魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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大分遅くなってしまいました。

最新話、投稿させていただきます。


FILE #38 奈落の底で煌く紅蓮

 

 ――――神浜総合病院・院長室

 

 

「さあ、存じませんな」

 

 即答だった。

 

「既に外来でお伝えした筈ですが?」

 

 きっぱりと伝えるが、目の前の美女は女神の様な微笑みを崩さなかった。

 

「ですが、彼女がここに入院していたという証拠は有りますので」

 

「魔法少女の記憶……ですか……」

 

 神浜総合病院の院長を務める彼――――里見浩一郎は、ふぅと息をついた。

 調整員を務める彼女が、ソウルジェムを通して、魔法少女の記憶を覗き込むことができるのは、一般市民の間でも周知されていた。

 元々は秘匿されていたのだが、調整を施した魔法少女達の口から自然と広がっていった。

 

「人の頭の中ほど、信用できるデータはありませんから」

 

「確かに、そこだけは改竄しようがありませんからな……」

 

 里見院長は神々しい笑顔のみたまから少し目を逸らした。見惚れたら負けである。

 

「実際に小児病棟に入院している里見灯花を見た、という情報がこちらにはあります」

 

「……」

 

 里見院長の表情に、変化は無かった。

 

「奇しくも、その子と先生の名字は同じ。里見は神浜では有名な血族。関係は有るかと思いまして」

 

「確かに……里見は、神浜市が旧八神群だった頃に、領土争いを繰り広げていた神道八家を従え、統一した豪族」

 

 

 神浜市は、大昔は八神群と呼ばれる地名であり、豪族達――――八雲、八重、八島、八坂、八潮、八口、八張、八百の八家――――による争いが続いていた。

 各々の家が祀り上げる“神”こそが、土地の唯一神であると証明する為の戦いであり、神の末裔たる我が一族こそが、領土を治めるのに相応しいのだと宣言。

 各家の意地の張り合いによって、八神の地は日夜、罪無き者の亡骸と血で染められていった。

 

 しかし、その争いに終止符を打ったのが、里見家であった。

 摂政藤原氏の命を受け、土地の混乱を治めるべく外部から介入してきた豪族の圧倒的な武力の前に、八家はことごとく屈服。

 里見家による八神郡の統治政策が敷かれ、神道八家は争うことなく今現在に至る、という話だ。

 

 

「しかし、それは平安時代も昔の話です。本家の血筋はとっくに途絶えてますし……そもそも“里見”なんて名字は有り触れてるでしょう?」

 

「ですが、実際に此処で灯花という少女を見たと」

 

「何度も申し上げたように灯花なんて名前の女の子が入院した記録はありませんし、私の親族にもおりませんよ」

 

「ふむ……」

 

「八雲さん。貴女方調整課が、ソウルジェムを通して見たものが、迷宮入りの事件を幾度となく解決に導いたことは警察関係者各位から聞き及んでおります」

 

 治安維持部の七海やちよや都ひなの――とまではいかないが、そういった功績から、調整課の魔法少女達は、警察組織の幹部達との結束も強く、一部の市民からも救世主として評価されている。

 組織が組織足り得るには、周囲の信用が必要不可欠――調整課発足当時から、市長に口煩く言われてきたみたまなりに、その方法を考えて実行に移した形であった。

 

「しかし……」

 

 里見院長は睨むようにして言い放った。

 

「だからといって“人の頭の中が一番信用できる”とは断言できないでしょう。人の記憶とは機械のデータよりも遥かに曖昧なものです。誰のソウルジェムを覗き込んだかまでは問いませんが、対象の魔法少女が思い違いをしている可能性もあるのでは?」

 

「……」

 

 みたまは少しばかり思考に耽けた。

 里見院長の表情は至って冷静だ。口も堅い。このまま問い詰めても会話は平行線を辿るだけである。

 

「里見先生」

 

 ならば、このカードはどうだろうか?

 

「なんでしょう?」

 

「実は……最近知ったのですが、慶圓会の業績は芳しくないとか」

 

「……っ」

 

 里見院長の表情にあからさまな変化が顕れた。眉間に皺がグッと寄る。

 

「新規に福祉事業を立ち上げたサンシャイングループと業務提携し、福祉事業を大規模に展開したものの、新規の施設が軒並み赤字続きであると……」

 

「誰からその話を?」

 

 みたまはフッと笑う。

 

「『誰のソウルジェムを覗き込んだかまでは問わない』んじゃなかったんですかぁ?」

 

「まさか……」

 

「貴女が最も信頼している“秘書”からです」

 

 直後、里見院長の顔が勢い良く左に向いた。

 

「鏑(かぶら)くん」

 

「……!」

 

 睨み据える彼の視線の先で直立不動する秘書らしき黒いスーツの美女が、嫌悪感を顕わにした瞳をみたまに向ける。

 

「サンシャイングループの福祉事業所の役員もカンカンでつい最近叱責を受けたばかりと…………あれぇ? 何をそんなに焦った顔をしていらっしゃるんですかぁ?」

 

 みたまは笑みを崩さず飄々とした態度で問い質す。

 里見院長が腹立たしそうな顔で睨んできた。

 

「貴方が仰っていた様に人の記憶とは曖昧なものなのでしょう? 彼女の思い違いの可能性も高いので、焦る必要は無いと思いますし、あまり彼女を責めないであげて頂きたいのですが」

 

「貴女は……そこまでして存在しない少女(里見灯花)の事を知りたいのですか?」

 

「まあ、存じませんならそれで結構です。その子の勘違いであったと処理できますから。ただ……」

 

 みたまの瞳が鋭く瞬いた。

 

「これだけは確信を持って言えます。私達が今まで覗いたソウルジェム……魔法少女達の記憶の中で、実在しない(・・・・・)人物は一人も居なかったと……!」

 

 里見院長は憮然とした顔のままだったが、ゴクリと唾を飲みこむ音が聞こえた。

 動揺しているのは明らかだったし、里見灯花について何かを知ってるのは明らかだった。

 

「……その子が」

 

 里見院長がゆっくりと口を開いた。

 

「調整の対象者が、記憶改竄を受けていた(・・・・・・・・・・)可能性は考えられませんか?」

 

「っ!!」

 

 秘書の(かぶら)が驚いた様にギョッと目を見開いた。

 声は出さなかったがその質問だけはいけないと、表情で告げていた。

 しかし、今の彼には届かない。

 

「……考えられませんね」

 

 みたまの顔から、表情が消えていた。

 

「それは、何故です?」

 

「その子の身辺を調べましたが、記憶改竄が可能な魔法少女はいませんでした。それに、その子が魔法少女になってから、その類の魔法の使い手が居た、或いは会ったという事実もありません」

 

 みたまは再び顔に微笑を浮かべた。

 

「調整の対象者は、何の変哲も無い一般家庭の生まれの女の子です。魔法少女としても格別なものはない。記憶改竄したところで何かが得られるなんて思えませんし……そもそも、改竄されたと仮定した所で、『知らない少女の記憶を植え付ける』意図が分かりません。改竄した側に、何かメリットがあるとも思えませんが」

 

「…………」

 

「あと、少し気になったんですけど……」

 

 視線を逸らす里見院長を、みたまは瞳を細めて見つめる。

 

「貴方は先ほど、ご自分のことを“凡人”と称しましたね。なら、尚更不思議なんです。『記憶改竄』は、魔法少女の界隈でも使い手は極僅か。魔法少女の事情に深く踏み込んだ者でなければそんな単語はそうそう出てこない筈です」

 

「…………」

 

 ムッ、と里見院長の口が強く結ばれた。

 

「更に貴方は、『人の頭の中は改竄しようが無い』と最初に仰いましたね。だから私はてっきり貴方が『記憶改竄できる魔法少女がいることを知らない』のかなあ、なんて思ってましたけど…………今、パッと仰いましたよね」

 

 里見院長の額から一筋の汗が頬を伝って流れる。

 みたまはニッコリと笑みを張り付けた。

 

 

「もしかして、そんな魔法少女が身近にいるんじゃないですかぁ?」

 

 

 ――――そして、その少女の存在を口止めされていた、と。

 

 里見院長は口に手を当てて、押し黙った。

 矛先を反らそうとしても、無駄だ。

 みたまとしてはここいらで魔法少女ナメんな調整課の情報網ナメんなよと言ってやりたかったが、里見院長が次にどんな言葉を返すのか、楽しみだったので、待ってみることにした。

 

「……私は知りませんよ」

 

 暫しの沈黙の後、里見院長は、消え入る様な声でそう答えた。

 

「何も。里見灯花という少女の事も。記憶改竄できる魔法少女のことも。……何せ、私は“凡人”ですからな」

 

「そうですか」

 

 その答えで十分だった。必要な情報は手に入ったのだ。

 

「本日はお忙しいところ、お時間を頂き、ありがとうございました」

 

 みたまは丁寧に一礼すると、去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(かぶら)くん」

 

「はい」

 

 みたまが院長室が去った後、里見院長は秘書の鏑を呼び寄せた。

 セミロングの銀髪に引き締まった体を黒いスーツで覆っている。端正な顔つきだが、固く引き締めた軍人の様な表情と、釣り上がった瞳が頑固な気性の持ち主であることを物語っていた。

 

「……申し訳ありません。本来ソウルジェムに関しては八口(やぐち)に相談するべきだったのですが……最近、グリーフシードを使用しても浄化作用が悪いのが気になりまして……」

 

 その時、覗かれた。

 そう告げると里見院長は、深く溜息を吐いた。

 

「それについて君を責めるつもりは無いよ。焦っていれば遠くの高名な病院よりも、近所の診療所を頼ってしまうものだからね。ただ……驚いたよ。まさか、“あの御方”の名を知っている魔法少女が他にいるとは……」

 

 てっきり叱られると思っていただけに、彼の言葉には驚いた。

 額にはどっと汗が浮かんでいたので、鏑は咄嗟にハンカチを手渡す。

 

「どうぞ」

 

「ああ、すまないね。……鏑くん、少し頼みがあるのだが……」

 

 里見院長は、額を拭うと、鏑を横目で見た。

 

「なんなりと」

 

「“上”と掛け合い、この一か月の間、調整を受けた魔法少女達を調べて欲しい」

 

「承知いたしました」

 

「あと……八雲美玉に牽制を」

 

 鏑はこくりと頷くと、早足で院長室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みたま!」

 

 廊下を歩いているみたまの背中に声が掛けられる。振り向くと鏑のしかめっ面が有った。

 

「あらぁ~美奈子ぉ」

 

「全く、やってくれたわね……!」

 

 迎えてくれた満面の笑みが、今の鏑には腹立たしかった。

 

「貴女のせいで私の首まで危うくなるところだったわよ!」

 

「ふふ、ごめんなさぁい」

 

 苛立ちを真正面からぶつけるも、みたまにはどこ吹く風だ。

 

 ――――鏑 美奈子は神浜総合病院の院長・里見浩一郎の秘書、及び院内の警備部長を務めている。

 勿論秘書であるからには、魔法少女であり、その経験年数は実に10年を越える大ベテランだ。

 無論相応の実力があり、且つ市役所の調整課でソウルジェムの“調整”を受けていなければ、ここまで生き残ることはできなかったろうが。

 

「調整課は、すべての魔法少女を平等に支援する義務がある、そう言ってたじゃない。それに……」

 

 鏑はずいっと顔を近づける。

 

「貴女がやったことは私へのプライバシーの侵害よ……!」

 

 ドスを利かせた声で威圧するが、みたまの表情は微塵も崩れない。

 

「教えて、そこまでして里見灯花という少女を探るのはどうして?」

 

「少し、引っかかるものを感じてね……」

 

「里見灯花は存在しない。分かったらこの件から手を引きなさい」

 

 瞬間、みたまの目が鋭利な刃物の様に鋭く光った。

 

 

「……美奈子、貴女、知ってるのね?」

 

 

 突き刺す様な言葉が美奈子の顔に一瞬だけ、逡巡を浮かばせた。

 少しばかり視線を右往左往させると、消え入りそうな声でポツリとつぶやく。

 

「……何も知らない方がいい」

 

「……?」

 

「その名はすぐに忘れなさい。その方が、貴女の為よ」

 

 美奈子の額は汗で濡れていた。

 こんな弱弱しい表情は見たことがない。

 困惑している、というよりは、何かに怯えている(・・・・・)ように見えてならなかった。

 

「一体、何なの?」

 

「教えたいけど、教える訳にはいかない」

 

「それは、誰の為?」

 

「私の為によ」

 

 みたまの眉間に若干皺が寄った。美奈子の頑固さは承知している。

 これ以上問い詰めても答えないだろう。だが――――

 

「じゃあ、これだけは教えて。“里見灯花”が、今、どこにいるのかを」

 

 親しい者には甘い性格なのも承知していた。だからそれを利用するのだ。

 美奈子は一度周囲を見渡した。誰もいないことを確認すると、みたまの耳に向けて、囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――神浜総合病院・一階・待合室

 

 

 

 

「どうしたんだい? 鳩が豆鉄砲喰らったような顔して」

 

「お婆さ……月禰(つくね)さんが知ってる“環うい”と、私の知ってる“環うい”は、違う人だと思います……」

 

 隣に座る老婆から衝撃を受けて5分は経ったろうか――――

 ようやく正気を取戻したいろはは、そんな憶測を彼女に告げた。

 月禰は「そうかい」とだけ答えると、少し寂しそうに顔を俯かせて短く嘆息。

 

「でもあんたは」

 

 月禰は再びいろはの顔を見つめた。

 細めた瞳は遠くを見ているようで――――

 

 

「ういさんと瓜二つだ」

 

 

 自分の顔から“懐かしいもの”を思い起こしているのは明らかだった。 

 

「え……?」

 

「だから、近親に違いないと思ったがね」

 

 いろはは固まる。

 環ういは確かに実在していた。しかし、それは自分が望んでいた人では無かった。

 だけど――――

 

「あの」

 

 ――――自分の記憶にはっきりと存在する妹。

 ――――自分にそっくりなお婆さん。

 

 同姓同名の二人だが、別人だ。

 だから、後者に関してはいろはが気に掛ける必要は全く無い筈であった。  

 

「なんだい?」

 

「月禰さんの知ってる『環うい』って、どんな人だったんですか?」

 

 でも、問いかけてしまった。

 無性に気になったからだ。

 偶然妹と同じ名前だったからかもしれない――――だけど、老婆の知ってる“環うい”は、もしかしたら自分の知る“環うい”と、繋がっている(・・・・・・)のかもしれない。

 

 そんな思いに至ったのは、推理もへったくれもない、只の『勘』だ。

 身体が、感情が、記憶が、その名前を聞いた途端、敏感に感じ取っただけ。

 

「立派な人だったさ……」

 

 月禰は食らいつくようないろはの勢いに、少し驚きながらも、小さな声で語りだした。

 

「どのくらい前か忘れちまったが……あの人は突然、この街にやってきたんだ。お医者様でね。一時は中央区で診療所を開いていたことがあった。あたしもよく世話になったよ」

 

「へえ……」

 

 聞きながらいろはは、自分の知っている『うい』の事を思い出していた。

 あの子も、「元気になったら一生懸命勉強してお医者さんになるんだ!!」ってよく言っていたっけ。

 

「根っからのお人好しだったよ。来るもの拒まずっていやいいのかな。金が無くっても傷病人なら、誰彼かまわず治療しちまうのさ」

 

「でもそれじゃあ……」

 

「そりゃあ経営は火の車だったそうだが、自分の財産を投げ売って存続させていたって聞いたよ。そこまでして、人に尽くしたい情熱ってやらがあの人の中にはあったんだろうねえ」

 

 いろはの知る『うい』もまた、自分の身体に前進全力で尽くしてくれるお医者さんに強い憧れを抱いていた。

 もし、ういが無事退院していて、大人になっていたら――――月禰さんの知る『うい』の様になっていたのではないか。

 

「本当に素晴らしい人だった。……“アレ”を知るまではそう思っていたよ」

 

 だが、そこで見てしまった。

 懐かしそうに語る月禰の瞳――――宝珠の様な輝きが、突然どす黒く澱み揺らいだのを。

 

「アレ……?」

 

 突然の変化に、いろはは呆然となって問いかけてしまう。

 

「おっと、口が滑っちまったね。これは子供が知って良いことじゃない」

 

 月禰は、憑き物を払う様にかぶりを振ると、荷物を持って立ち上がった。

 

「お嬢ちゃん、名前は?」

 

「環 いろはです」

 

「じゃあ、いろはちゃん、またね」

 

 月禰は少しだけ微笑むと、去っていく。

 歩き姿は老婆とは思えない毅然としたもので、寧ろ、鮮やかな色彩の着物を纏っているお陰で可憐にも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――神浜総合病院・一階・通路

 

 

 エレベーターを降りて、いろはが待つ待合室へ向かうみたまの表情は、酷く暗澹としたものだった。

 

(以前、美奈子のソウルジェムを調整した時……里見灯花の姿が見えなかった)

 

 矛盾であった。

 美奈子は里見灯花のことを知っていた(・・・・・)。にも関わらず、ソウルジェムは、その子の姿を一切映し出さなかったのだ。

 

(それに、美奈子が、最後に言った言葉……)

 

 

 

『誰も近寄ることのできない。深い暗闇の底に、その子は居る』

 

 

 

 だから、諦めなさいと美奈子は言った。

 深い暗闇――――脳裏に、“あるもの”が過った。

 

 

「深淵」

 

 

 ふいに口から、その単語が零れた。

 瞬時に思い起こしたのが、いろはのソウルジェムの中で垣間見た、里見灯花という少女の事――――

 

 

 

 

――――そう、だから全て数学は全て宇宙に繋がるんだよ!

 

――――わたくしのパパ様はよく将来、生きるために必要だとか、考え方が身に付くとか言ってるけど、そんなのは関係ないんだよ。

 

――――人類に宇宙を駆け回ったり宇宙の果てを見る力が無いなら数字が無ければハップルの法則もビッグバン理論も成り立たない。 

 定常宇宙モデルだってプラズマ宇宙論だって何もかも!

 

――――人類は宇宙発生と同時に可能性という数字として生まれた。数とは縁のきれない存在なんだよ。

 

――――そして、この数の理論を掴み宇宙のことを把握することは、人類が自分達の根っこを理解することに繋がって果ては進化の糧になるんだよ!?

 

 

 ……かなり極論に聞こえるが、あのぐらいの年齢なら、図書室の本で得ただけの知識をさも自分が導き出した解答であるかのように、友達に自慢したくなるのはよくある話だ。

 

 自分がさも世界の理解者になったような。

 同年代の子供たちよりも遥か先へ進んだような。

 自分一人だけみんなより先に大人になれたような、優越感。勝利者の興奮。

 灯花の世代で無ければ味わえない悦楽だろう。

 

 

――――わたくしすごいよね!

 

 

 <想像を叶える、科学者の灯花ちゃん>

 

 周りは、彼女をそのように賛辞した。

 確かに、一般的な子供よりも頭がよかったのかもしれない。

 でも、無邪気で無垢な笑顔は、どこにでもいる普通の子供の様に見えた。

 

 ――――そして、もう一人(・・・・)

 脳が、ぼんやりと“それ”を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さな地面が消失した瞬間、みたまは柄にもなく悲鳴をあげた。

 全てが黒一色なので距離が把握できない。

 すぐ傍に黒い壁があるように思えるし、気が遠くなるほど悠久の彼方に底があるのかもしれない。

 基準になるものがなかった。光がなかった。

 そんな暗黒に飲み込まれ、みたまは落下し続けていた。

 

 飛行ではなく自由落下。

 浮遊感ではなく失速感。

 もはや下に向かって落ちているのか、上に向けて落下しているのか、前後左右なのか判別できない。

 見えるものは黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒。

 

 

 

 

「私が掴める者は何もない」

 

 

 

 

 声が聞こえた。

 酷く低く掠れているが紛れも無い女性の声だった。

 不意に暗闇が晴れた。

 視界が映し出したのは、砂嵐を映し出したコンピューターがデスク上に並び、工場の管理室の様な空間。

 

「くふっ」

 

 目の前に、白衣の女性が佇んでいた。

 彼女は自分を見下げるなり、嗤った。

 何か邪な陰謀を思いついた様な残忍な瞳が、異常に空間に相応しい血の紅に染まって瞬いていた。

 

 

「私は死ぬ! 間もなく死ぬ! 磨耗して何も計算できない状態のまま、糞尿を垂れ流し、バカみたいに笑いながら胃の中の物を吐き出し、自分の顔に塗りたくりながら無様な死を迎える! だが止まらない! 私が動かした“これ”は止められない! 自動的な“これ”だけは誰にも止めることはできない! それだけが楽しみで計算している! それだけが楽しみで私は『生きて』いるんだ!」

 

 

 自らを天才と認識する者は、自信に満ちた笑みと共に断言する。

 世の研究者たちがなお躊躇する究極のタブー、それをあっさり侵してなお笑う。

 その圧倒的な自信と迫力に……みたまは、呑まれた。魅入られた。虜となった。

 

 ガサリと――――不意にみたまの手が床にある何かに触れた。くしゃくしゃに歪んだ書類に、短い文字が書かれていた。

 引き寄せられるように、両目がそれを見つめた。

 

 

 

   

『 PROJECT : MAGIA RECORD 』

 

 

 

 うっ、と鼻をつまむ。

 肉を焼き焦がした異臭が鼻腔を刺激した。

 女性の声が止む事無く響き渡る。

 

 

 

 

「聞いているだろう。たまき(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――神浜総合病院・待合室

 

 

 

 

「あ、おかえりなさい。みたまさん」

 

「ただいま、いろはちゃん」

 

「……どうしたんですか? 凄く疲れた顔、してますけど」

 

「ちょっと、ね……」

 

「……?」

 

「なんでもないの、気にしないでぇ、ね♪」

 

 

 そして、その日の夕方――――

 いろはは、みかづき壮に向かうことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回登場した魔法少女・鏑 美奈子さんは、ガールズ&パンツァーの逸見エリカさんをイメージして書いてます。


7月末に腰椎間板ヘルニアになり休職しました……。

正直30分間座れない。車に長時間乗れないのはキツイですし、かかりつけの整形外科遠いから行くたくなーい。診断書で二週間休み貰ったけど、それで治る気がしなーい。

まあ、今回の話は腰痛に加えて、キャラクターのセリフが思い浮かばず悪戦苦闘しながら書いてました……。

とりあえず、二次創作作家としては今日から復帰いたしますので、何卒よろしくお願いいたします。
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