魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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 先日は身勝手な真似を行い、大変失礼いたしました。

 39話 全面的に書き直しましたので、改めて投稿させていただきます。


(改訂版)FILE #39 人と獣の狭間に生きる者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは暗闇

 全てが黒に覆われている。

 目を凝らしても何も見えない。

 耳を澄ましても何も聞こえない。

 

 だが、蟻が自分の巣穴を把握できているように。

 そこに住まう蟲には、どこに何が有るか、誰がどんな役割を持って存在するか、分かっていた。

 そして、彼女達が生きる為の全ても、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 そこは暗闇。

 ただ黒しか見えない空間が、延々と続いている。

 しかし、無限では無かった。歩き続けるといつかは「果て」へと辿り着く。

 最奥部と思しきその「果て」には、一人の人間が玉座の上に座っていた。

 

 日秀源道。

 日本有数の大企業・サンシャイングループの代表であり、魔法少女の“解放”を掲げる秘密結社・『マギウスの翼』においては、実質的な頭目『プロフェッサー・マギウス』と並び立つトップの一人である。

 彼の役割は、単純に言えば、スポンサーである。

 自社の企業グループを用いての、組織への全面的な支援だ。プロフェッサー・マギウスが何か要望を言えば、それを叶える為に必要な費用、物資の提供、最適な人材の登用及び人件費の算出は彼が担う。

 

「みふゆよ、この度は大儀であった」

 

「ありがとうございます。お爺様」

 

 そして、準備が整い次第、目の前の孫娘に委ねるのだ。

 『元締』・梓みふゆは、源道から与えられた物資と人材の運用・そして直属の実働部隊たる『羽根』を率いて、作戦を遂行させる。

 今回、源道が彼女が労ったのは、ある作戦が順調に遂行されたからである。

 

 

 それは半年前――――

 プロフェッサー・マギウスが、今後に備えて組織の基盤を盤石にしたいと言い出したのが、発端だった。

 実働部隊の下っ端である『黒羽根』達は、元々、神浜市内で集められた魔法少女達である。

 しかし、治安維持部が四六時中目を見張り、加えて常盤ななかに与する「蒼海幣」の組員が暗躍している市内での人員確保は、難航を極めた。

 そこで、みふゆが提案したのは市外の地方地域から人員を確保する方法であった。

 

 日本各地の大都市圏の中心部では、神浜市のノウハウを基に、魔女の討伐及び魔法少女による犯罪事件を捜査・摘発する『魔導管理局』。

 住民の魔法少女の相談を受け持つ『魔導事務局』が設立されていたが、地方には、未だそのようなシステムは確立されていない。

 よって、活動している魔法少女達の心も荒み切っていた。

 いつ魔女に襲われるか分からない為、日常生活でも一秒たりとも油断はできず、また、グリーフシードを確保する為に、魔法少女同士で殺し合わねばならない状況もある。

 更に、魔法少女であることが、人々に知れ渡れば奇異な目で見られ、自分はおろか家族さえも差別を受けるケースも発生してしまう。

  

 みふゆはそこを突きたかった。

 しかし、自身はかつて治安維持部の副部長として、七海やちよと共に脚光を浴びた身である。直接勧誘に赴けば、SNSで拡散されてしまいかねない。組織の活動はなるべく人目に付くことは避けたい。

 

 そこで、プロフェッサー・マギウスに相談したところ、“電波発信機”の開発が企画された。

 魔女と使い魔が、魔法少女にしか見えない仕組みを真似て、魔法少女にしか(・・・・・・・)受信できない特殊な電波を遠距離まで発生させることで、地方の魔法少女達に干渉、組織への勧誘を促すという作戦だ。

 

 日秀源道は、すぐに自社グループから必要最低限の技術者を集めると、プロフェッサー・マギウス主導の下に発信機を開発。

 電波にみふゆの固有魔法・『幻覚』を相乗することで、地方の魔法少女達に、『解放』が成し遂げられた世界を疑似体験させた。

 この世に楽園があることを知った魔法少女達は、呆気なく組織への参入を決意した。

 

「しかし、幻覚が通用しない魔法少女も多かったがな……。特に貝塚市は厄介であった。20名もの魔法少女が連帯を組み、我らの活動への大規模な妨害工作を目論んでおったからな。……月夜(つくよ)くんと月咲(つかさ)くんには感謝せねばなるまい。二人の『解放』に対する切実さが無ければ、説得は到底敵わなかったろう。遠方に戦力を割くのは避けたかったからな」

 

「お爺様、お二人には」

 

 みふゆは祈るように見上げると、祖父はコクリと頷いた。

 

「分かっておる。相応の評価と報酬を与えよう。そして……双樹くんには、改めて組織に集う者全てが同志であり、運命共同体であることをしっかり理解して貰わねば。天音姉妹には今後手厚く指導を施すようにと、私から直接伝えるとしよう」

 

 みふゆは胸をなでおろした。

 これで、天音姉妹の有用性をトップに証明することができた。実働部隊を率いるあの紅い夜叉によって彼女達が心身を疲弊することは今後限りなく減るだろう。

 

(そうです。人には一人ひとり、適材適所があります……)

 

 双樹ルカは、基本的に他者を評価する時、「減点方式」を採用していたが、みふゆは逆に「加点方式」を採用していた。

 どんなに愚鈍な人間でも、必ず長所はある。

 そこを見出し、評価し、伸ばし、適切な役割を与えてあげるのが、上に立つ者の役割だとみふゆは捉えていた。

 

 天音姉妹は組織の中では孤立しがちであった。部隊は双樹ルカの実質独裁状態であり(困ったことにみふゆが何度指導しても聞かないのだ)、行動の指針は専ら彼女によって決められていて、二人の意見が採用されることは無かった。

 加えて、優柔不断な側面も見られ、上に立つ者としては少々不甲斐ないという評価であった。

 

 しかし、作戦実行に優柔不断なのは、組織の理念が絶対的に正しいとは思ってない証拠であり、勧誘・あるいは敵対する魔法少女に対しても、甘さがあるからだ。

 故に、組織の中で二人は最も『人間的』であるとみふゆは評価した。

 幻覚が通用しない地方の魔法少女達の説得に赴かせたところ――――最良の結果が得られた。

 

 

 二人は、一人たりとも魔法少女と戦うことなく、血を流すことも無く、組織に誘致して見せた。

 

 

(紅羽根、いつまでも貴女の好きにはさせませんよ……!)

 

 実働部隊の隊長は“紅羽根”の彼女だが、総指揮権は、あくまで自分にある。

 

 双樹ルカが優秀なのはみふゆも承知だ。

 与えられた指示は完璧に遂行し、目的の為に全力を尽くす姿勢は組織の幹部に必要な素質であろう。

 ただし、血の気が多すぎるのも事実である。彼女を説得役に用いて交渉が決裂した場合は、間違いなく殺傷沙汰へと発展しかねない。

 先日の『ネズミ退治』が良い例だ。

 実力差を見せつけねば、分からない相手も多い、とルカは豪語するが、みふゆにしてみればそれは間違いだ。

 

 魔法少女を救う使命を持った自分達は、あくまで“人”にこだわらなければならない。

 故に、争いは愚か、血を極力流すことなく、『解放』を成就するのが必定だと考えていた。

 その点では、天音姉妹は、理想的な人材だった。

 

「状況は確かに急を要している。マギウスは双樹くんの案が合理的且つ早急に済むから採用を検討すべきだと仰っていたが、それは却って都合が悪くなると進言し、棄却させた」

 

 ルカの提案とは、幻覚が聞かない魔法少女の下へ、自分か“蒼羽根”が赴き、実力差を見せつけるというものだった。

 数多の地域を練り歩き、様々な魔法少女達と相対してきたというルカからしてみれば、彼女達を一つの思想の下に揃えるのは、土台無理な話だという。

 流血沙汰はどうしても避けられないのだから、力を示すしか無いのだ――――と。

 

 貝塚市の連帯に対しても、一番の実力者・或いは人望のある中心人物を、圧倒的な実力差と戦力差で、叩きのめす。

 それでも抗戦を望むのであれば、躊躇なく、殺す。

 中心人物を失えば、他の魔法少女達は、自然と『マギウスの翼』に靡かざるを得ない。

 

 ――――それが一番合理的且つ、犠牲の少ない方法であると、ルカは豪語していた。 

 

「しかし、我らに対する不信感や猜疑心を抱かせる。そうなれば、解放が成就しても、我らに対して徒党を組み反乱を起こしかねん。組織への誘致はあくまで平和的且つ、穏便に進めねばならん。確かに双樹くんの案は戦略として捉えるのなら合理的だろうが、人の心が欠けている……。だが、みふゆ。お前はその未来が見えていた。与えられた役割のみに没頭せず、多角的に見渡した上で、最適な人員を割いて事を成就した。……見事だ。やはりお前には上に立つ資格があるのだな」

 

「お爺様には及びません」

 

 みふゆの満面に気色が映る。

 恐らくプライベートであれば嬉しさのあまり抱き着いていたかもしれないが、組織内ではあくまで上司と部下の関係だ。礼節は弁えなければならない。

 

「ただ……一つだけ、気に掛かる事が有る」

 

「……?」

 

 みふゆは顔を見上げる。源道が口元をムッと結ばれていた。

 

「治安維持部長・七海やちよ。彼女をいつ、こちら側に導くつもりだ?」

 

 瞬間、みふゆの顔から笑みが消えた。

 

「みふゆよ。お前が争いを嫌悪する性情なのは重々承知だ。故に、幼馴染と対峙を避けたい気持ちもよく分かる」

 

 先ほどまで孫娘を賞賛する好々爺はどこへ消え失せたか。

 眉間に皺を寄せ、射貫くような視線を向ける様は、正しく戦士であった。

 

「しかし、いつまでも手をこまねいていては大事に発展するぞ。これより先、ミス・ペインプランターの“アレ”を市内中に配置する以上、市内における我らの活動は活発化せざるを得ない。故に、治安維持部とも熾烈な闘争に発展しかねん。犠牲を極力避ける為には、相手の牙を早々に抜き、戦意を削ぐのが肝要ではないか?」

 

「分かっております」

 

「ならば、今の内に手を打ってもらいたい。人員や物資が必要なら私を頼るといい」

 

「いえ、必要ありません」

 

 みふゆは立ち上がると、源道の顔を見据えてきっぱりと発言した。

 

「何?」

 

 微かに呆気に取られた。

 何やら強い意志を込めた瞳で、みふゆは祖父を睨み据える。

 

「やっちゃん……七海やちよの人間性はワタシが一番理解しています。だからこそ、彼女との交渉はワタシ一人で無ければ成し遂げられません」

 

「人は三日も経てば変わるものだ。お前は、七海やちよが自分の知る七海やちよのままだと思っているのか? 結城(ゆうき)安里(あさと)の一件を知った後でも、そう思えるか?」

 

 ――――結城安里。

 

 その名を聞いたみふゆの体が、強張った。

 報告は聞いている。

 しかし、否定したかった。受け入れたく無かった。

 その名を持つ者と、“あんなもの”を繰り広げた者が、七海やちよと同一だと思いたくは無かった。

 

「今の七海やちよは修羅だ。帰る場所を失いただ目的を果たす為だけに自らを省みず勇然と突き進む、人を超えた修羅……人のままでは、恐らく止められん。相対するのであればお前もまた、鬼となる覚悟が必要だ」

 

「ワタシは、外道に堕ちたくはありません!」

 

「何?」

 

「やっちゃんが人で無いのならば、人であるワタシが彼女を救い、元に戻して見せる……それがワタシの使命です!お爺様、この度は手厳しくご指導いただき誠に感謝しております。しかし、未だ私の心構えが整っておりません故に、暫しの時間を頂戴したく願います」

 

 孫娘の意思は固い。懇願するように深々と頭を下げる姿に、源道は顎に手を当ててふむ、と首を捻ったが、

 

「……ふむ、分かった。急かす様な事を言って悪かったな。私もマギウスとミス・ペインプランターには話をしておこう。治安維持部への対処が不十分なままで、第二フェーズにシフトする訳にはいかんからな」

 

 すぐに折れた。 

 

「ありがとうございます。では、私はこれで……」

 

 みふゆは祖父に再度うやうやしくお辞儀すると、背中を向けて去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みふゆの気配が完全に察せなくなった後、源道は後ろを振り向いた。

 

「双樹くん、いるかね?」

 

 玉座の背後の暗闇が、揺らぎ、人影の様な物体を創り上げた。

 やがて黒が剥がれ落ち、血染めの様な真紅のフードを身を包んだ人物が姿を顕す。

 

「紅羽根、こちらに」

 

「聞いていただろうが。みふゆはあの通りだ。恐らく、七海やちよは卸せん」

 

「左様で」

 

 深く被ったフードの隙間から、双樹ルカの残忍さを孕んだ瞳が爛々と瞬いていた。

 

「……“A”は見つかったかね?」

 

「はい」

 

 彼女はニタリと嗤った。良からぬことを企んでいるのか、それともこれから自分が成そうとすることに期待しているのかは分からないが、特に気にしなかった。

 動き出した自分の前を阻む事は、何人たりとも不可能なのだから。

 

「宜しい。では早速交渉に向かうとしよう。あの子の枷を外さねばな」

 

 瞬間――――源道の玉座が漆黒に覆われた。数泊後には、電動式車いすに変化していた。

 右手でレバーを倒し、車輪が虚無に音を響かせながら、全身する。

 紅羽根も後ろに続いた。

 

 

 性善説は確かに素晴らしい。

 そしてそれを信じ、唱える心もまた、美しい。

 だが、人間は生物学的に見れば獣でしかないのだ。獰猛で、狡猾で、闘争を望む本能を隠し持った種族であることは、多くの書物を読んでも、歴史を顧みても証明されている。

 

(青いままでは全ては救えん。人は時に、全身に血潮を滾らせ、赤く熟さねばならん……)

 

 未だみふゆがそれを自覚していないのは、源道にとっては不可思議であった。

 確かに、人を労わる心も、優しさも重要だろう。

 だが、人生には相手を排除しなければ幸せになれない状況の方が遥かに多い。

 

(みふゆ、お前はもう現実を自覚しても良い時だ)

 

 暗闇を切り開くかの様な気迫を相貌に携えながら、源道は突き進んだ。

 

 

 

 

 

  

 

 

 




 改訂前の39話は、投稿した後に読み直したら作者的に違和感ありまくりだった上、
 みふゆさんと天音姉妹の扱いがあまりにも、あんまりなものだったので……
 彼女達を中心に据え直して話を組み立てたところ、いくらか納得のいくものに仕上げることができました。

 読者の皆さまには、今後も、ご迷惑をお掛けいたしますが、何卒、誠心誠意作品を創り上げていく所存でありますので、よろしくお願いいたします。
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