魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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※引き続きクロスオーバーサイドのキャラが登場します。
※オリキャラ登場します。

 ※2023/11/28 読みやすさ重視の為、一部文章を変更or添削しております。
 なお、ストーリーには何も支障はございません。


FILE #50 MM ではなく LICHT の為に

 

 

 

 

 ――――現在 神浜市役所

 

 

 

「再開発計画に横槍を入れるつもりはない。でも、そこにいる人たちが築き上げた文化をサンシャイングループに奪わせる訳にはいかない……。作戦を伝えると、皇会長は乗り気になってくれてね」

 

「え……? だけど、参京区は今も……」

 

「ええ、まだ(・・)皇グループは手を貸してない。私が会長から出された課題を、クリアしていないから……」

 

 課題……?

 いろはは気になったが、問いかける隙も無く、やちよは足早にズンズンと進んでいく。

 実は、彼女はいろはに話をしながら、ある場所へと導いていた。

 案内されたのは、みたまのいるBAR『ミロワール』のバーカウンターの裏にある鉄格子の扉の向こう側――――『通称・開かずの間』。

 やちよがみたまから鍵を受け取って、内部に入ると、その先に見えた物に、いろはは仰天した。

 

「すごい……」

 

 地元の学校の体育館ぐらいはあろうか。四方が白タイルに覆われた、広大な空間に二人は飛び出した。

 だが、いろはの目を奪ったのは、中心にある何かだ。

 天井まで届く極太な縦長のそれは、一見すると、歳何千年にも及ぶ大樹のようで、広大な空間を支える大黒柱のように君臨している。

 だが、近づいてよく見ると、電気コードの類が幾重にも複雑に絡み合い、巨大なモニターが取り付けられた“機械”であると分かった。まるでSF映画でしか見たことが無い、大掛かりなシステムの基幹となるコンピュータのような物体を、いろはは只々感嘆を漏らしつつ見上げていた。

 

「これは……一体何ですか……?」

 

 魔法少女である自分が思うのもなんだが、本当に神浜市はおかしい。常識が吹き飛びそうになったのはこれで何度目か。

 隣を見ると、やちよが強い決意を込めた瞳で、機械を見上げている。

 

「皇グループが開発した、魔法少女を安全に育成するためのシミュレーションシステム。

 【Malleus Maleficarum Machina】……略して“MMM”(エムスリー)よ」

 

「まれうす・まれふぃー……?」

 

「マッレウス・マレフィカールム・マキナ――『魔女に鉄槌を下す機械』を意味するの。開発に参加したアメリカの技術者チームが名付けたそうだけど……皇会長が物騒なのは嫌だからって、日本ではこう呼んでるわ」

 

 

 ―――――【LICHT】

 

 

「リヒト……?」

 

「ドイツ語で、光や輝きを意味するのよ」

 

 希望の輝きから生まれた魔法少女を“運命”から助ける為のシステム――――皇 稜斗の想いが、この機械に込められているという。

 

「これは、現在50パターンもの魔女との戦闘を限りなくリアルに近い環境で練習することができるの」

 

 世界各国の名だたる魔法少女達の意見を参考に、結界の模様や質感、使い魔、魔女を完全再現したのだという。

 

「……」

 

 いろはは唖然。開いた口が塞がらなくなる、とは正にこの事か。

 あんな複雑怪奇極まる魔女の結界を完全に再現するなんて、馬鹿げている。

 だけど、皇 稜斗は――厳密には彼を含んだ開発者達は――実際に創ってしまったのだ。

 魔女の戦闘シミュレーションシステムを。只の一般人の身で。

 

「イカレてる……」

 

 いろはが思わず、そんな言葉を口にしてしまうのも無理は無い。

 皇 稜斗は凄い人だと、素直に思う。だけど、規格外だ。考えてる事が常識の外過ぎて、住んでる次元が違う。

 

「ええ、イカレてるわ。だけど、彼らが無茶に本気で挑んだからこそ、私達は前に進める」

 

 機械を再び見上げるやちよの瞳は、どこまでも澄んだ空色が映っていた。

 

「そうですね。これが世界中に普及されれば……」

 

 基本的に魔女結界内は、何が起きるか、どんな敵が出現するかもわからない。正に一発勝負の状況だ。

 だが、このリヒトで練習を重ねれば――――魔法少女は、あらゆる事態を想定して動ける。

 つまり、死ぬ確立を一気に減らせるのだ。

 

「だけど……これはまだ、未完成なのよ」

 

 えっ、と再びやちよに顔を向けるいろは。

 彼女の瞳の空が、そこで曇っていた。

 前述したように、七海やちよを始め、世界中の名だたる魔法少女達が開発に協力している。彼女たちも実際に、MMM(リヒト)で魔女戦闘をシミュレートしたが、皆がこぞって同じ言葉を口にしたのだ。

 

 

【これには決定的な“欠陥”がある。だけど……それが何なのか、分からない】

 

 

「もしかして、課題って……」

 

「皇会長から要求されたのはこれの欠陥を探し当てる事」

 

 期限は二年。

 その間に【足りないもの】をやちよが掴むことができれば、参京区民の救済策に手を貸す――――と、稜斗は言った。

 

「二年って……今年じゃ」

 

「だから焦ってるのよ……! 幾度もシミュレートして、開発に参加している魔法少女達とも話し合い、皇会長に提案してより完成へと近づけた筈……だけど」

 

 細かい部分はやちよ達の努力によって修正されていった。

 しかし、大きな欠陥は、とうとう発見できなかったのだ。

 

「あと、一週間。それまでに判明できなければ、全てが水の泡となってしまう……」

 

 やちよは機械に近づくと、コントロールパネルに向かって両手を勢い良く付いて、吐き捨てた。

 いろはは呆然と眺めるしかない。

 彼女が氷の仮面の裏に、そこまでの重みを背負っていたなんて、思いもしなかった。

 もし、鶴乃がこの事実を知っていたなら、もう少し状況は違っていたかもしれない。

 

「試験に参加されている魔法少女は……会長ご本人が世界中から信頼できる者のみを集めている。皆が7年をくだらない、大ベテランよ……なのにっ」

 

 嘆くようにやちよはそう言うと、いろはが不意に口を開いた。

 

「だったら……」

 

 

 ――――逆に経験が無い子(・・・・・・)だったら、見えてくるものが違ってくるのかも。

 

 

「っ!!」

 

 やちよの頭に雷が落ちた!! 衝撃に、ハッと大きく目を見開く。

 

「いろは、それよっ!」

 

 言う前には、既に体が飛び出していた。

 いろはの腕をグイッと掴んで、コントロールパネルの前にある椅子に座らせる。

 

「あ、あの……何がっ!?」

 

 訳もわからず、困惑するいろは。だが、やちよは青空のように晴れた瞳をジッと向けて、笑った。

 

「貴女が、これの試験をするのよ」

 

「ええっ!?」

 

 いろはが悲鳴を挙げる。

 今のはたまたま思いつきで言ってしまった、だけな訳で……やちよクラスが集結して判明しないものを、自分如きが分かるはず無い。

 だが、やちよはいろはの不満など、どこ吹く風のように、期待に満ちた目でコントロールパネルの脇のマイクに向かって指示を出した。

 

「というわけですが……ミコさん(・・・・)、どうでしょうか?」

 

 応答するように機械上部にある大型スピーカーから、女性の声が響いた。

 

 

『斬新ですね。試してみる価値はあると思います。良いでしょう』

 

 

「今の声は……?」

 

「いろは、このヘッドギアを被りなさい」

 

 最早やちよに自分の声は届かない。

 どうしよう。いつの間にか責任重大な案件を背負ってしまった……。だがもう、どうにも出来無いので、ひとまず、やちよの指示通りに動く。

 言われた通りにヘッドギアを被ると、目先のコントロールパネルをタッチして、新規登録画面に映る。

 生年月日、年齢、氏名、住所、身長、体重、出身地、出身校、魔法少女の願い、経験年数、今まで組んだ仲間の特徴、固有魔法……等など自分のプロフィールを詳細に記入した。

 次いで、指輪をソウルジェムに変化させると、それを受け取ったやちよが、コントロールパネルの上にある窪みにスッポリと嵌め込む。

 

「準備完了。あとはスタートボタンを押すだけよ」

 

「……っ!」

 

 もうこうなったら、やぶれかぶれだ。挑戦するしかない!

 いろはは半ばヤケクソ気味に決意を固めると、パネルの右下にある【START】と表示されたコマンドを、人差し指で押した。

 

 

 ――――視界が、ゆっくりと、波打つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで体が浮いた様な錯覚を感じた直後には、いろはは異次元に移動していた。

 いや……というよりは、よく似た映像を見せつけられている、と言った方が正しいか。

 

 ――そこは魔女の結界内であった。

 

「すごい……」

 

 形容詞しがたい複雑な色合いに覆われた風景の中で、原型を留めていない落書きのような異形の怪物達が縦横無尽に飛び回っている。

 まさに、完全再現と言うべき世界観に、いろははただ感嘆を漏らして魅入ってしまった。

 

「これも、誰かの経験が元になっているのかな?」

 

『アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス出身の魔法少女、フィリス・ケラーマンが、2011年9月18日、23時38分に遭遇した魔女の結界を元に作成されたものです』

 

 不意に背後から声が聞こえてきて、いろはの肩が「ひゃっ!」と飛び跳ねる。

 振り向くと、見たことも無い少女が悠々と歩み寄ってきていた。衣装からして、魔法少女だろうか? しかし、さっきスピーカーから聞こえてきた声とよく似てるような……

 

『初めまして、環 いろはさん。皇グループの神奈巫子と申します』

 

「えっ!? 貴女が!?」

 

 まさかの人物の出現に、いろはの目が飛び出そうになる。

 

『魔法少女育成用魔女戦闘シミュレーションシステム【Malleus Maleficarum Machina】――略称“MMM(エムスリー)”、またの名を【リヒト】――のナビゲーターを務めさせて頂いています。以後お見知り置きを』

 

「よ、よろしくお願いしますっ。神奈さん」

 

 まさかここで世界有数の大企業総帥の専属秘書と対面することになろうとは……! 別の緊張感が猛烈に襲いかかり、いろはは顔が真っ赤に染まりつつも慌ててお辞儀し返した。

 

『巫子のことは“ミコ”とお呼びください』

 

「はあ……」

 

 それにしても一体なぜ彼女がここに……? 本来、自分しかいないはずなのに……それにナビゲーターって、どういうこと?

 

『現実のミコは魔法少女ですが、固有魔法を使って、システムの一部と精神を繋げています。今、貴女の目の前にいるのは、ミコがミコを模して作ったアバターです』

 

 元は人間な癖して機械より機械らしい――というのが、いろはが彼女に抱いた印象だった。

 そんなミコは、いろはの疑問を見透かしたように淡々とした口調で解説を始める。

 【リヒト】には、『GUARDIAN(ガーディアン)』と呼ばれる支援システムが備わっており、利用者の魔法少女の経験年数が3年未満だった場合は、ミコを始めとする強力なアバターを、任意で味方に付けることができるのだ。

 ――なお、補足としてミコ以外のアバターは全てAIである。

 

『環 いろはさん。本システムをご利用頂く前に、一つだけ、確認させて頂きます』

 

「っ!」

 

 息を飲んだ。ミコが急に刺す様な視線で自分を見据えてきたからだ。

 

『【リヒト】は、まだ世界には公表しておりません。システムに触れた以上、貴女には秘匿する義務が発生します。守れると誓って頂けますか?』

 

「……はい!」

 

 刀刃の様な眼差しは、身震いするほど冷たかったけど、真剣そのもので。

 だから、いろはも真剣に応えた。

 力強く頷くと、ミコは安心したらしく、表情が幾分か和らいだ。

 

『ありがとうございます。それではシミュレーションスタートといきましょう。ですが、最後に一つだけ……』

 

 ――――“警告”します。

 

 ミコは薄っすらと微笑み、お辞儀をして礼を述べると――――最後にそう付け加えた。

 

「……えっ?」

 

『七海やちよさんは、設定を初心者レベルに変更し忘れた模様です』

 

 いろは、絶句。

 確か……今まで、七海やちよしか試験をしていない筈では――――いや待って! それが意味することって、つまり……!!

 

『現在、最高レベルに設定されております。心臓に悪いので、くれぐれもお覚悟されますよう』

 

 言い終えると、ミコは背中を向けてどこかへと立ち去っていく。

 …………いやいや待って待って、今の貴女ガーディアンですよね!? 素人用の支援システムですよね!? 任意で味方になってくれるんでしょ、ねえ!!?

 いろはが必死に悲鳴を挙げるも虚しく、彼女はあっという間に小さくなっていく。

 

『環 いろはさん。貴女の現在の能力で最高レベルのクリアは不可能と、ミコは断定致しました。諦めてください(・・・・・・・)

 

 最後の言葉が全てを物語っていた。

 

 

 ――――後にミコ曰く、支援システムを使ったところで、いろはの勝率は僅差しか上がらなかったらしい。

 

 

「ひどい……」

 

 涙目になり、知らない魔女の結界内で一人、呆然と立ち尽くすいろは。

 

「ヒッ」

 

 次の瞬間――――!!

 どこからともなく出現した使い魔の大群に、いろはの全身が襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!!」

 

 気がつくと、いろはは、現実の世界に戻っていた。

 ヘッドギアを外し、目の前のコントロールパネルを見ると、【LOST】と表示されている。

 当然だが、シミュレーションは失敗したのだ。

 

「いろは、ごめんなさい!」

 

 声が聞こえて振り向くと、やちよが深く頭を下げて謝っていた。

 

「うっかり設定を戻し忘れてしまったの。いきなり最高レベルを体験させるなんて……これじゃあ試験にすらならないわね。設定を直して、もう一度……」

 

 やちよがコントロールパネルを触ろうとするも、いろはが手で抑える。

 

「いえ、あれで良かったと思います」

 

 そう言って、ヘッドギアを見つめるいろはの目には、強い決意が瞬いていた。

 

「えっ?」

 

「最後に使い魔の群れに襲われた時――――見えたんです(・・・・・・・)

 

 それは多分、やちよレベルの魔法少女達ならとっくに分かっていた事かもしれない。

 

(だけど……)

 

 一応、自分が試験した意味にはなる筈。

 ならば、伝える価値はあるかもしれないと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《link:129》☆サイドストーリーへ《link》

 ※今回登場した、『魔法少女育成用魔女戦闘シミュレーションシステム』……
 名前の考案にご協力くださった 転寝 様。テルミー17号機 様。プレリュード 様。
 この場を借りて御礼申し上げます。とても助かりました。本当にありがとうございました。

 提案頂きました名称に関しましては、一部ご希望に添えない形での採用になってしまいましたが、何卒ご容赦頂きたく願います。


 っという訳で、二週間経ってしまいましたが、なんとか投稿に辿り着けました。
 当初は、オチは考えていたものの、行き着くまでの過程がまるで見えなかったのですが、キャラクターを動かしているうちに、どうにかなりそうな気がしました。
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