魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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FILE #48.5 童謡


 

 

 

 

 

 

 

 ――――紅晴邸・玄関

 

 最後の日。

 荷物を抱えて帰る二人を、大親分と光琳が見送ってくれていた。

 

「では、またのお越しをお待ちしているでありんす」

 

「七海さん、夕霧さんにはよろしくお願いいたしますわぁ」

 

 二人はそう言いながら、深々とお辞儀する。

 

「御二方、本当にありがとうございます」

 

 やちよはペコリ90度、頭を下げて謝礼する。

 

「……ところで七海さん」

 

「何か?」

 

 顔を上げた結菜の顔は笑みを浮かべているが、固く感じた。

 妙な気配を察したやちよに、僅かな緊張感が宿る。

 結菜がゆっくりと、その幼子のように小さな唇を上下させた。

 

 

――――“クレハ ソウヨウ”――――

 

 

 と。

 

「……?」

 

「この名前に、心当たりはあるでしょうかぁ?」

 

 聞いたことの無い名前だ。

 ――――だが。

 結菜の隣の光琳を見る。笑顔だが、目が刃物の先端の様に瞬いている。

 次いでめぐみを見る。無表情だが、その眼は赤く滾り、強い嫌悪感を示しているようだった。

 やちよは結菜に顔を戻して尋ねる。

 

「クレハ……ご親戚の方ですか?」

 

「いえ、彼女(・・)は“もみじ”と書いて“紅葉(くれは)”と読みます」

 

「……ごめんなさい。わかりません」

 

 結菜は笑顔だが、その炯眼の奥には灼熱が渦巻いていた。

 

「……そうですかぁ。なら、頭の片隅に留めておいてください」

 

「え?」

 

 何故――――と問いかけることは憚られた。

 結菜の熱を帯びた瞳が、これ以上その名の持ち主に関して話すことは無いと、強く訴えていた。

 だが、最後に、これだけを伝えてきた。

 

 

「……もし黒い着物を着た、小さな狐顔の女を見つけたら、絶対に正面から向かわないでください」

 

 

 結菜の瞳が強いプレッシャーとなって、やちよの精神を圧迫する。

 二木市の絶対者たる大親分にそこまでの激情を齎す人物とは、一体何なのか。

 やちよも、人々を守る魔法少女だ。これだけは、問い質さねばならない。

 

「……その方は、一体何者(・・)なんですか?」

 

「彼女は――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――二木市駅 新幹線ホーム

 

 気がかりなことはある。

 しかし、やちよは神浜市の人間だ。地元で成し遂げなければならないことは多い。

 大丈夫だ、と心に言い聞かせる。

 大丈夫だとも、この街の魔法少女は強い。陛下も、大親分も、樹里さんも、笠音さんも、歴戦の手練れが勢揃いだ。

 だから、なんとかできる筈――――。

 

 新幹線が止まった。

 目先の扉が開け放たれて、入ろうとした矢先だった。

 

「……っ?」

 

 息が止まるかと思った。

 扉から一番に飛び出た乗客を見た瞬間――――衝撃。

 

「♪ まちぼうけー まちぼうけー ♪」

 

 

 

 ――――黒い着物を着た、小さな狐顔の女に、気を付けて――――

 

 ――――名は “クレハ ソウヨウ” ――――

 

 

 一瞬。

 時間にしてはごく僅か。だが。

 ドクン、と――――心臓を鷲掴みにされたような感覚が、猛烈に襲いかかった。

 全身から一気に血の流れが引いて手足の末端から急速に冷えていく。

 “彼女”はやちよとすれ違うと、そのまま走り去っていく。

 我に返った後に、慌てて振り向くが――――もういない。

 

「……っ」

 

 罪悪感が一挙に心を重圧する。

 

 ――――“彼女”を、見過ごしてしまった。

 

 これから二木市に何か重大なことが起きるのではないか。

 自分は、とんでもない過ちを、たった今、犯したのではないか。

 

 

 

 

 

――――彼女は  “鬼”  です―――――

 

 

 

 

「行かなきゃ……」

 

 だが、やちよの目線は再び、新幹線の扉へと向かった。

 自分には、やらなければいけないことがある。

 だから、いつまでも、後ろを振り向いてはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪  そこへ うさぎが とんできて~~~

 コロリ転げた木の根っ子  ♪」

 

 

 黒い着物姿の女性が口ずさんだ歌は、灰色に濁った曇天に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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