃が、自分の強い意志で、

 やちよといろはを助けたい、と伝え、

 やちよは安心するのだった。

 

 

 そして、試験の概要を伝えるやちよ。

 まさかの内容だった。

 一般常識の筆記試験を行って、終わり。

 平均点以上を取れれば晴れて合格。

 

 なんとも味気ない試験内容にズッこける3人だが、

 七海部長曰く、

 

「だって深刻な人手不足だもん。しょーがないわよ」

 

 なお、適性診断については、

 みたまが調整時にソウルジェムで過去を見れるので、

 証明済みであった。

 

「三人とも魔女に単独で勝利した経験があり、3人以上のチーム編成で臨機応変に戦った事もあり、状況によっては臨時的にリーダーを務めてメンバーを勝利に導いたこともある。何より1年以上、生き延びている。素質は十分よぉ」

 

「それに、三人の生活態度には個人差があれど、大きな傷害事件は無く、魔法の使用も魔女退治にのみ留めている。交友関係も広く、知人からの信頼も厚い」

 

 そんな訳で、3人とも試験を受けた時点で、

 合格確定なのであった。

 

 

 

 

FILE #57

 

 説明回。

 3人の筆記試験の結果は以下の通り↓

 

 

 由比 鶴乃

 

 国語:88点

 数学:94点

 社会:85点

 理科:73点

 英語:83点

 

 合計:423点

 

 

 環 いろは

 

 国語:95点

 数学:40点

 社会:65点

 理科:88点

 英語:55点

 

 合計:343点

 

 

 深月 フェリシア

 

 国語:26点

 数学:10点

 社会:31点

 理科: 5点

 英語: 2点

 

 合計:74点

 

 

「(フェリシアは)要注意人物ね」

 

「ええ」

 

 

 その後、筆記試験が終わり、

 治安維持部の内定が事実上決まった3人は、

 調整員(みたま)と面談しなければならなかった。

 なお、面談の内容は口外禁止である。

 

 そんな訳で市役所地下・ミロワールに向かう3人。

 待っているとみたまがやってきて、 

 

「これから私が話す事は――――魔法少女の“真実”」

 

 そう言って、説明を開始する。

 

 

 

 ・キュゥべえの正体は、『インキュベーター』と呼ばれる異星人

 

 ・穴倉で過ごすしか無かった人類に、願いを一つ叶える上で“超人”になる技術を提供した。

 

 =“魔法少女”システム

 

 ・太古から多くの少女達の“願い”によって、人々の文明は開化され、世界では幾度も改革が行われてきた。

 

 

「それはおかしいよっ!! 人間は誕生した頃から、思考も感情も知性も併せ持っていた筈でしょ!? だから集団を形成してみんなで何かを創り続けてきた! 今でもそう。世界中の多くの人々が知恵を出し合って革新的なものを生み出してる! ……なのに、キュゥべえがいなきゃ何も出来なかったってどういうこと!?」

 

「その話が本当なら、曾お爺ちゃんが創立した万々歳も、皇さんが開発した“リヒト”も、誰かの願った結果ってことになるじゃないっ!」

 

「……私も、人間は自分達の能力だけで進化し続けてきた種族だって信じてる。その話は、インキュベーターが優位性を示したいだけのでまかせだって思ってるわ」

 

 

 鶴乃の疑問に答えた後、みたまは続ける。

 

 

 ※地球にやってきた目的とは?

 

 ・宇宙の滅亡を抑える為。

 

 ・宇宙全体には【エンドロピー】と呼ばれる、

  “内部で増え続ける曖昧な何か”が時の経過と共に膨張を続けており、

  いつか破裂するように、【熱源的死】を迎える。

 

 

「はあ?? 宇宙がブッ壊れるっていうのかよー!?」

 

「今すぐじゃないわ。彼らの話によれば少なくとも数十億年も先の話よ」

 

 

 フェリシアの疑問に、みたまはそう答える。

 

 

 ・母星で【感情】を、“エンドロピーを抑えるエネルギーに変換するシステム”を開発。

 

 ・しかし、キュゥべえは感情が無い。

 

 =インキュベーターの文明では、感情という現象は、極めて稀な精神疾患でしかないから。

 生まれ持った個体は、廃棄処分。

 

 ・よって、キュゥべえ自身は、“魔法少女システム”は利用不可。

 

 ・そこで、異星を巡ることに。地球にて、“人類”(感情の起伏による生態行動の変化が著しい生物)を発見。

 

 ・その膨大な個体数と繁殖力を鑑みれば、一人の人間が生み出す感情エネルギーは、「エンドロピーを凌駕」すると結論。

 

 ・観察と研究の結果、二次性徴期の女の子の“感情から採取できるエネルギー”こそが最も効率的だと判明。

 

 

「効率的って、どういうことですか?」

 

「インキュベーターは宇宙の救済をなるべく早めたいと考えているの」

 

 要は、感情エネルギーを得るために、

 手当たり次第、思春期の女の子に契約を迫っているのだ。

 素質があれば、世界中どこにでも、関係なく……。

 

 

 そして、【魔法少女の絶望】から誕生する【魔女】。

 

 

 二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移。

 それこそが、宇宙を救う最も()()な感情エネルギーだと、みたまは解説。

 

 3人は愕然。

 自分達が魔女になること。

 そして、元は魔法少女だった者を、殺していたことに驚く。

 

「どうして、私達は気づかなかったんですか。ちょっと考えたら……キュゥべえに聞いてさえいれば、すぐに分かったことだったのに……」

 

 いろはの疑問に、みたまは答える。

 

 

 ・キュゥべえは、人間と対話する時、テレパシーと一緒にある特殊な電波を頭に送り込んでいる。

 

 ・電波は非常に微弱だが、脳の電気信号に干渉。【“自分達に関心を持つな”】と“命令”させる。

 

 ・人間は違和感を覚えず、その“命令”を受け入れる。

 

 ……つまり、キュゥべえたちは、()()()に背景を探らせないように仕向けている。

 

 

 そして、『【調整】を受けた魔法少女の特性』についても説明。

 

 

 ・死者の魂をエネルギーとして、ソウルジェムに取り込む。

 

 ・調整した結果、体質が人間と限りなく近くなる。

 

  具体的には↓

 

 ・魔力を使い切ったり、絶望を感じてソウルジェムが濁り切った場合、身体能力が著しく低下するデメリットはあるが、魔女にはならない。

 

 ・魔女になる可能性は、ただ一つ。肉体の物理的な死。

 

 

「魔力を使い切ったり、絶望すると魔女になるから実質±0ってところね。アメリカの脳医学者ロバート=ヘルナンデスが発表した研究結果では、三年以上活動を続けていた魔法少女の脳にある変化が起きることが分かったの。それは、肉体の関心の喪失。体がどれだけ傷ついても、壊されても一切気にしなくなるの。魔女にならない限り、へっちゃらだって、ね……」

 

 そういうのと比べたら、いろは達は、かなりマシ。

 

「調整は、確かにデメリットはあるけれども、貴女達を人間に限りなく戻す意図も込められている。

 戦うだけの化け物じゃない。

 ましてや、インキュベーターの道具じゃない。

 人々の愛と希望、何より自分の幸せの為に戦う、みんなも憧れた理想の魔法少女に成れたって訳よ」

 

 

 しかし、

 いろは達は、これまで、魔女=元魔法少女を殺してきた。

 そして、これからも、殺さなくてはいけない。

 理想の魔法少女というには……手が汚れているのでは?

 

 その疑問について、みたまが答える。

 

「神浜市で亡くなった魂は、大賢者の元へ送り届けられて、浄化される。そして、楽園へと行き着いて、お役目が来るのを待つの」

 

「貴女達がやむを得ず奪ってしまった命は、決して無駄にはしないということよ。怪物に成り果ててしまった子の魂を、私達は必ず救済する。そうでなければ、誰も、報われないわ」

 

 説明を受けても、不安が拭えない様子の鶴乃だったが、 

 

「勝てばいいんだろっ!? 勝てばっ!? 勝って勝って勝ち続ければ、オレたちは大丈夫だってことだよなあっ!?」

 

 気合を入れるフェリシアと、

 

「確かにこれからも仕方なく殺してしまう時がくるかもしれない。だけど、大賢者様が、きっと彼らの魂をなんとかしてくれる」

 

「私は、神浜の人達を信じてる。だってみんな、真剣に魔法少女の事を考えてくれてるから! だから、鶴乃ちゃんも、今は信じてみようよ!」

 

 いろはのポジティブな言葉に、勇気づけられるのだった。

 

 

 

 そして。

 面談を終えたみたまは、やちよの元へ行き、3人の評価を報告する。

 

 

 ・いろは:間違いなく、【主人公】の役割を背負っている。

 

 ・鶴乃;メンタル的に、危ない。ケアが必要。

 

 ・フェリシア:要注意人物♪

 

 

 

 

FILE #58

 

 その夜。

 みかづき荘では、深月フェリシアの歓迎会が開かれていた。

 肉料理をお腹いっぱい食べてご満悦なフェリシア。

 

「ウマいメシ食わせてもらったお礼に、デザート作ってやるよ!!」

 

 フェリシアはそう言うと、

 慣れた手付きで、“ブリュレ”を作り、皆に振る舞う。

 毒味役としていろはが先に食べると、

 上品な味がして、美味しかった。 

 

「オレ実は、色んな所でよーへーやっててよ! たまたまウォールナッツのオーナーの弟って人がやってる店にしばらく世話になったことあるんだよっ! そこのオヤジさんが良い人でさー、いっぱい料理教えてくれたんだよなー!」

   

 フェリシアの意外な特技に皆が驚く。

 そして、皆がデザートを食べ終わると、テキパキと食器洗いまでしてくれた。

 出会った時のクソガキぶり姿が、まるで嘘のよう……。

 

 

 その後、いろはは自室で数学の宿題を解いていた。

 ……が、数学は苦手な教科なので、イマイチ進まない。

 問題を解くのに、悩んでいると、

 いつの間にか無断で部屋に入ってたフェリシアから、

 

「625通りだ」

 

「まず一問目。1から25までの整数が掛かれたカードを二枚抜き取るんだろ? 【1枚目のカードを取り出してから戻して、よくきってから二枚目を取り出す】なんて回りくどく書かれてるけど……惑わされちゃダメだ。考え方はシンプル。一枚目を抜く確率は25通り。二枚目を抜く確率も25通り。二つ合わせたら25×25で正解は625通りだ」

 

「で、二問目。引いた二枚のカードの和が9になる可能性だが、これは簡単だな。1と8、2と7、3と6、4と5、5と4、6と3、7と2、8と1の8通りだ。つまり、625通りの中で8通りは有るってことで、答えは625分の8だ。

 

 で、三問目。

 

【引いた1枚目のカードを戻さず(・・・)、二枚目を抜き取る場合】ね。はいはい。これもまず、全体の確立を求めよーぜ。1枚目は25枚の内の一つを選ぶんだから25通り。二枚目は【一枚引かれてる】状態で引くんだから24通りだ。つまり、25×24は?」

 

「600通り。その状態から引いた二枚のカードの和が9になる確率。これはさっき言った8種類しかないよな? もう分かっただろ。600分の8、イコール75分の1だ」

 

 いろはの頭よりも早く、

 しかも、暗算で答えを導くフェリシアに、

 いろはは呆然となる。

 

「誰に教わったの?」

 

「ああ、それはな、とく」

 

 突然の質問。

 フェリシアは反射的に答えそうになるが、

 相手が、やちよだと気づくと、

 

「とっくに昔のことだからなー。忘れた」

 

「……そう、悪いことを聞いたわね」

 

「おう。口の利き方には気を付けろよ」

 

 ()()勉強を教わったのかは答えず、

 そう、はぐらかすのであった。  

 

 

 翌日。朝6時。

 朝食当番のいろはが起きて、キッチンに向かうも、

 それよりも早く、フェリシアが起きていて、

 皆の分の朝食を作り終えていた。

 

「…………凄いね、フェリシアちゃん」

 

 年下でありながら、

 才能溢れるフェリシアに、

 劣等感と、嫉妬心を覚えてしまういろは。

 

「凄くねーよ。色んな所で雇われたから自然と身に付いただけだっつーの」

 

「ううん、凄いよ」

 

「何、卑屈になってんだよ?」

 

 そんな気持ちを見透かされたのか、

 フェリシアが煽ってくる。

 

「ははーん。さてはオメー、目立ちたがり屋だな」

 

 そして、

 「いろはの人間性を完全に理解したかのように」、

 言いたい放題指摘するフェリシアだが、

 これは要するに、心理学の『バーナム効果』である。

 

 いろはは見事に、手玉に取られてしまい、

 情緒をぐちゃぐちゃに乱される。

 カッとなって強く言い返すも、まるで相手にされず……。

 彼女との格の違いを思い知るのだった。

 

 

 

 

FILE #59

 

 週末・土曜日。

 

 みかづき荘に住んでから、数日後。

 フェリシアはすっかり大人しくなっていた。

 暇があれば、買い出しや、家の片付けを行っていた。

 

 現在。

 いろはとフェリシアは一緒に買い物に行っていた。

 相変わらず、図々しい態度のフェリシアに対し、

 いろはは、どこか彼女によそよそしい……

 

 そこへ、

 

「父ちゃんの馬鹿!! 死んじゃえ!!」

 

 横断歩道から小さな男の子(以下:光一くん)が走ってくる。

 フェリシアは彼を捕まえると、

 

「おいガキ。元気いっぱいなのは結構だが、今の言葉はやめろ」

 

「けど、今すぐとーちゃんに“ごめんなさい”って謝れ。いいか?」

 

 厳しい顔と強い声で、叱りつける。

 しかし、光一くんは聞く耳持たず……

 そして、

 

「光一!! 待ってくれっ!!」

 

 なんと、今度は光一くんのパパが、

 横断歩道を『赤信号』で走ってきて、車に衝突。

 そのまま玉突き事故が発生し、場は大惨事に!

 

 悲鳴を挙げる光一くん。

 真っ先にフェリシアが動いた!

 

 まず、いろはと共に、光一パパを交差点の真ん中から安全な場所へ避難。

 そして、周囲の大人への指示も迅速だった。

 

 ・交差点での交通整理。

 

 ・周囲の大人に、119番と、115番(治安維持部本部=七海やちよ直通)を要請、

 

 ・光一パパの息が無いと分かると、AEDをなるべく多く手配するよう指示。

 

 そして、フェリシア自身は、光一パパに、人工呼吸と心臓マッサージを開始。

 しかし、中々息が戻らない。

 その様子を、心配そうに見つめる光一くんに対し、

 フェリシアは、

 

「おいガキ、()()()()な」

 

「オメーのとーちゃん、このまま死ぬぜ」

 

「死んでほしかったんだろ、なあ」

 

 “何かを試すように”。

 笑顔で、彼を煽るのだった。

 

「……違う(・・)よ」

 

「死んでほしくないっ!! オレ……ホントは、構って欲しかったんだっ!! 今日は久しぶりに遊べるって思ったのに……また仕事の電話が来ちゃってさ……オレ、頭きて、つい、あんなこと言っちゃって……っ!!」

 

「頼むよにーちゃん!! 助けてよっ!! オレ、とーちゃんに謝るから……ごめんなさいって言うから……殺さないでっ!!」

  

「よしっ。にーちゃんは不正解だが、その判断は正解だっ!!」

 

 自分の本当の気持ちを正直に伝える光一くん。

 それを聞いたフェリシアは、

 

「おいバカ親父!! ガキの目の前で死ぬんじゃねーぞ!!」

 

 光一パパの救命を、決意するのだった。

 

 だが、危険な状態なのは、光一パパだけでなく、

 玉突き事故を起こした車の運転手達も同じだった。

 フェリシアは、彼らも助けに行かなくてはならない。

 いろはに光一パパの救命を代わりたいが、

 動揺しきっていて、使い物にならない。

 

 だが、そこで名乗りを挙げたのが、“由比鶴乃”だった!

 

 フェリシアは、光一パパの救命を、鶴乃に託すと、

 まず、「光一パパを轢いた車の運転手」の下へ駆ける。

 意識はあるが、顔は蒼白、呼吸が困難な様子だ。

 

「外傷性気胸か……!?」

 

「折れた肋骨が肺を傷つけて、そこから漏れた空気が胸腔内にたまって肺が膨らまなくなってるんだ……このままじゃこのおっちゃんも死ぬぞ!」

 

 そう判断したフェリシアは、

 車の中から、『ライター』と『折り畳み傘』を見つける。

 そして、折り畳み傘の柄を、へし折り、

 尖った部分をライターで炙ってから、運転手の右胸に刺した!

 

「胸腔ドレナージだ。肺を刺して、空気の逃げ道を作ってやった」

 

 つまり、運転手の命は、これで助かったのだ。

 そして、光一パパの方も、鶴乃がAEDを使い……

 

「こう……いち……」

 

 無事、意識を取り戻したのだった。

 

 

 その後、救急車と警察、やちよ達魔法少女も駆けつけ、

 事態は無事収束。

 

 死者は無し。

 重症を負ったのは、

 『光一パパ』と、

 『光一パパを轢いた車の運転手』だけで済んだ。

 

 つまり、フェリシアの迅速かつ的確な対応で、

 交通事故の被害は、最小限に抑えられたのだった。

 

 

 その後、フェリシア、いろは、鶴乃の三人は、

 光一パパの搬送先である、神浜総合病院まで見舞いに行く。

 光一パパは無事のようで、親子は和解した。

 

 そして3人は、病室前で、光一くんと会い、

 

「にーちゃん、ねーちゃん達! 本当にありがとうっ! オレもう絶対にあんなこと(※死ねとか)言わないよ!」

 

「そーか。約束するって誓えるか?」

 

「うん、ちかうよ! ()と男の約束は永遠だろ?」

 

「だからちげーっつの……」

 

 なぜかずっと男と間違われているが

 フェリシアは、光一くんと、指切りで約束する。

 

「ねーちゃん達、とーちゃんを助けてくれて、本当にありがとう!」

 

 そして、感謝の言葉を伝えられて、

 三人は心から安心するのだった。

 

 

 

 

FILE #60

 

 一週間後。

 神浜消防署本部にて、

 フェリシアは、先日の人命救助の表彰を受けた。

 

 その様子を、遠くから監視して、

 彼女の雇い主である紅羽根は呆れる。

 目立ってどうする、と。

 

 だが、同業者のジュンは、これも手段の内だという。

 『七海やちよ暗殺計画』……

 彼女達が企てた、恐ろしい計画を、より確実に成功するための。

 

「善い事を積み重ねれば、勝手に信頼って生まれるんだよ。組織の人間は上も下も関係なく、自分に付いてきてくれる。そこで、何かを変えたって誰かを排除したって気づきゃしない。それも組織にとって必要なことだろうって勝手に思ってくれるんだから。時に赤羽根。君はプラトンの思考実験を知ってるかなー?」

 

「完全に正しい人間と、完全に不正な人間、その二人を法律や社会の制約が一切関与しない状況に置いたらどうなるかっていうの。結果は、完全に不正な人間の勝ち。誰にも不正を暴かれることも責められることもなく、皆から最大の正義(スゲーこと)したよなアイツって評価されたんだって」

 

「フェリーをみてごらん。あいつこそ不正の塊だってのに、この街の社会(ルール)に自分を沿わせて最大の正義(人命救助)を成し遂げちゃった。もうあいつを疑う奴は()()()()()んだ」

 

 

 その夜。

 みかづき荘。

 またも無断でいろはの部屋に居座るフェリシア。

 

「いろはって本当にかてーよなー。何でも受け入れた方が楽なのに」

 

「私はフェリシアちゃんみたいに器用じゃないの。根っからのぶきっちょなの。知ってる癖にっ」

 

「そんなに真面目な自分を褒めてほしいのかねー? でも現実見ろよ。オレの方が評価されてるだろ」

 

 相変わらず、いろはを煽りまくるフェリシア。

 頭に来たいろはが言い返そうとするも……

 いろはのベッドで、ぐっすり眠ってしまっていた。

 

「フェリシアちゃーん。ここは私の部屋だよー! 起きて―!」

 

「むにゃむにゃ……やるかーサチー

 

「ぅげっ!! げほっ! ゲホッ!!」

 

 起こそうとするいろはだが、

 寝ぼけたフェリシアの『地獄突き』が、喉に炸裂!

 命の危険を感じたいろはは、

 フェリシアを、そのままベッドに寝かせることにした。

 

 だが、そこでフェリシアが、

 

 

 『“I'm a fox”』

 

 

 寝言でそう呟く。

 

 その英語の意味が気になりつつも、

 いろはは、自分の机に頭を伏せて就寝するのだった。

 

 

 

 

FILE #61

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()――――

 

 夢を見た。

 いろはは“いつもの”病室で最愛の妹・ういと再会する。

 声を掛けようと近づくいろはだが、

 

「たまき。君は、本当に、その先へ行くつもりかい?」

 

 “夢でよく見る姿”のねむに、呼び止められる。

 

「そこにあるのは……“闇”だ」

 

「ジークムント・フロイトの言葉だ。『夢は現実の――――」

 

 鬼気迫る様子のねむ。

 まるで、ういに近づいてはならない、と警告しているかのよう。

 しかし、いろはは止まらない。

 

「表出であり、想像の産物ではない』だね。知ってるよ、ねむちゃん。でも私、ういに触れたいの。例え夢の中だとしても、ういに会えるのはこの時しかない。ねむちゃんが止めたい気持ちも分かるけど……今だけは、私の好きにさせてほしい」

 

「そこまで言うのなら、僕にもう、君を止める権利は無い。でもたまき。これだけは頭の片隅に留めておいて……

 

 ――――真実はいつも、君の心を強姦し、踏み躙る」

 

 

 

「この街に住む人達に支えられて、ようやく私は一歩を踏み出せた。お父さんが伝えてくれた、大賢者様と会えるきっかけもつかめた。いつまで掛かるのか、分からないけど、確実にういに近づいてる気がするの。

 だからうい、もう少しだけ待ってて。お姉ちゃん、必ず貴女を取り戻すから」

 

 ういに近づき、そう声を掛けるいろは。

 しかし、ういからの返答は、冷酷なものだった。

 

「うそつき」

 

「私のこと、何も知らない癖に」

 

「私がこうならなかったら、心配しなかったんでしょ?」

 

「お姉ちゃんはいつもそう。口から出るのは、綺麗な言葉ばっかり」

 

「まるで、童話の主人公みたいだね」

 

 

 

 夢の景色が変わる。

 そこはまるで、深いトンネルのような。

 暗闇に閉ざされた世界だった。

 

 何故か、いろはは白衣を着ていた。

 そこで、薄着の少女と出会う。

 彼女が抱いているのは、“生まれたばかりの赤ん坊”。

 

 直感で、二人は親子だと気づくいろは。

 そして、赤ん坊が誕生したのは、

 恐るべき人体実験の成果であった事も……

 

「この子は、生きている。未来がある」

 

「自分の人生を自分で歩むことができる。私はもうダメですけど……この子には私の分も幸せになって欲しいんです」

 

「人間は皆、生まれた時にその権利が与えられているはず。そうですよね? たまきさん」

 

 だが、我が子の幸福を祈った母親の希望は、打ち砕かれた。

 他ならぬ、“いろは自身の手”によって。

 

 

 ―――――殺せ。たまき。

 

 ―――――その子は、この世に必要の無い人間だ。

 

 ―――――ゴミは散らかした者が片付けなくては。

 

 ―――――だから、お前の手で処分するんだよ、たまき。

 

 白衣の女の声に従い、

 いろはは、怯えながらも、

 毒入りの注射を、赤ん坊に打った。

 

「やめてぇっ!!殺さないでぇっ!! その子は私の」

 

 止めに入ろうと、駆け付けた母親が銃で撃たれる。

 血に塗れる母親=“かすみちゃん”に、

 何度も懺悔するいろは。

 

 そこで目が覚める。

 

 

 

 翌日。

 

「……あの、私、起きたらフェリシアちゃんに一番に聞きたいことがあって」

 

「……奇遇だな、オレもいろはに聞きたいことがあったんだ」

 

 二人はお互いに顔を合わせるなり、

 同時に問うのだった。

 

「あなたは」

 

「オマエは」

 

 

「「何者?」」

 

 

 

 

FILE #62

 

 いろはは、

 フェリシアの寝言、『“I'm a fox”』の意味を尋ねるが、

 教えてくれなかった。

 

 そして、フェリシアは、

 

()()()ちゃんって誰だ?」

 

 いろはが寝言で呟いた、

 謎の人物のことを尋ねる。

 

 だが、「かすみちゃん」は、

 いろはの“記憶に無い筈の”人だった。

 それなのに……

 

「だけど、私はその子に、凄く酷い事をした気がするの」

 

「……見捨てたとか? ……まさか、殺した?」

 

「……もっと、酷い事をしたと思う……」

 

 フェリシアは、不可解に思いながらも、

 冷たくこう返すのだった。

 

「いろは……オメー、やべえ奴だな」

 

 

 その日の11時頃。

 みかづき荘に訪れた鶴乃によって、

 フェリシアの表彰を祝う『餃子パーティ』が、

 開かれることに。

 

「実は、ウチで新しいサービスを始めることになってね。ほら、最近病気持ちのお年寄りのいる家庭って多いでしょ? たまには外食に行きたいけどお爺さんとお婆さんが心配で~……ああ、でも中華料理作るのメンドー……デリバリーよりも出来立てをたべた~い……そんなお悩みをお持ちのアナタ! この由比鶴乃ちゃんにおまかせ! アナタの家で好きな中華料理を作ってあげちゃいます!」

 

 つまり、

 『せっかくだから、万々歳の新サービスのモデルになってくれ』、

 という訳であった。

 

 

 こうして、餃子パーティが開催。

 皆で楽しく餃子を作っては焼き、食べて……

 楽しい時間があっという間に過ぎていく。

 

 いろはは、お腹いっぱい食べて動けなくなり……

 

 やちよは、70個食べてもまだまだイケそうだったり……

 

 みたまが、ゲテモノ餃子をまさらに食わせたり……

 

 そして、鶴乃とフェリシアは、

 『どちらが餃子を先に60個作れるか』勝負。

 勝敗は、僅差で鶴乃の勝ち。

 フェリシアに下される『罰ゲーム』は……

 

「デザート作ってきて!」

 

「おいおい、そんなんでいいのかよ?」

 

「あはは! だってこのパーティはボウズを祝う為に開いたんでしょ? 主役を不快にさせちゃ仕掛け人失格だよ」

 

 仕方ないので、食後のデザートを作りに、

 キッチンへと向かうフェリシア。

 ついでに皆に頼まれた飲み物も作る。

 

 まずは、やちよに頼まれたコーヒーを作る……が!

 

 

「チェックメイトよ、子狐ちゃん」

  

 

 “毒入り”の、

 コーヒーフレッシュを入れたところで、やちよに気づかれる。

 

 慌てて攻撃するも、

 あっという間に、武術を仕掛けられて、

 床に倒されてしまうフェリシア。

 

「巧妙に心理学を応用して私達の虚を付き、油断してる所で一気に仕掛ける。大したものね」

 

「順調に事を進めたつもりのようだけど、迂闊だったわね。幾つものミスが、ヒントとなって私にこの答えを導かせた」

 

 実は、

 やちよは、とっくに気づいていたのだった。

 

 フェリシアの目的と、その正体に――――!!

 

 

 

 

FILE #62.5

 

 

 ・警察内に魔法少女部隊創りたかったけど、色々うるさい人達(※主にフェミニスト団体)が騒いだせいで無くなったよ!

 

 ・ゴタゴタの後に、神浜市役所内に魔法少女による治安維持部隊できたよ!みんな不安だよ!

 

 ・やちよさんの功績によって今は世間に受け入れられてるよ!やっぱり英雄は偉大だね!

 

 要は、こんな話……。

 

 

 1か月前。

 (いろはがフェリシアと出会うよりも前)

 

 神浜市警察署にて、

 七海やちよは、塚内直正警部と話し合っていた。

 

 元チーム・アメノハバキリのメンバーだった、

 深月フェリシア(当時・解雇済み)について、

 不審な点があったからだ。

 

 

  おまえに

  れいがいいたいんだ

  はっきりいって、おれにはちあんいじぶは むいてない

 

  こどもみたいな いいわけしたけど あえてかくよ

  きょうは どうもありがとう

  つまらないことばで ごめんなさい マジョやワルいやつらはおおいから

  ねくびかかれないように きをつけてね

 

 

 まず、世話役を任された、夏目かこに残した置手紙。

 頭文字を、抜き出すと……

 

『おれは こきつね』

 

 となる。

 この意味を、塚内側で調査して欲しいと、依頼するやちよ。

 塚内は、裏社会に詳しい刑事にお願いするという。

 

 他にも塚内からの情報提供で、

 大阪市のアウトロー系魔法少女チーム・

 『タイガーファング』のリーダー・苅田(かんだ)紗理奈の

 失踪にも、深月フェリシアが関わっているかもしれないと……

 

 

 

FILE #63

 

 

 塚内から情報を先に得ていたことで、

 やちよは、最初からフェリシアを警戒していた。

 

 ・『メラビアンの法則』

 ・『初頭効果』

 ・『親近効果』

 ・『ランチョン・テクニック』

 ・『ハロー効果』

 

 よって、フェリシアの今までの行動も

 全て、みかづき荘の皆を油断させる為の、

 “心理学的手段”だと看破!

 

 他にも調子に乗ったフェリシア自身の、

 迂闊な失言もいくつか有り……

 やちよは、フェリシアを『クロ』と断定したのである!

 

 彼女の正体は、七海やちよを抹殺するために送られた、

 “殺し屋”だった!

 

 フェリシアは今、

 やちよに抑えつけられて動けない。

 このまま、観念すると思われたが……

 

 

「よし、第2ラウンド」

 

 

 なんと、反撃に転じる!

 やちよの拘束から抜け出すと、“真の姿”を顕す!

 

「クッ……クックック……クククククククク……!!」

 

 ぐきりっ

 ごりごりっ

 ばきっ

 

 めきめきっ

 ごきんっ

 

 フェリシアの身体が大きく“成長”する。

 

「驚いたか。固有魔法の応用さ。テメーらに取り入る為に……二年間の記憶を消した。で、誕生したのが、クソガキのオレってワケだ」

 

「完全にはいかなかったようね」

 

「まーなー。ちょくちょく本来のオレに戻してやらねーと、あのままになっちまうからよー。骨が折れんだわ、アレ。……本当のオレは花も恥じらうフィフティーンよ」

 

「狙いは、私ね」

 

「おうよ。テメーを()れば、3億やるって言われてな」

 

 だが、実力はやちよの方が上。

 暗殺は不可能と判断したフェリシアは、別の手を打つ。

 

「ニトログリセリンを知ってるか?

 そいつを大量に積んだドローンをこっちに向かわせてる。数は25機。テメーを殺れねえなら、ここをブッ潰すまでだ」

 

 

 

 

FILE #64

 

 深月フェリシアが油断していた点は以下の4つ。

 

 1.明京町警察署を無能と見做し、眼中に無かったこと。

 (実際は塚内と市警察本部長が、腕利きの刑事二人を配属させ、スラム街の調査に当たらせていた)

 

 2.やちよは自分を『悪ガキ』としか見ないだろうと踏んでいた事。

  (『おれは こきつね』という謎の文章、大阪市内のカメラに映っていた金髪の少女――これらの情報をやちよは既に警察から入手しており、最後まで警戒は解かなかった)

 

 3・度々やちよ達との会話の中で失言していたこと。

  (フェリシアがうっかり口を滑らせた事でやちよ達は、『フェリシアが無知を装っている』と気づき、彼女を送り込んだ黒幕の存在にも気づけた)

 

 4・寝言で『おれは こきつね』と言ってしまった事

  (それは「スー族戦士の歌」であり、『傭兵』――その中でも「稼ぎ頭(メカニック)」と呼ばれるスペシャリストたちの間で交わされる“合言葉”だった!)

 

 

 しかし……

 フェリシアの自信は揺らがない。

 既に、勝利を確信していたからだ。

 

「世界一強い海の生物を知ってるか? それは鯱だ。一匹だけなら鮫の餌だが、群れれば鯨だって殺せる」

 

「孫子も書いてたが、戦いは個人の能力じゃなく全体の勢いだ。空から降り注ぐ数の暴力にどう対処する?」

 

 既に「ニトログリセリン」のタンクを積んだ、

 飛行型ドローンが25機、みかづき荘に迫っている!

 やちよは家の中で、フェリシアを抑えるのに精いっぱい。

 よって、いろはに託す。

 

「あの子はやると言ったらやる女よ。だって私より強いもの」

 

 

 みかづき荘2階・ベランダ。

 

 ドローンを迎え撃つ為、クロスボウを構えるいろは。

 とても緊張するが、いつもの調子のピーターに励まされ、

 リラックス。

 

 そして1機、撃墜に成功。

 

 ピーターもライフルを構えて、

 反対側のベランダに向かおうとするが……

 

<はいはーい。そこまでー>

 

<動いたら首がぴっ!って飛んじゃうよー?>

 

 『ダイバースーツを着込んだジェイソンマスク』

 (=伊月ジュン)が襲来!

 

 いろはと、ピーターの首に鋼鉄製のワイヤーを括り付け、

 脅迫する!

 恐怖に怯え、硬直するいろは。

 その間にも、ドローンは近づいてきている……

 だが、

 

『いろは。気にせず、貴女はドローンを狙って』

 

 魔法で透明になった加賀見まさらが、

 ジェイソンマスクに肉薄。

 そのまま攻撃して抑えつける。

 

「ピーターさん。ここは私に任せて」

 

「分かったわ。でも、無理はしないこと。自分の命を最優先すること。危なくなったらこころちゃんを思い出すこと。あとは……」

 

「市長にいつも言われてるので言う必要は無いです」

 

 拘束から逃れた、いろはとピーターは再び、

 ドローンを撃墜するのだった。

 

 

 みかづき荘、屋上。

 ジェイソンマスクと真正面から戦うまさら。

 しかし、

 

<良いねー。透明って。やりやすくて助かるよー>

 

<何でこう分かりやすいんだろうねー?>

 

<魔力とかー、殺気とかー、気配とかー……刺さるんだよ。全部>

 

 透明魔法を活かした不意打ちを仕掛けるも、

 ジェイソンマスクには、全て見破られてしまう。

 首を掴み上げられ、絶体絶命のまさら。

 

「時間は……稼げたから……!」

 

 しかし、その口元は、笑っていた。

 

 2人が戦っている間に、

 いろはとピーターは、ドローンを全て撃ち落とした。

 まさらは、自分たちの勝利を確信。

 しかし……

 

<よし、フェリー。第3ラウンド>  

 

 

 

 

FILE #65

 

「よし、プランをBからCへ移行すると奴らに伝えろ」

 

 フェリシアの『プランB』

 (=飛行型ドローン郡による襲撃)を潰したやちよ達。

 

 だが、フェリシアは『プランC』に作戦変更。

 

 それは、紅羽根(=双樹ルカ)が用意した兵隊=黒羽根達に、

 「ニトログリセリン」のタンクを抱え込ませ、

 みかづき荘へ、自爆特攻を仕掛けさせる……というもの。

 

「奴らが全員到着するまで5分。

 それまでにオレは……完全勝利を目指す!!」

 

 フェリシアがやちよに肉薄。

 最後の賭けに出る。

 

「英雄の弱点……それは、自分以外の命だ」

 

「七海部長……!」

 

「おーっと動くなよ。このババアの脳みそが飛び散るぞッ!」

 

 やちよの隙を突き、

 隠れていたみたまを捕らえ、人質に取るのであった。

 

 

 

 一方、みかづき荘の屋上でも……

 

<“これ”の切れ味はさっきおしえたよねー? 動いたらバラバラのグチャグチャだよー?>

 

 いろは、ピーター、まさらの3人は、

 ジェイソンマスクに命を握られていた。

 全員、首に鋼鉄製のワイヤーを括り付けられ、絶対絶命。

 

 あと、頼れるのは、由比鶴乃のみ……

 その鶴乃はというと……

 

 

 

「ちゃっちゃーっ!!」

 

 “遊撃役”として、

 外から庭に侵入してくる黒羽根達を、各個撃破していた。

 だが……

 

「……こちら【ウソツキ】……こちら【ウソツキ】……頸椎損傷の為……作戦行動不可能……。メンバー全員との通信断絶……作戦失敗……“匿名希望”指示を……“匿名希望”指示を………………」

 

「なんなのこいつら……!?」

 

 攻撃を急所に受けて、倒れたというのに。

 まるで『機械』のように、無表情、

 無機質な声で、淡々と状況解説する黒羽根の様子に、

 鶴乃は動揺する。

 

 

 ……と、そんな鶴乃の前に、

 新たな黒羽根が一人、現れる。

 

「……あんた、名前は?」

 

「無いわよ。知ってる癖に」

 

 他の黒羽根とは、明らかに雰囲気が違う。

 会話も可能だ。

 鶴乃は、彼女がリーダー格:『匿名希望』だと判断する。

 

 先手必勝、鳩尾を狙う鶴乃!

 しかし、拳が当たる直前――

 

「戦う行為は止めなさい。私と貴女とでは次元が違う」

 

 0.1秒にも満たなかった。

 『匿名希望』は、鶴乃の背後を取り……

 後頭部に銃口を押し付けて、脅すのであった。

 

「私は貴女と戦う事を()()()()()()

 

「由比鶴乃。貴女は自分の人生を悔やんだことは無い? 大切な人を失って、罪の意識を感じたことはない? 貴女と私は似ている」

 

「取引をしましょう。これから一か月に一度、直接会って、お互いの組織の情報を交換するというのは……どう?」

 

「どうって……?」

 

「安心して。私と、私のチームは、貴女が大切にしている人達には手を出さない。必ず……救済する」

 

 

 『匿名希望』の目的は、

 

 『七海やちよの抹殺』でも、

 『みかづき荘の爆破』でもなく……

 

 『由比鶴乃を脅し、“メッセンジャー”として利用する』

 こと……

 

 

 目的が完了した『匿名希望』は、

 倒れていた黒羽根達を“再起動”。

 彼女を引き連れて、去っていくのだった……。

 

 

 

 そして、みかづき荘の屋内。

 やちよと、フェリシアの睨み合いも佳境に入っていた。

 

「フルニトラゼパム」

 

 みたまを解放する条件として、

 “毒入りコーヒー”を飲むよう、促すフェリシア。

 躊躇わずに、やちよは飲み干す。

 

 と見せかけて……実は、

 

 飲み込んでいなかった!

 フェリシアがみたまに気を取られた隙を見て、

 口に含んだままの“毒入りコーヒー”を「ぷっ」と、

 吹き出す。

 

「あっ? ……げぁっ!!」

 

 “毒入りコーヒー”は見事、フェリシアの口の中に入り込む。

 喉の奥に入ってしまい、激しくむせる。

 その隙を突き、

 

「お返しっ!!」

 

 みたまが“脇固め”を決めて、フェリシアを床に抑え込む。

 そして、ソウルジェムに触れて、“意識を飛ばす”。

 

「ソウルジェムの魔力抑制。うまくいったわ」

 

 

 こうして、

 マギウスの翼と、傭兵達による、

 『七海やちよ暗殺計画』は……

 

 主犯格のフェリシアが失神、拘束されたことで、

 他の実行犯達も、退却。

 

 事態は無事、収束したのであった。

 

 

 

 

FILE #65.5

 

 撤退した『匿名希望』は、

 報告するついでに、紅羽根に確認する。

 

「紅羽根、貴女も解放を信じているのですか? プロフェッサー・マギウスが思い描く、我らの未来を……」

 

 紅羽根は、それらに関しては、別にどうでもいい様子だった。

 そして笑って、こう答える。

 

「……最後に、笑えば良いと思ってます」

 

「……笑う?」

 

「結果的に、私自身が利を得れば、それで良いのです」

 

 それは、『匿名希望』も、

 彼女の駒である『黒羽根』達も同じだと、指摘する紅羽根。

 

 彼女の真意は、誰にも分からない……。

 

 

 

 そして、『匿名希望』もまた……

 

「どうして七海やちよを殺さなかった?」

 

「みかづき荘の破壊は貴女の望みでは無かった筈」

 

「…………」

 

「安心しなさい。必ず機会は与えるから」

 

 直属の黒羽根達を利用しつつ、

 自らの目的の為に、行動するのであった。

 

 

「今日のラッキーカラーは、『オレンジ』だったわね?」

 

 

 

FILE #66

 

 ※ここでざっくり解説! 『賢者』って何?

 

 魔法少女の中でも、

 特に秀でた魔力の持ち主&老齢の人の俗称だよ!

 一般人の知らない、“秘境”に住んでるらしいよ!

 

 国際連合加盟国では、各政府が極秘裏に【賢者】と会って、

 主要機関に結界を張って貰っている、らしいよ!

 

 

 

 深月フェリシアの身柄は、

 『ミラーズ:B-29』と呼ばれる場所に、収容されていた。

 やちよと、みたまに取り調べを受けている。

 

・自分は傭兵稼業をしている魔法少女だということ。

 

・ヒッチハイクで日本中を旅していたこと。

 

・各地域で、縄張りを持つ魔法少女チームを撃退していたこと。

 

・『アステリオス』という異名が付けられたこと。

 

・神浜に帰った時に、『赤羽根』と名乗る魔法少女から声を掛けられ、彼女の『主』の前へ連れて行かれたこと。

 

・その『主』から、七海やちよの抹殺、或いは再起不能を依頼されたこと。

 

 以上のことを語るフェリシア。

 

 ちなみに、

 『アステリオス』はギリシャ神話のミノタウロスの異名。

 『男をなぶり殺し、女を陵辱し快楽の限りを貪る怪物』である。

 

 そして、

 各地域で魔法少女を襲っていた理由も……

 

『巴マミが正義の味方であれたのは、奴が確固たる『正義』の信念を持っていたからだ。……だが、他の連中にはそれが無かった。奴らは正義の味方になりたかったんじゃねえ。“貴方は正義の味方ですよ”って言ってくれるカバン持ちと、名声が欲しかっただけ。浅ましいもんさ。

 

 半端もんが身の丈に合わない理想を抱いて突っ走ったらどうなるか……七海やちよ、オメーなら分かるよな?』

 

『いわしてもらうが。

 オレが日本中を旅して、魔法少女共を潰し続けたのは、あいつらに世の中の不条理をわからせたかったからさ。

 

 安定した裕福な家に育っても、お優しい仲間に恵まれても、オレみたいなクソガキに……、10分……いや、5分足らずで簡単に壊されちまう! それが魔法少女の現実だ!! よ――――っく覚えときなっ!!』

 

 

 ※ここでざっくり解説!巴マミって誰!?

 

 『伝説の魔法少女』と呼ばれていた人だよ!

 正義のヒーローそのもので、日本中の魔法少女の憧れだったよ!

 『ピュエラ・マギ・ホーリー・クルセイダーズ』という自警団を率いていたよ!

 でも、ある日突然解散して、失踪しちゃったよ!

 

 巴マミの失踪後は、

 各地の魔法少女達が、巴マミの後継者となるべく、

 詩人逮捕系動画配信者みたいなことをし始めて、

 問題になったよ!

 

 フェリシア達は、そんな調子づく連中を、

 片っ端から、ギッタギタにしていったんだよ!

 

 

 話を聞いた後、

 やちよは、フェリシアに、自分の殺害を依頼した、

 雇い主のことを尋ねる。

 

『若い奴じゃなかった』

 

『喋り方とか、発声のリズムとか、息遣いのタイミングが、完全にジジイのそれだ。年齢は……そうだな。60~70って所かな?』

 

 そう言ったあと、

 煮るなり焼くなり、と自分の処分を求めるフェリシア。

 そんな彼女に、やちよが下したのは……

 

 

「深月フェリシア。貴女を正式に治安維持部の一員として迎え入れます」

 

 

 まさかの犯罪者を、公務員に迎え入れるという、

 この発言に、フェリシアはビックリ仰天。

 しかし、やちよには、

 フェリシアを迎え入れたい理由があった。

 

 ・“裏社会”を知り尽くした人間が必要。

 

 ・フェリシアの能力は、総じて、非常に高い。

 

 また、交通事故の際、

 とっさに、光一パパの救助に向かったのも、

 やちよが気に入ったポイントだった。

 

 フェリシアは悪党。

 その心に“正義”は無い。

 しかし、強い“信念”を持っているのは間違いないと。

 

『事故の直前に、あの子を叱ったそうね、「お父さんに謝れ」って。……それは、どういう意味?』

 

『家族同士で傷つけあう様子を、親を失って哀しむ子供の姿を、二度と見たく無かったから、違う?』

 

 そして、フェリシア本人も、あの時。

 光一くんと光一パパを助けたかった気持ちは、

 本心だった。

 打算ではなく……

 

『今、貴女の中で、人から素直に感謝を伝えられる事が、お金を貰う喜びよりも勝ったのなら……治安維持部で働くことは決して悪い話では無い筈』

 

『あの子、信じてるのよ、貴女の事を』

 

『貴女がこれからも自分達を助けてくれる、良いおねーちゃんだって。だから私も、貴女があの子を裏切るような真似は決してしないと、信じる』

 

 やちよはフェリシアの良心に訴えかける。

 フェリシアは、そんなやちよを、嘲笑するように嗤いながらも、

 入職を決意するのだった。

 

 

 

 

 ――――予定とは違ったが、狙い通りだ。

 

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、やちよは知らなかった。

 治安維持部の入職も、『フェリシアの目的の内』だった、

 ということに……




約10万字が、18000字にまとまっているので、
多分ざっくりまとめられたはず。

18000字……?
ざっくりとは……?
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