魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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FILE #56 MONSTER = <凶犬>  ―深月フェリシア 編―

※2023/12/08 読みやすさ重視のため、一部文章を添削&変更しています。

 なお、ストーリー展開には、何も影響は無いので、ご了承ください。

 

 

 

 

 

 

正義は人生の指針たりとや?

 

さらば血に塗られたる戦場に

 

暗殺者の切尖に

 

何の正義か宿れるや?

 

 

 

―――――太宰 治『人間失格』より、ルバイヤットの詩句

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――次の日・土曜日。

 

 ――――神浜市役所前。

 

 

  いろはは正門を潜り、庭に立ち尽くして、眼前で君臨する巨城の如き建造物を見上げていた。

 いつ見ても、この建造物のインパクトは凄まじい。

 なお、いろはが本日、朝一番にここに立ち寄ったのには理由があった。

 

 ――――それは昨日のことである。

 

 夕霧青佐と別れたいろはは、迷わず市役所の3Fへと向かった。治安維持部でやちよと会う為に。

 教授の話、そして大賢者のことを尋ねると、最初は神妙な顔で睨みつけられたが……それでたじろぐいろはではない。やちよもそれは重々分かっている。

 ……結局、にらみ合いによる双方の牽制は5分で終了した。というか、やちよの方から折れた。

 彼女は、盛大に溜息を付き心底仕方がないと言った様子で大賢者に会う方法を教えてくれた。

 

 ――――大賢者に会う試練とは、二つ。

 

 一つは、治安維持部のチームリーダーを2年以上勤め上げ、且つ、神浜市から表彰される実績を挙げる事。

 

 もう一つは、各治安維持部隊に3カ月間所属し、品行方正に業務を従事し、各チームリーダー及び各町長から功績を認めてもらうこと。

 

 ――――前者に関しては、いろはは不可能であった。

 何せ、神浜町には七海やちよ、慶治町には十咎ももこ、立政町には都ひなの、明京町には常盤ななか、と既に各チームには、歴戦の魔法少女達が君臨しているのだから。

 それに、当然だがチームリーダーに成り上がるのは容易なことではない。長期間の下積みが必要となる。

 こちらは時間が掛かりすぎるとして、断念した。

 

 だが後者は……認めてもらう、というのが具体的にどういうことなのか判別しづらいが……どうにかなりそうだとは思った。それに、こちらは順調に(・・・)いけば一年で済む。

 

 いろはの決断は早かった。後者を受けたいとやちよに伝えると、彼女は一度深い溜息を付いて、「明日、朝一で私のところに来なさい」と言ってくれた。

 

 

「私のところに……ってことは、試験だよね、きっと……」

 

 二つの試練の概要から顧みるに、まず治安維持部に入職しなければならない。

 調べてみたが、年齢は13歳以上ならOK。この条件はクリア。あとは肝心な試験内容だが、筆記試験と簡易な適性診断を実施する、と書かれているのみであった。

 なので、持参物も筆記用具のみで良い筈だが――――いろはは昨日の帰りに100円ショップで履歴書を購入した。

 

 残念ながらここは日本である。言われてない部分の“礼儀”を特に重視されるのが常だ。

 そして普段から世話になっているやちよに、極力無礼な真似はしたくない、といういろはなりの義理もあった。

 履歴書は何枚も書き直して、徹夜で書き上げた。

 

 くぁ~、とあくびをするいろは。

 ベッドに横になれたのは1時、だが緊張もあって寝れたのは二時間。

 眠い……。

 元々、自己主張の弱いいろはに履歴書というものは、魔女にソロで挑むに匹敵する程の苦行であった。

 途中で、論理的文章に強いまさらと、自己表現力に長けたピーターに何度も添削してもらって、ようやく事なきを得た。

 良い家族に恵まれて、本当に良かったと思う。うん、やっぱり家族って良いよね。家族最高。家族万々歳。

  

「お、いろはちゃん!」

 

「っ!」

 

 と、急に真後ろから元気溌剌の声を掛けられて、眠気が覚めた。振り向くと、意外な人物が居た。

 

「鶴乃ちゃん?」

 

「朝早くからどーしたの?」

 

 私服姿の鶴乃は、きょとんと首を傾げてこちらを見つめる。

 

「私はやちよさんに用が……ってかそれはこっちのセリフだよ、どうしたの?」

 

「ああ、わたしもちょっとやちよにね……」

 

「??」

 

 その名前を口から出した途端、鶴乃は何故か恥ずかしそうに頭を掻いた。

 今度はいろはが、きょとんと首を傾げて不思議そうに鶴乃を見つめた。

 

「まーとりあえず、行こっか?」

 

「? うん」

 

 そう言って、彼女は恥ずかしさを隠すようにずんずんと前に進んでいく。

 様子が少しおかしい鶴乃が気になりつつも、いろはは後を付いて、共に市役所に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――神浜市役所・2F。治安維持部・神浜町本部。

 

 

 そこに、“それ”は居た。

 

「だーかーらぁ、ちあんいじぶに入れろっつってんだろー!!」

 

「ですからっ! 入職して頂くには試験を受けないといけませんし、試験を受けて頂くにはこちらに身分証明書の他に住民票を提出して保護申請再登録の手続きをして頂かないといけませんし、住民票は市民課で発行して頂かないといけませんし、住民票を発行するには住所がはっきりしてないといけないんですって!!」

 

「いちいちメンドくせーなあ、家がねーっつってんだろー!?」

 

「それだと手配できかねます。まずご親戚の方を頼って頂くなり……」

 

「ヤだよメンドクセー!! オレは今すぐここではたらきてーんだ! だから入れろよ!」

 

「ですからっ! いくら強いご希望がございましても、色々段取りと手続きがあってそれを全部やる以前に、住む場所が無いと無理だってさっきから何度も申し上げてるじゃないですかー!?」

 

「いちいちメンドくせーなあ、家がねーっつってんだろー!!」

 

「さっきもそれ言ったでしょー!?」

 

「チョウセイはとっくに終わってんだ!! さっさと入れろー!!」

 

 エレベーターの扉が開いた直後に見えた光景に、二人は唖然。

 みずぼらしい恰好をした金髪の小さな少女と、事務員の白木亜美が、受付でギャーギャー言い合っているのだから。

 なお、受付の奥では、白木以外にも職員を数人見かけるが、触らぬ神に祟りなし、と言った様子で、我関せず自らの事務仕事に専念している。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

 二人が慌てて駆け寄ると、白木が焦燥しきった顔でこちらを見た。

 

「……おはようございます、環さん、由比さん……あの、実は……」

 

 まだ出勤して間もないというのに、白木は既に疲れ切っていた。顔も明らかにげっそりしてる。

 だが、金髪の少女は、白木の心労などまるで意に介さず一方的にギャーギャー喚き散らしている。

 

「こらボウズ、君だなー。 大人を困らせちゃダメだぞっ?」

 

「だー!? はなせよー!」

 

 鶴乃が少女を後ろから羽交い絞めするが、じたばた暴れてすぐに振り解く。

 

「よくもボウズっつったな、オレは男じゃねー!」

 

「おっ元気がいいなー! 女の子はそんなにギャーギャー騒がないよ。もしかして……」

 

(……本当はちんちん(自主規制)ついてんじゃないの?)

 

 冗談のつもりで小声で言ってやると、金髪の少女の顔がみるみるうちに真っ赤になる。

 

「このやろー! そこまで言うんならショーコみせてやるーっ!」

 

「わー!? ダメダメっ!!」

 

 予想外の行動に鶴乃、驚愕!

 ボタンを外してズボンを降ろそうとする金髪の少女の淫行を寸手で食い止める!

 

「この子は、一体……?」

 

 見た所、年齢は自分とはそう違わない。しかし、年頃の少女とは思えぬ無垢幼稚さに、いろはは呆然。

 白木に尋ねるが、彼女は相変わらず蒼褪めた顔で頭を抱えている。

 

「はあ、クレーマーと言いますか……何も知らないと言いますか……」

 

「どうされました?」

 

 ――――と、そこで聞こえてきた声と現れた人物、白木の血色が一気に良くなった。

 彼女にとっては正に天から舞い降りた救いの女神!

 丁度、夜勤明けの為仮眠を取っていたやちよが、起きてきてくれたのだ!

 

「部長っ」

 

 白木は涙目になりながら、慌ててやちよに縋りつく。

 

(この子をなんとか、してください……!)

 

(あの子は、確か……)

 

(ええ、あの常盤ななかすらも手を焼いた問題児、深月フェリシアです)

 

 やちよの目が僅かに見開かれた。

 金髪の少女、フェリシアもやちよに気付いたのか、大声を張り上げる。

 

「お、オメー、七海やちよだな!」

 

 いろはと鶴乃はギョッとなる。

 初対面なのに、挨拶も無く呼び捨てとは無礼千万だ。ましてや神浜市の英雄に。

 白木がキッと睨みつけるが、やちよは別に気にせず、微笑みながらコクリと頷いた。

 

「なー助けてくれよっ! オレ困ってんのにそのオバサン、ぜんっぜん話つうじねーんだよ!」

 

「どっちが……!?」

 

「まあまあ。深月フェリシアさんですね、私で良ければご用件をお伺いいたしますが?」

 

 反論しようとする白木を宥めるとやちよはフェリシアに接近した。

 腰を下ろし、彼女と目線を合わせてそう問いかける。

 

「おおっ! 話が早くてたすかるぜ! ちあんいじぶにはいりてーんだっ! いれてくれっ」

 

「だから住民票が無いと……!」

 

「要は家が有ればいいんでしょう? 早速手配します」

 

「「「えっ!?」」」

 

 フェリシアの目が光輝く。他の全員は驚いてやちよに注目!

 

「ぶ、部長!?」

 

 白木が毎日の夜勤で遂に気が触れたのかと心配そうな顔でやちよを見るが、彼女は既にスマホで電話していた。

 

「もしもし、ピーターさん?」

 

 連絡先は、仕事で朝一から出かけているピーター・レイモンドである。

 

<グッモーニーン♪ やっちゃ~ん! ピーターママよ。 どうしたの?>

 

「これから、みかづき荘に一人入居しますが、よろしいですか?」

 

<あら良いじゃない。 どんな子か楽しみねえ!>

 

 オホホホホ、と一頻り笑った後、通話を切るピーター。

 

「……という訳で、貴女の住まいは決まったわ。深月さん」

 

 その鮮やか過ぎる早業と、今までの自分の苦労は何だったんだと言わんばかりに、白木が真っ白になったのは言うまでも無い。 

 

「え? いいのか!? ホントにいいのか!?」

 

「ええ、これからは『みかづき荘』ってところで私達と一緒に暮らせるから、よろしくね。困ったことがあったら……」

 

 やちよは一瞬だけフッと笑って、いろはを見る。

 

「……そこにいる、環いろはを頼って頂戴」

 

「ええっ!?」

 

「おーそうなのかー!? よろしくなーいろはー!!」

 

 まさかの無茶振りにいろはは驚愕!

 フェリシアは腹の底から歓喜の声を挙げていろはに飛びついた。両手を握ってぶんぶん振り回す。

 

 住むところが決まって良かったけれど、わざわざみかづき荘じゃなくても……。

 それにこの子、力も強いし、さっきの白木さんとのやりとりを聞いたら、相当乱暴者なんじゃ……。

 年上に対する礼儀もまるで無いし、教育すらまともに受けて無いのでは?

 

 試験の緊張に加え、新しい家族の教育係が伸し掛かり、いろはの顔が蒼褪めていく。

 

(い、妹が出来てよかったね、いろはちゃん)

 

 鶴乃に肩をポンと叩かれた。

 

(鶴乃ちゃんそれフォローになってない……)

 

 ああ、本当にこれからどうなっていくんだろう……。

 いろはは八つ当たり気味に鶴乃をジロリと睨みつけながらも、今後の生活が、そして何より自分の目的が順調に達成できるのか、不安でならなかった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――こうして、朝の珍騒動は、やちよとピーターが後でフェリシアの住所登録の手続きを代替わりする、という形で終結した。よって、フェリシアはその後、やちよの権限で保護申請の再登録を難無く完了。

 ……なお、その間、白木亜美は自分の長きに渡る悪戦苦闘が徒労に終わったことを思い知り、暫く燃え尽きていたが――――やちよの懸命な励ましによって業務遂行レベルに持ち直したという……。

 

 

 ――――神浜市役所。治安維持部長室。

 

 

 そして、いろは、鶴乃、フェリシアの三名は、やちよの執務室へ招待された。

 応接室に似た部屋では、革製の三人掛けのソファが二台、ガラス張りのテーブルを挟んで、向き合うように置かれていた。

 

「三人とも、入職希望者ということで良いわね?」

 

 促されるままソファに腰かけると、対面するやちよが真剣な眼差しで問いかけてきた。

 

「「はい」」「おう」

 

 肩を強張りつついろはが返事をすると、隣と声が重なったのでギョッとする。

 

「……って、鶴乃ちゃんも?」

 

「ん。まあ、ね」

 

 鶴乃は屈託無い笑みを浮かべていた。自分の行動に何の疑問も不安も抱いてないようである。

 だが、やちよを見直すと、彼女は心配そうな表情を浮かべていた。

 

「ねえ、鶴乃ちゃん(・・・)……」

 

 目線を下に向けると、知らない内に左手で右手を撫でていた。

 

「なに?」

 

「無理しなくていいんだよ?」

 

 やちよには懸念があった。

 もし、入職希望が自分に対する贖罪の気持ちだとしたら、やちよは勧めるべきではないと思った。

 鶴乃には万々歳がある。そして、神浜大附属学校高等部の生徒会長を務めているとも聞いていた。

 いろはから話を聞いて、彼女はようやく前を向いて、笑えるようになった。だから、彼女には日常を謳歌して欲しい。今まで背負ってきた分、幸せになってほしい。

 

「そんなんじゃないよ」

 

 だが、やちよの不安などどこ吹く風のように、鶴乃は笑って応えた。

 

「ただ、気になったんだよ。やちよが今までどんな世界を見てきたのかなって。見識が広まればわたしも万々歳も、良い方向に変われるって思ってね」

 

「鶴乃ちゃん……だけど」

 

「やちよちゃん(・・・)、わたしに対して申し訳無いって気持ちがあるなら野暮だよ。今のわたしは、自分がしたいことをやめさせられる方がずっと辛いんだから」

 

 参ったな、とやちよは苦笑いしながら首の後ろを掻いた。

 つくづく、自分と彼女の考えていることは同じらしい。

 

「だいじょーぶ。正職じゃなくて臨時希望だし、店のこともちゃんとやるって! それに」

 

 鶴乃はその晴れ晴れとした顔をいろはの方へ向けた。

 

「師匠の手助けもしたいしね」

 

 いろはは一瞬呆気に取られるが――――すぐに笑みを返して、力強く頷いた。

 

「おい、三人でわかんねー話してねーでホンダイ進めろよ! ホンダイっ!!」

 

 ――――が、すっかり置いてけぼりにされたフェリシアから激を飛ばされ、いろはと鶴乃はハッとなる。

 

「おっと、それもそうね」

 

 やちよもコホン、と咳払いして、真剣な表情を浮かべた。

 全く事情を知る由も無いフェリシアにとっては彼女達の話など退屈で仕方がないのだ。

 

「まず、試験の概要だけど……」

 

「「……っ」」

 

 いろはと鶴乃の顔に緊張が走る。二人は仲良く同時に唾を飲みこんだ。

 

「早速明日の日曜日に、一般常識の筆記試験を行うわ」

 

 まずそこで振るい落とされるのか。

 合格したとしても、その次は恐らくやちよとの面接、更にその次は、またまたその次は、どんな試験が……

 

 

「以上よ」

 

 

 ……二人の不安はものの見事に空ぶった。

 

「っ?!?!」

 

「だあああっ!?」

 

 いろはの体はガクッと傾き、鶴乃はソファからズッコケた。

 

「えっと、それだけ、ですか……?」

 

「ええ、それだけよ。筆記試験さえ平均点以上を取れれば晴れて合格。治安維持部(わたしたち)の仲間入り」

 

 体勢を持ち直したいろはが、呆然と問いかける。やちよは即答。

 

「簡単すぎる……」

 

「だって深刻な人手不足だもん。しょーがないわよ」

 

 真剣な顔で素っ気なく言うやちよに、いろはは閉口。

 確かに、神浜町にはやちよ一人しか所属していない為、そう言われたら頷くしかないが……

 

「……いや、あのさ」

 

 次いで、ソファに座り直した鶴乃が、挙手して問いかける。

 

「履歴書とかエントリーシートの書類選考とか、部長・副部長との面接とか、役員面接とか、市長との最終面接とか……いっぱいあるんじゃないの?」

 

「無いわよ。メンドくさい」

 

 即答。素っ気なく首を振られた。

 

「いや、だって、公務員になる訳ですし……」

 

「働く人の人間性を偉い人みんなで吟味しなくちゃいけないんじゃないの?」

 

 二人が苦笑いを浮かべて問いかけるも、鼻で笑い返される。

 

「人間性なら、ねえ?」

 

 そしてやちよは、不敵な笑みを張り付けた顔を執務室の扉の方へと向けた。

 いつの間にか、みたまがそこに立っていた。

 

「あっ」

 

 いろはが思わず口を空ける。

 そうだ。確か、調整員は――――

 

「そうか……! ソウルジェムを通して、魔法少女の過去が見れるんだったね」

 

 鶴乃が、ふと頭に浮かんだ事を全て代弁してくれた。

 答えを聞いたみたまが、満足そうに愛らしい笑みを魅せて頷いた。

 

「そういうことぉ♪」

 

 いつもの営業スマイルを張り付けながら、視線を鋭くして三人を見つめる。

 

「三人とも魔女に単独で勝利した経験があり、3人以上のチーム編成で臨機応変に戦った事もあり、状況によっては臨時的にリーダーを務めてメンバーを勝利に導いたこともある。何より1年以上、生き延びている。素質は十分よぉ」

 

 そこまで解説した後、やちよにアイコンタクト。みたまに頷き返すと口を開いた。

 

「それに、三人の生活態度には個人差があれど、大きな傷害事件は無く、魔法の使用も魔女退治にのみ留めている。交友関係も広く、知人からの信頼も厚い」

 

 いろはに関しては、宝崎での学校生活は隠れるように過ごしていた為、特筆すべきものは何も無かったが、同じ魔法少女チームであった皆木葉菜、宮内 累とのコミュニティは大きな評価点となっていた。

 加えて、神浜市に来てからの本人の人脈形成ぶりは驚嘆に値するものがある。

 

 

 ――――それが例え、“主人公”に()()()()()()だとしても。

 

 

 いろはの、彼女本来の素質であると信じたい――――みたまとやちよは三人には見えないように、ひっそりと拳を握り締めた。

 

「ってことは……」

 

「ええ、筆記試験が平均点を超えれば合格よ」

 

 いろはの目が輝き、鶴乃はおっしっ! とガッツポーズ!!

 

「ただ……覚悟してほしいのは、入職してからよ」

 

 やちよが急に刺すような視線で、二人を見つめてきた。

 

「合格次第、私が個々人に見合った三カ月間の研修プログラムを作成する。それをクリアしなければ、落とすわ」

 

「えっ……」

 

 頂点から一気に突き落とされそうな気がしていろはの顔が蒼褪める。

 

「人手不足なのに落とすんだ?」

 

 だが、鶴乃はニヤニヤと笑って皮肉を突き付ける。やちよはフッと口元を揺るめた。

 

「まあ、建前上はそう言っておかないとみんな真剣になってくれないでしょ? でも、研修は厳しくやるから、筆記試験が受かったら、覚悟して。いろは、鶴乃、深月さ――」  

 

 

 ――――クーカー……。

 

 ――――すぴ~……。

 

 ――――ZZZ……。

 

 

「あっ!」

 

「寝てる……」

 

 三人はフェリシアに注目。

 既に彼女はこっくりこっくり鼻ちょうちんを浮かべて船を漕いでいた。

 

「ほんと、どんな親に育てられたんだか……」

 

 鶴乃が呆れの混じった苦笑い。

 一方のやちよは、微笑ましそうにフェリシアを見つめていた。

 

「疲れているのよ。そっとしといてあげましょう」

 

 ソウルジェムを覗いたみたまの話では、昨日魔女退治で徹夜したそうだ。

 やちよも現在徹夜明けなので、その苦労は理解できる。

 

「じゃあ、この子には、後で私が伝えます」

 

「ありがとう、いろは」

 

 その後、フェリシアは、仮眠室のベッドでしばらく(5時間ぐらい)安息していたという……。

 

 

 

 

 ――――そして、翌日、筆記試験の時間が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




 補足説明ですが、フェリシアは過去に明京町で保護申請登録をしましたが、立て続けに騒動を起こしたので切れています。
 要は運転免許証と同じで、違反したら、しばらく一般人のフリして大人しくしてろ、じゃないと罰するぞ☆と警告される訳です。

 相変わらずガバガバ設定で申し訳ない……。

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