魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

72 / 155
のんびりしてたら、あっという間に二週間。

あっれぇ~???


FILE #66 WISH = <私利私欲>  ―深月フェリシア編 終了―

 ――――2018/07/05 (日)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――???

 

 

 目を覚ましたフェリシアが、即座に理解したのは、自由が無い、という事だ。

 

「おぉ~~~い!!!」

 

 親からはぐれた子供のような悲愴を纏う呼び声が漆黒に響く。

 

 ――――反応は無し。

 

 自分が座っているのは椅子だ、というのは理解した。

 四肢を動かそうにも拘束されているのか全く動かせない。

 ……どうやら牢獄のような所にブチ込まれたらしい。

 

 

 日本の神浜市が『魔法少女保護特区』に指定された理由の一つとして、『魔法少女の刑務所』が創設・運営が可能だったから、という裏話を聞いた事が有る。

 当然だが、一般的な刑務所では、魔法少女の犯罪者を束縛する事は不可能である。

 人工的な豚箱で、魔法少女の自由はまず奪えない。

 ジュンみたいな奴をブチ込んだら、想像を絶する地獄絵図を見るのは想像に容易い。

 

(しかし……)

 

 『大賢者』なら、話は別だ。

 神浜市のどこかに実在するという、伝説の魔法少女。

 かの人物が、その強大無比の魔力で外界との接触を完全にシャットアウトし、魔法少女専用の拘置所を創り出した――――と。

 

 このように、魔法少女の中でも、特に秀でた魔力の持ち主で、且つ、老齢の熟練者は俗に【賢者】と呼ばれている。

 

 実は、【賢者】の存在が確認されているのは、日本の神浜市だけではない。

 国際連合加盟国を始め、世界中のあらゆる国家では、政府が極秘裏に秘境に住まう【賢者】とコンタクトし、国の主要機関に結界を張って貰っている、というのだ。

 これは『大事件』以降、魔法少女を私兵に加えたテロ組織が、世界各地で活動を行っている可能性が示唆されたから、という見方が一般的だが、本当の理由は、キュゥべえによる“監視”を抑える為である。

 

 魔法少女を生み出す孵化器(インキュベーター)。

 物理法則を無視する宇宙人。

 人類誕生から現在に至るまでの成長を見届けてきた監視者。

 世界の人類は今日まで、彼らの都合によって生かされ、殺されてきた家畜だ。

 

 『大事件』が起きた事さえ、そもそもキュゥべえが中東諸国で魔法少女を量産したからだ。

 国際連合加盟国の主要機関から入手した情報を横流しして、少女達の不安と正義感を煽り、テロ組織への参加を勧めたのだろう、と見られている。

 

 

「……」

 

 フェリシアは同業者達から得た情報を頭で纏めていた。

 まあ、そもそも傭兵は、嘘と誇張が大好きなので、真実は全く違うのかもしれないが。

 現に、フェリシア自身、経験豊富を自負するものの【賢者】の類は、一度も見たことが無い。

 ただ、『大事件』のような事態が起きれば、情報漏洩対策は急務だし、有り得ない話では無いのかもしれない。

 

(……それよりも今は)

 

 かぶりを振って思考を切り替えた。

 とりあえず、自分の最優先事項は、どうやって此処を抜け出すか、だ。

 敵との戦闘で、“万が一”の状況に陥ってしまった場合、そこから這い上がるのも傭兵の資格の一つ。

 

「おぉ~~~~いッ!!!」

 

 フェリシアは目を潤わせ、悲愴的な涙声で叫んだ。

 

「しょんべんが漏れそーなんだー!! トイレに連れてってくれー!!」

 

 声は反響して自分に跳ね返ってくるだけだ。

 この様子だと、周りには誰もいない。

 案外、神浜市の女神とやらの心は氷の様に冷たいのだろう――――

 

『無駄な抵抗は辞めなさい』

 

 と、思った途端、機械混じりの声が聞こえてきた。

 スピーカーからだろうか。声の主は七海やちよだ。

 

『あなたの身柄は今、完全に拘束されているわ』

 

「どーしたら出してくれるんだ?」

 

『私の質問に答えること。それが条件よ』

 

 フェリシアは小さくフン、と鼻で笑った。

 そう言われて素直に答えるとでも?

 生憎、年相応の純朴さは、とっくに野良犬に喰わせた。今頃クソになって誰かに踏まれてる。

 傭兵稼業とは常に相手との化かし合いだ。さて、どうやって誤魔化すか――――

 

『深月フェリシアちゃん』

 

 違う声が聞こえてきた。声の主は八雲みたまだ。フェリシアが胸中でほくそ笑む。

 

「おいおいヒデーじゃねーかよー! ふざけんなよ! 人がトイレ行きてーって言ってるのに、拘束して尋問なんてあるかよっ!! 非人道的で人権侵害だっ!! なあ、『調整課』ってのはどんな魔法少女でも等しく支援するんだろっ!! だったらこんな真似、許せる訳ねーよなっ!? なっ!?」

 

 泣き声の様に声を震わせて必死で訴えるフェリシア。

 八雲みたまの情報はとっくに収集済みだ。情に訴える作戦だ。

 

『…………』

 

(おや?) 

 

 だが、スピーカーからは無音。

 

『嘘はできないわよ』

 

「……!」

 

 普段の間延びした声ではない。どこか緊張に張り詰めた様な硬い声色が帰ってきた。

 アイマスクの中でフェリシアの目が僅かに見開かれる。

 

『ソウルジェムは私の手の中にあるの。貴方が喋っている事が嘘か本当かは、おみとおし』

 

「…………なるほど」

 

『観念したかしら?』

 

 やちよの冷徹な一言。フェリシアの首がガックリとうなだれて、嘆息。

 

「したよ。どの道選択肢は一つしかねーんだからなぁ。で、何が聞きたい」 

 

『そうね、まずは……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――???《SIDE・七海やちよ》

 

 

 その後、やちよはフェリシアと小一時間程問答を繰り返した。

 現在、彼女とみたまの居る部屋は、ミロワールに良く似た内装だった。

 二人の眼前には、40インチ程のモニターが壁付けされており、四肢を拘束されて、全身を椅子に縛り付けられながらも、強く睨みつけるフェリシアが映し出されていた。

 フェリシアが一言話す度に、みたまにアイコンタクト。みたまの首が頷かれる。フェリシアは嘘を言っていない。

 彼女から確認した内容を箇条書きにまとめた。

 

 

・自分は傭兵稼業をしている魔法少女だということ。

 

・ヒッチハイクで日本中を旅していたこと。

 

・各地域で、縄張りを持つ魔法少女チームを撃退していたこと。

 

・『アステリオス』という異名が付けられたこと。

 

・神浜に帰った時に、『赤羽根』と名乗る魔法少女から声を掛けられ、彼女の『主』の前へ連れて行かれたこと。

 

・その『主』から、七海やちよの抹殺、或いは再起不能を依頼されたこと。

 

 

「『アステリオス』……?」

 

 まずやちよが気になったのは異名のことだった。

 みたまに目線を送る。彼女は意味を知っているのか、眉間に皺を寄せていた。

 

「ギリシャ神話のミノタウロスの別名ね……」

 

 ミノタウロス……それなら知っている。牛の頭と人の身体を持つ怪物のことだ。

 なるほど、フェリシアの魔法少女衣装から彷彿できる。 

 

『男をなぶり殺し、女を陵辱し快楽の限りを貪る怪物だ』

 

 みたまが不快感を顔に表した。やちよはその気持ちを汲み取り、フェリシアに伝える。

 

「貴方にピッタリの異名ね」

 

『最高の褒め言葉だな』

 

 皮肉を言ったつもりだが、フェリシアはフフン、と得意気に鼻を鳴らされた。

 全身を拘束され、ソウルジェムもこちらの手にあるというのに、彼女の余裕は微塵もぶれない。

 

「……どうして貴方は日本中の名だたる魔法少女チームを襲撃していたのかしら?」

 

 フェリシアからは暫し無言が返ってきた。

 この質問で言葉が詰まるとは思えない。

 何せ彼女は生粋の傭兵だ。自分たちとは違う世界で生きてきた少女だ。恐らく、自分自身が身に受けている様な尋問の類は幾度も経験しているのだろう。

 観念したとは思えない。恐らく、自分たちの裏を付く言葉を組み立てているはずだ。

 

 

『…………教えたかったからさ』

 

 

「「……!?」」

 

 想像の範囲外の答えが飛んできて、やちよとみたまは目を見開く。

 

『ピュエラ・マギ・ホーリー・クルセイダーズ……聞いたことはあるよな、部長さんよ』

 

「…………」

 

 聞いたことのある無しどころか、その名前は……恐らく日本中の魔法少女で知らないものはいないだろう。

 フェリシアはどこか楽しそうな口調で続けた。

 

「伝説の魔法少女・巴マミ。類まれな才能を持ち、正義の味方を体現した唯一無二の存在……そいつに率いられたチーム、ピュエラ・マギ・ホーリー・クルセイダーズは全盛期に40人もの魔法少女を率いていたと言われている……」

 

 やちよはフェリシアの言葉を真剣に耳に入れながら、目線を下に向けた。

 そこには先程、フェリシアがたった一人で潰したと言う、魔法少女のチーム名が列挙されていた。

 何れも魔導管理局・事務局の設立が諸々の理由で、未定となっている地区であり、縄張りを張る魔法少女達が代わりに自衛を行っていた。

 

「日本中の魔法少女が巴マミに憧れた。巴マミになろうとした。だけど……憧れが齎すのは『希望』だけじゃない。時に残酷な結末を下すことだってある……」

 

 フェリシアの言葉はどこか冷淡に聞こえた。

 唯一無二の【正義の味方】に率いられた事で、盤石は永久的と思われていたピュエラ・マギ・ホーリー・クルセイダーズだったが、突如呆気ない瓦解を迎えることになる。

 

 巴マミが解散宣言をしたのだ。

 

 当時、チームに所属したばかりの新米の魔法少女達が、巴マミの名を使って、他所の地域の縄張りを荒らしたり、一般人を恫喝し金銭を押収する事件が頻発していた。マミを始めとする古参メンバーと、新米達の間で度々一色即発寸前の衝突が繰り返されていたという。

 よって解散の理由は、新人達を抑えきれなかったからだと思われた。

 

 そして、巴マミは失踪。

 

 ピュエラ・マギ・ホーリー・クルセイダーズの解散、そして巴マミの消息不明は日本中の魔法少女達に衝撃を与えたが、逆に危険な理想を抱かせる発端となった。

 

 

 

 ――――『巴マミの後継者は誰か』

 

 

 

 「巴マミの様に正義の味方を体現できる魔法少女は、もう日本にいないのか?」

 

 世間の誰かが、その疑問を口にしたことが、始まりだった。

 全国の魔法少女達が直ぐ様猛烈な息吹を蒸した。

 自分こそが、自分たちのチームこそが、正義そのものであり、巴マミの後継者に相応しいと熱狂した。

 魔法少女達による、『正義の味方』アピールが各地で始まった。

 

 しかし、フェリシアは――――否、魔法少女の現実を知り尽くしていた彼女を含めた『傭兵』達は、そんな少女たちの無邪気な茶番劇を冷えた目で眺めていたという。

 

「巴マミが正義の味方であれたのは、奴が確固たる『正義』の信念を持っていたからだ。……だが、他の連中にはそれが無かった。奴らは正義の味方になりたかったんじゃねえ。“貴方は正義の味方ですよ”って言ってくれるカバン持ちと、名声が欲しかっただけ。浅ましいもんさ」

 

 そう話すフェリシアは彼女たちの事を心底侮蔑していた様子だった。

 

「半端もんが身の丈に合わない理想を抱いて突っ走ったらどうなるか……七海やちよ、オメーなら分かるよな?」

 

 やちよは沈黙で応答した。みたまもちらりと見遣ると、彼女も渋面を浮かべてコクリとうなずいた。

 分かっている。

 いずれ、過酷な現実という壁に当たり、乗り越えられなければ――――最悪、死ぬ。 

 

『いわしてもらうが』

 

 やちよの無言を肯定と受け取ったのか、フェリシアの声色に愉悦が戻っていた。

 

『オレが日本中を旅して、魔法少女共を潰し続けたのは、あいつらに世の中の不条理をわからせたかったからさ』

 

「……………」

 

『安定した裕福な家に育っても、お優しい仲間に恵まれても、オレみたいなクソガキに……』

 

 フェリシアの声が弾んでくる。

 

『10分……いや、5分足らずで簡単に壊されちまう! それが魔法少女の現実だ!! よ――――っく覚えときなっ!!』

 

 猟奇混じりに哄笑を響かせるフェリシアに、やちよもみたまも何も言えなかった。

 ただ、分かり得たのは、この少女が自分たちとは違う世界の人間であることは理解できた。

 

 ――――

 

「……気は済んだかしら?」

 

 一頻り笑い飛ばす様を見届けた後、やちよは静かにそう問いかけた。

 フェリシアは、ふう、と溜息。

 

『ああ』

 

「単刀直入に聞くけど、貴女の雇い主は誰?」

 

『さあな』

 

 フェリシアの表情を見つめる。変化なし。みたまにアイコンタクト。頷く。

 

「……本当に知らない様ね」

 

 フェリシアは迷わず頷く。

 【赤羽根】と名乗る魔法少女に連れていかれたのは、神浜消防署向かいに建つ、マンションの空き室だった。

 そこが作戦拠点として用意された場所で有り、赤羽根から手渡された端末で、彼女の『主』から直接依頼を受け取ったのだが――――当然、顔は見せず、声も機械で加工されていた。

 

『ただ……あれは』

 

「……?」

 

 フェリシアがクスリと微笑んだ。その表情をやちよは凝視する。

 

『若い奴じゃなかった』

 

 表情に変化なし。みたまにアイコンタクト。嘘は無い。

 

『喋り方とか、発声のリズムとか、息遣いのタイミングが、完全にジジイのそれだ。年齢は……そうだな。60~70って所かな?』

 

 やちよの眉間に皺が寄った。

 それで彼女に3億も払える人間となれば、名の有る実業家か、巨大暴力団の会長クラスの人間に絞られる。

 あとは……動機か。

 率直に自分に恨みがあるのか、或いは、自分の死が組織に何らかの利を齎すのか……。

 

「……貴女の協力者のジェイソンは?」

 

 フェリシアはやれやれと言いたげな顔で首を振った。

 

『知ってるけど……教えるのはやめとく。ありゃオレですら理解できねー正真正銘のバケモノだからなぁ』

 

 フェリシアの目はあからさまに泳いでいた。

 それが“怯え”の仕草と捉えたやちよは、静かに一言。

 

「……忠告感謝するわ」 

 

『おう、やめとけやめとけ。逆に言えば、こっちから手ぇ出さなきゃ無害な奴なんだが……』

 

 そう言って手を振るフェリシアの額には、冷や汗がジワリと滲んでいた。

 伝説の怪物に称される彼女すら震えさせる程のトラウマを、あのジェイソンは植え付けたのか。

 それは、一般社会人のやちよの頭では、到底描けそうも無い地獄絵図に違いない。

 

『ま、オレが知ってるのはこれで以上だ。さあ、煮るなり焼くなり好きにしろよ』

 

「ええ、ではそうさせて貰うわ」

 

 やちよは冷徹にフェリシアを見据えながら、一呼吸置くと――――

 

 

 

 

「深月フェリシア。貴女を正式に治安維持部の一員として迎え入れます」

 

 

 

 

 ――――力強く、はっきりと、そう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――???・【SIDE・深月フェリシア】

 

 

 

「……はあ!?」

 

 一瞬、フェリシアの思考が飛んだ。

 

「テメー何言ってやがる。オレが何をやらかしたのか、分かってんだろ?」

 

『ええ、十分に分かってる。その上で、貴女を雇用するのよ』

 

 スピーカーからは至極冷静な声。

 ……いや、全然分かって無いだろう、コイツ。

 あの環いろはといい、みかづき荘の連中は隠れ狂人の集まりか?

 

「どういうつもりだ」

 

『単純に、私が成そうとする最善に、貴女の様な“裏”を知り尽くした人間が必要だと感じただけ。他の傭兵の方々ともコンタクトを取れるしね』

 

 イカレてる、と素直に思った。

 こいつは、神浜市の治安の為なら、自分の様な輩と手を組むのも躊躇わない、というのか。

 

「オメー、おもしれえな」

 

『十中八九皮肉でしょうけど、誉め言葉として受け取っておくわ。ありがとう』

 

 そこで、スピーカーの音声が一旦止まる。

 

『……でも、それだけじゃないのよ』

 

 暫し思案していたのだろうか――――再びスピーカーから声。

 

『先の交通事故の時の、貴女の行動……私が感心したのはそこよ』

 

 フェリシアは鼻で笑った。

 やちよ自身言っていた事じゃないか。あの交通事故は自分にはラッキーだったのだ。

 必死の人命救助は、お前を始めとする周りの連中の疑念を払拭させる為の手段でしかなかった、と。

 

「ハ、オレに“正義のココロ”があるって言いたいのか?」

 

『正義か悪かなんて単純な物差しで人を計ったりしないわ』

 

 じゃあ、なんだっていうんだ。

 フェリシアはスピーカーを睨んだ。

 自分は最初から最期まで自分の味方だ。だから、自分の利益となる行動しかしないと、やちよは知っている筈なのに。

 

『貴女は、“自分が()()()()と思う状況”に敢然と立ち向かう力が有る』

 

「許せない……?」

 

『打破する為の技能と知識も有る』

 

 やちよの次の戯言次第では、馬鹿笑いしてやろうと考えていたフェリシアだったが――――呆気に取られた。

 

『事故発生直後の貴女は、自分の利益を考えていなかった。()()()のお父さんを助けたいと思ったから、衝動的に飛び出した。違う?』

 

「何を馬鹿な……」

 

 そんな筈は無い、と言い返したかったが、“あの子”と聞いて、後頭部が急に痒くなった。

 

『事故の直前に、あの子を叱ったそうね、「お父さんに謝れ」って。……それは、どういう意味?』

 

「! それは……」

 

 つい首を後ろに仰け反るフェリシア。多分、今の仕草はやちよに見られただろう。

 

『家族同士で傷つけあう様子を、親を失って哀しむ子供の姿を、二度と見たく無かったから、違う?』

 

「…………………」

 

 フェリシアの口がムッと噤まれる。

 

 ――――忌々しい。

 奴の言葉に乱される感情が、忌々しい。

 反射的に皮肉を返せず……寧ろちっとも回らない口が、忌々しい。

 

 だけど、確かに、認めざるを得なかった。

 自分が、あの小僧に伝えた言葉は、全部――――

 

 

「……………………………………」

 

 

 ――――嘘じゃない。

 長きに渡る沈黙の後、フェリシアは、コクリと首を僅かに振った。

 

 

『私の手元に、光一君から手紙が届いている。貴女への感謝状よ』

 

「なに……?」

 

 フェリシアは驚いたように目を見開く。

 直後、頭頂部が暖もりを感じて、不意に天を仰いだ。

 遥か高い位置にある天井のど真ん中に窓が見えた。意外だ、密室では無かったのか。

 そこに映るのは燦々と輝く太陽。

 真夏の日差しがスポットライトの様に、フェリシア一点に降り注がれていた。

 

『今、貴女の中で、人から素直に感謝を伝えられる事が、お金を貰う喜びよりも勝ったのなら……治安維持部で働くことは決して悪い話では無い筈』

 

 フェリシアは呆れた顔で首を振った。

 

「マジかよ……。オレはオメーを騙して殺そうとした女だぞ。金の為に」

 

『貴女が再び反旗を翻して、私を殺せば……神浜の英雄なんて女は所詮、その程度でしか無かったということよ。だけど、光一君はどう思うかしら?』

 

「……」

 

 フェリシアは、閉口した。

 

『あの子、信じてるのよ、貴女の事を』

 

「……」

 

 表情を隠すように、フェリシアは俯いた。

 

『貴女がこれからも自分達を助けてくれる、良いおねーちゃんだって。だから私も、貴女があの子を裏切るような真似は決してしないと、信じる』

 

 やちよは力強く言い切った。

 

 

「……………………………………………………フッ」

 

 ――――時間にして、5分間。長きに渡る沈黙の末、フェリシアの口元がニタリと吊り上がる。

 

「……全く、やってくれるぜ。要はそいつの感謝状をオレを縛る鎖にしようって腹だろう?」

 

『ええ。その通り』

 

 やちよ、即答。フェリシアが心底愉快そうに哄笑を響かせた。

 

ハハハッ! おもしれぇ!! どこまでオレを扱いきれるか……」

 

 

 ――――試してみろよ。

 

 

 ゾッとする様な笑みを携えて、フェリシアはそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――おう、ジュンか。

 

 ――――驚けよ。治安維持部に再入職したんだ。やらかした事は全部免罪だってさ。

 

 

 ――――……ああ。予定とは違ったが、狙い通りだ。

 

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回、新設定として【賢者】を出しましたが、要は、たるマギのペレネルさんみたいな人の事です。


 作家の皆様は書ける時間がある内にかいときましょーね。(ぉ)

 気が付けば前話投稿から10日も経っていたので、慌てて作成。
 連休中なのが幸いして三日で作り上げました。

 ……お分かりでしょうが、ほぼほぼ下書き状態のままです。
 添削したり、表現を追加する余裕はありませんでしたので、かなり雑な出来……


 まあ、今回でどうにかフェリシア編は終了。
 意外と長くなってしまったよ……
 次回以降はまた、いろはメインの話少々……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。