魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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FILE #65.5 蟲達のその後――

 

 

 

 

――――みかづき荘・屋上

 

 

<ちぇ、フェリーめ、負けたか……>

 

 『三秒間応答が無かったら敗北を察しろ』――――フェリシアは確かにそう言った。

 故に、ジェイソンマスク=伊月ジュンは呆れたように舌打ちして、トランシーバーを耳から外す。

 

<じゃあ、これで仕事はおーわり。……さ、帰ろ~っと>

 

「待ちなさい」

 

 ジュンは掲げていた両手を、すっと下ろす。同時にまさら達の拘束が解かれた。

 そして、何事も無かったように背中を向けた途端、まさらの突き刺すような声。

 

<なーにー?>

 

 ジュンが、かったるそうな返答と同時に振り向いた

 まさらの眉間には僅かに皺が寄っていた。

 

「貴女……仲間が捕まったのに、助けようとは思わないの?」

 

<べっつにー? だって殺される訳じゃないしねー>

 

「…………」

 

 即答。その余りの素っ気なさにまさらは沈黙する。

 理解し難いものを見た、という驚異も勿論有ったが、一番は『これ以上何を言っても無駄だ』と、彼女の合理的知性が判断したからだ。

 

<報酬分は働いたし、うん。全部オッケー。じゃ、さいならー>

 

 機械音声のジェイソンマスクはどこまでも陽気で余裕な姿勢を崩さなかった。

 屋根の端っこまで歩くと、水泳のダイビングのように飛び降りた。

 その行動にまさらが目を見開く。

 まさらも端まで駆け寄って、下を見ると、既にジュンの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――神浜消防署・向かいのマンション・屋上

 

 

「ただいま戻りました」

 

「お疲れさまでした。匿名希望」

 

 紅羽根……双樹ルカがジュンから渡されたタブレットを無造作に投げ捨てたのと同時だった。

 15名の黒羽根がいつの間にか彼女を取り囲むような円を描いて集結していた。

 

「申し訳ありません。作戦は失敗致しました」

 

 真正面に立つ黒羽根……“匿名希望”が恭しく頭を下げるが、紅羽根はフッと笑う。

 

「まあ良いでしょう。“アステリオス”が敗れたのは残念ですが」

 

 口の端を深く吊り上げた。

 

「“おたのしみ”が増えました」

 

「お楽しみ?」

 

「個人的な話です。……ところで“匿名希望”?」

 

 途端、紅羽根は微笑みを絶やさぬまま、冷たい瞳を向けて問いかける。

 

「何でしょうか?」

 

「貴女は本当に、プロフェッサーに付いていけば、“解放”が成されると信じているのですか?」

 

「問うまでも無いでしょう」

 

 “匿名希望”も、競うようにじっと冷眼を向けて言い放つ。

 

「私は意識と感情は抜かれていませんし、分不相応な役職を与えられてはいますが……元々は一介の黒羽根に過ぎません。プロフェッサー・マギウスの御意志を疑うなど、愚か極まります」

 

「なるほど……」

 

 紅羽根は言いながらも、“匿名希望”から視線を逸らし、周囲を囲む肉人形達を見回していた。

 

()()も、同じ気持ちですか?」

 

 その内の一人――確か、“匿名希望”が【レイケツ】と名付けた者だったか――に目を付けて、紅羽根は問いかける。

 

「…………」 

 

 が、無言。

 暫しの静寂の後、紅羽根は“匿名希望”に向き直り、はあ、と溜息。

 

「そうでした。確かこの方々は()()()、興味無いのでしたね」

 

 “匿名希望”はコクリと頷く。

 

「紅羽根、貴女も解放を信じているのですか? プロフェッサー・マギウスが思い描く、我らの未来を……」

 

「さあ?」

 

 紅羽根は首を傾げて、素っ気なく答えた。

 

「将の思考は、我ら尖兵には計り知れぬ事ですから……ただ」

 

 だが、そこで再び口の端を吊り上げる。

 

 

「……最後に、笑えば良いと思ってます」

 

 

 深く被った筈のフードに隠れている瞳が妖しげな柘榴色に瞬き、“匿名希望”の肩が強張った。

 

「……笑う?」

 

「結果的に、私自身が利を得れば、それで良いのです」

 

「……」

 

 “匿名希望”は何も返さず、ルカをじっと見つめる。

 

「貴女も……貴女方も、そう思ったから加入したのでしょう?」

 

 再び黒羽根達を眺め回して、愉快そうにルカは言った。

 その言い様は、まるで組織など目的を果たす為の踏み台としか見ていないようで――――

 

「…………」

 

 匿名希望はその問いに応えず。

 無言のまま、冷たく嗤う彼女を強く見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして―――――

 

 

 漆黒に満ちる秘密結社内部。

 “匿名希望”がパチンと指を鳴らすと、【レイケツ】の瞳に光が宿る。

 

「お目覚めの気分はどう?」

 

「良く眠れた……」

 

 言いながらも【レイケツ】はどこか不快そうに、“匿名希望”を睨みつける。

 

「どうして七海やちよを殺さなかった?」

 

「みかづき荘の破壊は貴女の望みでは無かった筈」

 

「…………」

 

「安心しなさい。必ず機会は与えるから」

 

 “匿名希望”はそこで【レイケツ】から目を離し、後ろを振り向いた。

 自分達にピッタリとくっつく黒装束達の一人に向けて、パチンと指を鳴らす。

 

 

 ――――【ヒガミ】の両目に翡翠が瞬く。

 

 

「今日のラッキーカラーは、『オレンジ』だったわね?」

 

「…………」

 

 【ヒガミ】は何も言わず――――口元をニタリと歪ませた。

 

 

 

 

 

 

 

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