魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
2023/12/18 文章を全面的に書き直しています。
※まず初めに――――
今回の章は、
原作『マギアレコード -魔法少女まどか☆マギカ外伝―』の
メインストーリー第二部『集結の百禍編』にしか登場しておらず、まだ実装もされていない、あるキャラクターが登場します。
よって、今後原作にて実装された時に公開されるであろう「魔法少女ストーリー」やイベントストーリー等で描写される諸々の性格とは、著しい相違が発生すると思われますが、何卒、ご容赦頂ければ幸いです。
☆
晴れて環いろは、由比鶴乃、深月フェリシアの三名は、試験に合格した。
合格通知が渡された次の日から、晴れて治安維持部の一員……つまり公務員である。
しかし、臨時職員として務める鶴乃はともかく、正職員であるいろはには学校がある。辞めなければならないのか、と心配になるのは当然だし、自分と同い年ぐらいの正職員はどうしているのか、疑問だった。
これには、やちよ曰く、治安維持部に入職した場合、学業が途中であっても、出席が不可能であっても、全て“公欠”扱いとして免除されるそうだ。
よって学校には最後まで在学扱いになるし、三月末にはちゃんと卒業証書も送られてくる。
ちなみに神浜市のみならず、地方の魔導管理局・魔導事務局の職員も、同様の処遇が受けられる。
無論、これは“魔法少女は基本的に短命”“10年も生き延びれば奇跡”と謂われる現状があるからこその、国からの救済処置なのだが……
しかし、いろはは神浜大学附属学校中等部に転校してまだ日が浅い。
それなりに仲良くなった友人も増えたので、名残惜しい。
そこでやちよは、いろはの気持ちの整理がつくまでは、土日祝日を“研修日”として設けることを提案した。
そして――――
明京町・工匠区――――
研修日・初日。
いろはと鶴乃はこの町に訪れていた。あの人物が運転する、車に乗せられて。
「今日は送り迎えありがとうね」
「良いってことよっ!」
助手席に座る鶴乃が礼を述べると、運転席に座るいかにも活気あふれる人物はグッとサムズアップ。
後部座席に座るいろはは、二人の会話をBGMに窓の外を眺めていた。
目に映るのは、看板が剥がれかかっており、建物のコンクリートが煤やけた色の小さな工場や、如何にも大手の企業が建てたと思われる、広大な駐車場が設けらた新規の巨大工場まで様々だ。
前者に至っては、自分が生まれる遥か前――人々が着物を着て生活してた頃から有ったんじゃないかと感じるものもある。
工匠区は、その名が示す通り、神浜市の中でも屈指の工業地区であり、世界で活躍する名工を輩出したことでも有名だ。特に金属製品の精度に関しては、日本でも毎年ベスト3に入る程の強度を示し、前市長時代に有った不況の時代でも、工匠区の工業だけは仕事が絶えず活気に溢れていた。
しかし、過去に問題が無かった訳でも無く。
職人が多く集う故の宿命と言うべきか、地元の名士――特に工業組合や町議会――は、厳格で融通の利かない老人が多くのさばり……『男尊女卑』という誤った伝統が長く引き継がれていた。
無論、現在では“女性である”青佐が市長になったこと。
魔法少女の世界公表以後、フェミニスト団体による女性尊重の声が大きくなったこともあり、“誤った伝統”は風化し、女性技術者や女性経営者も多く生まれている。
――――やちよさんは、この町で私達に何をさせるつもりなんだろう。
――――今日はここで大きな祭りがあるから、その手伝いかな?
でも、やちよさんは、研修先の「講師」に任せてあるって言ってたけど……。
「鶴の字。前はガラにもねえ小癪な真似してワルかったな」
「いいよいいよ。わたしも怒鳴っちゃったの悪かったな~、って思ってたぐらいだしさ」
「ハッ、ウチの女王はあんぐれぇで堪えるタマじゃねえやい。『人生の先輩からの教俊として有難く受け止めるべきでしょう』なんつってピンピンケロリしてらあッ! ところで
「あっはい!」
物思いに耽っている最中にいきなり声を掛けられて、肩がビクンと飛び跳ねる。
「おめえさん、さっきから悩んでるみてぇだが……もしかして、ウチの女王様の事か?」
バックミラーに映る運転手の目が、伺う様に細められていた。いろはは息を飲む。
「あ、それは、その~……」
あからさまに泳ぐ瞳が運転手に肯定と教えていた。
以前、神浜市国立図書館にて、阿峡 慎に言われたことを、いろはは思い出していた。
――――迂闊に足を踏み入れない方が良い。あそこは常盤ななかのお膝元だからね。
――――町内は『犯罪撲滅』の声で騒がしくってね。君みたいに市外から訪れた魔法少女は警戒される恐れがある。最悪、魔法少女の監視を付けられるかもしれないな。
「まぁ、
「……」
自分の不安を察したのか、運転手はそう言ってくれたが――素直に「はい」と答えられなかった。
それは昨日、阿峡 慎から久しぶりに送られてきたLINEのメッセージが原因だ。
内容は、二つ。
まず、“夢で良く聞く詩”について。
夏目かこも、小さい頃に父の書斎で読んだことがあるらしい。
しかし、今は内容を覚えておらず、その詩が記載された書物に関しても、日々一生懸命探しているのだが、見つからないそうだ。
二つ目は、ななかの説得。
これについても、やはりかこの口だけでは警戒を解くに至らなかった。
……当たり前である。何せ、いろはは、神浜市に足を運んで間もなく七海やちよに“勝って”しまったのだから。
その後も、歩む先で旋風を巻き起こしてきた。才能も実績も無い只の魔法少女が、である。
寧ろ、受け入れる方がおかしい……。
「ところで、一つ質問してもいいですか?」
これ以上考えても仕方が無い。
常盤ななかのことは、一先ず置いておくとして、いろはは話題を切り替えた。
「なんでぃ?」
「おけらさんって、何歳なんですか……?」
――――それは、いろはが運転手と会った時から、一番疑問に感じていた所だった。
運転手の名は、『八坂おけら』と言う。
その人物の容姿を、
真っ白なツインテールは陽を浴びて雪のように輝いてるし、顔付きも幼さを強く残した、小さな丸顔。来ている服は花柄が可愛らしい桃色のワンピース。
身長もいろはより頭一つは小さく、身体付きは未だに成長期を迎えていないんじゃないかと思えるぐらい幼い。胸やお尻もぺったんこのツルツルだ。逐一張り上げる声も、幼児の鳴き声みたくキンキンと甲高い。
……とまあ、このようにどう見ても可愛らしいお人形さんにしか見えない子供が、豪快な江戸っ子口調を巧みに多弁し、車まで運転しているのだ。
色々ごちゃごちゃ混ざり過ぎて、見てるだけで頭が混乱する。
「おっ、美玉から聞いてねーのかい。聞いて驚け見て笑え! 八坂のおけらさんこう見えてもうアラs」
「おけらさん、駐車場あそこじゃない?」
「おっといけねえ」
得意気に鼻を鳴らして答えようとした矢先に、鶴乃の言葉で我に返る。
咄嗟にハンドルを急旋回! 車が180度急旋回!!
「「あわわわわわ!!」」
豪快なドライビングテクニックに、いろはと鶴乃の上体は勢い良く横に倒れた。
おけらは二人に目もくれず、会場に一番近い場所で車を停めたのだった。
☆
――――工匠公民館前
ここでもカミハマンショーが行われるのだろうか。
祭りの会場となる駅前商店街の中心部に当たるそこには、イベントのメインステージである巨大な催事用テントが設置されていた。
その付近にある、屋外本部用の白テントの下で、祭りの準備に奔走する若い男衆にテキパキと指示をこなす一組の女性達が居た。
確か、『チーム・アメノハバキリ』メンバーの志伸あきらと、純 美雨だったか。
志伸あきらは如何にも武道をやっていそうな、肩幅と胸板の厚い体躯で、身長も鶴乃より高く、グレーのベリーショートカットヘアが外見的な特徴だ。
純 美雨の方は、両サイドの御団子ヘアーと、先の独特の声色で、如何にも中国か台湾人と言った感じだった。
隣立つ美少年と比べると、背丈は低く細身だが、氷のような眼光と発せられる雰囲気は、明らかに只者では無い。かなりの熟練者だと、いろはと鶴乃は直感で理解した。
「よう、お疲れさんっ!!」
おけらがあいさつすると、二人は並んで会釈する。
「お疲れ様です……ん? そっちの子は……環 いろはさんと、由比鶴乃さん、でしたよね! 初めまして! 僕、志伸あきらと申します!」
あきらはいろはの前に歩み寄ると笑顔で挨拶。
快活なハスキーボイスや、気強そうな顔付きも相俟って、少女というより美少年にしか見えない。
「初めまして。環 いろはです」
「わあ……っ! あの七海部長に勝った魔法少女と一緒に働けるなんて感激だなあ……っ! どうか、これからもよろしくお願いしますっ!」
そう言って目をキラキラと輝かせながら、熱い握手を交わしてくるあきら。
中身はちゃんと女の子なんだなあ、と感じつつも、いろはは(やっぱりその話題からくるか~……!)と苦笑い。
一方、
「初めまして。純 美雨さんだったよね……」
「そう、あきらと同じ、“チームアメノハバキリ”のメンバーヨ。そして“蒼海幇”のメンバーネ」
その名を聞いて、鶴乃は背中が少し冷えた気がした。
そう、それは祖父が生きていた頃、地元の名士達の間でも有名だったヤクザ組織だ。
聞いた所では、構成員は全て“家族”となり、自衛の為ならどんな汚れ仕事にも手を染める集団だと。
その影響力は強く、以前、常盤ななかは、その力を背景に、参京商店街を窮地から救えると自分に豪語してきた。
――鶴乃にとっては、良い印象を抱けない。
「……っ」
ちなみに、蒼海幇はとっくに株式会社として生まれ変わっているのだが、昔のイメージから、鶴乃のような印象を抱く者も、少なくない。
チームは違えど、これから会う機会が増えるかもしれない。
仲良くしなければ、とは思うのだが、先入観は行動を抑制する。
鶴乃の右手は“ヤクザ”の手を取るのを自然と拒んでいた。握手を求めてくれない。
「…………」
どうしようか――――鶴乃が悩んでいると、美雨が意外な行動をとる。
「すまなかっタ」
上体を90℃。丁寧にお辞儀して、謝ってきた。
鶴乃が呆気に取られるのは言うまでも無く、
「えっ?」
「ウチのリーダーが迷惑を掛けタ。悪気は無かたし、ああ言わなければならない理由も有っタ。どうか、常盤ななかと、蒼海幇を許してほしい」
頭を下げたまま、美雨は真摯に謝罪を口にする。鶴乃は慌てて手を振った。
「いいっていいって! こっちも怒鳴っちゃったの悪かったって思ったし……これから同じ治安維持部なんだし、仲良くしよ、ね!」
そう言うと、美雨は頭を上げた。口元が僅かに緩んでいる。
「アリガトウ。そう言てくれると、救われるヨ。後生だけど……蒼海幇はヤクザじゃない。人々の暮らしに、地域社会に貢献する“企業”だということを、どうか、理解して欲しい」
うん、と鶴乃は迷わず頷いた。
「わかったよ。美雨さんみたいに真面目な人がいるんだもん。考え直してみるよ」
ホッと一息つく美雨。
「嬉しい。由比鶴乃、サン。どうか、よろしく頼みます」
「よろしくね!」
美雨が右手を差し出すと、鶴乃もそれを強く握り返して握手した。
一方――
「へー! いろはちゃん、武道経験無いんだ?」
「あ、はい。勝ったのはサポートもありましたし、やぶれかぶれの作戦が功を成したっていうか……」
いろはとあきらは話を弾ませていた。
苦笑いしつつ答えると、あきらは笑顔で感心する。
「でも、勝てたのは凄いよ! 僕も一度七海部長と組手したことはあるけど……」
志伸あきらは、実家が空手道場を経営しており、幼少期から祖父や父親にしごかれてきた。
小学校高学年の頃には、既に黒帯を腰に巻き、全国大会を制覇した経験もある。
力も技術も、絶対の自信が有った。
「どうだったんですか?」
「『手加減はいらない。本気でかかってきなさい』っていうから、じゃあ遠慮なくって飛び掛かっていったんだけど……気が付いたら天井が見えててさ。肩の関節が外されてた」
「えっ」
いろは、ビックリ仰天。
「で、調べてみたら、部長はおばあさんが古武術をやってて、魔法少女になるまでは合気道の大会を何度も制覇したことがあるんだって。塩田剛三の生まれ変わりって呼ばれたとか……そりゃ、敵う筈無いよね」
絶対に越えられない壁を目の当たりにしたが故の、諦観か。
右肩を摩りながら、情けない顔で笑うあきらの話を聞いてて、やっぱりやちよさんは凄いなぁ、と感心するいろは。
塩田剛三はよく知らないが、黒帯レベルの空手家を一瞬で戦闘不能にしてしまうとは恐れ入る。
神浜市最強の魔法少女の名は、やはり伊達では無い。
――といろはが感心していると――――
「そこにいたか、美雨!!」
後ろから、凛とした力強い声が聞こえてきた。後ろを振り向くと、燃えるような赤い頭髪の女性が、大股で近づいてきている。
――――まだまだ、賑やかになりそうだ。
※2023/12/18 改稿の際、ひめなとかはるんの出番は削除しました。
ごめん二人とも。
いろマギ第一部、最終章、開幕となります。
ギャグとバトルメインになるかと。
そして、この章でメインを張る、調整員・八坂おけらのイメージです。
【挿絵表示】
11月はメンタル死亡時期にあたるので、また更新が遅れるかもしれませんが……次回はプロットの方は完成してるのでもっと早く、書き上げられるかと……。