魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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気が付けば6月……だと……!?

※2023/10/08 人物描写を大幅に削減した事に伴い、一部文章が変更しております。ストーリー展開には何も影響はございませんのでご安心ください。


FILE #37 手掛かりの行方

 

 

 

 

 

 

 

 

 「みかづき荘へは夕方に案内する」――――やちよはそう言っていろはと別れて、仕事に戻っていった。

 よっていろはは再び、神浜市長こと夕霧青佐の執務室に戻っていた。

 

「……あの、夕霧さん」

 

「何かしら」

 

 デスクで自分の抱えた案件と睨めっこする青佐におずおずと話しかけるいろは。

 父と親しいとはいえ、自分の後見人とはいえ、相手は市長である。声を掛けられた彼女は親戚の叔母さんの様な温和な笑みを向けてくれるが、そう簡単に緊張は拭えない。

 

「今回の件、感謝しています」

 

 いろはが頭を下げて、謝辞を述べると、青佐は一瞬、ポカンとなる。

 

「あらいいのよ。でも、私の家じゃなくって残念だったなあ」

 

「え?」

 

 市長はジト目になると、お道化た様な顔でベロを伸ばした。

 

「なんて今更ながら思ったりしてー……。娘がいてね。いろはさんのこと、凄く心配してて仲良くなりたいって言ってたから」

 

「へえ、娘さんはおいくつですか? もしかして、その子も――――」

 

 魔法少女ですか? 問う前に、青佐は口を尖らせた。

 

「ブブーッ。普通の大学三年生よ。明るい子だからいろはさんも仲良くなれると思うわ」

 

「そうですか……!」

 

 期待に胸が躍った。

 自分と親しくなりたいと言ってくれる人がいる。それだけで、心が満たされていく。

 いろはの顔に陽が宿るのを青佐は満足そうに見つめている。

 

「そのうち紹介するわね。それよりもいろはさん」

 

 青佐の目が突然射貫くように瞬いた。

 

「私の所に戻ったってことは……何か他に聞きたいことがあるんじゃないかしら?」

 

「すみません。お仕事の邪魔になるかもしれませんが……」

 

「構わないわ。貴女は今日から神浜市の市民。市民一人ひとりの言葉に傾聴するのが市長の務め。なんでも言って頂戴」

 

「わかりました。あの――――」

 

 

 ――――【環 うい】と【大賢者様】って、ご存知ですか?

 

 

 市長は両手を組んで、目を閉じると、深く考え込む様に頭を俯かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(十時五分。神浜商店街にて環いろはを発見、尾行開始します)

 

 市役所を出て真っ直ぐ――――神浜商店街にていろはを発見したまさらは、電柱の陰に隠れると、耳に付けたインカムで市長に報告する。

 

<頼むわね、まさらさん>

 

 返事が返ってきたのと同時に、まさらの姿が消えた。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 夕方までまだまだ時間がある。

 よってその間に自分の用事を一通り済ませなければ、といろはは思った。

 捕らえられた両親のことを思うと胸が張り裂けそうだが……ここは市長の言う通り、自分ができる小さなことを一つひとつ積み上げていくしかない。

 

(うい……)

 

 まずは、大切な妹の手がかりを探すことである。

 先ほど、市長にも問いかけたが、「分からない」の一点張りだった。幼い自分を知ってる市長なら、と期待していたが、やはり彼女の記憶からも、ういの事は消え去っていたのだろう。

 スマホの画面には、地図アプリが起動されており、【神浜総合病院】までの道案内が表示されていた。

 自分の記憶が確かなら――――ういと、里見灯花と、柊ねむの三人は、ここの小児科に入院していた筈。

 自分が今現在居る場所から、徒歩で15分。

 

「よっし!」

 

 いろはは両手をグーにして意気込むと、一旦、スマホをポケットにしまった。

 そして、第一歩を――――

 

 

「あ~~~!! 環いろはだ~~~~!!」

 

 

 背後から熱烈に聞こえてくる黄色い声。いろははうっと息を飲んだ。

 どうして自分の足は、こうも止められてしまうのだろうか。

 

「環いろはさんですよねっ!!」

 

「あ、はい」

 

 つい振り向くと、中学生らしき少女の集団が見えた。万々歳を出る時に鶴乃が着ていた制服と同じ――白いシャツに赤いチェック柄のスカート――からして、神浜大学附属学校の生徒か。

 あれ? ちょっと待って……今日月曜日だよね? しかも10時過ぎ。なんで商店街にいるの?

 

「あたしら今課外授業中で―――!」

 

「ちょっと商店街のお店の人達に聞き込みをしようって――――!」

 

 ああなんだ、そういうことだったのか。納得――――

 

「……って、ええ!?」

 

 ――――してる場合じゃ無かった。

 いろはは自分の状況にビックリ仰天! いつの間にか総勢11人もの少女達に包囲されていた!

 

「……あの~、ちょっと私、用事が~……」

 

 苦笑いを浮かべながら、どうにか逃走を計るいろは。

 

「あっ、どこにいくんですかー!!」

「ちょっとウチらの相手してくださーい!!」

 

 しかし、包囲網はジリジリと近づいてくる! 逃げられない!!

 背筋がゾッとして、いろはの顔が一気に蒼褪める。対照的に中学生達は顔を赤くして熱狂!

 

「わあ! すっごーい!! 本物だよーっ!!」

「かっわいいー!!」

「ねえ、どうやって七海やちよに勝ったんですかー!?」

「あ、それ聞きたかったー! 教えておしえてー!」

「それよりもサインくださいよぉー!」

 

「ひいいいいいいっ!!」

 

 いろは、パニックの余り悲鳴。逃げ出したくても中学生が自分にくっついてきゃいきゃい喚いている状況では身動きが取れない!

 

「サインって……色紙持ってないですけど……」

 

「あーそんならー、これでいいですってー!」

 

 最初に自分に声を掛けた女の子が、肩に下げたバッグからノートを取り出す。

 他の子も合わせるように、ノートを差し出した。

 

「でも……書き方が……」

 

「んなもんテキトーでいいですってー!」

 

 生来、生真面目ないろはにとって、『テキトー』程難しいものは無い。

 ……中学生にマジックを渡されるも、ブルブルと震える指でどうにか書き上げたそれは最早サインというよりも、蛇がのたくったような何かである。

 

「やったー!」

 

 それでも、少女は歓声を挙げてピョンピョン飛び跳ねる。

 

「あ、いいないいなー!!」

「私も書いて―!」

「あたしもー!」

 

「うう……」 

 

 四方八方から、顔だの背中だのお腹だの腕だのお尻だのにノートを押し付けられたいろはは涙目になりながらも、全員分のサインを書き上げた。

 そうでもしないと解放してくれそうになかった。

 

 

 

 ――――どうにか中学生の包囲網を切り抜けたいろはだが、大変なのはここからだった。

 

「おい、あれ、環いろはじゃないのか?」

 

「七海やちよに勝ったってんだぜ。すげえよな」

 

「可愛い顔してとんでもねえよな!」

 

「魔物って噂はマジかっ!!」

 

(は、恥ずかしい……///)

 

 プライベートも何も無かった。そう言われて、青年達にパシャパシャ写真を取られるわ……

 

 

 

「一緒に写真撮らせてもらってもいいですか?」

 

「あっ! い……いいですよ!」

 

「やったっ! じゃあ、変身してください!」

 

「はいっ! ……ってええ!?」

 

 女性からは、魔法少女に変身した姿をツーショットで撮られるわ……

 

 

 

「おう、いろはちゃん! 美味しいコロッケ揚がってんだ! 寄ってきなよ!」

 

 肉屋の前を通りかかると、店主と思しき初老の男性に声を掛けられる。

 

「えっと、私、用事が……」

 

 市役所から出てまだ10分程度しか経って無いが、既にいろはは身も心もヘロヘロであった。

 蒼褪めた顔を肉屋の主人に向けた――――直後である!

 

「おい権田っ! 抜け駆けすんじゃねえ!!」

 

「環いろははうちの上客だぜ!!」

 

 断ろうとした矢先、別の店舗から店主と思しき男達が飛び出して肉屋の店主に啖呵を切る。

 

「ひいいいいいっ!!」

 

 いろはの来店を狙って店の名声を上げようと目論む店主達の強引な客引きに遭うわ……とにかく散々であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(でも……それだけならまだいい。予想出来ていた事。……もっとひどいのが)

 

 そんないろはの様子を、遠巻きに眺めていた透明人間のまさら。

 いろはは一時間近く掛かり、どうにか人々の包囲網を切り抜け、商店街を脱出(?)できた。

 ――――しかし、本当の問題はここからだった。

 

「あれ? え~っと、この道……さっきも来たような……」

 

 今、まさらの目にはほんの10分前に見た光景と全く同じモノが映っている。

 ……ようするに、いろはは10分前に全く同じ場所で、全く同じ言葉をボヤいたばかりであった。もっと、簡単に言えばさっきから同じ場所をグルグル回っているのだ。

 まさらは頭を抱えた。何せ、これで五回目である。

 

(……一番の問題は、環いろは自身……!)

 

 普段通りのクールを装った相貌の中で、ジトリといろはを見つめる瞳だけが、呆感というか諦念の色合いが混じり始めていた。

 ――――どうしてこうなった。

 市民さえ切り抜ければ、あとは順調に神浜総合病院に辿り着けると思っていたのに。

 

 ちなみに現在、いろはの居る場所は、【結城公園】である。

 商店街を抜けて、神浜市警察本部や神浜消防署本部、裁判所合同庁舎などが立ち並ぶ国道沿いを数分歩くと、目前に緑豊かなこの公園が開く。

 公園内は広く、象徴である結城池があり、他に多目的広場・児童広場、ランニングロードが設けられている。

 普段は市民で溢れているが、前日、魔女が発生したため、今日は人気が全く無かった。

 

 本来、神浜総合病院へ行くには、関係無い場所なのだが……歩きスマホしている内に、此処に迷い込んでしまったのである。

 

「スマホってどうしてこんなに難しいんだろう……」

 

(…………)

 

 いろはは相も変わらず、スマホと睨めっこ。そしてまたさっき歩いた道に向かうのであった。

 この時まさらは……自分の言葉にいつもツッコミたがるこころの気持ちが初めて分かった気がした。

 だって、スマホ以前の問題である。――――っていうかどうやって神浜市に辿り着いた!?

 

『市長。加賀美です。聞こえますか?』

 

 まさらは耳に装着していたインカムに口を付けると、小声でそう呼び掛けた。

 

<どうしました?>

 

『環いろはですが、未だに神浜総合病院に辿り着けません』

 

 ズコッと――インカム越しに椅子ごとズッコケる音が響いた。

 

<もう二時間近くなるわよ……>

 

 青佐も流石に唖然としたようである。まさらが腕時計を確認するともうランチタイムだ。

 

<商店街の方々の妨害が思いのほか凄まじかったようね……>

 

 インカムから溜息が聞こえてくるが、まさらは即座に『いいえ』と否定。

 

『彼女、スマホの使い方が全く理解できてません。加えて超ド級の方向音痴です』

 

<マジで……?>

 

『マジです。先ほどから結城公園内をグルグル周ってます』

 

 スマホの使い方が分からない中学生なんているのか。いろはの友人関係が気になる青佐であったが、

 

<……人に尋ねるとかしなかったの?>

 

 純粋な疑問だ。そこまで迷ったらまず、地元の人に尋ねるのが一般的だ。

 

『彼女、自分の足で辿りつきたいようです。結構、意地っ張りですね』

 

<そう……>

 

 青佐ははあ、と再び溜息。それを聞いてまさらの面持ちも神妙になっていく。

 

『市長。もう見ていられないので、私に案内の許可を要請します』

 

<あら、ずいぶん優しいのね、まさらさん>

 

『いえ』

 

 ふふ、と笑みを零しながら茶化す様に言ってくる青佐だが、まさらは即効で否定した。

 

『優しい以前に、環いろはが無事に神浜総合病院に辿り着けないと私が本来の業務をこなせません』

 

 基本的に、加賀美まさらは人間に興味を抱かない。

 七海やちよに“勝った”環いろはに対しても、別に何も思うところは無い。寧ろ、どうでもよかった。

 秘書の自分にとって市長の身辺警護こそが義務。よってこんな雑用、とっとと終わらせてさっさと市役所に戻りたいのが本心である。

 

<戻ってきていいわ。まさらさん>

 

『え……?』

 

 まさかの指示に、まさらはポカンとなる。

 

<助っ人がそっちに向かってるから>

 

『……承知いたしました』

 

 腑に落ちない部分はあるが、市長の考えなら、間違いは無いだろう。

 まさらは二つ返事で頷くと、いろはを放置して、結城公園から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地図が青い点でこの矢印は、なに……?」

 

 一方、結城公園に一人、取り残されたいろはは未だにスマホと睨み合っていた。

 彼是お昼時だというのに、未だに目的地にたどりつけない自分に苛立ちが募っている。

 地図アプリの見方すら未だに分からない。

 

「はあ……」

 

 方向音痴を治す薬ってないのかな――といろはは頭の中で愚痴る。

 思えば、自分は住んでた街でも、同じ魔法少女チームメンバーにそれで迷惑掛けてたなあ、と思う。

 

 

 

 

(迷うって……地元だろー? スマホで地図アプリ開きゃ一発じゃーん!?)

 

 

 

 

「ふふ……」

 

 不意に頭の中で女の子の怒鳴り声が響いた。

 そういえば組み始めの頃はあの子によく怒られてたっけ。でも、不思議と言葉に嫌味が無くって――――

 そういえば、この地図アプリもあの子(・・・)が心配して入れてくれたんだよね。

 クラスメイトとは禄に馴染めなかった自分だけど、何でかあの子達(魔法少女)とは仲良くなれたし、よく遊びにも行った。

 スマホの画面を地図アプリから一旦【ギャラリー】へと切り替える。

 自分を挟んだ二人の少女が笑顔でピースサインしていた。

 

「……っひゃ!」

 

 が――――やはり歩きスマホは危ない!

 画像を見ながら楽しい思い出に耽っていると、いつの間にか公園を抜け出して道路に飛び出していた。

 しかも、車が向かってきていたので、慌てて歩道に飛び退く!

 

「……?」

 

 しかし、その車はどんどん速度が落ちて――――いろはの目の前で停車した。

 そして、ウィーン、と前方のブラインドが下がると……あっ、と思わず声を挙げてしまった。

 車を運転しているのは――――

 

「みたまさんっ!?」

 

「お嬢さん、乗ってくかい?」

 

 七海やちよに似た紺色のスーツを纏い、サングラスを掛けた今の八雲みたまは、市役所の地下の店で見た温和な雰囲気とは対極的で、正にキャリアウーマンといった風貌だった。

 彼女は、ニヤリと不適に笑みを浮かべており、あからさまにキザっぽい低い声を出して、いろはを招く。

 

「……!」

 

 渡る世間に鬼はない。

 いろはにとって、みたまの存在はまさに、地獄で仏に会うに等しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――正直、みたまさんは17歳なのに何で車の運転できるんですか。もしかしてやちよさんが19歳で部長やってるみたいに、魔法少女は免許証の年齢制限も無いんですか。やちよさんと同じ色のスーツがバッチリ決まってますねとか、色々言いたいことはあったが、花の様に愛らしい笑顔が一気に崩れそうな気がしたので止めた。

 乗る直前に、車を確認したら【神浜市役所】と表記されていた。

 奇遇だが、みたまも本日、神浜総合病院に向かうつもりだったらしい。とは言っても、誰かの見舞いに行く訳では無く、院長と直接対談するそうらしい。

 

 

 

 

 ――――神浜総合病院。

 

 

「いないって、どういうことですか!?」

 

 清潔感溢れる広大なロビーの中でいろはの驚愕に満ちた声が響いた。

 相対する受付嬢は、困り切った顔でこくりと頷く。

 

「ええ、小児科病棟に問い合わせたのですが……環うい様、柊ねむ様、里見灯花様という名前のカルテは無い……と」

 

 声色は次第に小さくなり、いろはの応対に緊張している様子がありありと聞き取れた。恐らく、彼女は入職してまだ日が浅いのかもしれない。

 

「別の病棟に移ったとかじゃないですかぁ?」

 

「そちらも確認したのですが、三名の入院記録は見当たらなかったそうです……」

 

 申し訳ありません。

 と新人受付嬢は、深々と頭を下げた。

 

「そんな……っ」

 

 希望が打ち砕かれた。いろはの顔面が蒼白に染まる。

 ――――不意に、足元がよろけた。

 

「! 大丈夫?」

 

「はい……」

 

 ぐらりと、体が傾いた気がしたが、倒れる寸前でみたまが支えてくれた。

 起こして貰うと、待合用の長椅子まで手を引かれた。

 

「私は自分の用事を済ませてきちゃうから、ちょっと休んでて」

 

「……」

 

 みたまの笑顔を見てると、不思議と波立つ心が静まっていく。

 彼女はその慈母神の様な笑顔で、多くの魔法少女の心を癒してきたのだろう。そうに違いない。

 

「はい……」

 

 だから、いろはも笑顔で返した。彼女に気負わせるのは申し訳ないと思ったからだ。

 みたまもそれを見て安心したのか、背中を向けて去っていった。

 ――――やがて、みたまの姿は完全に見えなくなる。

 周りは、他の患者や職員で溢れかえっている筈なのに、いろはは、そこでポツンと置き去りにされた様な孤独感を覚えた。

 

 

「うい……」

 

 

 寂しさに堪えきれなくなったからか――――不意に妹の名前が口から吐き出された。

 三人が退院してる可能性は考えていたが、まさか、入院した記録すら無いとは予想の範囲外だった。

 一体、何がどうなっているのだろう。

 自分の記憶には確かにういがいる。そして、灯花と、ねむもいる。

 だが、現実には、三人とも“存在しない”のだ。

 

(もしかして、全てが――――)

 

 ――――自分の思い違いだったのではないか。

 夢か、アニメか、漫画なんかで見た印象的な出来事を、自分に当て嵌めてただけだったんじゃないか――――

 

(いや……!)

 

 ――――そんな突拍子もないことを頭を過って、咄嗟に首を振った。

 灯花とねむは分からない。

 でも、ういだけは、妹だけは確実に存在していると確信できる。

 このショルダーバッグに入っている置手紙が何よりの証拠だ。

 

 

 

 

「あんた、環ういの血縁者かい?」

 

 

 

 

 ――――暗闇の中で、一筋の光明が差し込んだ。

 不意に、横から聞こえてくる、知らない声。

 いろはは思わず、えっ、と口を開いて、声が聞こえた方向に目を向ける。

 手がかりが思いも知らぬ方向から飛び出した。

 驚愕を張り付けたまま、顔を振り向くと、一人の老婆が、真剣な瞳をこちらに向けていた。

 

「おばあ、さん……?」

 

 70ぐらいのか細い老婆であった。

 だが、背筋はシャンと張っており、年季が入っているが、思わず目を奪われてしまう程の色鮮やかな彩色の着物を纏っている。化粧で白塗りの相貌は、凛々しく整っており、若い頃は絶世の美女であったろうことは容易に想像できた。

 

「あたしはお婆さんなんて名前じゃないよ」

 

 明槻(あかつき)月禰(つくね)だ――――

 そう名乗る老婆の声色は険しい顔付きに相応しくないぐらい穏やかに聞こえた。

 

「ういのことを、知ってるんですか?」

 

「ああ、知ってるよ。珍しい名前だったからねぇ」

 

 知ってる――――その言葉が、いろはの心に再び猛烈な熱を吹き上げた。

 どうして、お婆さんがういのことを知ってるのかは分からない。

 だが、手がかりが目の前に振って降りたのだ!

 

「あの……! 私、ういの……っ!!」

 

 迷わず、いろはは老婆に食らい付いた。

 

「びっくりしたよ。まさかあの人に――――」

 

 しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()がいたなんてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃が全身を走った。

 

「え……?」

 

 まるですべてがふりだしにもどったかのように、いろはの思考は空白に塗り潰された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼いたします」

 

 ガチャリ、と院長室のドアが開け放たれるのと、同時にみたまは足を踏み込んだ。

 目先には小太り体系の初老の男がデスクにどっかりと座っている。

 

「お久しぶりです。里見院長」

 

 みたまが軽く会釈して挨拶すると、里見院長と呼ばれた男は席から立ちあがり朗らかな笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。

 

「おお、これはこれは八雲美玉さん。かつては七海やちよよりも早く神浜町の守部を務められ、今では調整員として数多の魔法少女を“御救いなさっている”貴女が、私の様な“凡人”にお会いに来ていただけるとは……光栄ですな」

 

 “凡人”の部分だけが、嫌に強調されて聞こえた。

 光栄とは全くの嘘だろう。彼が浮かべる笑顔は“仮面”だ。みたまは笑顔を崩さないまま、冷たい瞳で里見院長を見つめた。

 神浜総合病院の歴史は古い。

 しかし、神浜市が保護特区に指定された際に、既に福祉事業の経営に乗り出していたサンシャイングループから多額の資金援助を受けて、建て直されたのだ。

 目の前の男が、余った支援金を、人倫保護団体に手渡し、活動の過激化を後押ししているのは調査済みであった。

 

「ところで、何の御用でしょうか?」

 

 しかし、みたまが今日、彼に問い詰めたいのは、それではない。

 

「以前、小児科病棟に入院されていたある子について」

 

「それは……どなたですかな?」

 

 みたまの瞳が射貫くように瞬いた。

 

 

 

 

 

 

「“里見灯花”という名前の少女について、知ってる情報をお聞かせ願いたいのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《link:128》☆サイドストーリーへ《link》


最近、頭の中がこんがらがってきましたので、一度設定面を整理しようと思います。



 以下、注釈。

※今回の話をご覧頂いて、お気づきになられたかと思いますが、拙作のみたまさんは、性格は同じ様でも、設定の方はかなり変わっています。
本作の構想を始めたのがメインストーリー6章終了直後(みたまさんのMSS発表前)だったので、みたまさんの設定も、その時に作者が妄想した設定に準じさせていただきます。

※ねむ、灯花、ういの入院していた病院は、原作での名称は「里見メディカルセンター」でしたが、拙作では「医療法人 慶圓会 神浜総合病院」に変更させていただきます。

 何卒、ご了承いただきますようお願い申し上げます。
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