魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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FILE #20 無邪気な大人 大人へと向かう子供

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは、日秀源道さん。現代の若い人に向けて何か伝えたいことはありますか?』

 

 店の奥に壁付けされている60インチ程の大画面の中には、老紳士の温和な笑みが全体に映っていた。

 彼は口元に向けられたマイクに、渋みのある声ではっきりと伝える。

 

『そうですね。私が若い人達に言いたいことは……【経営者にはなるな】、ということでしょうか?』

 

 放たれた言葉は、聞き様によっては自己否定とも取れる一言であった。

 画面がインタビュアーの方へと一瞬動く。20代半ばの端正な顔立ちの女性で、如何にも新人アナウンサーといった印象だ。意表を突かれた彼女は思わず「えっ?」と声を挙げて、目を丸くしてサンシャイングループの代表取締役を見つめていた。

 

『社長ってのはね、地獄ですよ。どれだけ頑張っても、出来上がった決算書を見るといつもトントン。赤字にならなきゃ御の字の世界です。忙しすぎて健康診断もろくに行けませんから、病気の発見も遅れてしまう』

 

『そ、そうなんですね』

 

 インタビュアーが困惑するのを見越していたのか――――源道は言い切ると「カッカッカ!」と大きな口を開けて笑いだした。イタズラが成功した子供の様に、屈託なく、無邪気な笑みだ。

 

『だからね、今の子達には、起業なんて博打はしてほしくないんです。いっぱい勉強して、なるべく自分に合った良い会社……今の言葉で例えるならホワイト起業ですな……そういうのに入って、堅実に働いてもらいたいんですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鶴乃は訥々と語りだした。

 父・隼太郎が万々歳を継いでから3年――――相変わらず腕の方は鶴乃から見ても今ひとつだったが、常連は地元の住民達で固定され、日々生活する分には十分な収入が入る様になった。危惧していた母親の散財癖もいくらか落ち着き、店を手伝うようになってくれた。

 安定した由比家を見て、木地郎もホッとしたらしく、「もう大丈夫だろう」とだけ鶴乃に告げると、神浜町にある住いへと戻っていった。

 

「おんじが行っちゃったのは寂しかったけど、このままずっと続けていけると思ってた」

 

 鶴乃の表情は穏やかなままだったが、声色は少し低くなった。

 いろはは目を細めて、鶴乃の重たそうにゆっくりと上下する口元を見つめた。先程の捲し立てる様な口の動きとはあからさまに変化していた。

 これから「苦しい戦い」が始まったのか――――そう思うと緊張感が一気に背筋に齎された。汗がじんわりと湧いてきて、寒いのか、暑いのか分からない感覚が襲う。

 

「何が有ったんですか……?」

 

 聞かずとも鶴乃は喋っただろう。それでも、気になるあまり問いかけずにはいられなかった。

 鶴乃の表情から笑みが消える。

 

「再開発事業って分かる?」

 

 囁かれたのは、聞き覚えの無い単語だ。いろはは首を振る。

 

「いえ……」

 

「そりゃそうだよね……」

 

 鶴乃はテーブルに肘を置いて、頬杖を付くと、ハア、と溜め息。そのまま首を横に逸らして、窓の外を見つめる。

 やや陽が落ちて、ダークレッドに染まった公道を、街灯の光がポツポツと白く照らし始めていた。

 

 もうすぐ一日が終わるのか――――

 

 18歳になった頃から、時の流れが急に早く感じた。それは自分の感性が大人へと近づいている証なのだろうか。それとも、一日一日を生きる自分に大した意義を見出だせていないからだろうか。

 はっきりとした理由は分からない。

 でも、最近は夕陽を見る度に、寂しい気持ちが湧いて仕方が無い。

 

「再開発事業っていうのは、簡単にいえば、その土地を新しく作り直そうっていう行政の施策の一つだよ」

 

 外の景色を憂いを帯びた瞳で眺めながら、鶴乃はポツリと口にした。

 

「行政の……?」

 

 何やら複雑な話になりそうだと直感したいろはの顔には困惑が浮かぶ。

 鶴乃は顔を戻すと、手元のコップを持って、グイッと水を飲み干した。

 これから休む間もないぐらいの長い話をするつもりだろうか。

 

「都市計画法っていうのがあってね。それによると、再開発事業は、『市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図る為』に『都市計画法に従って行われる建築物・建築敷地の整備、並びに、公共施設の整備に関する事業』のことを言うんだって」

 

「……??」

 

 どうも難しい話だ。合理的かつ健全、都市機能の更新、なんて言われてもそれがどういうものなのかピンと来ない。

 

「むずかしい話は聞き流しちゃっていいよ」

 

 鶴乃は、苦笑いを浮かべながらも説明を続けた。

 神浜町の中心部である中央区は、東京都の池袋・新宿駅前もかくやと言うほどの高層ビル郡が建ち並ぶ都会ではあるが、昔は、参京区と大差ない程の寂れた片田舎であったらしい。

 だが、10年前に『魔法少女保護特区』に市が制定されてからは、国の指示と、サンシャイングループの積極的な資金・人材援助によって大々的な『再開発』が行われた。僅か8年で現在の状態に生まれ変わったというから驚きだ。

 

「おんじが出ていってすぐだったよ。その話が参京区に持ち上がったのは」

 

「え、でも」

 

 どこか苦々しい表情になる鶴乃を疑問に感じたのか、いろはが口を挟んだ。

 

「それって良いことなんじゃないですか? 都会になれば栄えますし、人が集まってきますし」

 

 瞬間――――鶴乃の目がキッと鋭くなる。

 

「そう簡単に言わないでよっ!」

 

 苛立ちを存分に含んだ強い言葉が矢の様に飛んできた。

 いろははウッと息を飲んでたじろぐ。自分の迂闊な発言が、彼女の感情の琴線を踏みつけてしまったらしい。

 

「ご、ごめんなさいっ!」

 

「あっ……!」

 

 申し訳なく思い、咄嗟に頭を下げて謝るいろは。だが、鶴乃はその姿を見て、ハッと目を大きく見開く。

 

「悪いのはこっちだよ……ついカッとなっちゃって」

 

 感情を抑えきれないのが自分の悪い癖だ――――それは重々自覚しているのだが、あの頃の話をすると、どうしても苛立ちが湧き上がってしまう。

 どう話せばいいのかな、罰の悪そうに頭を掻いて悩んでいると、いろはの声が飛んできた。

 

「あの、由比さん。私も先程失礼な事を言ってしまったのは謝ります。でも、話は続けてください」

 

 いろははしかと鶴乃の顔を見据えながら、迷いの無い瞳をでそう訴える。

 

「……いいの?」

 

「大丈夫です。だって由比さんと折角知り合ったのに、分からないまま終わってしまうのは嫌ですから」

 

 さすが七海やちよを制しただけのことはある。器が大きい。

 鶴乃の顔にフッと笑みが溢れた。

 

「ありがとう。じゃあ、話すね」

 

 いろはの心意気に甚く感心すると、気を取り戻して笑顔で話し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 遅くなって申し訳ありません。
 もう20話目だというのに、未だに魔女戦皆無で、淡々とした会話劇ばかりが続いてますね、はい。

 ここのところスランプが酷くて、いろは☆マギカ、ゆかり☆マギカともに一旦、更新停止にしようかと思うぐらい、気持ちが落ち込んでいました。
 映画「響」と、本屋でたまたま見つけたある小説を読んだら少しだけモチベーションが回復したので、なんとか一話書き上げることができました。

 次回以降は、正直いつになるのかわかりませんが……なんとか続けていきたいと思います。
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