魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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※オリキャラ登場します

※2023/12/15 文章を全体的に再構成しています。


FILE #68 修羅同舟(改稿版)

 

 

 

 

 

 

 ――――前日・神浜市役所。19:00。

 

 

 きっかけは、突然かかってきた一本の電話からだった。

 

『ご無沙汰しております。七海部長』

 

 透明感の有る声色の中に強い意志を感じて、やちよは目を細めた。

 

「ななかね。どうしたの?」

 

『お仕事中に大変失礼とは存じますが、先日の非礼を謝りたいと思いまして……』

 

「面談の時ね」

 

 確かに、あの態度と言動は慇懃無礼そのものだ。瞳からは凄まじい迫力が伺えたが……。

 

『察して頂けて感謝致します。あの時は立場を弁えぬ無礼な発言の数々、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ありませんでした』

 

 恐らく電話の向こうで深々とお辞儀をしている彼女に、やちよは冷徹な一言。

 

「そう思ってた割には、結構本気に聞こえたけど?」

 

『見破られましたか。正直に申し上げますと、中々に新鮮で、清々しい気分でした』

 

「でしょうね」 

 

 やちよはフッと微笑む。電話の向こうの彼女も同じ表情が浮かべているだろう。 

 

「……貴女が私にあんな態度を取り、そして深月フェリシアにあのような処遇を施したこと……絶対、何か有ると見ている。一体、何が目的かしら?」 

 

『相変わらず単刀直入ですね。残念ですが、私の口からはお答えいたしかねます。詳しい話は、彼女に……』 

 

「彼女……?」

 

 やちよは怪訝な顔を浮かべた。

 そして、一分後――――通話口の声が、()()()()()

 

 

 

 

 

『初めまして。七海部長』

 

 

 

 

 

 女性の――だが、尊大な威厳を放つ覇気の如き迫力のある――低い声が、聞こえてきた。

 瞬間、やちよの全身が凍り付く。

 口の中に、ナイフの切っ先を真っ直ぐ突っ込まれたような驚愕と、恐怖の念が同時に絶大なプレッシャーとなって襲いかかってくる感覚。

 

「まさか、貴女は……」

 

 自然と、自分の声が震えていた事にやちよは驚きを隠せなかった。

 その反応を察知したのか、電話の向こう側に立つ尊大な声の女性は緩やかに嗤う。

 

『察してくれて恐悦至極。私は株式会社・蒼海グループ代表。『竜誕館』宗師――』

 

 

――王 海龍

 

 

 囁かれたのは、真の女帝。

 蒼海幇の頂点――武術師範衆『五強聖』のリーダー。

 その気高さと、23年という経験年数に相応しい圧倒的実力から、同じ土俵で競う事は愚か、出会えた魔法少女すら禄にいないとさえ噂される――――伝説の龍王の名。

 

 

 神浜の英雄は、緊張感に下腹部が焼け爛れるような苦痛に苛まれながらも、()()()()龍の尾に食らいつく虎の様に――獰猛を携えた瞳をじっと睨み据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最初に常盤ななかから話を持ち掛けられた時は、びっくりしたよ』

 

 “アレ”の正体を知って、酷くビビってたと美雨(メイユイ)から聞いていたのだがね、と海龍は楽しそうに言う。

 

 深月フェリシアを使った、『七海やちよ暗殺計画』。

 

 きっかけは、ななかと海龍の共謀だった。

 素行不良が過ぎて、チーム・アメノハバキリから追放――というのは彼女らが仕組んだフェイクだ。

 それを建前にして、こちらに送り込んだ。

 

 手段は問わない。可能な限り手を尽くして全力で当たって欲しい。

 時期はいつでも構わない。

 実行のタイミングも任せる。

 但し、条件として民間人は巻き込まないように――――と。

 

「なるほど……」

 

 やちよは感心。

 流石常盤ななかというべきか。

 切り替えが早いし、彼女ならそのような考えをしかねない。

 

「気になったのが……何故、貴女方が私を殺そうと目論んだのか、という点です」

 

『君は“英雄”だろう? 身に覚えは沢山有ると思うが?』

 

「ええ……。お二人とも動機はあります。まず、常盤ななか……彼女は私が死ねば、部長に昇進できると考えた」

 

 ななかは、次期部長の最有力候補だ。

 普通、副部長の都ひなのの筈だが、ここ最近のななかの功績は目覚ましく、何よりバックに蒼海グループがいる。

 

「ななかは、私のやり方に度々不満を漏らしていましたし、面談の度に強い野心も向けられていました」

 

 良くも悪くも、ワンマン且つマッチョイズムなのがやちよである。

 ななかからは、さぞかし“やりにくい”と思われていた筈だ。

 だからこそ、自分が部長になれば、治安維持部をより効率的且つ円滑な方向へ、改革できると思ったのだろう。

 

「そして、王会長……というよりは、蒼海幇」

 

 やちよが死ねば、ななかを傀儡にして、治安維持部を乗っ取ることができる。

 

 蒼海グループ――もとい蒼海幇が、未だに地元住民から『ヤクザ』と謂れ、恐れられている事はやちよも承知していた。

 当然、その“悪印象”は、企業の社会的信用に繋がる。

 イメージ払拭の為に、首脳陣が日夜腐心しているという話も、独自の情報網から得ていた。

 

「悪いイメージを()()に拭い去るには、『正義の味方』になることが一番の近道だと、貴女方は考えた……」

 

 部長となったななかを利用して、各チームに武闘派魔法少女を入職させる。

 どうせなら、海龍ら首脳陣が市役所に直接働きかけて、治安維持部全職員総入れ替えもやりかねないだろう。

 つまり、目的は……

 

「“英雄”の後を継ぐのは、“貴女がたの息のかかった中国武術家”……それが、お望みですね?」

 

『そうだ。【中国武術こそが“最強”であり、“人類の盾”となるべき】。その証明こそが、我が社の【生き残り大作戦】だった訳だ。……まあ、君の方が生き残ってしまったから、目論見は潰えたがね』

 

「果たして、本当にそれが狙いだったのでしょうか?」

 

『? どういう意味かな』

 

「気になるところがありまして」

 

 深月フェリシアは、七海やちよを殺害しようとした。

 それは紛れも無い事実だ。

 しかし、やちよが気になったのは、彼女に協力していた同業者のジェイソンマスクのこと……。

 

【知ってるけど……教えるのはやめとく。ありゃオレですら理解できねー正真正銘のバケモノだからなぁ】

 

 先の取り調べで、フェリシアがそう言ってた事を思い出す。

 あからさまに、怯えたような感情が伺えた。

 つまり、あのジェイソンマスクの実力は、深月フェリシアよりずっと上の筈だ。

 

「単純に私を殺すだけなら、彼女の方を嗾ければ済む話でした」

 

 先の戦いにおいて。

 加賀見まさらの透明魔法が一切通用しなかったという。

 それだけでも、歴戦な強者だと分かる。

 だからこそ、不可解な点が多かった。

 

 まさら、いろは、ピーターの命を握っていながら、殺さなかった。

 ジェイソンマスクなら、全員抹殺後、やちよも殺してフェリシアを奪還することも可能だった筈……なのに、そうしなかった。

 

 そして、次に不可解だったのは、去り際のセリフ。

 

「『報酬分は働いた』、と彼女は言ったそうです。つまり、彼女の仕事に最初から、()()()含まれていなかった」

 

 つまり、足止め役だったのだ。

 七海やちよと深月フェリシアの戦いに、横やりを入れさせない為の。

 

「貴女も、ななかも、フェリシアとなら私と“良い勝負”になると踏んだ」

 

 二人とも、最初から『七海やちよの死』は望んでいなかった。

 深月フェリシアと正面衝突させることに意味があった。

 そこに垣間見るのは、武術家としての、海龍の真意。

 

「私の実力を確かめたかった……それが、本心ではありませんか?」

 

 傭兵。

 それも百戦錬磨の『稼ぎ頭(メカニック)』をぶつければ――英雄と呼ばれし者の正体が暴けるのではないか。

 神輿に祀り挙げられただけの“少女”か。

 或るいは、海龍ら“龍”に匹敵する“魔物”か。

 

 海龍もななかも、後者の可能性に懸けた。

 そして、目論見は成功。

 英雄は、“龍”と同じ土俵に立つ資格がある。

 

「ななかにしても、私が勝てば、貴女方の牽制に繋がると判断したのでしょう」

 

『その通りだ。同朋を思いやってのことだ。大目に見てやってほしい』

 

 治安維持部乗っ取りを画策する“龍”。

 対抗するには、同等の実力を持つ“魔物”をぶつけるしかない。

 それがななかの本当の狙いで、やちよはまんまと思惑に乗せられた訳だ。

 

「由比鶴乃の下へななかを嗾けたのも、貴女ですね?」

 

『あれは良い原石だ。落ちぶれた中華料理店で持て余したままにしとくのは、もったいないと思ってね』

 

「あの子はそれを望まない」

 

『そうか、それはとても残念だ……仕方ないな』

 

 海龍は、深く溜息をついた。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……以上ですか?」

 

<ああ>

 

 海龍の返事は実に軽やかだ。

 人殺しを計画していたとは思えない。

 まるで、恐れを知らない子供のようだ。

 

「あの黒い蠅も、貴女達が……」

 

<誤解しないで欲しいが、アレは我らとは無関係だ。だが紅羽根……と言ったかな? そいつが凄腕の傭兵を探していると耳にしてね……。アステリオスの噂を流したら、まんまと引っかかってくれた訳だ>

 

 どうやら、あのきなくさい連中は、“裏”にはてんでド素人らしいな――と海龍は愉快そうに言う。

 

「正気で仰っているのですか? この件が明るみに出れば」

 

<それは君だって同じだろう? アステリオスを正職員に迎え入れた君もね>

 

 やちよは目を細めた。彼女はどこまで掴んでいる?

 

<お互いに、絶対外に漏れてはいけない秘密を知った。これで君と私の関係はイーブンだ。これからは共に気を置かない仲を築こうじゃないか>

 

 イーブン、と聞いて思わず鼻で笑いそうになった。

 経験も実力も組織力もあちらの方が遥かに上だ。生殺与奪の権限を握られているに等しい。

 しかし――――

 

 

「受けて立ちましょう」

 

 

 臨むところだ。

 神浜の中央に立つ蒼き英雄は、大東の蒼海を支配する蒼き龍王に堂々と宣言する。

 

<その粋を良しとする。では七海やちよ。アステリオスを見事迎え討った功績を称え――――君を我が竜誕館に招待したい>

 

 祝杯だ――――

 最後に付け加えたその言葉を“挑戦状”と捉えたやちよは、迷わず首を縦に振る。

 

「ありがとうございます」

 

<日にちは来週、18日の土曜、工匠会祭第二幕と同じだ。時間は9:00。同伴者は何人でも構わない。友達でも同僚でも好きなだけ連れてくるといい。……以上だが、何か質問はあるかな?>

 

「そうですね……………………では、一つだけ」

 

 やちよは嘆息し、暫し間を置いた後――――

 

 

「王 海龍宗師…………貴女も、()()()ですね?」

 

 

 絶対零度の瞳を虚空に向けて、そう問いかけた。

 

<……なに?>

 

 通話口の向こうの女は、初めて驚きを顕わにした。

 

「貴女程の者が、深月フェリシアを動かした()()()()にお気づきで無いとは……」

 

 それは、蠅共でも、ななかと海龍でも無い――――七海やちよしか知り得ぬ、誰か。

 冷然とそう呟いた後、口の端を吊り上げて、嗤う。

 直後、通話口の向こうから快笑一閃。

 

<……面白い! 会える日を楽しみにしているよ、七海やちよ>

 

 女の声色は、ようやく対等の相手を得た、という歓喜に打ち震えているように聞こえた。

 

 ――――通話が切れる。

 

 部長室のガラス窓が、一斉に揺れた。

 氷の瞳を蒼く瞬せて、猟奇的な笑みを浮かべるやちよの全身から、凄まじい気迫が満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎おまけ・今回のまとめ

 

・蒼海幇の魔法少女はみんな、中国武術学んでるよ。だから超強いよ!

 

・深月フェリシアを送り込んだのは

 常盤ななかと(ワン) 海龍(ハイロン)の共謀だったよ!

 マギウスの翼は利用されちゃったんだね!

 

・七海やちよがフェリシアに勝てば、蒼海幇の牽制になるかもしれないよ。

 でも、負けたら、ななかちゃん部長に祀り上げて、治安維持部乗っ取られるよ!

 

・実はフェリシアちゃん動かしたのは、マギウスの翼でもななかでも蒼海幇でも無いよ!

 部長しか知らない誰かだよ!

 

 

 

 

 





※2023/12/15 読み返したらごちゃごちゃしていたので、整理いたしました。
 実は執筆初期は、ななかさんと海龍のキャラが一緒になってたんですよね……そのせいで、色々無茶が多い展開に……

 王 海龍(ワン=ハイロン)→
【挿絵表示】


 ソウカイヘイも株式会社にするかNPO法人かで悩みましたが、色々考えたり調べた末、前者にしました。

 さて、次回、新展開。
 ということで、いろはと鶴乃にはある地区に行ってもらいます。
 もうお分かりですね……?

 やちよにも、新たな挑戦が始まります。
 彼女は次の戦いで、より高みに昇ります。


 次回より、蒼海幇も本格参戦となります。
 そして、やちよさんの新たな挑戦が始まります。魔法少女ストーリー・開幕です。

 大東区に向かう彼女達が見て、得るものは……?
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