魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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なんとか二週間過ぎずに投稿でけた……

 ※2023/11/28 読みやすさ重視の為、一部文章を変更or添削しております。
 なお、ストーリーには何も支障はございません。



FILE #45 目前の白き光は掴むに値するものか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人で呑んでいるのならば、邪魔するのは無粋だと思い、諦めた。

 やちよも魔女退治の後、そのまま夜間見回りに入ってしまったらしい。

 ……一人しかいないからしょうがないのは分かるが、いつ休んでいるのやら。

 仕方ないので、今日はまさらと二人きりで夜を過ごすことになった。

 

 

 ――――そして、次の日。神浜市役所。

 

 

 結局、やちよに地元で起きた話を打ち明けられたのは、正午過ぎになった。

 休憩時間中、やちよの執務室にお邪魔することになったいろはは、煎茶を啜りながら経緯を伝えた。

 

「ご苦労様」

 

 話を聞き終えた後、やちよは短く嘆息して、そう労う。

 話してる最中、彼女は驚く顔をしたり、悲しむ顔をしたり、眉間に皺を寄せたりと色んな表情を見せて相槌を打ってくれた。

 流石、市民の為に全身全霊を掛けている彼女だ。向き合い方の真剣さが違う。まさらには悪いけど。

 

「でも、無事で良かった」

 

「はい。本当に良かったです。諦めなくって」

 

「それでこそよ」

 

 やちよはフッと笑みを見せたが、いろはは目線を下に向けていた。どこか腑に落ちない表情だ。

 

「どうしたの?」

 

「いえ……使い魔達に殺されそうになった時に、私の口からつい言葉が出てきて……その、汚い言葉が」

 

 恥ずかしい。

 じわりと汗が浮かぶ額を拭うように撫でつつ言うと、やちよは目を丸くしていた。

 

「クソッ! とか、ちくしょう、とか、ふざけんなよ、とか……本当にアレ、私から出た言葉だったのかなあって……」

 

 言い終えると、やちよは突然プッと噴き出した。

 

「やちよさんっ!?」

 

 いろはが立ち上がった。

 真剣に話しているのに、笑われて癪に障ったのだろう。

 だが、やちよは口元を抑えて震えていた。

 

「ふふふ……いろはって本当にかわいいね」

 

「えっ!?」

 

 突然褒められて、ドキリと硬直するいろは。やちよの意図が読めない。

 

「普段とは違う自分がいるってことに、ビックリしたんだね。で、受け入れたくないって?」

 

「…………」

 

 何も返さず、座り込んだ。

 両眉が一瞬、大きく吊り上がった後、口をムッと結んで黙り込む。

 あらら、機嫌を損ねちゃった。けど、図星かな。

 やちよは一瞬だけほくそ笑んだ後、こう続けた。

 

「わかるよ。私もそうだったから」

 

「えっ」

 

 今度はいろはが目を丸くした。

 やちよの視線がいろはよりやや左側に向いた。

 いろはも吊られて視線を追うと、背後の壁に一枚の写真が置かれていた。

 

 煌びやかな、白銀の頭髪。

 顔立ちは凛々しく、男性の様で。

 自分こそが清廉潔白そのものと言わんばかりの、純白の衣装。

 スカートを履いていたことから、女性で――――そして、魔法少女に違い無かった。

 

「この人は?」

 

和泉十七夜(いずみかなぎ)さん」

 

 やちよの方を振り向くと、少し驚いた。

 僅かにだが眉間に皺をよせて、下唇を噛んでいる。

 怒っているのか、それとも悔やんでいるのか……いろはには判別できない。

 

「やちよさんの、友達だったんですか?」

 

 だが、ふと、葉菜と累が頭を過った。

 もしかしたら、仲の良い親友同士だったけど、今はもう……

 

「いえ、私の恩師よ」

 

「恩師……」

 

「私は彼女から総てを教わった。平和と平等の事を。この世の正義と悪も。人との向き合い方も」

 

「すごい人だったんですね……」

 

 いろはは感嘆する。

 英雄の基盤を作り上げた人となれば、それはもう、神に等しいのではないか。

 

「ええ、本来、治安維持部長(私の席)は彼女のもので……全ての魔法少女を正しい方向へと引率してくれる筈だった」

 

「今は、どうしてるんですか……?」

 

「もういないわ……」

 

 今の質問は厳禁だったか。

 いろはは申し訳無さそうにクッと目線を下げた。

 やちよが酷く悲しそうな顔をしたからだ。

 

「気にしなくていいよ」

 

「でも……」

 

「どんな人だったのか、ちょっと教えてあげる」

 

 

 

 

――――

 

 

 

『七海。“教授”が作りあげたシステムは、夕霧さんと自分たちの手で世界中に広がっていくだろう』

 

 

『いつか、全ての魔法少女がキュゥべえの敷いたレールから外れる時が来る。その時が、はじまりだ。世界は魔法少女を必要とし、絶望から切り離された魔法少女(我々)もまた、世界とどう向き合うか、改めて考えなおすだろう』

 

 

『七海、自分は……組織を創りたい』

 

 

『世界で蔓延る差別・戦争・貧困・飢餓・麻薬・無法・悪政に喘ぐ人々を救う為に、魔法少女を派遣する機関……自分、いや、私は……いつか、必ず創り上げてみせる』

 

 

 ――――名前は、決まってるんですか? と、小さかった私は聞いた。

 彼女は力強く頷くと、どこまでも響き渡るような声量で、答えた。

 

 

【リユニオン】だ』

 

 

『魔法と世界を繋ぐ者の集い……【マギア・リユニオン】

 

 

 

 

 

 

 

―――― 

 

 

 

 

 

「あの時……あの人の眼は希望に満ちていた。夕陽が後光のようでね。まだ小さかった私には“神様”のように見えたの」

 

「神……」

 

「かなり極端なところはあったけど、あの人は普通とは違っていた。誰よりも正しくあろうとし、どうすれば社会が公平になり人々を平和に導けるのかって……口にするのはいつもそればっかりで、それしか頭になかったの。正義に憑りつかれた人、といえばいいのかな。あまりにも真っ白過ぎてね……私には、眩し過ぎた」

 

 懐かしむように遠くを見据えていたやちよだが、下唇は噛み締めたまま。

 その仕草から垣間見える感情は――――“怒り”。

 

「でも、違った。あの人は神じゃ無かった。ただの人でしかないことに気付かされた」

 

「何か、あったんですか?」

 

 いろはが尋ねると、眉間に皺が寄った。

 

「“不平等からなる不合理による理不尽”」

 

 言葉を失った。

 いやに抽象的表現だ。

 和泉十七夜の身に、一体、何があったというのか。

 

「正しくあろうとする人の心を壊すのは、いつだって、それなのよ」

 

 具体的な事を問い質すのは、憚れた。

 やちよの顔を般若にしかねないと思ったからだ。家族の古傷を抉るような真似はしたくない。

 

「“絶望”を知ったあの人は、私たちの前から消えた。今はどうしているのか、分からない。生きているのか、それともどこかで野垂れ死んでしまったのか」

 

 10年間、音沙汰が無いという。

 やちよの話では、十七夜は思い知ったのではないか、という。

 自分に、世界を変える力など無いという現実を。

 人間社会に蔓延るあらゆる“不”は、魔法という無限の可能性をもってしても、改善は不可能だと。

 

「……いろは、古い映画だけど『野火』を知ってる?」

 

 一息付いた後、やちよは唐突に質問を投げてきた。

 反射的に、首をふるふると振ってしまう。

 

「フィリピンに派遣された日本兵の話よ。周りは米兵と現地人のゲリラ兵が蔓延り、病魔と食糧不足にも苛れ、自分達は孤立無援。いつ故郷に帰れるか分からない。でも、彼らは“必死”だった」

 

「それは……勝つために、ですか? その、日本の為にー、とか……?」

 

 頭を過ったのは、以前、歴史の教科書で見た「特攻隊」の話だった。

 だが、やちよは小さく嘆息した後、首を振る。

 

「生き残る為よ。崖っぷちに立たされた人間に、正義や誇りなんて存在しない。彼らは生きる為なら何だってやれたの。仲間を欺くことも。死に際の仲間を見捨てることも。殺して武器を奪うことも…………肉を食べることだって」

 

 うっ、といろはの顔が蒼褪める。

 

「そんな、同じ仲間なのに……」

 

「どれだけ高潔に振舞おうとしても、人間なんて結局そんなものよ。正義や信念なんてものは所詮、方便でしかない。……まあ今のは極端な例だけどね」

 

 やちよはそこで笑みを止めると、いろはをしかと見つめた。

 眼力の迫力に、いろはの表情も固まる。

 

「いろは。貴女が正しく綺麗のままでありたいのなら、それは良いことだと思う。だけど、その生き方を私は(・・)勧めない。必ず、あの人の様になるから……」

 

 警告だった。

 混沌こそが人間の常である。

 故に、不平等・不合理・理不尽。自身にあるそれらの“不”を認められなければ、必ず社会に適応できず、心を壊してしまう。

 かつての和泉十七夜のように――――英雄のやちよから“神”と崇められた御仁の信念さえも、木っ端微塵に破壊されたのだ。

 

「まあ、何が言いたいのかっていうとー……」

 

 やちよはそこでふふっと微笑みながら、後ろにもたれた。

 

「意地汚い自分を、もうちょっと認めてあげたら? そうすれば、もっと気楽に生きられるよ」

 

 急に穏やかな雰囲気になったので、いろはの緊張も少し和らいだ。

 だが、納得いかないことがある。

 

「やちよさんも、そうなんですか?」

 

 人々から英雄と讃えられ、治安維持部長として、人々の為に日夜命を張るやちよは、正義と信念に生きていないのか。

 暗にそう尋ねると、やちよは笑みを崩さずに答えた。

 

「私の場合はね。自分が“そういう人間じゃない!”って信じなくても、周りがこうだ!って認めさせようとするの。だから、受け入れるしかなかった。でも後悔はしてないよ。お陰で私はありのままで生きられるんだから」

 

 不思議で、不気味だった。

 悲しい話なのに、やちよは楽しそうに笑っていたからだ。

 表情に、先ほど見られた“悔しさ”や“怒り”は微塵も見えない。

 

(……後悔はしてない、か……)

 

 不意に、鶴乃のことが頭に過った。

 あの子も、十七夜と同じだ。自己満足・独善だったとしても、彼女なりに人々の幸せを願い、その為の正義を追及して、貫こうとした。

 だが、結果的に、壊れてしまった。

 鶴乃には、周りの人々の為ではなく、自分の為に生きて欲しい。

 いつか、自分らしさを取り戻して、幸せになって欲しい。

 

「やちよさん」

 

 そう強く願ったからこそ――――いろははやちよに問い質さなければならない事がある。

 真剣な顔を向けると、やちよも真摯な瞳で見つめ返してきた。どんな問答でも受けて立つつもりだろう。

 

「何かしら?」

 

「やちよさんは……参京区の再開発計画に、本当に心から賛同していたんですか?」

 

 希望がある。

 やちよは心から地元の人々を思いやれる人だ。

 だから、行政や大人の言葉にかどわかされず、自分を貫く人であってほしかった。

 

「これまた唐突ね」

 

 やちよは両眉を吊り上げた後、嘆息した。

 鋭利な蒼穹の瞳には僅かに、困惑の色が見え隠れしていた。

 

「ごめんなさい。だけど、聞かないとやちよさんが見えないままなんです」

 

「あなたはどう思う、いろは」

 

 いろはは即座に首を振った。

 

「私は、違うと思ってます」

 

「人を信じすぎるのはいいことだけど、自分が後で苦しむだけよ」

 

「えっ」

 

「あの頃の私は、大人を信じすぎていた。それが、人々の救済に繋がる道だと信じていたからね……」

 

 困惑を張り付けたままのやちよの口から、感情の消えた声が淡々と響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作十七夜さんどこいった(呆


まあそんなこんなで、神浜市の魔法少女事情は三世代に別れることになりました。

・和泉十七夜の第一世代(10~12年前)
・七海やちよの第二世代(1~7年前)

それぞれの世代の主人公が活躍し、保護特区の基盤を築き、そして、環いろはの第三世代へと継がれていきます。


そして次回、新展開!!

……また長い再開発の話に戻ります。次はやちよさんの視点から描く予定です。
何卒、お付き合い頂ければ幸いです。

また、地域開発の文献を読み込まなければなので、次話投稿は少々お時間を頂きたく願います。……といっても話の着地点は、大体目星は付いているのですがね……。
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