魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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一か月もかかってしまいました。ごめんなさい!


FILE #61 REPENTANCE = <懺悔>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――夢を見た。

 

 

 いつもの場所。

 いつもの人達。

 窓に映るのはいつもの景色。

 

 陽が目一杯差し込む、白い輝きに満ちた病室に自分は立っていた。

 リンゴの花の臭いが、鼻の奥を刺激して、記憶を呼び覚ます。

 

 ――――ああ、懐かしい。

 

 これが夢の中だったとしても、今この時だけは、自分はあの頃に戻れる。

 何もかもが有って、決して欠けることの無い、いつも満ち足りていた、あの日々に。

 

 目と鼻の先に、あの子が居る。

 腰まで垂れた緩くふんわりとした桃色の髪、少し日に焼けた赤色のパジャマ――――それらが目に入るだけで、もう嬉しくて堪らない。今まで体験した苦労など、死に掛けた事など、どうでもいいとさえ感じるほどに。

 

 ――――大切な妹、うい。

 

 まだ自分に気付いていないのだろう。彼女は背中を向けて、窓の外を眺めているようだ。

 自分も窓を見た。

 青空の中で、(つがい)のツバメが飛んでいて、弧を描くように、太陽の周りを旋回していた。

 多分、ういは、願っているんだろう。

 いつか自分が、おねえちゃんと一緒に、あのツバメ達みたいに、どこまでも広い世界に羽ばたけていけたらって――――

 

 ういなら(・・)きっと、そう思っている筈だ。

 自分は信じてる。疑うまでも無い。だって、私とういは――――

 

 

 

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()――――

 

 

 

 

「おねえちゃん」

 

 不意に声が聞こえて、いろははハッと我に返る。

 ういは背中を向けたまま、自分を呼んだ。

 自分は何をしているんだろう。ういも自分を求めていたのに、ここで突っ立ってるなんて。

 いろはは、そんな自分を恥じつつ、ういに駆け寄った。

 そして、振り向いてもらうべく、肩に触れようと――――

 

 

 

「たまき」

 

 

 

 ――――した瞬間、声が聞こえた。

 よく、聞き覚えのある声だった。

 だが、その語気は刺すように強くて、夢心地の最中に居る自分を現実に呼び戻そうとしているようで。

 振り向くと、ねむが居た。

 自分の記憶にある、あの頃(・・・)のまま。良く見たパジャマを着て、いつものベッドに座っている。

 だが、その表情は、いつもの穏やかなものではなく。

 固く、険しい――――憎しみにも似た、強い怒りを噛み殺しているように見えて、怖かった。

 彼女は射る様な視線で自分を見据えて、強く訴えてきた。

 

「君は、本当に、その先へ行くつもりかい?」

 

 陽を遮るように、ベッド周りのカーテンを半分閉めているせいで、ねむの顔には影が掛かっていた。

 深藍に瞬く瞳が、いろはの目に付いた。その色は、悲しみに満ちている。

 

「ねむちゃん……でも」

 

 自分はういを取戻したい。その信念は今も変わらない。

 ねむもその気持ちは分かっている筈だ。だが、彼女は酷く辛そうに口元をクッと歪めた。

 

 

「そこにあるのは……“闇”だ」

 

 

「……!!?」

 

 ぞくりと、心臓が凍えるような感覚。

 

 ――――いつか、自分の夢に現れた白衣の男性と、ねむの言葉が、重なった。

 

「ジークムント・フロイトの言葉だ。『夢は現実の――――」

 

 聞きながら、いろはは深呼吸。

 ねむの言いたいことは分かっている。

 だけど、彼女が心配しないように、できるだけ笑顔を取り繕って、答えた。

 

「表出であり、想像の産物ではない』だね。知ってるよ、ねむちゃん」

 

 ねむはコクリと頷いた。睨み据えたまま。

 

「でも私、ういに触れたいの。例え夢の中だとしても、ういに会えるのはこの時しかない。ねむちゃんが止めたい気持ちも分かるけど……今だけは、私の好きにさせてほしい」

 

 愕然としたように、ねむの頭が項垂れる。

 

「そこまで言うのなら、僕にもう、君を止める権利は無い。でもたまき。これだけは頭の片隅に留めておいて……」

 

 

 

 

 ――――真実はいつも、君の心を強姦し、蹂躙する。

 

 

 

 

 

「うい……」

 

 ねむの最後の言葉を聞きながら、いろははういの肩に触れた。

 柔らかい感触に、つい抱きしめたい衝動に駆られる。

 だけど、今は、その時ではない。

 

「ごめんね。お姉ちゃん、まだ貴女の手掛かりをちっとも掴めてない」

 

 だけど――――と、いろはは表情を真剣に固めた。窓の外に映るのは神浜市の全景を見渡す。

 

「この街に住む人達に支えられて、ようやく私は一歩を踏み出せた。お父さんが伝えてくれた、大賢者様と会えるきっかけもつかめた。いつまで掛かるのか、分からないけど、確実にういに近づいてる気がするの」

 

 そこまで言うと、いろはは、穏やかな笑みを浮かべて、ういを見下ろした。

 

「だからうい、もう少しだけ待ってて。お姉ちゃん、必ず貴女を取り戻すから」

 

 微動だにしなかったういの肩が、ピクリと動いた。

 彼女の顔がゆっくりと、後ろを振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそつき」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 ――――ういの肩が、急に冷たくなった。

 

「私のこと、何も知らない癖に」

 

 頭が、真っ白になった。

 悪寒が脚の爪先から、頭頂部まで一気に駆け抜いた。

 笑顔を魅せると思っていたういの顔は――――

 

「私がこうならなかったら、心配しなかったんでしょ?」

 

 ベタリと、一色の黒に塗り潰されていた。

 

「……っ」

 

 奥歯が、ガチガチと揺れ出す。

 違う、私はそんなことを思ってない。今まで、これっぽっちも――――だが、口が震えてしまって、否定できない。

 

「お姉ちゃんはいつもそう。口から出るのは、綺麗な言葉ばっかり」

 

 ういの言葉は、酷く淡々としているけど。

 自分への嘲り、侮蔑、怒り、そして、ありったけの憎しみが感じられて。

 覚えの無い、罪悪感が、心臓をメキメキと締め付けてきて。

 

 ――――いやだ。

 

 ――――やめて。

 

 胸の痛みに堪えきれず、両膝が折れた。

 端から見ればその様子は、神父の前で跪き懺悔する罪人のようであった。

 いろはは両手で耳を塞ぐ。ういの口から、そんなことは聞きたくない。

 自分を嫌う様な言葉は、断じて。

 

「まるで、童話の主人公みたいだね」

 

 だが、ういの言葉は耳の蓋を容赦なく貫いた。

 皮肉だった。

 だが、冷たい刃となって、いろはの心を突き刺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――全ての光が消えた。

 

 

 

 そこにあるのは、見渡す限りの闇、闇、闇……。

 永遠に続くトンネルの様な、果てしない暗黒の最中にいろはは立っていた。

 

 ―――――ああ、まただ。

 

 自分の知らない世界に、迷い込んでいる。

 認識した途端、全身が四肢の末端から急激に冷めていくのを感じる。

 ここは酷く寒い。

 “閉ざされた空間”と、何故か理解していた。だから不思議だ。風が入る隙間さえ無い筈なのに、この凍える様な冷感は一体……。

 

 ペタペタと、何かがゆったり近づいてくる足音。

 灯りを持った女性がいた。

 

 ――――いや、違う。

 

 よく目を凝らすと、彼女は中々に不思議な状態だった。灯りは灯りでも懐中電灯のようなものを握っているのではなく……()()()()()。彼女が抱く光は、人型をしていて、彼女の全体像をぽう、と照らしていた。

 彼女が自分の目先まで歩み寄る。

 身長は自分よりも頭半分ぐらい高く、顔立ちも凛々しい。だが、いろはは“少女”だと認識できた。推測するに、年はやちよか鶴乃と変わらないだろうか。

 

 自然と、いろはの肩肘がグッと張る。眉間に皺が寄り、表情筋が固くなっていく。

 それは少女の格好を見たからだ。

 自分は白衣で全身を覆っているのに、少女の方は、紙切れのような白い布一枚だけ。頼りないそれのせいで、上下肢が全て露出している。

 だが、少女は別に寒くなさそう。彼女の意識は、皮膚が感じる冷気よりも、抱きかかえている“光”の一点のみに向いているようだった。

 

「たまきさん」

 

 彼女は穏やかな笑みを浮かべて、光を見下ろし、自分の名を呟いた。

 いろはも、じっと光を見つめる。

 よく目を凝らすと、光の中にぼんやりと、実体が浮かんで見えた。

 

 ――――少女が、抱いているのは。

 

「この子は、望まれない子でした」

 

 赤ん坊だった。

 まだ、生まれたばかりの。

 

 少女は、タオルで包まれたその子の体をギュッと抱きしめると、愛おしそうな瞳で、見つめた。

 

「でも、この子は、生きている。未来がある」

 

 何故だろう。

 少女が語る希望を、はっきり否定したかったのは。

 それを、言わなければ、少女の為にならないと思ったのは。

 

 ――――私は、何か、知っている?

 

「自分の人生を自分で歩むことができる。私はもうダメですけど……この子には私の分も幸せになって欲しいんです」

 

 いろはは知っている。

 この“深淵”に潜む魍魎・悪魔にも匹敵する鬼畜共が少女に与えたのは、地獄に堕ちるにも等しい数多の苦痛。

 赤ん坊は、恐らく―――― 

 しかし彼女は、自分に憎しみも怒りも、ましてや悲嘆さえ向けず、ただ光輝く瞳を向けていた。

 

「人間は皆、生まれた時にその権利が与えられているはず。そうですよね? たまきさん」

 

 自分は、少女の問いに「うん」と、頷いた。

 何で、頷けたのか分からなかった。

 少女の希望に、無垢な期待に応えたいと思ったのだろうか。

 

 

 

 

 ――――自分は知っていたのに。

 

 

 

 

 ――――赤ん坊が、これから辿る運命を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――殺せ。たまき。

 

 

 ――――いやだ。

 

 

 ―――――その子は、この世に必要の無い人間だ。

 

 

 ――――いやだ。

 

 

 ―――――ゴミは散らかした者が片付けなくては。

 

 

 ――――やめて。

 

 

 ―――――だから、お前の手で処分するんだよ、たまき。

 

 

 ――――神様……どうか……。

 

 

 ―――――さあ、やれ。

 

 

 ――――願わくば……私が手を下すよりも早く、この子を御救い下さい……!

 

 

 

 

 

 

「やめてぇっ!!殺さないでぇっ!! その子は私の」

 

 金切り音のような悲鳴。銃声。目の前が真っ赤に染まった。

 

 

「やめてぇっ!!殺さないでぇっ!! その子は私の」

 

 金切り音のような悲鳴。銃声。目の前が真っ赤に染まった。

 

 

「やめてぇっ!!殺さないでぇっ!! その子は私の」

 

 金切り音のような悲鳴。銃声。目の前が真っ赤に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ごめんなさい。『かすみ』ちゃん。

 

 

 ――――本当に、ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――翌日。

 

 

 ――――みかづき荘。早朝。

 

 

 昨日の夢は、何だったんだろう。

 いろははボンヤリとした眼のまま、自室のドアを開けた。

 目覚めは……ものすごく悪い。両肩に重りが乗っかっているようで、倦怠感が酷い。座ったまま眠ったせいもあるだろうが、十中八九夢の内容のせいだろう。

 胸がずきずきと痛む。

 所詮、夢は夢でしかない。幻。ならばさっさと忘れて現実に目を向けた方が良い。

 だけど、ねむちゃんの言葉通りなら……あれは……。

 

「よっ!」

 

 いろはは思わず「げっ」と眉を顰める。全く同じタイミングでフェリシアが()()()部屋から現れたのだ。

 あれ、ちょっと待てよ……。

 

「戻ったんだ、部屋に……」

 

「……まーな」

 

 今の自分の状態はすこぶる悪い。

 フェリシアにまた言い当てられるかもしれないと、身構える。

 ――――が、目を丸くした。

 そのフェリシア自身が、罰が悪そうな顔で、視線を逸らしたからだ。

 

「……あの、私、起きたらフェリシアちゃんに一番に聞きたいことがあって」

 

「……奇遇だな、オレもいろはに聞きたいことがあったんだ」

 

 二人の間に、緊張感が張り詰めていく。

 いろははフェリシアの瞳をしかと見つめて。

 フェリシアも、どこかやりにくそうに顔を顰めつつも、いろはの瞳を見据える。

 

 

「あなたは」

 

「オマエは」

 

 

 二人の声が、ピッタリと重なった。

 

 

 

 

 

 

 

「「何者?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




梅雨時期は、メンタル不調で、自律神経がほぼ死んでしまい、全ての興味が失せていました。

14日頃にようやく、回復の兆しが見えて、少しずつ執筆し続け、ようやく完成にこぎつけました。

マジ季節の変わり目やべえです。

改めまして、お待たせしてしまい申し訳ありません。

次回は26日を目途に投稿を目指します。
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