魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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FILE #35 賢人達の座す園へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の9時30分――――いろはは、神浜市役所前に訪れていた。

 

「…………」

 

 眼前に聳え立つ灰色の巨大な建造物を、神妙な面持ちで見上げるいろは。

 まず最初にここに訪れた理由は言うまでもない。

 現在、いろはは、両親が不在の身である。中学生の自分が今後の人生を生きていくには誰かの後見が必要不可欠だ。

 よって、父が自分を『託した』という人物――――“夕霧青佐”を探そうと考えた。

 

(お父さんとずっと友達だったっていうから……悪い人じゃないよね?)

 

 頭の中で返ってくる筈も無い質問を浮かべるいろは。

 不安はある。何せ、自分は(・・・)全く知らない人なのだ。名前を見ても、男性か女性か判別が付かない。

 

(その人に、お父さんは私を託した……つまり、自分とお母さんが私のもとからいなくなってしまうのは、予想してたってこと……?) 

 

 お父さんとお母さんは一体、何を隠していたんだろう――――?

 

(それに……)

 

 ショルダーバッグに手を突っ込み、一枚の紙を取り出す。

 それは家で最期に見つけた、3枚目の置手紙。誰が書いたかは分からない。

 だが、中身を読んだ瞬間、最愛の妹(うい)が書いた物だと確信した。

 

(間違いない。お父さんとお母さんは“うい”のことを忘れてなかった……)

 

 なら、何故、自分には(・・・・)黙っていたのか。

 “うい”が最初からいなかったように振舞っていたのか。

 

(もしかして、私に“うい”のことを思い出して欲しくなかったから……?)

 

 心に暗い影が差した。

 両親がそうしなければいけなかった理由は、何なのか。

 

(…………だめだ)

 

 いろはそこで、迷いを断ち切る様に首を振った。

 思考は完全に迷宮に入り込んでいた。このまま考えたって何も知らないままの(・・・・・・・・・)自分では答えなんて出そうにない。

 

(鶴乃ちゃん……)

 

 ふと、友人になった少女の笑顔が頭に浮かんできた。

 もし、彼女が一緒に居てくれたら、多少は気が紛れたかもしれない。

 寧ろ、自分より頭の回転が早いから、悩みを打ち明けたらなんらかの回答は見出していたかもしれない。

 ――――事実、万々歳を出る時、鶴乃もついていくと言い張った。

 

「いや、ダメ……」

 

 でも、断った。

 いろははそこで、“うい”からの置手紙を開き、決意を込めた瞳で内容を一行目を凝視する。

 

 

“I have a rendezvous with Death“
   

 

 

「これは、私のことなんだから、あんまり迷惑掛けられないよね」

 

 

 誰にでもなくそう零しながら、いろは、万々歳を出発する前の一幕を思い返した。

 

 

 

 

 ――――

 

 

「ひとりで行ってきます!」

 

「えっ?!」

 

 決心を込めて放たれた一言に、彼女は大きな栗色の瞳をパチクリさせていた。

 

「市役所に行くんでしょ? わたしもついていくつもりだったのに」

 

 心配そうな顔で尋ねてくる鶴乃。いろはは首を振った。

 

「鶴乃ちゃんは学校がありますよね」

 

「そりゃそうだけど。それはいろはちゃんもでしょ? 休ませといて、わたしは学校行くってのはなんだか……」

 

 今日は月曜日だ。

 本来中学生のいろはは、地元で学校に行かなければならないが、休んだ。

 神浜市で(・・・・)やらなければいけないことが山積しているのだ。立ち止まっている暇は彼女に無い。

 

「無遅刻無欠席の記録があるんですよね?」

 

 だが、それは鶴乃も同じである。いろはは彼女の両肩をグッと掴むと強い眼差しで言い放った!

 

「……誰から聞いたの」

 

 ジト目を返す鶴乃。

 

「それは~」

 

 苦笑いしながら、顔を居間に向ける。そこには、隼太郎が恐る恐る手を挙げていた。

 

「お父さ~ん……」

 

 鶴乃はガックシ項垂れる。

 

「いや~、ごめんなあ鶴乃。いろはちゃんがお前の事を教えてほしいって言うもんだから、つい……」

 

「結果的に、気ぃ遣わしてるじゃ~ん……」

 

 頭を抱える鶴乃。本当なら自分も休んでいろはの助けになりたかったのだ。

 

「でも、本当に一人で大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですよ。市役所の方々には顔が知れてるし、なんとかなりますって」

 

 いろはは屈託ない笑みで答えた。これ以上、鶴乃に気を遣わせる訳にはいかない。

 何より、これは自分の問題だ。自分で向き合って、解決していかなくてはいけない。

 

「でも……」

 

 いろはの状況を思えば心配でならないのだ。鶴乃の顔が曇るが、いろははキッと顔を顰めて言い放った。

 

「神浜市では入学から卒業まで間無遅刻無欠席だった学生は市長から表彰されるんですよね?」

 

「うっ……」

 

 鶴乃が息を飲む。

 

「鶴乃ちゃん。私なんかの為に、万々歳を宣伝するチャンスを逃したら、駄目ですよ!」

 

「それはそうだけど、だけどいろはちゃんが……! ああもう!」

 

 鶴乃、限界。頭をわしゃわしゃとかき回す。

 

「全く、師匠には敵わないよ!! 分かった! いろはちゃんの好きにしていいよ! だけど、無理はしないでね。絶対だよ!!」

 

「はい!」

 

 必死で捲し立てる鶴乃に、いろははハッキリと応える。

 

「ふふ……」

 

「えへへ……」

 

 だが、直後に二人は笑いあうのだった。

 

 

 

 

 

 ―――――

 

「…………」

 

 そう、鶴乃には、使命がある。自分のワガママで振り回す訳にはいかない。

 なお、夕霧青佐に関しては、由比一家に聞かなかった。

 ――――というか、あえて尋ねなかった。

 父曰く、市役所に聞けば分かるということだから、神浜市民には違いない。なので、もしかしたら、顔が広そうな鶴乃と木次郎(おんじ)さんは知ってたかもしれないのに、だ。

 これに関しては、仕方無かった。

 心の優しい鶴乃である。おんじさんも同様に、心が広く面倒見の良い人物と見た。

 なので、二人が先の人物を知っていようものなら、「案内してあげるから、ついてきて(こい)!」等と言い出しかねない。

 

(鶴乃ちゃんに学校を休ませる訳には、いかないもんね)

 

 かといって、お年寄りに気を遣わせるのも、何だか気が引けた。

 顔を見上げる。

 市役所が、まるで堅牢な城塞の様に見えたが、いろはは強く見つめた。

 決意を込めて、右足を第一歩、踏み出――――

 

 

「どうしたの?」

 

 

「はひゃっ!?」

 

 ――――せなかった。

 突然耳朶を貫いた透き通る声に、体がビクンッと飛び跳ねる!

 聞き覚えのある声にまさか、と思い、首を後ろに旋回!

 そこに居たのは……

 

「やちよさん!?」

 

「こんにちは、環さん」

 

 温和な笑みで挨拶する彼女を見て、思わず硬直。

 神浜市きっての魔法少女にして、英雄――――七海やちよがそこにいたのだ!

 

「……ああ! こんにちはっ!」

 

 いろはは慌てて姿勢を正して、お辞儀する。

 途端、やちよは鋭い眼差しをジトリと向けた。

 

「……昨日来なかったじゃない。待ってたのに」

 

「うっ……」

 

 あからさまに苛立ちが感じられる声色に、いろははまずい、と息を飲んだ。

 昨日の内に市役所へ行きたかったのは事実。

 しかし、さなやら先生やら美代やら鶴乃やら……色んな人間に巻き込まれてなんやかんやしている内に、一日があっと言う間に終わってしまったのだ。

 

「……っ!」

 

 いろはの思考が一瞬でネガティブに染まる。

 折角、神浜市最強の魔法少女の協力を取り付けられたというのに、自分から不意にしてしまった。

 これで、協力関係が終わってしまったら、自分は今後、どうしたら――――

 

「………………ぷ」

 

 しかし、直後。

 蒼褪めた顔を俯かせて肩を震わせるいろはの耳に聞こえたのは――――お叱りではなく、吹き出す声。

 

「えっ?」

 

「ふふ、冗談よ」

 

 驚きに目を見開いた。顔を上げると、やちよの表情はとっくに崩れていた。

 心底楽しそうにクスクスと笑いながら、彼女は言った。

 

「ごめんなさい。環さん、さっきから表情がコロコロ変わって可愛いから、つい、ね……」

 

「はあ……」

 

 モデル業も兼ねるやちよに可愛いなんて言われたら、普通は飛び上がって喜ぶべきかもしれないが……素直に受け取れなかった。

 自分は真剣なのに……からかわれてるというか、弄ばれてるような気がして、ちょっぴり不快だった。

 

「まあお互いに迷惑かけたからこれでおあいこってことで……。それで、環さん。妹さんの捜索の件かしら?」

 

「それもあるんですけど……その前に探してる人がいるんです!」

 

 いろははやちよの目を強く見つめて訴えた。

 彼女なら神浜市の人々のことも詳しい筈だ!

 

 

「夕霧青佐という方を、ご存知ですか?」

 

 

「へっ!? ……………………」

 

 その名前を聞いた途端、やちよの時が止まった。

 というか、完全に呆気に取られた様子だった。

 らしからぬ素っ頓狂な声を挙げた後、固まる。

 

「や、やちよさ~ん?」

 

 いろは、困惑。

 眼前で呼びかけても、目の前で手を振っても反応ナシ。

 ……どうしよう、やちよさんがマネキンみたいになってしまった。口をポカンと開けたまま、直立不動状態だ。

 

「……………………環さん。貴女、何者なの?」

 

 呼びかけてから、一分掛かって、やちよから返事が来た。

 声色が震えており、異様なほど困惑しているのは明らかだった。

 

「夕霧青佐さんを、知ってるんですかっ!?」

 

 いろはの期待が一気に膨れ上がった。飛び掛かるようにして食い下がると、やちよは瞳を泳がせながらも、ポツリと答えた。

 

「知ってるも何も……」

 

 

 

 

 ――――夕霧青佐は、市長よ。

 

 

 

 

「………………えっ?」

 

 いろはの目が一瞬、点になる。

 やちよが何を言ったのか、全く理解できなかった。

 

「ええっと……ちょっと待ってください……!」

 

 慌てて肩に掛けているショルダーバッグに手を突っ込むと、父からの書置きを取り出して確認。

 

「お父さんは、私にこう書き残したんです。神浜市に居る『夕霧青佐』に会いなさいって……!」

 

 自分で確認した後、やちよにも見せつける。やちよはそれを読んでこくりと頷くと、

 

「ええ。だから、夕霧青佐は市長の名前よ」

 

 ――――いろは、ようやく理解。

 

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!???」

 

 なんと、一般人とばかり思っていた自分の父親が神浜市の市長と友人!?

 娘である自分を託せることから、相当懇意な仲にあるのは間違い無かった。

 その事実が、いろはに絶叫させるほどの衝撃を齎したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、執務室よ」

 

「……はいっ!」

 

 緊張してるせいか、反応がワンテンポ遅れる。言葉尻も飛び上がってしまう。

 案内されたのは市役所の最上階の最奥部にある扉の前だった。よもや職員どころか神浜市民ではない自分が、僅か3日でこんなところに辿り着けるなんて夢にも思わなかった。

 

 ――――どうしてこうなった。

 

 高鳴る胸の鼓動を全身で感じながら、いろはは、そう叫びたい気持ちでいっぱいだった。

 

「そんなに緊張しなくて大丈夫よ」

 

「だけど……」

 

「市長は、とってもいい人だから」

 

 やちよは微笑みながらそう言ってくれるものの、いろはの表情は優れない。

 懸念があるからだ。

 何せ、この扉の先に居る人物は300万人以上もの市民の頂点に立つ、偉大なる人物。

 そんな“かの御方”から、これから庇護を受けて暮らすのだと思うと、申し訳無さと気恥ずかしさでいっぱいになる。

 

「もし、不安なら……私が一緒に立ち会いましょうか?」

 

「……え?」

 

 逡巡するいろはにとって、まさに女神からの救いの手だ。

 瞳に迷いが映り込む。役職付きの職員であるやちよが脇に居てくれれば心強い。

 

「……っ!」

 

 だけど――――!!

 いろははそこで、両手の拳をグッと握り締める。

 

「……いえ、私一人で大丈夫です」

 

 鶴乃にも言った筈。これは自分の問題なのだ。だから、自分が向き合っていかなくてはいけない。

 市長にしても、まだ見ぬ『大賢者様』にしても――――

 そう思ったいろはの顔に、言葉に、一切の迷いは無かった。

 

「それでこそよ。さあ、行ってらっしゃい!」

 

「はいっ!」

 

 やちよもその言葉を期待していたのだろう。

 決意を込めた彼女の瞳を見つめて、満足気に笑うと、執務室へ入るいろはの背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 執務室の扉を閉めると、気を付けをして、斜め45℃に会釈するいろは。

 今しがたやちよが教えてくれた作法は、これで間違いない筈だ。

 ……正直、自信は無いけど。

 ――――頭を上げて、前を見る。

 神浜町の壮大な街並みが一望できるパノラマビューを背景に、その人物は鎮座していた。

 木彫りのデスクの上で両手を組み、朗らかな笑みで自分を迎えてくれるその貴婦人の雰囲気は温和そのもので、いろはは思わずほっと安堵の息を付いた。

 それも当然。多忙極まる市長と言うからには、もっと般若の様な険しい顔付きをしていると思っていたから、拍子抜けした。

 

(それに……)

 

 いろはは、目を細めて貴婦人の顔をしっかりと見据える。

 顔だけ見れば、何の変哲も無い――それこそ、近所にいそうな――初老のおばちゃんそのものだ。

 それも胸の緊張を(ほぐ)した要因の一つだが……貴婦人の顔を見てると、何処か懐かしい感じがしたのだ。

 

「どうぞ。こちらへいらっしゃい」

 

「はいっ」

 

 考えていると、向こうから声が飛んできた。

 声色もまた穏やかだが、執務室全体に響くほどのハッキリとした声量だった。

 促されるまま、いろはは直進する。

 

 

「っ!?」

 

 ――――刹那。

 何かの気配が、頭に突き刺さった。思わずギョッと立ち止まって、咄嗟に部屋の隅っこに目を向ける。

 

(あれ?)

 

 ……誰もいない。

 向いた方向には、市長のものであろう木彫りのクローゼットがあるだけだ。

 

「……?」

 

 何だったんだろうか。今の感覚は?

 いろはは若干不審に思うが、すぐに顔を戻して、貴婦人の間近へと歩み寄った。

 

「あっ……初めまして。私……」

 

久しぶり(・・・・)ね。環いろはさん」

 

「!! 私と会ったことがあるんですか!?」

 

 久しぶりと言われた事に、いろははビックリして、机に身を乗り出した。

 市長は嬉しそうに答える。

 

「ええ、むかぁし、ね。……とはいっても、2歳ぐらいだったかしら? うんと小っちゃかったから、覚えてないかもしれないけど」

 

 彼女の顔を見て懐かしい感じがしたのは、当たりだった。記憶には無いが、体が彼女を覚えていたのだろうか?

 

「あの、私……」

 

「分かっています」

 

 自分の事情をどう話すべきか――――その悩みは杞憂だった。

 市長は眼鏡を指でクイッと直すと、急に真面目ぶった顔になる。切れ長の瞳を更に鋭利にして、いろはに向けた。

 

「事情は全て輝一(きいち)さんと(ひかり)さんから聞いてるわ。だから、安心して頂戴!」

 

 力強くも優しい言葉は、今のいろはにとって何よりの救いだ。

 しかし、素直に喜べない。

 

「じゃあ……やっぱり、お父さんとお母さんは……」

 

「……ええ。お二人は、こうなることを予期していたわ……。本当に、残念だったわね……」

 

 顔を俯かせ、ポツリと呟くいろはに、市長も沈痛そうな面持ちでそう言った。

 

「……あの、お父さんとお母さんは、どうして……?」

 

 自分を置いて家を出て行ってしまったのか。自分に何を隠しているのか。何より、今、どうしているのか。

 

「……知りたい?」

 

「勿論です」

 

 いろはは迷わずそう訴えるも、市長の顔には逡巡が張り付いた。

 

「……聞けば、もっと悲しい思いをするかもしれないわ」

 

「それでも……お父さんとお母さんの事を知りたいんです! 家族なのに……知らないことがあるなんて、嫌ですから……っ!」

 

「……」

 

 仕方無い。そういいたげな表情で市長は、顔を右に向けると、

 

「こころさん」

 

「えっ?」

 

 誰かの名前を呼んだ。いろはも咄嗟に市長と同じ方向に目を向けると、ギョッとした。

 少々特徴的な髪形をした、黒いスーツを纏った秘書の様な女性が佇んでいたからだ。市長に集中する余り、彼女の気配には全く気づけなかった。

 こころ、と呼ばれた女性はいろはの眼前まで歩み寄ってくる。

 スーツ越しでもスタイルの良さが目立ち、同じ女性として羨ましい。代わりに、顔付きはまだまだ幼くて、年齢の方は自分と同じか、少し上くらいに見えた。

 

 

ひさしぶりだね(・・・・・・・)。いろはちゃん!」

 

 

「……えっ?!」

 

 黒いスーツ姿の少女(・・)は、自分を見るなり屈託ない笑顔を浮かべてそう呼んできた。

 だが、いろはは仰天の余り目をパチクリさせる。

 何故なら、彼女の事も、全く記憶に無かったからだ。

 

「そっか、覚えてないか。そりゃ当然だよね……。あの時、いろはちゃん、まだ二歳ぐらいだったし……」

 

「……貴女は?」

 

「私は粟根(あわね)こころ。市長の秘書を務めているの」

 

「秘書?」

 

 こころはふふ、とお日様の様に笑うと目を細めた。

 

「魔法少女が世界中に知れ渡ってるご時世だからね。政治家も企業のお偉いさんも、自分の身を守ることで必死なんだよ」

 

 

 

 

 未だに世界中では魔法少女に対して、嫌疑的な声が少なからず挙がっている。

 超常的な力を持つ女性が太古から社会に紛れ込んでいた、と知れば、人々が恐怖を覚えるのは必然。

 『人倫保護団体』の様に、魔法少女の差別・一般社会からの排除を掲げる過激派の組織も、世界各地に点在している。

 しかし――――こころの言う通り、世界は、魔法少女に疑念を抱きながらも、魔法少女に頼らざるを得ない状況にあった。

 

 何せ、人々には、『魔法』に対抗しゆる手段が無いのだ。

 

 魔女は勿論、悪意を持った魔法少女がいつ、襲いかかってくるか分からない。

 特に魔法少女の存在を知って焦ったのが、実業家や政治家といった有力者だった。彼女達の魔法によって、自分の組織が掌握されたり、機密情報が世界中に漏洩されるかもしれない。

 以上の危機感から、魔法少女を組織の警備員・及び自らのボディガードとして雇う者が急激に増えた。

 

 ――――日本でも、地方公共団体の代表・大手の企業家・政府関係者は、魔法少女を警護役として個別に雇うことが義務づけられている。

 

 

 

 

「へえ……!」

 

「まあ、そういった人達の下で働けるのは名誉なんだけど……資格が必要なんだ」

 

 ボディガードの資格を得るには、品行方正且つ清廉潔白な精神が求められた。

 

 ・魔法少女の経験が2年以上。

 ・契約してから現在まで、人命救助及び、魔女の退治のみに専念。

 ・地域及び社会貢献への強い関心及び、高い奉仕精神。

 ・神浜市でソウルジェムの『調整』済み。

 

 上記4つの条件をクリアし、且つ数々のテストや課題を乗り越えた者に資格証が配布される、という。

 

「あの……粟根さんは、お父さんとお母さんの事を知ってるんですか?」

 

 質問を投げかけた途端、こころの相貌の陽に影が差した。

 

「うん。私のお父さんと昔から仲が良かったからね。それに輝一さんには、つらい時、よく助けて貰ったし……」

 

 それもいろはの知らぬ所であった。

 両親は以前から、自分のことを周囲に公言するような人間では無いと思っていたが、ここまで秘密が多いとは思わなかった。

 

「今、二人は、どうしてるんですか……?」

 

 恐る恐る尋ねると、こころの顔が悔しそうにくっ、と歪んだ。

 胸がざわついた。嫌な予感がする。 

 

「多分、もういなくなってる(・・・・・・・・・)

 

「……え?」

 

 掠れた声に、いろはの目は大きく見開いた。

 ……心臓が、バクバクと激しく脈打つ。治まりそうにない。

 

 

「攫われたの。サンシャイングループに……」

 

 

 ぞくり、と――――背筋が急激に冷えた。

 心臓が張り裂けそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 え~、引っ越しだの、職場のイベントだのリアル事情がてんこ盛りだった為、一か月以上も遅れてしまいましたが……

 最近になってようやく落ち着きましたので、最新話、投稿させていただきます。

 次の話も、あさってぐらいには投稿できるかと……

 何卒、今後とも、よろしくお願いいたします。

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