魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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※2023/10/08 一部文章を書き直しております。ストーリー展開には何も影響はございませんのでご安心ください。


FILE #45.5 その少女は何者でもなく③ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明京町・大東区――――

 

 広大な領土を持つこの区域は、大きく三分割されている。

 まず、東半分を占めるのが町役場のある中心街。

 次に、西半分を占めるのが蒼海幇の本部があるチャイナタウンである。

 

 ――――そして蒼海幇本部の裏側。

 7 m程の防波堤で隔てられた裏側には、小さな集落が沿岸沿いに形成されている。

 ここは神浜市に“受け入れて貰えなかった”アジア系不法移民達が、勝手に自分達で創り出した『スラム街』だ。

 

 歴史は古い。

 高度経済成長期の頃、神浜市政は異文化交流に積極的であり、長きに渡り移民奨励制度を導入していた。

 結果的に、大量に流れ込んできた中国系移民達によって、チャイナタウンが生まれた事で、市の活性化には至ったのだが……同時に海外から麻薬及び重火器類の密売者も忍び込み、地元のヤクザ組織と取引したことで、町内の治安は一気に悪化した。

 

 だが、夕霧青佐が市政の実権を握ってからは、厳正な規制が発令された。

 具体的に何をしたのかは、フェリシアの知るところではない。

 だが、一説では蒼海幇の首脳部と密約を交わし、地元ヤクザと繋がりがある者、麻薬を密売目的で隠し持っていた者を徹底的に洗い出して、警察に検挙させたという。

 

 

 

 

 

(おかげさまで、大規模な犯罪は無くなった。でもスラム街はそのまま……)

 

 日本は海外の発展途上国から見れば黄金の国だ。

 流れ着く不法移民は後を絶たないし、抑えきれないのが現状だろう。

 無論、蒼海幇のトップ【五強聖】と直属部隊・堕龍、そして彼女達に協力的な傭兵達が()()()()睨みを利かせているので、犯罪はほぼ無い。

 

 

 海沿いを悠々と歩く金髪紫眼の少女――フェリシアの目先に広がるのは、廃れた景色だ。

 世界でも有数の治安を誇る日本国内とは、とても思えない。

 一見、人が住んでいる気配などまるで無いが、実際は多国籍の移民達が密集している。

 フェリシアは頻繁に足を運んでおり、言語力もここで相当に鍛えられた。

 

 さて、鬼が出るか蛇がでるか――――

 フェリシアは期待に胸を寄せながら意気揚々と足を踏みいれる。

 

「おい、そこのガキ! 待ちな!!」

 

 ほら、やってきた。

 フェリシアが声の方を向くと、草臥れたトタン屋根の上に一人の女性が立っていた。

 初めて見る奴だ。

 衣装から見て、間違いなく魔法少女だろう。恐らくは、同業者か。

 

「……オメーみてーな傭兵を警察代わりにしてるようじゃ、竜人共の底が知れるな」

 

 フェリシアは彼女を見るなりハア、と溜息を吐いた。

 挑発――では無く、単純に残念だったのだ。

 堕龍が一匹くれば、中国拳法をご教授願えると思っていたのに……人生とは中々思い通りにいかないものである。

 

「随分日本語が流暢だが……日本人じゃねえようだな。どこの国籍だ?」

 

「何言ってんだ? オレは生粋の日本人だぜ」

 

 中指を立てると、傭兵の顔があからさまに歪んだ。

 

「クソガキ……何のマネだ?」

 

「オメー傭兵(こっち)は素人だな。ポーカーフェイス出来ねえだろ?」

 

 挑発的に笑うと、表情がますます怒りに染まった。

 

「退けよ。用があるのは伊月だ。オマエみてーなクソじゃねえ」

 

「お前……ジュンさんのなんだ?」

 

 今にも飛び掛かってきそうだ。

 だが、フェリシアは特に気にすることもなく……輝かしい笑顔を浮かべて、

 

「マブダチ」

 

 と言い放った。

 風切り音――傭兵が即座に獲物を奮って来たのは同時だった。

 反射的に上半身を反らす。横薙ぎの獲物は、フェリシアの鼻先を掠めて通過した。

 

(槍……いや、笛か)

 

 成程、中々の腕前だ。恐らく経験も相当に積んでいるのだろう。

 回避しながらも、獲物を注視する。

 先端に刃物が付いた細長い棒状の柄には、幾つもの小さな穴が、規則的な縦列で空いている。直ぐ様上体を起こし、ウェストバッグから耳栓を取り出そうとするが、

 

「遅い!」

 

 傭兵の方が早かった。

 ピィッ! と笛の音が響いたと思うと、視界が一変する。

 

「ッ!?」

 

 あらゆる物体がグニャグニャに捻じ曲がり、二重、三重にも増殖する。

 まるで血管に直接アルコールを注入されて泥酔した様な光景だ。

 

 ――――幻覚魔法か。それも平衡感覚を失わせる系統。

 

 即座に判断すると、ギュッと目を瞑った。見続けていたら頭まで狂ってしまう。

 

「帰ってママのおっぱいでも吸ってな。嬢ちゃん」

 

「オメーは子宮の中で脳みそ作り直して貰えよ」

 

 だが、フェリシアの余裕は微塵も揺らがない。

 傭兵の形相が憤怒に染まり、再び獲物を横に薙いできた。先端の刃先がフェリシアの脇腹に、

 

「ッ!?」

 

 ――――食い込む筈だった。

 

 傭兵が瞠目する。

 寸前でフェリシアが消えたのだ。

 刹那、視界が闇に覆われて、息が止まる。

 

「っぐ!!」

 

 メキメキと骨が軋む嫌な音が、頭の内側で反芻する。

 傭兵は困惑。

 何かが、自分の顔に覆いかぶさった。そして、自分の頭を両サイドから挟み潰そうとしている。

 咄嗟に獲物を離し、引きはがそうと手を伸ばす。掴んだものは、

 

「――――!?」

 

 ――――足?

 傭兵は更に驚いた。

 どうやら相手は、刃物が当たる直前で飛び上がって回避すると、自分の顔を両ひざで挟んで来たらしい。

 

「テメーやっぱり初心者だな。対人戦がまるでなっちゃいねえ」

 

 相変わらず余裕綽々とした、フェリシアの嘲笑混じりの声が、頭上から響く。

 

「幻覚使おうが、目の前で立ち止まってりゃ意味ねーじゃねーか。背後に回るとか、遠くから狙撃するとかいくらでもあっただろ」

 

 対峙した時点で、フェリシアは傭兵と自分との距離を目算していた。

 そして、傭兵は最初から一歩も動かなかった(・・・・・・・・・)

 

「大方、他所で悠々やってたけど、連れがみんな死んで自分まで危なくなったから、神浜(こっち)に来たってクチだろ? 幻覚使いってのは、それだけでアイデンティティだからな。実力がクソだろーが引っ張りダコだよ、なあ?」

 

 図星だ。

 傭兵の肺活量が激しくなるが、この状態では窒息まで秒読みだ。

 両足をギュっと掴み、フェリシアを引き剥がそうとするが、

 

「痛てーよこのバカッ!!」

 

 怒号と同時に、部分的に魔法少女に変身したフェリシアの両肘が、傭兵の後頭部に墜落!!

 爆撃の様な轟音が響いた後、傭兵は白目を剥いて倒れた。

 そして……

 

 

「……なんだこいつ、300円しか持ってねーぞ?」

 

 

 ――――懐から“戦利品”をしっかり頂くフェリシアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう。邪魔するぜ、とっつぁん」

 

「いらっしゃ……なんだお前か、フェリー」

 

 フェリシアは15分ほどスラム街を歩き、一件の板金屋へと辿り着いていた。

 カウンター越しで座り込んで新聞を読んでいた店主――白髪小柄の初老の男――が露骨に嫌な顔を向けるが、いつものことなので別に気にしない。

 

「今月は何人殺した?」

 

 そらきた――と、店主が忌々しくチッと舌打ちする。

 挨拶変わりにそんなことを尋ねるのはコイツぐらいである。

 

「今の俺はただの板金屋だぜ。殺しなんて請け負う訳ねえだろうが」

 

「あっそ。じゃあ何人沈めた?」

 

「お前なあ……!!」

 

 睨みつけるが、フェリシアには通じない。

 冷やかしなら出ていけ、と店主が怒鳴ろうとした矢先だった。

 

「おっ、聞いた事ある声だと思ったらフェリーじゃ~ん。おひっさー」

 

 店主の背後の階段の上から声。

 フェリシアが首を上に向けると、一人の女性が階段から降りて、店主と並び立った。

 全体的に地味な印象だった。

 身長は150cmのフェリシアよりも2~3cm高い程度の小柄で、細身の体躯を、ダークグリーンのフロントジップワンピースで包んでいる。

 前はパッツンに切り揃えて、両サイドを三つ編みで結んだ黒髪。半開きの瞳は年中眠そうに見えるし、口元はいつも弧を描いていて、生来の朗らかさが滲み出ている。

 スラム街の住民としてはあまりにも不釣り合いで、どこにでもいる女子大生にしか見えない。

 

「おお、ジュン! 元気にしてたかー!?」

 

「元気元気~♪」

 

 陽気な彼女の名前は伊月ジュン。この板金屋の看板娘――――

 

「今月は何人殺した?」

 

「バッカだねフェリー。ここは日本だよ? 殺しなんてダメに決まってんでしょー?」

 

「聞き方が悪かった。何人海に沈めた?」

 

「ああ、それは5人ぐらい」

 

 ――そして、生粋の“傭兵”である。その血生臭い武勇伝は数知れず。

 

 最も、この人の良さそうな風貌からは到底信じられないが。

 

「おい!」

 

 店主が娘の軽口ぶりに思わず声を荒立てるが、

 

「やるなあ、お前!」

 

「まーねー。私のヤマ奪おうとしたんだし、報いを受けてとーぜんでしょー?」

 

 まるでどこ吹く風である。

 寧ろ、二人なりの(・・・・・)ガールズトークで盛り上がっていた。

 青筋を浮かべて黙り込む店主。こうなったら好きに二人で話しててくれ。

 

「ってかフェリー、こんなところに何の用?」

 

「そうだぞ。最近はお上の連中がうるせーからな。他所モンのお前さんが見つかったらウチに迷惑が掛かるんだから、用が無いならとっとと出てけ」

 

「冗談だろ?」

 

 フェリシアは店主の言葉を鼻で笑い返した。

 

「あんなクソに警備を任せてる時点で蒼海幣も人が足りねーんだろ」

 

「まーねー。最近は市街でヤク売りさばいてる連中は海外のカルテルと繋がってて中々手強いって聞くし、得体の知れないゴーストファクトリーもあるから、専らそっちの対応で追われてんじゃないのー? まあ、【五強聖】様が管理してるってだけで、ここの騒動はグッと減ってるけどねー」

 

 寧ろ中心街よりよっぽど平和だよ、とジュンはつまらなそうに呟いた。

 

 ――といっても、上記でフェリシアが一人ごちた様に、“大規模な”犯罪が起きてないだけだ。

 来る途中で耳に挟んだが、見知らぬ傭兵――恐らく、その海外麻薬カルテルの一員か――が、ここの住民を誘致して、密売に加担させているのだという。

 ここは蒼海幇によって、移民達の働き場所としていくつか工場が設けられたが、それでも麻薬に手を染めてしまう者が多い。

 金は人の心を狂わせる。

 

「まー、オレにはどうでもいいことだが……それより用件ならちゃんとあるぜ」

 

 フェリシアはそういうと、ウェストバッグを開けて何かを取り出した。

 それを、勢いよくカウンターにバンッ!と置くと――――親娘の形相が一変する。

 

「こ、こいつぁ……」

 

「随分だねー……」

 

 揃って驚愕。

 カウンターに置かれたのは、分厚い札束が3つ。

 念のため二人で1枚ずつ確認すると、総てが福沢諭吉(ホンモノ)だ。

 

「オレの全財産だ。300万はある」

 

 親娘二人が瞠目してフェリシアを見つめる。

 

「まず200万で……買えるだけのドローンをくれ」

 

 まず、福沢諭吉の二束を店主に差し出す。

 

「フェリー……てめえ、どんなヤマ抱えやがった」

 

 そう尋ねる彼の眼つきには、獰猛な光が宿っていた。

 表向きは板金屋を名乗る店主だが、その背景を知っている傭兵だけが、大金を持って店に訪れる。

 フェリシアもその一人だった。

 

「それは後で」

 

 フェリシアは目をジュンに向けると、残りの一束を差し出した。

 

「こいつで……お前を雇う」

 

「私?」

 

 ジュンは自分を指さして、目を見開いていた。

 

 傭兵にとって、命の次に大事なのは“金”だ。

 どんな酷な案件でも報酬はなるべく他人に譲りたくないと思うのが常だ。

 基本的に彼女達は血の気が多過ぎるから、報酬の取り分で、血が飛び散る騒動に発展する確率が非情に高いし、隙を突かれて殺された上に、報酬も全部横取りされた、なんてケースも沢山見た。

 

 そんな背景を顧みると、フェリシアが自分を頼るのは心底意外で、呆気に取られた。

 

「……分け前くれるの? フェリー」

 

「雇うって言ったの聞こえなかったか? お前への依頼は“俺の仕事のサポート”だ。俺の仕事そのものじゃねー」

 

 成程。

 二人で同じ仕事を請け負えば、報酬の取り分で殺し合う。

 だが、別の仕事という形で(・・・・・・・・・)サポートを依頼して、報酬をやるって仕組みにすれば、抑えられるって考えか。

 

「ジュンまで連れてくたあ、百戦錬磨のお前が弱気になっちまう程か? フェリー」

 

「まあ、そんなところだ」

 

 と、言いながらもフェリシアの表情には自信に満ち溢れていた。

 負ける可能性なんて考えて無いのだろうが、“万が一”を常に考慮するのも傭兵稼業の鉄則だ。

 

「面白そうだな。期待通りのモノはやっから教えてくれ」

 

「私にもおしえてー」

 

「それはな――――」

 

 親娘二人がウキウキしながら詰め寄ってきたので、フェリシアはこっそり耳打ちする。

 

 ――途端、二人の形相が冷たくなった。

 

「そ、そいつぁー……」

 

「ば、バカでかい案件だねー」

 

「だろ?」

 

 予想通りのリアクションにフェリシアはケラケラと笑うが、店主は納得いかない様子だ。

 

「しかし……どこのどいつだ。そんな馬鹿げた事を依頼する奴はよ?」

 

「言えねえけど、これだけははっきり言えるよ」

 

「そいつ、イカれてる」

 

 ジュンが代弁すると、フェリシアがククッと不敵に笑った。

 

「じゃあ、せいぜいオレをガッカリさせるなよ。お二人さん」

 

 小さな板金屋の中で、三人の狼が猟奇的な眼光を瞬かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、皆さま、あけましておめでとうございます!

新年一発目は、【世にも奇妙なフェリシアちゃんの日常】・第三弾でした。

大分、設定ガバガバですが、ご容赦ください。
しかも、短編のつもりが5000字超えたよ……。

今回初登場した伊月ジュンのイメージビジュアル(カスタムキャストで作成)です

【挿絵表示】


まあ、某これくしょんの北上さんを思い出して頂ければ。
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