魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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 ※2023/11/28 読みやすさ重視の為、一部文章を変更or添削しております。
 なお、ストーリーには何も支障はございません。

 ※他作品とのクロスオーバー有ります。



FILE #48 外の世界で見えたもの(※クロスオーバー有り)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――2年前。

 

 ――――兵庫県 二木市 虎屋町駅。

 

 

「本日、大親分は大忙しでありんすので、街を散策されるとよろしいでしょう」

 

 ――――客室で一服した矢先にそう言われてしまったら、出かけるしかない。

 大親分・紅晴結菜と話ができるのは、夕暮れを迎えてからだそうだ。

 時刻を確認すると、丁度お昼どきなので、どこかで食事を取っても良い頃合いだ。

 

「では七海さん。ステーキを食べに行きましょう!」

 

 そう伝えると、めぐみがいきり立って宣言した。

 成程、ステーキか。しばらく肉類を食べていなかったし、たまにはガッツリ食べるのも悪くない。

 ……二人のお腹がキュルキュルと鳴った。善は急げ。

 めぐみとやちよは、荷物番の従者から鞄を受け取ると、早速出発する。

 

 

「行ってらっしゃいませ」

 

 門を出ると、従者の一人が、見送ってくれた。

 彼女が頭を下げると、やちよも頭を下げる。

 

「それでは行って参ります……あ、ちょっと!?」

 

「早くしないと混みますからねっ! さっさと行きますよっ!」

 

「ふふ……」

 

 言うが否や、めぐみにグイグイと腕を引っ張られて連れ出されるやちよ。

 幼い妹が、久しぶりに暇が取れた姉と遊びに行くような微笑ましい光景に、従者も思わず笑みを零すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――二木市 竜ケ崎町

 

 そうして、二人が辿り付いたのは、竜ケ崎町の中心にある焼肉屋だった。

 

「お前が七海やちよかっ!! 待ってたぜっ!!」

 

 店を入った直後に、二人の目の前に飛び出してきたのは、細身で小柄だが、威勢の良さを全身で顕している黒髪の女性だ。

 

「もう知れ渡ってるんですね……」

 

「二木の情報網ナメんなよ! とっくに姐さんから伝達済みだっ!」

 

 やちよは目を丸くして関心。

 どうやら市内中の店に大親分と直結したネットワークが形成されている模様だ。

 中心人物が常に管理できる状態だからこそ、この街の商業は纏まっているのだろうか。

 

「この方は?」

 

 やちよが女性のことをめぐみに尋ねる。

 

「大庭屋でシェフをされている肉なら豚から人までなんでも焦がす焼殺天使ウェルダンちゃんです」

 

お前もウェルダンにしてやろうかぁ!! ……っておいコラ何やらせんだめぐみん! しかも肉屋としちゃイメージ最悪だぞソレっ!?」

 

「ではウェルダンちゃんさん。こちらではステーキが絶品と聞き及んだのですが……まさか焦がして?」

 

「お前も馬鹿正直に受け取るなっ!! ……いいぜっ! 折角来てくれたんだ! とっておきを御馳走してやるよっ!!」

 

 やちよの眼がパアッと輝くが、めぐみは溜息。

 

「ウェルダンにウェルダンを掛けたウェルダン級のウェルダン料理ですね」

 

「『腕によりをかけた最高級の肉料理』と言ってくれっ!!?」

 

 ツッコミながらも女性は、二人をテーブルまで案内した。

 中央のくぼみは鉄板になっていて、シェフの女性は厨房から運んできた二枚のステーキを早速焼き始める。

 

 ――――しばらくして、

 

「はいよ、おまちぃっ!!」

 

 威勢の良い掛け声と同時に目の前の皿に置かれたのは、よく油が乗ったステーキだ。

 良い臭いに鼻腔が刺激されて、唾液があふれ出そう。やちよとめぐみは早速ナイフで切ろうとするが、

 

「おっと、コイツは“チョップスティック”で食べてみろっ!」

 

 直前で、シェフの女性が二人に手渡した。

 

「箸……?」

 

 やちよが手にした“それ”を見て目を見開く。

 ステーキは本来固いもの。なのにわざわざ箸で切って食べろ、というのか。

 心配になって、シェフの女性の顔をみると、ニヤニヤと不適に笑っている。『騙されたと思って使ってみろ』とでも言いたげだ。

 次いでめぐみを確認すると、彼女も同じ笑みをやちよに向けている。

 

「頂きます……」

 

 なんか二人に嵌められてるような気がしたが、やむをえまい。

 やちよは箸の先端をステーキに押し当てる。すると……

 

「えっ?!」

 

 驚愕。

 箸はスゥ、と分厚い肉に吸い込まれていった。まるでショートケーキのクリームかスポンジのように。

 縦に動かすと、ステーキは最初から繊維など存在しなかったかのように、簡単に解れていく。

 一口サイズに切り分けると、摘んで口の中に放り込んだ。

 

「っっ!!!」

 

 衝撃。その一瞬後に口の中に広がったのは未体験の幸福感だ。

 カリッと焼かれた表面。舌の上で転がすと、肉が解けて消えた。そして、微かに甘みのある香りだけを口の中に残す。

 

「どうだい?」

 

 シェフの女性がしてやったりの表情を向けてくる。

 

「ええ、こんなステーキは食べたことがありません。肉の質も、塩・胡椒の加減も絶妙ですが……何より焼き加減が素晴らしいです」

 

「おおっ! 味覚まで“最強”とは恐れ入った! そこを分かってもらえるとは料理人冥利に尽きるねぇっ!!」

 

 やちよが笑顔で絶賛すると、シェフの女性の満面が喜色に染まった。

 

「表面を一気に焼き上げることでレア部分の旨味を閉じ込めるんだ! こいつぁ肉が高級なら誰でもできる芸当じゃねえっ! この樹里サマの天才的技巧が有って初めて為せる“技”ってヤツよぉッ!!」

 

「……講師から焼き方を教わっただけなんですけどね」

 

「いちいち樹里サマの炎に水をぶっかけるなっ!!」

 

 めぐみがサラッと横槍を差すと、樹里と名乗ったシェフは顔を真っ赤にしてツッコむ。

 

「講師?」

 

「ええ。大庭屋グループは昔、謂れのない食品偽造加工疑惑と、ウェルダン至上主義(笑)のせいで長らく低迷されていたのですが……その方が全店舗の調理講師となり、食材の仕入れも社会的信用のある卸売り業者を斡旋してくれたお陰で、建て直せたのですよ。ちなみにそこにいる大庭樹里ってヤツも今はようやく二本足で立てる程度に進化しましたが、大昔は地の底を這うゴキブリで……」

 

 樹里の顔が急激に冷え付いたので、まずい、とやちよは思った。

 

「おい」

 

「ごめんなさい人間じゃなくてまだ山猿でしたねすみません間違いました」

 

 樹里のこめかみに、ピキリッとゴツイ血管が浮き出る。

 

「……やんのかお前」

 

「ここで私と? 上等ですよ。但し、貴女の猿知恵が私の天才的頭脳の足元に及んでいればの話ですけど?」

 

「そーいう上から目線の物言いだからお役所の連中はいけ好かねえんだよ……っ! そっちがその気なら受けて立つぜ!」

 

「良いでしょう。ならばさっそく勝負です!」

 

 ――――まさか魔法少女同士で!?

 咄嗟に立ち上がり、身構えるやちよ。しかし――――

 

「『さて、“ウェルダン”は何回言ったでしょう?』」

 

「ってえええええ!? ……え~~っと、ひーふーみー……そうだな、7回だ!」

 

「ブブー! 相変わらず脳みそが猿以下ですねっ! “私が”とは言ってませんっ! “みんなが”言った回数ですっ! つまり正解は9回。っという訳で、ステーキ代はタダにしてくれますよね?」

 

「ぐぬぬぬっ、負けた以上は仕方ねえ……っ!!」

 

「いや払いますから」

 

 やちよはそういうと、ステーキ代の一万円を手渡した。

 

「これでよろしいですか?」

 

「毎度ありぃっ!!」

 

 樹里が満面の笑みで受け取る。

 年下が払ったら自分も払わない訳にはいかない。

 めぐみは「チェッ」と舌打ちして口を尖らせながらも、財布から諭吉を手渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さしでがましいですが……」

 

「ん?」

 

「その講師の方に、お礼をお伝えしていただきたいのです」

 

 暫くして、やちよはステーキを完食した後に樹里にそう切り出した。

 ……ちなみに、めぐみはというと、ステーキを一口ひとくち噛み締める度に昇天しているので、食べきるまで時間が掛かりそうだった。

 

「なら、今会ってみるかい?」

 

「いらっしゃるのですか?」

 

「ここにはいないけどね。すぐ会える(・・・・・)

 

「??」

 

 樹里の言葉の意図が読み取れず、やちよはポカンと首を傾げる。

 ついてこい、と樹里に言われるまま、やちよは厨房へと足を踏み込んだ。

 現在は他の従業員は休憩中の為、厨房は樹里だけだが、一人でも手際良く回せるためか、狭く作られている。

 だが、目に付いたのは、壁の“それ”だ。

 40インチ程のモニターが、厨房全体を見下ろせる程の高い位置で、張り付けられていた。

 樹里が、近づいて画面のスイッチをONにすると、

 

『やあ樹里、何かあったのかい?』

 

 驚いた。

 若い青年の顔が全面に表示され、樹里に話しかけたのだ。

 

『また三田牛の最高級をウェルダンしたのか?』

 

「お、沖田のアニキまで……っ!」

 

 樹里が涙目になりガックリと項垂れる。

 アニキと呼ばれた青年は、その反応を愉快そうに笑い飛ばした。

 

『冗談冗談。樹里がよくやってるのは知ってるさ……と、今日は客人が来ているみたいだな』

 

 青年は鋭い視線をやちよに向けてきた。

 “沖田”……その名を聞いて、やちよはハッとした目で、青年の顔に食いつく。

 狼のような鋭い目つきと精悍な顔つき、黒と金の混じった特徴的な頭髪には、見覚えがある。

 

「お初にお目にかかります。失礼を承知でお尋ねいたしますが、貴方は“神戸五稜郭亭”の沖田 誠さんでは?」

 

『魔法少女の英雄に覚えて頂けるとは光栄ですね、七海やちよさん』

 

 やちよが頭を下げると、沖田はニコリと暖かい表情を魅せる。

 

 ――――五稜郭亭とは、函館から発祥した飲食店グループのことで、札幌・旭川・小樽・横浜・神戸・松山にも支店を置いている。

 『客が食べたいと思ったものを創り、提供する』をモットーにしており、その評判はいずれの店舗も日夜盛況が鳴りやまない程だ。

 沖田 誠は、若干二十歳の頃から、神戸五稜郭亭でオーナーシェフを任される程の天才料理人で、特に肉料理に関しての拘りは凄まじく、グループ内でも右に出るシェフはいないとさえ言われている。

 

「恐縮です。それよりこれは一体……?」

 

「ああ、見ての通りテレビ電話さ」

 

 樹里が得意気にそう言った後に、沖田が続ける。

 

『神戸五稜郭亭から直接ね』

 

「アニキ達はウチのグループで調理指導してくれてるんだよっ!」

 

 大庭屋グループ系列の店舗には、いずれも、沖田誠を中心とした肉料理や接客サービスのエキスパート達が交代制の講師として付いており、テレビ画面を通していつでも直接指導してもらえる仕組みになっている。

 不在の時は、ボイスでメッセージを残すこともできるそうだ。

 

『今は樹里が大分しっかりしてくれたから、その必要も無くなったんだけど……時々、興奮して肉をウェルダンするから心配でね』

 

「あぁんっ!?」

 

 樹里が般若の形相でガンを飛ばすが、沖田は鼻で笑って流す。

 

「成功者にいつでも指導して頂ける環境というのは理想的ですね」

 

『まあ、樹里との出会いはたまたまでしたけどね……大分前に、ヘルニアを患った時期がありまして。当然ながらシェフは休業。手持無沙汰になった矢先のことでした』

 

 生粋の料理人である沖田にとって、料理が作れない程、苦痛なものは無い。

 強烈な不安が押し寄せて、精神を圧迫し始めた時に――――来訪者が表れたのだ。

 

『当時の“彼”はIT企業を立ち上げたばかりの駆け出しで……僕にこう持ち掛けたんです。新製品のモニターになってもらえないかと……』

 

「それがこのテレビ電話ですか?」

 

 やちよが問いかけると沖田は頷いて樹里に目配せする。

 

「実はコイツは認証システム付きでな。スイッチを押した時に指紋と顔を一瞬でスキャンするんだ。ウチの系列グループのシェフとアニキら講師しか登録してないから、外部に漏れることは無いんだ」

 

『それを使って、地方の落ち目の飲食店を再興させる『再生請負人』にならないかと、彼は言いました。……最初は断りましたよ。料理は口頭指導だけで上達できません。指導とは講師と教え子が同じ現場に立ち一対一で向き合うことですし……何より胡散臭かったですからね』

 

「ならばと、ソイツがよこしてくれたのが、“これ”なんだ」

 

 沖田の説明に樹里がそう付け加えて親指で、厨房の隅っこを差す。

 そこにいた白い人型大の物体に、やちよは目を丸くした。

 

「ロボット……!?」

 

 呆気に取られる。

 最近は飲食店や携帯ショップのカウンター前で、よく客寄せを行っているものと似たようなそれが、ちょこんと佇んでいるのだ。

 

「分身ロボットだっ!」

 

「分身っ!?」

 

 やちよがビックリ仰天して画面を見ると、沖田はVRゴーグルの様なアイグラスが取り付けられたヘッドホンを取り出していた。

 

『これを頭に付けることで、僕も厨房に入ることができます』

 

 分身ロボットは、ヘッドホンを付けた人間の動作を忠実に再現することができる。

 加えて、身体が不自由でも頭で指示すれば、ヘッドホンが脳内の電気信号を受け取って動くというのだ。

 成程、それなら現場の料理人達の働きを直に見れるし、直接指導することも可能だ。

 

「それでご決心をされたと」

 

『“試験品だから無料でいい”と言われましてね……』

 

 沖田は恥ずかしそうに頭を掻く。

 

『ただ、“彼”はこうも言ったんです。「世の中を便利にできる技術が自分に有るのなら、それを世界中に広めたいのは当然じゃないか」とね』

 

 料理も同じだ。旨いものは誰でも食べてもいいし、創ってもいい。

 だから、沖田は自分の技術を、提供することに決めた。

 五稜郭亭の理念は、総ての人々が、等しく旨い料理を食べられる事だから。

 

『まあ、今にして思えば“彼”にしてやられたとは思ってますよ。僕が必ず成功すると踏んだ上で契約を持ち掛けたんでしょうね』

 

 なるほど。

 その“彼”は熱血な感情論者と思ったが、とても合理的でやり手な人間らしい。

 “成功例”を一つ作ってしまえば、商品の市場が一気に伸びるのは必定。

 

  ――――やちよの頭に一筋の光条が走る。

 

 その“彼”なら、参京区の現状も救えるのでは無いか。

 落ち目の大庭屋グループに、五稜郭亭との架け橋を創り、双方に新たな道を示した“彼”なら。

 

「その方の名は……?」

 

 やちよが尋ねると、沖田はニッと笑って答える。

 

『彼の名は――――……』

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

「御馳走様でした」

 

「あ、ちょっと待てよ」

 

 店を出ようとするやちよを樹里が呼び止めた。

 

「あんた神浜だろ。 参京区の由比鶴乃って女の子を知ってるかい?」

 

「……はい」

 

 参京区。由比鶴乃。

 それらを聞いたやちよの顔が若干曇るが、気づかない樹里は何かの便箋を握らせた。

 

「じゃあ、もしそいつに会う機会が有ったら、こいつを渡してやってくれ!!」

 

「あ、ちょっと……」

 

「よろしく頼むぜっ!!」

 

 静止を聞かずに樹里は店へ戻っていった。

 

 

 ――――便箋は、今もまだ、やちよの元にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――二木市・虎屋町 大親分の屋敷・紅晴邸

 

 一頻り遊び回った頃には、すっかり日が暮れていた。

 屋敷に帰った二人が大親分への謁見を求めると、

 

「大親分はまだ暇が取れませぬ。先に湯浴みをして疲れをいやしてくだされ」

 

 側用取次役の光琳にそう突っぱねられたので、二人は屋敷内に設けられている温泉に入ることにした。

 

 入浴と食事が終えた後、大親分に呼ばれて対談したやちよだが、話の内容は割愛。

 次回記述させていただく事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回、クロスオーバーさせていただいたキャラクターは
土山しげる氏作の漫画『食キング』の 沖田 誠 さんでした!


それにしても、めぐみんさん、自重しねえ


※2023/11/28 笠音アオちゃんですが、出番を削らせて頂きました。アオちゃん、ごめん。


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