魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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今回は7300字程です。


FILE #62 UNDERCARD = <余興>

 ――――2018/07/05 (日)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――静寂。

 同時に問いかけた二人の間に、鉛よりも重苦しい空気が漂っていた。

 

「あ、あの、フェリシアちゃんから……」

 

「……いろはから話せよ」

 

 フェリシアは目線を逸らしながら、そう返した。

 なんだろう。さっきからフェリシアがよそよそしい。昨夜までは、図々しさ全開で自分に言いたい放題バカにしてきたのに……。

 彼女の態度に強い違和を覚えながらも、いろはは一度、深呼吸して気持ちを整えた。

 

「分かった。あの……“フォックス”って?」

 

 相貌をしかと捉えてそう問いかけると、フェリシアは罰が悪い顔のまま、一度後頭部を掻いた。

 が、直後――――視線をキッと鋭くして、

 

「オマエ、それを()()()聞いた?」

 

「えっと、昨日、フェリシアちゃんが寝言で……」

 

 いろはを強く睨み据えながら、そう問い返してきた。刺すような眼光に圧倒されながらも、いろはは答える。

 

「あっそ」

 

 “寝言”の単語がフェリシアの耳に届いた途端、顔が一気に脱力したように見えた。

 彼女は、大きく安堵の溜息を付くと――――

 

「じゃあ宿題だ」

 

 ニッと、悪戯っぽくはにかんだ。

 

フォックス(それ)の意味が分かったら、オマエのいう事を何でも一つ聞いてやる!」

 

「はっ?」

 

 恐らく、いろはには絶対に分からないと踏んだ上で、そう言い放ったのだろう。

 いつも通りの態度に戻って安心するよりは、小馬鹿にされた苛立ちの方が勝った。

 いろははムッと、眉間に皺を寄せてフェリシアを睨む。

 

「じゃ、今度はオレの番だ」

 

 だが、フェリシアも再び瞳を細めて、じっと睨み返してきた。

 

 

()()()ちゃんって誰だ?」

 

 

「えっ――――」

 

 ギクリと。

 首元を鷲掴みにされた気がして、いろはの呼吸が一瞬、詰まる。

 

「寝言で聞こえたぞ。そいつはオマエの何だ? 何で謝ってた?」

 

 心臓が、バクバクと高鳴った。

 身体中を血液が激流の様に走り回り、全身を内側から急激に暑くさせた。

 呼吸が浅くなって、頭がボンヤリしてくる。

 

「……っ!! それは……よく、分からないの」

 

「はあ?」

 

 フェリシアに悟られないように、過呼吸をどうにか堪えながら、いろはは答えた。

 呆然と目を丸くするフェリシア。

 

「知らないヤツに、ごめんなさいって言ってたのかよ?」

 

 至極当然の反応だ。だが、本当にその通りなのだ。いろはは迷わず頷いた。

 

「……うん。その子の事は、ちっとも記憶に無くて……会ったことも無くて……」

 

 いろははそこで一度、下唇を噛んだ。

 握り締められた右手の拳が、小さく振戦(しんせん)する。

 

「だけど、私はその子に、凄く酷い事をした気がするの」

 

「……見捨てたとか? ……まさか、殺した?」

 

 前者は、魔法少女なら誰しもが有り得る話だろう。

 現にフェリシアとて、見捨てた人数なら数知れない――逆に考えれば、見捨てる判断をしなければ、自分が生き残れなかったからだ――それに関しては、仕方ないと思える。

 

 だが後者なら――――

 

「それも……分からない」

 

 けど、といろはは右手の震えを抑えるように、左手で撫で下ろした。

 

「……もっと、酷い事をしたと思う……」

 

「…………」

 

 フェリシアは閉口するも、その眼光は鋭さを一層増した。強い警戒心があからさまに映し出されている。

 

 ――――こんな、どこにでもいそうな凡人。

 人畜無害極まる人見知りの少女の腹の中に、一体どんな魔物が巣食っているという――――

 

「いろは……オメー、やべえ奴だな」 

 

 見透かされたようなその一言に、いろはも何も言い返すことができず、閉口するしか無かった。

 そして、もう話したくないと言わんばかりに、フェリシアはそこで背中を向けて立ち去る。

 いろははただ、悔しさに唇を強く噛み締めながらも――

 

 その背中をじっと、見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――お昼前、11時頃。

 

 

 今日は日曜。

 当然ながら、市役所も学校もお休みであり、みかづき荘は全員が揃っていた。

 (但し、夜間の町内警備はどうしても欠かせないので、やちよのみが夜勤である)

 なので、フェリシアと鶴乃の表彰を祝うパーティをこれから開くつもりだ。

 

「餃子パーティ?」

 

 どんな料理が振舞われるか、ワクワクしていたフェリシアだったが、やってきた鶴乃が持ってきたクーラーボックスの中身と、いの一番に発したその単語に目を丸くした。

 

「そ。実は、ウチで新しいサービスを始めることになってね。ほら、最近病気持ちのお年寄りのいる家庭って多いでしょ? たまには外食に行きたいけどお爺さんとお婆さんが心配で~……ああ、でも中華料理作るのメンドー……デリバリーよりも出来立てをたべた~い……そんなお悩みをお持ちのアナタ! この由比鶴乃ちゃんにおまかせ! アナタの家で好きな中華料理を作ってあげちゃいます!」

 

 意気揚々と捲し立てる鶴乃の解説に、フェリシアも感嘆。

 

「へぇー! でも何で餃子なんだ? いや好きだけど」

 

「皆で楽しく餃子を作るのも楽しそうだと思ってね。鶴乃ちゃんのサービスのモデルにもなってあげられるし」

 

 やちよはそう言うと、鶴乃は互いにウインクを交わす。

 

「家族みんなで餃子パーティかあ、何だか楽しそうっ! フェリシアちゃんも、そう思わない?」

 

 いろはは目を輝かせながらフェリシアに問いかけると、ヒラヒラと手を振られる。

 

「べっつにー……餃子なんて腹いっぱい食えりゃそれでいいだろ?」

 

「鶴乃ちゃん、一人分の量は?」

 

「大体40個ぐらい」

 

「おしきたっ!!」

 

 やちよと鶴乃のやりとりに、フェリシアは目を輝かせた。

 ずる賢いのか、単純なのか今一つ彼女を判断しかねるいろはは苦笑い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ピーターとみたまとまさらも来たので、7人でテーブルを囲んで餃子作りを行うこととなった。

 皆、和気藹々としている中で、まさらが冷静に水を掛けるような一言。

 

「でも、やちよさんは今日は夜勤だけど」

 

 餃子なんて食べさせて大丈夫? とまさらは尋ねると、鶴乃は瞳を輝かせて「そんなこともあろーかと!」と、声を張り上げると、クーラーボックスから、餃子の皮だけでなく、ギッシリパック詰めされた餡を取り出す。その数なんと、6袋。

 

「普通の、キャベツ多め、ツナマヨ、カレー、トマト、あと……餡子!」

 

「ダジャレかよ……」

 

 餡だけに餡子とは……

 

「違うって! 意外と焼いた餃子の生地と会うんだよ。ウチじゃ好評なの!」

 

 フェリシアの冷ややかなツッコミに、鶴乃がそう返すと、隣立つまさらが一言。

 

「その発想力をもっと別のところに活かした方がいいんじゃ? 例えば、50点を上げるとkモガッ」

 

「まさらさんっ!」

 

 また悪気無く無礼なことを言おうとしたので、いろはは慌てて口を塞ぐ。

 

「まあ、50点は事実だし、気にしないよ」

 

 鶴乃が笑って返すと、いろははホッとなる。

 

「おい、余計な事は言いっこ抜きにしてとっとと作ろーぜ!」

 

 フェリシアの言葉に全員が賛成。

 ピーターがテーブルの上にホットプレートを、鶴乃がそれぞれの餡をボウルに分けると皮と一緒にテーブルの上に置いた。

 そして、鶴乃がホットプレートに油を引いて弱火で温めると、各々がそれぞれ皮に好きな餡を入れて餃子を作成していく。

 

 

 ――――この後の展開は、筆者的に概ね読者の皆様を予想を超える展開は無いと判断した為、ざっくりと描かせてさせていただく。

 

 

 家事全般得意な女子が集っているだけあって、餃子はあれよあれよという間に大皿に盛られていき、30個ぐらい溜まったところで、鶴乃が一斉にホットプレートで焼いていく。

 途中、みたまが、皮に餡子とツナマヨとにんにく、ラー油をたっぷり入れたゲテモノオリジナル餃子をまさらに食べさせて、小一時間意気消沈させてしまったり、フェリシアがこっそり冷蔵庫から持ち出したワサビや梅干しを混入させて、いろはや鶴乃をビックリ仰天させる等、パーティならではの珍事もあったが、特に皆の目を引いたのは……

 

「うう~お腹いっぱい~……」

 

「いろは、大丈夫?」

 

 隣に座るまさらが声を掛けると、いろはは膨れたお腹をポンポン撫でながら、嬉しさと苦しみが混じった顔で返事する。

 

「は、はい……。流石に40個はキツイかも~。まさらさんは?」

 

 まさらも自分と同じ量は食べている筈だが、みたま製を食べたのを除いて表情に変化は無い。

 いつも通りの、澄ました人形顔。

 

「まだまだイケるけど、これ以上は食べないつもり」

 

 どうやら鶴乃は餡を作りすぎたようだ。

 みんな、40個程大皿に取り分けて食べた筈だが、まだ6種類全部が、半分近く残っている。

 

「やちよさんは?」

 

 いろはは未だに、最初と変わらぬペースでパクパク食べているやちよに振ってみた。

 

「もう70個は食べてるけど、まだまだイケるよ!」

 

 意気揚々と語るやちよにいろはは目を点にして絶句。まさらがボソリと解説。

 

「やちよさん、お婆さんが貧乏性だったから……」

 

 祖母の七海 天(そら)は食事にうるさく、小さい頃のやちよはお腹いっぱい食べられなかったらしい。

 

「ああ、なるほど。その反動で亡くなられてから大食いに……ってさっぱり意味わからないですよ、それ……」

 

 謎な理屈を聞かされていろはは混乱。

 だが、好きな物を、幸せそうにパクパク食べるやちよの姿を見てるとほっこりする。

 一方――――

 

「……おい、ニンニク女。オレと勝負してみねえか?」

 

 そんなやちよの様子を横目で見ながら、フェリシアは鶴乃に近づきそんなことを持ち掛けていた。

 鶴乃の両肩が、ピクンッと弾む!

 

「勝負!? 良いね、やろやろっ!」

 

 その単語を聞いて、燃え上がる鶴乃。フェリシアはニッと嗤った。

 

「餡は半分以上残ってるが、やちよのペースだと恐らく食い切る……量的にあと、何個ぐらい作れそうだ?」

 

「うーむ、あと120ぐらいかな?」

 

「だってさ、どうだ?」

 

 フェリシアがやちよに振ると、「全然OKよ!」とサムズアップを返される。

 

「よーし、じゃあ勝負内容はオレとニンニク女、どっちが先に60個餃子作れるか、だ。勝った方は相手に何でも言うことを聞かせられるってのはどうだ?」

 

「乗った! で、負けたら?」

 

 フェリシアはチラリとみたまの前にある大皿を見た。

 20個程の餃子が綺麗に並べられているが、誰も見向きもしない。

 が……よく見ると、そこだけ黒いオーラが漂っているように見える……。

 

「……あいつのゲテモノ餃子を全部食う」

 

「……正に命賭けか……面白い!」

 

 先ほどまさらがダウンしたので、その威力は鶴乃も承知済みだ。息を飲んで応える。

 

「何か言ったぁ??」

 

「「いえ、何にも」」

 

 が、みたまが「良い笑顔」を向けてきたので、身の危険を感じた二人は併せて頭を下げた。

 

 

 ――――こうして、二人の餃子作り勝負がスタートしたが……この後の展開は、概ね読者の皆様の予想通りの展開になると思われるので、ざっくりと描写させて頂く。

 

 

 まさに、神速の速さで描写を作っていく二人。現役中華料理屋の鶴乃は言わずもがな。驚くべきはその鶴乃に匹敵するスピードで餃子を作るフェリシアだ。形も整ってるし、ヒダもちゃんと作られていて、出来栄えは鶴乃製と大差ない。

 

「やるじゃん、ボウズ!」

 

「へへ、オレも一時期は中華料理屋にいたからなぁ!!」

 

 やはり小さくても元は傭兵。経験豊富の自負に偽りは無いのだろう。

 二人が作った餃子はみたまが焼き上げ、ピーターが皿に盛り、やちよがヒョイヒョイ食べていく……という一種の流れ作業が出来上がっていた。

 観客状態のいろはとまさらは、彼女達の一連の動作の鮮やかさにただ呆然と口を開けて眺めていた。

 

「よし、60個目!!」

 

 暫くして――――勝敗は決した! 制したのは……

 

「しゃあッ!! わたしの勝ちぃッ!!」

 

 鶴乃だ!! 彼女は両手を天高く掲げてガッツポーズ!!

 その横でフェリシアが床に転がって嘆き喚く!

 

「だああああ!! くっそおおおおッ!!」

 

 フェリシアの記録は57個! 残念。現役のスピードにはあと一歩及ばず!!

 勝者となった鶴乃は、ふんふーん♪と鼻を鳴らすと、満面な笑みを浮かべてフェリシアを見下ろした。

 いつに無く、邪な感情を携えながら……

 

「ボウズー。覚悟はできてるよねー??」

 

 フェリシアは仰向けになり両手を広げて大の字になる。

 そして、相手に降参した犬猫の如く、腹を見せて叫んだ。

 

「チクショウ!! 煮るなり焼くなり好きにしやがれ!!」

 

 今まで小馬鹿にされた腹いせなのか、鶴乃の顔は実に楽しそう。

 しばらくニヤニヤと、その哀れな様を見下ろしていたかと思うと――――

 

「お、潔いねー! じゃあ……」

 

 笑みを消して――――

 

「みたまさんのゲテモn特製餃子を食べるのは無し!」

 

「はっ?」

 

 フェリシアは目を丸くした。

 隣で、みたまの目がギラリと光ったが気にしないで。

 

「変わりに、デザート作ってきて!」

 

 やちよから聞いたよ、得意なんでしょ? と鶴乃が言うと、フェリシアは呆気に取られたまま。

 

「おいおい、そんなんでいいのかよ?」

 

 そう問いかけた。鶴乃は屈託無く笑う。

 

「あはは! だってこのパーティはボウズを祝う為に開いたんでしょ? 主役を不快にさせちゃ仕掛け人失格だよ」

 

 ってなワケでよろしくねー! と鶴乃が背中を叩くと、フェリシアはやれやれと、立ち上がる。

 

「しゃーねーなー。テキトーに作ってくるけど、食べて―奴は?」

 

「あ、じゃあ私……できれば、紅茶付きで」

 

「私も、右に同じ」

 

 挙手するいろはとまさらに、フェリシアは呆れる。

 

「オメーら、もう食えねーって言ってたのは嘘かよ……」

 

「だ、だって、フェリシアちゃんのデザート、美味しいし……ね、まさらさん?」

 

「別腹」

 

 いろはは苦笑い。まさらは至極冷徹に一言そう返した。

 次いで、既に山ほどあった餃子を完食したやちよが挙手する。

 

「私も。できればコーヒーもお願い」

 

「私もぉ。飲み物は緑茶でぇ」

 

「私も。ダージリンティー付きでね」

 

 やちよに続けて、みたまとピーターも注文した。

 

「へいへい」

 

 そういうと、フェリシアはキッチンへと向かっていくが、鶴乃が後ろから付いてきた。

 

「なんだよ?」

 

「一人で人数分は大変でしょ? 何か手伝うよ」

 

 えへへ、と鶴乃ははにかむが、フェリシアは心底うざったらしそうに睨みつけると、シッシッと虫を払うような仕草で追い払った。

 

「オレ様特製デザートがニンニク臭くなるだろーが。邪魔だからあっち言ってろ!」

 

 その横柄さに、鶴乃もムッと顔を顰めた。

 

「チェッ! 分かったよ、このナマイキ小僧ッ!」

 

 そういって背中を向ける鶴乃。

 だが、キッチンの去り際――――一瞬だけ、振り向くと、

 

「ボウズ。誰も見てないからって……」

 

 ――――毒は入れんなよ。

 

 悪戯混じりの笑みでポツリ、小声でそう告げる。

 フェリシアは、苛立たしげに後頭部を掻いた。

 

「誰が入れるかっ」

 

 刺すように返してやると、鶴乃は「ふんふーん♪」と鼻を鳴らしながら、皆の元へ向かっていく。

 それを確認した後、フェリシアは住居人各々のカップを棚から取り出した。

 

「さてと……」

 

 並べたカップを見下ろして、フェリシアは工程を考える。

 ――――みんな腹いっぱい食べた後だし、まずは旨い茶でリラックスさせてやるか。

 デザートはその後だ。

 

 まずはやちよのコーヒー。

 

 幸い彼女は、味に煩く無いので、テキトーに創ったカフェオレでも満足気に呑んでくれる。

 フェリシアは、キッチンの足元の方の棚から市販品のインスタントコーヒー(とはいえ、値段は一般人の手が届かない額のモノだが)を取り出すと、附属されているスプーンでいっぱい掬って投入。

 そして、同じく棚から取り出した粉砂糖を加えると、ポケットから取り出したコーヒーフレッシュ(カップ入りのミルク)も加えて掻き混ぜる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェックメイトよ、子狐ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――即座にフェリシアは()()()()()()()

 振り向き様に、不意打ちのつもりで鳩尾へ手刀を叩き込む筈だった。

 

「っ!!」

 

 寸前で掌を上から、グッと握手するように掴まれた。まずい、とフェリシアが振り解こうと押した瞬間――――宙返り。

 視界が高速で一回転し最後に天井を向いた直後には、背中に鈍痛が響く。

 

「ぐぁ……っ!?」

 

 割れるような衝撃が全身を巡り、フェリシアは呻きつつも瞠目した。

 今の一瞬、自分に起きた事を理解するまで数秒――――投げ飛ばされ、床に背中を叩きつけられた。

 今のは合気道の技術・“抜き”だ。上腕の力を抜いて、フェリシアの振り解こうと抗う“押し”の力に任せたのだ。

 

「くっ……」

 

 結果、標的を失った力を利用された。体幹のバランスを崩されたところへ、相手の余計な力が加えられてフェリシアはあやされた猫のように転がされたのだ。

 即座に掌を反転し、床を押す反発力で起き上がろうと試みるが――

 

「ぐあああああっ!!」

 

 手首に伸し掛かる激痛に、フェリシアは喚いた。

 相手の両足が、フェリシアの手首をぐっと踏みつけた。

 視界の先には、表情こそ至極冷静――だが鬼神の如き眼光で見下ろすやちよの顔が有った。

 

「お見事」

 

「……っ!?」

 

 フェリシアには分かる。やちよの顔面に映る感情は――――明確な“敵意”。

 

「巧妙に心理学を応用して私達の虚を付き、油断してる所で一気に仕掛ける。大したものね」

 

「何の事だよ!?」

 

「とぼけないで」

 

「あぐ……っ!!」

 

 やちよは更に体重を掛けて、フェリシアの手首をギリギリと踏み躙る。

 メキメキと骨の軋む音が響くが、やちよは眉一つ動かさない。

 

 

「“I'm a fox”」

 

 

「!?」

 

 フェリシアの瞳が、ギョッと見開かれた。

 その反応が彼女自身を“クロ”と肯定させた。

 

 

「 オレは子ぎつね

 

  あてどない暮らしを している

 

  厄介な仕事があれば

 

  危険な仕事があれば

 

  そいつはオレの仕事だ 」

 

 

 やちよを見つめるフェリシアの瞳がワナワナと震えだした。

 

あなたたちの合言葉(スー族戦士の歌)。でしょう?」

 

「何でそれを知ってる? ……いつ気づいた?」

 

「順調に事を進めたつもりのようだけど、迂闊だったわね。幾つものミスが、ヒントとなって私にこの答えを導かせた」

 

「なんだと……!?」

 

 やちよの言いざまにフェリシアは仰天した。

 確かに、いろはが寝言を伝えた可能性は考えたが、“I'm a fox”だけで意味が分かる筈が無いと踏んでいたからだ。

 それに、“幾つものミス”とは……一体、どういうことだ。

 自分の計画に落ち度は無い筈……

 

「貴女、結構思い込みが強い性格ね。それが油断になってたの、気づいて無かったでしょう?」

 

 

 

 

 

 やちよは至極平静に、淡々と説明した。

 フェリシアの、見えざる落ち度を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 やちよさんを武術の達人っぽく描きたい人生だった……(ぉ

 餃子パーティのシーン、実は3回も書き直してます……
 日常的なシーンを書くの、結構むずい。まさらさんは、やっぱりむずい()

 さて、追い詰められたフェリシアですが、ここで負けを認めるようなヤツではありません。彼女はこれから確実に仕掛けてきます。
 チーム・みかづき荘(&鶴乃) vs チーム・アステリオスの総力戦、勃発です。

 それでは! 
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