魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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今回は6400字程です


FILE #34 Does Death dream a dream darker than Darkness?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 由比家も夜19時を過ぎると、万々歳を一旦締めて夕食時になる。

 理由は明白単純。

 客が――仕事を終えた参京商店街の常連さん以外に――もう来ないからである。

 

「~♪」

 

 台所では一人の少女が鼻歌を唄いながら、料理を作っていた。

 由比家の食事は当番制であり、大抵鶴乃か隼太郎、ときどき木次郎なのだが、今日は違った。

 

「どうかな……?」

 

 少女は味噌汁をお玉で少し掬うと、お椀に入れて味見する。

 

「……うん、できた!」

 

 味噌と塩加減、野菜の煮込み具合が丁度いい塩梅だ。自分が家でいつも作っている味噌汁が出来上がった。

 

「どうだ?」

 

 と、そこで横から声。顔を向けると、無骨な表情の木次郎が鍋を覗き込んでいた。

 

「はい。お口に遭うか分かりませんけど……」

 

「どら、ちょっくら味見させろ」

 

 彼がそう言ったときには既に、味噌汁をお椀に掬い取っていた。ズズッ、と啜ると、眉間の皺がより深く刻まれる。

 

「ど、どうですか?」

 

「…………悪くねえな」

 

「本当ですかっ!」

 

 パアッと顔を輝かせる。木次郎はフッと、口元に笑みを作った。

 

「俺にゃあこんくらいの味が丁度いい。鶴と隼の野郎はいつも濃いの作りやがるからな……」

 

 木次郎曰く、二人が味噌汁を作ると何故か毎回豚汁になり、しかも、味噌が大量で塩辛く、油がギトギトしてるらしい。

 

「あはは……」

 

 この話に、苦笑い。

 

「それにしても、おめえ環っていったな? さっきから見てたが、中々手際が良いじゃねえか。どうだ、家で住み込みで働く気はねえか?」

 

「えっ?」

 

 いろはが目を丸くする。冗談を言われたのかと思ったが、木次郎の目は真剣すそのものだ。

 

「家に帰っても誰もいねえんだろう」

 

「…………」

 

 既に事情は伝わっていたのか。

 いろはの顔が曇る。確かに両親も妹もいない自宅に帰っても、ひとりぼっち。寂しい思いをするだけだ。

 

「だったら家に来い。鶴乃もおめえの事ぁ気に入ってるみてぇだし、話し相手ぐらいにはなってやってくれ。それに、店の方も華がありゃあ客足が増えるしな」

 

「でも、そこまでして頂く必要は」

 

「頼れる時に頼れ。でないと……」

 

 木次郎はそこで顔を居間に向けた。いろはも吊られて彼と同じ方向を見遣ると、父親と楽しく談笑している鶴乃が見えた。

 

「あいつみてえになる」

 

「…………」

 

「まあ、おめえの人生だ。すぐにとは言わねえ。ゆっくり考えとくんな」

 

「はい……」

 

 木次郎はそう言うと、のっそりとした足取りで居間に戻っていった。代わりに鶴乃が飛び込んでくる。

 

「ごめんねいろはちゃん! お父さんと話してたら長引いちゃって……!」

 

 近寄ってくるなり、両手を合わせて申し訳無さそうに謝ってきた。

 

「夕飯全部作って貰っちゃって悪いね。何か手伝うことあるかな?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。もう作り終えましたし」

 

「じゃあ、わたし食器とか運んどくよ」

 

「ありがとうございます。由比さん(・・・・)

 

 そう伝えると、鶴乃はやや苦笑い。

 

「う~ん、家で由比さんって言われると訳わかんなくなっちゃうからさー、鶴乃でいいよ」

 

 あ、といろはは口を開ける。

 確かにそうだ。ここは鶴乃の自宅である。みんな性が由比だから、由比さんなんて呼んだら鶴乃のお父さんもおんじさんも振り向いてしまう。

 

「あ、ごめんなさい……鶴乃さん(・・)

 

 言い直すいろはだったが、鶴乃はふるふると首を振った。

 

「いろはちゃんはわたしの“師匠”でしょ?」

 

「……えっ?」

 

 鶴乃の言葉の意図が読めず、いろはは小首を傾げる。

 

「弟子に謙遜する師匠なんていないよ」

 

「じゃあ、鶴乃ちゃん(・・・)

 

「おっけー♪」

 

 鶴乃はニカリと笑ってサムズアップすると、テキパキとした動作でいろはが作った料理や、小皿と箸、人数分のお茶碗にご飯を持って、居間に持っていく。

 

(ふふ……)

 

 その動作がとても生き生きとしていて、いろはは自然と笑みを零した。

 

(鶴乃ちゃんとは、友達になれそう……)

 

 味噌汁用の野菜を切った包丁を洗いながら、いろははそう考えた。

 

 ――――友達といえば……。

 

 いろははふと思い出す。どのくらい前の話かは覚えてない。

 確か、ういが病院で入院している時だ。お見舞いに行った時、同じ病室に居た灯花が『友達』についてこんなことを話していたっけ。

 

 

 

 

――――親友っていい言葉だよ。だって天文学的な確率だもんね。

 

 

 

 そうそう、確かにそう言っていた。

 

 

 

 

――――調べた年代や年齢によって違うんだけど―……。

 

 

 

 

 雲一つ無い快晴が窓に映る明るい病室の中。

 あの子の身体は病魔にかなり蝕まれている筈だが、私が来るといつも、愉しそうに笑いながら話してくれた。

 

 

 

 

 ――――親友の数って色んな統計や論文が出ててね。

 最近の教育心理学の発表だと大体三人なんだってー。

 

 

 ――――それって今の地球人口が74億人だとするとー…… 

 れーてんれーれーれーれーれーれーれーよん%ってすっごく小さい確率なんだよー。

 

 

 ――――お姉さまを含めるとわたくしたちはそれを3回も引き当ててるっ。

 

 

 ――――だから、わたくしたちってここでこうして話してるだけで、天文学的な確率に選ばれたかんけーなんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうは思わないか? たまき(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 輝かしい記憶の中で、何かが割り込んできた。

 記憶が、ぐにゃりと歪む。

 

 

 刹那、暗転――――

 全ての光が遮られた。

 

 

 

 

 

 

『だから、気にするな』

 

 全てが無機質な壁に覆われた冷たい箱の中で、声が囁く。

 

『奪ったもののことなど、気にするな』

 

 

 

 

 

 

「違う」

 

 声が震えた。

 腰まで届く茶髪と白衣、そして、血溜まりの様な紅い瞳――――彼女は、憎悪の対象だった。

 

 

 

 

 

 

 どこか、知らない場所だった。

 出口の無いトンネルの様な世界。

 白い布切れの様な薄着を一枚だけ着た少女達が歩み寄ってくる。

 人数は多い、2~30人は居るだろうか。何れも目に生気は無く、虚ろだった。

 軍服を来た白人達が彼女たちを囲い恫喝を撒き散らしながら、何処かへと連れ去っていく。

 英語だから何を喚いているのかさっぱりだ。だが、彼らの表情は焦燥に染まっており、只ならぬ状況なのは理解できた。

 少女たちは無防備だ。何も持っていない。しかし、彼らの手には銃が握られていた。

 

 つまり、彼女達の命は常に彼らの掌の中に有った。

 

 

 

 

 

 

「違う」

 

 こんなこと(・・・・・)を思い出したかったんじゃない。

 自分が思い出すべきは、雲一つ無い青空の様に、純粋で、晴れやかで、心が安らぐものだった筈だ。

 

 

 

 

 

 

『お前と私は一緒だ』

 

 しかし、そんな否定など無意味だと言わんばかりに、彼女の口元は残忍に吊り上がった。

 心底愉しそうなのが、気に入らなかった。嫌悪の余り、反吐が喉元に溜まった

 その笑みは酷薄で、無情で……正気を保った人間が浮かべるそれとは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「違う……!」

 

 否定。しかし、言葉と対照的に自分の胸を大きく食らい付くしたのは、後悔の様な感情。

 ガタガタと震える手が、水に濡れた包丁を強く握り締めていた。

 

 

 

 

 

 

 軍人の一人が、自分の前に立ち止まり、敬礼する。

 彼は感情を消した声で、言った。

 

『彼女達の____が決定した』

 

 言葉は全て英語だったが、何を言ってるのかはっきりと理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

『だから、親友なんだよ。たまき』

 

 

 

 

 

 

 動揺。

 包丁が一瞬だけ誰かの血に塗れて見えた。

 だが、女性の言葉を懸命に頭から振り払う。

 ――――違う。自分が友達だと思っていたのは、里見灯花と、柊ねむだ。

 お前じゃない。

 

「誰が……!!」

 

 刃先を、自分の喉元に向けた。

 

 

 

 

 

 

 やがて、衣きれを纏った少女達は辿り着く。

 異国の王族か大富豪が住んでいる立派な城門の様な、堅牢な鉄扉が立ち塞がった。

 率いていた軍人達が、二手に分かれて、扉の両サイドを引っ張って、開放した。

 そこ(・・)に入ってはいけない。

 だが、彼女達は一切抵抗することなく、軍人の指示に従順のまま、中に入っていった。

 

 そこへ入れば、何をされるのか、分かっている筈だったのに――――

 

 懸命に伸ばされた手は、誰一人にも届くことは叶わず、扉は轟音を立てて閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

『私とお前は、同じだから』

 

 

 

 

 

 

 

「誰がお前なんかとっ!!」

 

 叫ぶ。

 包丁が勢いよく首筋を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いろはちゃん……何やってるの?」

 

「えっ?」

 

 同類と思われるぐらいなら、死んでやる。

 それが、あの女性に対する、私の答えだった。

 だから(・・・)今の状況に困惑した(・・・・・・・・・)

 

「なにって……?」

 

 自分は、生きている。

 刃先は喉元に刺さる寸前で止まっていた。目の前の少女が止めた。

 

「っ!!」

 

 困惑するいろはに構わず、鶴乃は包丁をぶんどると、床に投げ捨てた。

 

「いろはちゃんっ!!」

 

 両肩をグッと掴み、彼女は吠えた。

 

「今、自分が何をしたか分かってるの!?」

 

「え……っ?」

 

 あれ、そうだ。自分は何で――――

 

「自分を刺そうとしてたんだよっ!?」

 

 ――――死のうとしてたんだっけ?

 

 カッと怒る鶴乃の顔を見たら、頭の中が真っ白になった。

 自分は何に、怒り狂いそうになったんだろう。

 死ぬほど何に後悔していたんだろう。

 先程、鮮明に思い出せたものが、今は、霞み掛かった様に、ぼんやりとしている。

 

「何か悩んでるんだったら言ってよ! 一人で抱え込まないで!」

 

 鶴乃の怒声がより一層激しく耳朶を打った。

 そうだ。自分は何を悩んでいたんだっけ。いや、それ以前に……死にたくなる程抱え込んだものってあったっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おねえちゃん

 

わたしはね

 

 

 

 

“死神” と会う約束があるの

 

 

 

 

ある陣地の争奪で

 

春が物騒がしい明暗と共に還ってきて

 

林檎の花々の香りが宙を満たすころに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中で、【いつもの声】が聞こえた。

 

「……ッ!!」

 

 途端に寒気がした。全身がガタガタと震えて抑えられない。

 そうだ、自分は――――

 

「いろはちゃんっ!?」

 

 突然、何かの恐怖に脅え出す彼女の肩を抱き締めて鶴乃が声を掛ける。

 焦点の合ってない桃色の瞳が、鶴乃の顔をじいっと見上げた。

 ゆっくりと口が開かれる。

 

「鶴乃ちゃん、私……人を殺してるんです」

 

「……!?」

 

 震えた声で囁かれた告白に、鶴乃が唖然とするのは、言うまでも無かった。

 ――――いや、ちょっと待てよ。

 鶴乃はそこで頭を回転させる。もしかしたら、それは彼女の思い込みかもしれない。

 

「魔法少女なら、誰だってそう思う時はあるよ」

 

 魔女に襲われた人を助けられなかったり、仲間の魔法少女が魔女に殺されたり……そんなものは魔法少女の世界では日常茶飯事だ。現に鶴乃も2年目。何度も体験したし、知り合いになった魔法少女達からも、しょっちゅう同じ体験談を聞いている。

 それらの喪失を、自分のせいと思い込んでしまうのは致し方無いだろう。いろはの様な心の優しい子なら、尚更だ。

 

「一人か二人、死なせちゃったことはさ……。でも……それは絶対にいろはちゃんだけのせいじゃないと思うよ」

 

 なるべく優しい声でそう伝える。

 しかし、

 

「一人や二人どころじゃないんです!!」

 

 逆鱗に触れた。カッと怒りに歪んだ形相から悲鳴のような叫びが耳を貫いた。

 

「え……」

 

 愕然とした。いろはは何を言おうとしているのだろう。

 

「10人……いや、もっと……20、30……違う」

 

 虚空を向けるいろはの目には何が映っているのか――――想像するのが怖かった。

 

 

「100人は……殺しているかもしれない……!」

 

 

「は?」

 

 その告白は余りにも理解の範囲外過ぎた。呆気に取られるあまり、素っ頓狂が出た。

 

 

「鶴乃ちゃん……私って……“何者”なんですか……?」

 

 

 苦しそうに鶴乃は顔を歪めた。

 クッと歯噛みすると、吐き捨てる様に言い放った。

 

「大バカだよ……!」

 

「え?」

 

「わたし、自分の事バカな奴だって思ってるけど……自分を傷つけようとするいろはちゃんは、もっとバカだよ……!」

 

 言いながらも心の中で、ごめんなさい、と彼女に謝った。

 自分如きでは、それぐらいしか踏み込んでやれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――数時間後……。

 

 

「どうした?」

 

「うん……よく寝てる。よっぽど疲れたんだろうね……」

 

 いろははあの後、夕食も取らずに鶴乃のベッドで横になった。

 今は、穏やかな寝息を立てて熟睡している。

 

「で、鶴。おめえはこれからどうするつもりだ?」

 

「どうするって?」

 

「環のことだ。ありゃあ只者じゃねえぞ」

 

 木次郎の目がキッと険しくなった。長く警察を務めていた彼の目からは、平凡な自分とは違うものが見えたのかもしれない。

 

「おんじには、どう見えたの?」

 

 おんじは軽く頭を掻いた。言うべきか言うまいか迷っている時の動作だ。

 

「…………さっき、おめえが止めた時の奴の目……ありゃあ間違いねえ」

 

 人殺しの目だ、と木次郎は憮然と吐き捨てる。

 

「そんな……!!」

 

 鶴乃が愕然と木次郎を見つめる。

 彼もそんなことは言いたくなかったのか、仏頂面の中で僅かに苦味が伺えた。

 

「でも、いろはちゃんがそんなことを」

 

 したなんて信じられないと言わんばかりに彼の言葉を否定しようとするが、

 

「似たケースがあった」

 

 即座に木次郎の言葉に遮られた。

 

「え……?」

 

「俺が若い頃の話だ。ある収容所の看守から聞いた話だが……ある殺人犯がいてな。そいつぁカッとなって女房を刺し殺しちまったそうだ」

 

「なんでそんなことを……」

 

「仕事から帰ったら女房が男連れ込んで不倫してたんだとよ」

 

 ま、仕方ねえよな――――と、木次郎は嘆息混じりにそう付け加えた。

 

「だが、そいつは……ムショにブチ込まれた時にゃあ、穏やかな顔をしてやがったらしい」

 

「……どういうこと?」

 

「てめぇが女房を殺したことを、綺麗さっぱり忘れてたんだと」

 

 ?? 鶴乃の頭は混乱するばかりだ。そんな衝撃的な事を忘れられるのか。

 

「そいつだけじゃねえ。殺人犯の中にはてめえのやったことを忘れてたり、誰かがやったと思い込んでる奴が何人も居た。どうも、ショックが大きすぎると、人間の脳みそってのは悪いモンを取り除いちまうらしいな」

 

 木次郎は自分の頭をチョンチョンと指で突っつきながら、随分都合よくできてるもんだな、ここ(・・)は――――と、ボヤく。

 

「いろはちゃんも……その人達と同じって訳?」

 

「……まあ、俺が見た感じではな」

 

 鶴乃はとんでもなく厄介な拾い物をしたものだと、木次郎はそこで溜息。

 だが、直後に鶴乃の顔をしかと見つめた。

 

「俺は治安維持部に相談して、あいつを預けた方がいいと思うが……」

 

「そんなこと、させないよ!」

 

 急に鶴乃が声を張り上げた。木次郎がジロリと睨みつける。

 

「七海やちよが憎いからか?」

 

「違う……」

 

 鶴乃が首を振り払う。自分の感情なんて関係ない。

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

『そういえば、いろはちゃんって、両親はどんな人なの?』

 

【お父さんもお母さんも優しい人ですけど……いなくなっちゃいました】

 

『……え?』

 

【私がういを思い出したその日に、海外へ言っちゃったんです。ういのことで聞きたいことが、いっぱいあったのに……】

 

 

 ――――だから、今私、ひとりぼっちなんです、と。はにかんだ笑みでそう言う彼女の顔が、妙に印象的だった。

 

 

「……!」

 

 背中が震えた。この子はどこまで優しくて強い子なんだろう。

 

「じゃあさ、うちに来なよ!」

 

 ささやかでも良い。せめて少しでも彼女の力になってあげたい。

 そう思ったせいなのか。

 気がついたらそんな言葉が口をついて出ていた。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

「本当は、いろはちゃんの方がよっぽど辛い筈なのに……わたしの事を本気で心配してくれたんだよ……」

 

「…………」

 

「話を真剣に聞いてくれて、これからを一緒に考えようって言ってくれたの。だからわたし、いろはちゃんにもそうしてあげたい。いろはちゃんが抱え込んでる苦しみがどれだけ深くて暗いものでも、一緒に寄り添って、向き合ってあげたいの」

 

 木次郎は険しい顔のまま聞いていたが、鶴乃のその言葉にコクリと顔を頷かせた。

 

「鶴、ようやくおめえの言葉から嘘が無くなった」

 

「え?」

 

「好きにしろ」

 

「……!」

 

 鶴乃は目を見開いた。それってつまり――――

 

「……相変わらず不器用だなあおんじは……」

 

 鶴乃がふふっと笑みを零す。素直に「面倒見てやれ」と言えばいいものの。

 木次郎は図星を付かれて恥ずかしくなったのか、フンッとそっぽを向いた。

 

「どうなったって俺は知らんからなっ」

 

「わかったよ、おんじ」

 

 ――――いろは師匠の事を全力で支える。それが弟子のわたしの役目で、今、やるべき事だと思うから。

 そう決意を固める鶴乃の瞳には、爛々と紅い情熱が瞬いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 本当はもう少し直したり書き足す予定だったのですが、
 前回投稿からとっくに二週間以上も経ってしまった為、慌てて投稿致しました……。

 時間が経つのが早すぎるぜコンチクショー、あと、最近仕事と飲み会と引っ越しで書く間が無いぜコンチクショー
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