魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
――――2018/07/18(土) PM13:40
――――兵庫県・二木市・郊外
――――相徳寺・墓地
「息災で何よりだ。紅晴結菜」
透き通るような声が突然聞こえてきて、結菜は瞠目した。
ニタニタと笑みを浮かべる狐顔の小さな喪服姿の女――
「あ、貴女は…………!!」
衝撃のあまり、結菜は絶句する。
聞き覚えのある声。見た事のある端整な相貌。女性として見るに一切の非の打ちどころが無い麗人は、然し男性的な凜とした足取りと勇然とした雰囲気を纏いて、結菜の前に参上した。
一陣の風が舞い、その前髪が微かに揺れ動いて、隠れた右眼を露呈させる。
右眼は眼帯で覆われていた。
直感で“魔法少女”の結菜は悟る――――
あれは、傷ついた眼を保護する為に付けた装備ではなく、
「なっ……何故、どうして、貴女が……!」
「クカカカ……!!」
思考が定まらない結菜に向けて、双鷹が不気味な笑みを響かせる。
「そこにおわす御方こそ、我等が主……」
「主……!?」
双鷹の言ってることが、全く理解できない。
白装の麗人が、彼女の言葉にフッと笑みを浮かべる。
違う――――と結菜は思った。
自分は昔、彼女と会ったことが有る。
彼女はこんなにも禍々しい雰囲気を纏う人間では無かった。
その見た目通り、清廉潔白を体現していた彼女。
自分が知るどの魔法少女よりも、強く、気高く、立ち振る舞いや同性の自分でさえ見惚れる程の美麗さ。戦い方に魅了された。
正義を追求して止まず、世界の平等と公正たる社会を目指し、平和を願い、突き進もうとする姿勢は、正に物語の“ヒーロー”そのもので、胸を打たれたのを覚えている。
そう。覚えているのに――――今も自分は、“あの頃”の貴女を目指して――――!!
「久しぶりに会えたのに、挨拶も無しか。残念だ」
「……クッ!」
迷ってる暇は無い。
結菜は瞬時に
奴等を野放しにしておくのは、拙い――――!!
開掌した手を真っ直ぐ、虚空に伸ばす。
自分が犯罪者となる覚悟はできていた。身がどうなろうが構わない。その前に、この二人を此処で止めなければいけない!!
「無駄だ」
しかし、白装の麗人は、微笑を浮かべたまま――――指を鳴らした。
「!? あっ……!」
二人の首を捩じ切り瞬殺を企てた結菜の狙いは、刹那に砕かれた。
伸ばされた右手が、“見えない何か”を掴んだ瞬間――――結菜の全身が脱力する。がくりと膝が折れ、四肢が地面に這いつくばる。
これは、まるで、
「一度技を掛けてやったことがあるだろう? あれと同じだ。要は、『合気』の応用だよ」
「くっ……! ……!?」
白装の麗人が微笑を浮かべたまま、結菜に近づいてくる。
拙い! 拙い! 急いで拘束から脱しなければ、喰われるのは自分だ。
這い蹲ったまま、結菜は精一杯体中に力を込める。全身に魔力が行き渡る様に意識して。
「っ!? あ…………っ」
しかし、全く動けない。
両手の指も、両脚の指も、動かそうにも蟻の一歩にも達しない。
寧ろ逆で動けば動く程、脱力感は増していく。まるで体から開放された力が空気中に霧散してしまったかのように。
「結局、君は」
結菜の無様な姿を嘲笑うかのように。
麗人が眼前で止まり、しゃがみ込んで、彼女を見下ろした。
クイと顎を持ち上げ、微笑を浮かべた美貌を近づけて、ゆっくりと耳元で囁く――
「
――悪魔の言葉を。
「
違和感を覚える結菜。
だって彼女は、彼女の一人称は――――
「あの時と、同じようにね」
「…………一体何が……何が、あなたを…………っ」
「双鷹」
「はいはい」
説明してやれ、という意図で麗人は、後ろに立つ狐顔の女に目をくれた。
ニッと嗤いながら――這い蹲る結菜への嘲笑も込めて――双鷹は語り始める。
「
「目覚め…………?」
説明という割には、あまりにも簡潔そのもの。
故に、全く意味が分からなかった。その言葉も、自分の身に起きたことも、特に、白装の彼女のことも。
「頭が混乱しとるようですのー。でもね、一度深呼吸して、現実をよーく、よぉーく見なされよ」
ウキウキと高揚のあまり上ずっていた口調が、
「全てそこにある……おどれがそうしておる……。それが答えじゃ」
突如低く、脅すような声色に変貌する。
結菜は言われるがまま刮目し、
『悪魔』と化した正義の味方がいる――――
後ろで残忍に嗤う『鬼』がいる――――
そして、その二人の前で、土下座する自分が居る――――。
「あっ…………」
愕然と、結菜は目を見開いた。
白装の麗人が立ち上がり、昏い妖気を携えた眼帯の右目が結菜を見下ろす。
その隣に、紅葉双鷹が並び、嗤いながら語り始める。
「孤独を浮遊しても迷路からは帰れない。そう……これは結菜さんの望みでもあった筈じゃ……。全ては『リユニオン』の理想の為に――」
向かってゆく世界は手ごわい。
神になど任せられない。
故に、人々には必要なのだ。
彼女も、紅葉双鷹も渇望した。
導を、象徴を。
全てを救済すべき偉大なる“英雄”を。
過去と、現在。
時と場所は違えども、魁物に仕えるそれぞれの従者達は、高らかに宣言した。