魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
なんとか二週間過ぎずに投稿でけた……
※2023/11/28 読みやすさ重視の為、一部文章を変更or添削しております。
なお、ストーリーには何も支障はございません。
二人で呑んでいるのならば、邪魔するのは無粋だと思い、諦めた。
やちよも魔女退治の後、そのまま夜間見回りに入ってしまったらしい。
……一人しかいないからしょうがないのは分かるが、いつ休んでいるのやら。
仕方ないので、今日はまさらと二人きりで夜を過ごすことになった。
――――そして、次の日。神浜市役所。
結局、やちよに地元で起きた話を打ち明けられたのは、正午過ぎになった。
休憩時間中、やちよの執務室にお邪魔することになったいろはは、煎茶を啜りながら経緯を伝えた。
「ご苦労様」
話を聞き終えた後、やちよは短く嘆息して、そう労う。
話してる最中、彼女は驚く顔をしたり、悲しむ顔をしたり、眉間に皺を寄せたりと色んな表情を見せて相槌を打ってくれた。
流石、市民の為に全身全霊を掛けている彼女だ。向き合い方の真剣さが違う。まさらには悪いけど。
「でも、無事で良かった」
「はい。本当に良かったです。諦めなくって」
「それでこそよ」
やちよはフッと笑みを見せたが、いろはは目線を下に向けていた。どこか腑に落ちない表情だ。
「どうしたの?」
「いえ……使い魔達に殺されそうになった時に、私の口からつい言葉が出てきて……その、汚い言葉が」
恥ずかしい。
じわりと汗が浮かぶ額を拭うように撫でつつ言うと、やちよは目を丸くしていた。
「クソッ! とか、ちくしょう、とか、ふざけんなよ、とか……本当にアレ、私から出た言葉だったのかなあって……」
言い終えると、やちよは突然プッと噴き出した。
「やちよさんっ!?」
いろはが立ち上がった。
真剣に話しているのに、笑われて癪に障ったのだろう。
だが、やちよは口元を抑えて震えていた。
「ふふふ……いろはって本当にかわいいね」
「えっ!?」
突然褒められて、ドキリと硬直するいろは。やちよの意図が読めない。
「普段とは違う自分がいるってことに、ビックリしたんだね。で、受け入れたくないって?」
「…………」
何も返さず、座り込んだ。
両眉が一瞬、大きく吊り上がった後、口をムッと結んで黙り込む。
あらら、機嫌を損ねちゃった。けど、図星かな。
やちよは一瞬だけほくそ笑んだ後、こう続けた。
「わかるよ。私もそうだったから」
「えっ」
今度はいろはが目を丸くした。
やちよの視線がいろはよりやや左側に向いた。
いろはも吊られて視線を追うと、背後の壁に一枚の写真が置かれていた。
煌びやかな、白銀の頭髪。
顔立ちは凛々しく、男性の様で。
自分こそが清廉潔白そのものと言わんばかりの、純白の衣装。
スカートを履いていたことから、女性で――――そして、魔法少女に違い無かった。
「この人は?」
「
やちよの方を振り向くと、少し驚いた。
僅かにだが眉間に皺をよせて、下唇を噛んでいる。
怒っているのか、それとも悔やんでいるのか……いろはには判別できない。
「やちよさんの、友達だったんですか?」
だが、ふと、葉菜と累が頭を過った。
もしかしたら、仲の良い親友同士だったけど、今はもう……
「いえ、私の恩師よ」
「恩師……」
「私は彼女から総てを教わった。平和と平等の事を。この世の正義と悪も。人との向き合い方も」
「すごい人だったんですね……」
いろはは感嘆する。
英雄の基盤を作り上げた人となれば、それはもう、神に等しいのではないか。
「ええ、本来、
「今は、どうしてるんですか……?」
「もういないわ……」
今の質問は厳禁だったか。
いろはは申し訳無さそうにクッと目線を下げた。
やちよが酷く悲しそうな顔をしたからだ。
「気にしなくていいよ」
「でも……」
「どんな人だったのか、ちょっと教えてあげる」
――――
『七海。“教授”が作りあげたシステムは、夕霧さんと自分たちの手で世界中に広がっていくだろう』
『いつか、全ての魔法少女がキュゥべえの敷いたレールから外れる時が来る。その時が、はじまりだ。世界は魔法少女を必要とし、絶望から切り離された
『七海、自分は……組織を創りたい』
『世界で蔓延る差別・戦争・貧困・飢餓・麻薬・無法・悪政に喘ぐ人々を救う為に、魔法少女を派遣する機関……自分、いや、私は……いつか、必ず創り上げてみせる』
――――名前は、決まってるんですか? と、小さかった私は聞いた。
彼女は力強く頷くと、どこまでも響き渡るような声量で、答えた。
『【リユニオン】だ』
『魔法と世界を繋ぐ者の集い……【マギア・リユニオン】』
――――
「あの時……あの人の眼は希望に満ちていた。夕陽が後光のようでね。まだ小さかった私には“神様”のように見えたの」
「神……」
「かなり極端なところはあったけど、あの人は普通とは違っていた。誰よりも正しくあろうとし、どうすれば社会が公平になり人々を平和に導けるのかって……口にするのはいつもそればっかりで、それしか頭になかったの。正義に憑りつかれた人、といえばいいのかな。あまりにも真っ白過ぎてね……私には、眩し過ぎた」
懐かしむように遠くを見据えていたやちよだが、下唇は噛み締めたまま。
その仕草から垣間見える感情は――――“怒り”。
「でも、違った。あの人は神じゃ無かった。ただの人でしかないことに気付かされた」
「何か、あったんですか?」
いろはが尋ねると、眉間に皺が寄った。
「“不平等からなる不合理による理不尽”」
言葉を失った。
いやに抽象的表現だ。
和泉十七夜の身に、一体、何があったというのか。
「正しくあろうとする人の心を壊すのは、いつだって、それなのよ」
具体的な事を問い質すのは、憚れた。
やちよの顔を般若にしかねないと思ったからだ。家族の古傷を抉るような真似はしたくない。
「“絶望”を知ったあの人は、私たちの前から消えた。今はどうしているのか、分からない。生きているのか、それともどこかで野垂れ死んでしまったのか」
10年間、音沙汰が無いという。
やちよの話では、十七夜は思い知ったのではないか、という。
自分に、世界を変える力など無いという現実を。
人間社会に蔓延るあらゆる“不”は、魔法という無限の可能性をもってしても、改善は不可能だと。
「……いろは、古い映画だけど『野火』を知ってる?」
一息付いた後、やちよは唐突に質問を投げてきた。
反射的に、首をふるふると振ってしまう。
「フィリピンに派遣された日本兵の話よ。周りは米兵と現地人のゲリラ兵が蔓延り、病魔と食糧不足にも苛れ、自分達は孤立無援。いつ故郷に帰れるか分からない。でも、彼らは“必死”だった」
「それは……勝つために、ですか? その、日本の為にー、とか……?」
頭を過ったのは、以前、歴史の教科書で見た「特攻隊」の話だった。
だが、やちよは小さく嘆息した後、首を振る。
「生き残る為よ。崖っぷちに立たされた人間に、正義や誇りなんて存在しない。彼らは生きる為なら何だってやれたの。仲間を欺くことも。死に際の仲間を見捨てることも。殺して武器を奪うことも…………肉を食べることだって」
うっ、といろはの顔が蒼褪める。
「そんな、同じ仲間なのに……」
「どれだけ高潔に振舞おうとしても、人間なんて結局そんなものよ。正義や信念なんてものは所詮、方便でしかない。……まあ今のは極端な例だけどね」
やちよはそこで笑みを止めると、いろはをしかと見つめた。
眼力の迫力に、いろはの表情も固まる。
「いろは。貴女が正しく綺麗のままでありたいのなら、それは良いことだと思う。だけど、その生き方を
警告だった。
混沌こそが人間の常である。
故に、不平等・不合理・理不尽。自身にあるそれらの“不”を認められなければ、必ず社会に適応できず、心を壊してしまう。
かつての和泉十七夜のように――――英雄のやちよから“神”と崇められた御仁の信念さえも、木っ端微塵に破壊されたのだ。
「まあ、何が言いたいのかっていうとー……」
やちよはそこでふふっと微笑みながら、後ろにもたれた。
「意地汚い自分を、もうちょっと認めてあげたら? そうすれば、もっと気楽に生きられるよ」
急に穏やかな雰囲気になったので、いろはの緊張も少し和らいだ。
だが、納得いかないことがある。
「やちよさんも、そうなんですか?」
人々から英雄と讃えられ、治安維持部長として、人々の為に日夜命を張るやちよは、正義と信念に生きていないのか。
暗にそう尋ねると、やちよは笑みを崩さずに答えた。
「私の場合はね。自分が“そういう人間じゃない!”って信じなくても、周りがこうだ!って認めさせようとするの。だから、受け入れるしかなかった。でも後悔はしてないよ。お陰で私はありのままで生きられるんだから」
不思議で、不気味だった。
悲しい話なのに、やちよは楽しそうに笑っていたからだ。
表情に、先ほど見られた“悔しさ”や“怒り”は微塵も見えない。
(……後悔はしてない、か……)
不意に、鶴乃のことが頭に過った。
あの子も、十七夜と同じだ。自己満足・独善だったとしても、彼女なりに人々の幸せを願い、その為の正義を追及して、貫こうとした。
だが、結果的に、壊れてしまった。
鶴乃には、周りの人々の為ではなく、自分の為に生きて欲しい。
いつか、自分らしさを取り戻して、幸せになって欲しい。
「やちよさん」
そう強く願ったからこそ――――いろははやちよに問い質さなければならない事がある。
真剣な顔を向けると、やちよも真摯な瞳で見つめ返してきた。どんな問答でも受けて立つつもりだろう。
「何かしら?」
「やちよさんは……参京区の再開発計画に、本当に心から賛同していたんですか?」
希望がある。
やちよは心から地元の人々を思いやれる人だ。
だから、行政や大人の言葉にかどわかされず、自分を貫く人であってほしかった。
「これまた唐突ね」
やちよは両眉を吊り上げた後、嘆息した。
鋭利な蒼穹の瞳には僅かに、困惑の色が見え隠れしていた。
「ごめんなさい。だけど、聞かないとやちよさんが見えないままなんです」
「あなたはどう思う、いろは」
いろはは即座に首を振った。
「私は、違うと思ってます」
「人を信じすぎるのはいいことだけど、自分が後で苦しむだけよ」
「えっ」
「あの頃の私は、大人を信じすぎていた。それが、人々の救済に繋がる道だと信じていたからね……」
困惑を張り付けたままのやちよの口から、感情の消えた声が淡々と響いた。
原作十七夜さんどこいった(呆
まあそんなこんなで、神浜市の魔法少女事情は三世代に別れることになりました。
・和泉十七夜の第一世代(10~12年前)
・七海やちよの第二世代(1~7年前)
それぞれの世代の主人公が活躍し、保護特区の基盤を築き、そして、環いろはの第三世代へと継がれていきます。
そして次回、新展開!!
……また長い再開発の話に戻ります。次はやちよさんの視点から描く予定です。
何卒、お付き合い頂ければ幸いです。
また、地域開発の文献を読み込まなければなので、次話投稿は少々お時間を頂きたく願います。……といっても話の着地点は、大体目星は付いているのですがね……。