魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
――――2018/07/18(土) PM19:30
――――神浜市・明京町・大東区
――――工匠大祭会場・広場
「それでは次鋒、前へ!」
一試合目が終了し、熱気冷めやらぬまま早くも第二試合が開始されようとしていた。
審判の
まず、西側から現れたのは、白髪を両サイド御団子に纏めた、小柄の少女――小 心蝶(シャン=シンディエ)である。
年齢は13歳。赤竜隊のメンバーの中では一番の若手であり、性格も読書好きの大人しい性格である。
武術の腕前も美雨から見れば、まだまだ未熟――それでも普通の魔法少女や魔女相手なら十分通用する技量であるが――。
対して相手は……。
「よろしくお願いします」
東側に現れた黒髪黒衣の魔法少女――
刹那、地響きに匹敵する轟音。
「な、何なにっ今の音っ!? ドゴンッて聞こえたんだけど!? 地震ッ!?」
一方、『お組』一同が集う観客席では、鶴乃がビックリ仰天と目を丸くして慌てふためいていた。
彼女が咄嗟に周りを見渡すと、他の観客達も何事かと騒めいている。
「いや……多分、あの繚蘭さんって人からだと思う……」
「わかったのいろはちゃん!?」
鶴乃がギョッと問いかけると、いろははうん、と頷く。
「多分、さっきの緋華さんより、ずっと強いかも……。?? ……どうしたんですか、志伸さん?」
ふと、隣を見るとあきらが渋い顔で俯いてた。
「……うん。繚蘭百花……。あの人、知ってるよ」
「そうなんですか?」
「うん。小さい頃、全国大会を観戦しに行った時なんだけど……中学生の部にとんでもなく強い人がいてね」
確か、その時の彼女は、まだ一年生だったか。
迫りくる大柄の選手を瓦を割るように正拳で叩き伏せていく様は、見てて爽快感が有った。
「あの時以来、公には姿を見なかったけど……まさか魔法少女になっていたなんて……」
あきらは目を細めて百花を見据えた。
県外の情報は意識しないと中々、耳には入ってこない。
☆
「い、いざ……」
一方、擂台の上では、
先の迫力を目の当たりにしたせいか、表情にはかなりの不安と緊張が浮かんでいる。
(どうしよう……この人、絶対あたしより強い……)
だが、魔法少女たるもの、四六時中が戦中。
自分より強い者、相性の悪い者と遭遇する事態など日常茶飯事だ。常に冷静に相手の動きを見極め、隙を見つけ、弱点を突き、怯んだ所を徹底的に叩く――――そうして勝たなければ生き残れない。ましてや尊敬する姉弟子――
(なら……)
相手の実力は自分よりも格段に上。隙はまず見せない。
だったら、敢えて攻撃を誘って、隙を作らせるまで。
(――――)
姉弟子からはまだ若輩者と言われる身だが、生半可な経験は積んでないつもりだ。魔法少女の衣装、相手の構え方、体中の筋肉、拳の位置、目の動き、呼吸の仕方――――五感を使って、これらをよく観察すれば、相手がどんな人物かは大体予測できる。
恐らく、両蘭百花は、空手一筋の典型的なインファイタータイプだ。
飛び道具の類は使えないと見て良いだろう。
危惧すべきは固有魔法だが――――これも、
真面目一徹な武道家タイプは、『試合における反則行為』を本能的に避ける傾向がある。
幻覚、洗脳、認識障害の類を使う事はまず無いと考えて良い。
(――――よし!)
自分が勝つまでの行程をイメージできた。
まず、フェイントでハイキックを誘う。
次に、開いた股に向けて、靠(体当たり)で突撃。
転んだところへ、チェーンパンチで一気に仕留める!
相手の実力はかなり高い。
故に、即効で勝負を仕掛けた方が得策だと判断した。
「はじめ!」
美雨から試合開始の合図。
一方、百花も空手の構えを取った。
「…………」
「…………」
お互いそのままじっと睨み合う。
「…………――――!!」
先に動いたのは百花の方だ。
床を強く蹴り出した豪快な一歩で、
刹那、豪風が顔面を叩きつける。それが百花のハイキックによって瞬間的に発生したものだと察した
(掛かった!)
打撃格闘競技において、上段蹴りは大きな加点となるだけでなく、当たり方によっては一撃KOを狙える――――空手家の百花にはその考えが染み付いている筈だ。
隙あらばハイキックを打ってくるだろうと読んでいた。
回避に成功した
「……」
だが――――百花は冷静だった。
ハイキック中の右足の膝が、くんと折れ曲がり、
「っ!?」
まるで『鎌』の様に、
しまった――――フェイントを仕掛けられたのは
己の油断を呪うも、相手の術中に嵌ってしまった以上、もう遅い。
心蝶の身体が床に叩き伏せられた。瞬時に百花が左足も首に巻き付ける。
(首四の字固めっ!?)
胡坐を掻いた両足で心蝶の細い首をミシミシと締めながら、百花は背に乗って抑え込んだ。
このまま窒息を狙うか――――いや、そうじゃない!!
僅かに視線を上げると、微かに視界が捉えたモノに、心蝶はぞっとなる。
百花が右肘を高く掲げていた。
(拙い……!)
拳を叩き合わせただけであの轟音だ。肘打ちはもっと威力が有るに違いない。
何か手を打たなくては。
手を――――
「っ!」
考える間も無かった。
拳よりも強固な百花の肘が、心蝶の頭上目掛けて振り下ろされる。
――――刹那、金切り音の様な悲鳴。
☆
「な、なんだと……」
竜ケ崎チームが座す観客席で、樹里が唖然とその光景を見つめていた。
「百姉さん……?!」
「マジで……?!」
「…………!」
高菜舞桜、宮根 灼、竜宮綾濃も、百花の勝利を信じて疑わなかった。
故に、衝撃は計り知れない。
擂台の上で、喚きながら転げまわったのは――――
☆
「……スミマセン。打たせていただきました」
百花が顔を上げると、詠春拳の構えのまま自分を見下ろす心蝶がいた。
右足に電流が走り、のたうち回る程の激痛――――そして。
「…………」
百花は左足で床を踏ん張って、どうにか立ち上がる。
右足の感覚は無くなっていた。
原因は分かっている。百花が
「詠春拳に、『ツボ押し』は無かった筈だが……」
「独自に改良を加えました。私の使う『蒼碧拳』には有るんです」
「そうか」
百花の魔法少女衣装――その右腕に巻き付いている黒い包帯が、しゅるしゅると伸びた。
「……?」
「君の固有魔法、分かった気がする」
心蝶が怪訝に眺めていると、包帯は動かなくなった右下肢に巻き付いていく。
「私の血の流れが、見えるんだろう?」
全体を隙間無く覆う様に。
「どこを止めれば、身体のどこが動かなくなるって、分かるんだろ?」
やがて、爪先まで完全に巻き終わると、百花がフッと笑った。
次の瞬間――心蝶は目を見開いた。
秘孔を打ち、機能不全となった筈の百花の右足が――――動き始める。
「なるほど、それが貴女の固有魔法ですカ」
包帯で負傷した体の部位をリカバリーできる――――
腿を上げて、爪先をクイクイと動かしながら百花が頷いた。
「昔、山岳救助隊にボランティアで参加していた時だ。遭難者を助けた拍子に、崖から落ちた」
“何事も無かったかのように”屈伸運動をしながら、百花が続ける。
「全身の骨が砕けてちっとも動けなかった。誰も助けに来なかった。ああ、このまま死ぬんだって思った時に、キュゥべえが現れた」
「願いの結果が、これさ」
「葛藤は、無かったんですカ」
「“普通の人間”として空手に打ち込み、勝ち続けかった。けど、仕方なかった」
百花が再び空手の構えを取ると――――
刹那、叩きつけるような突風と同時に百花の正拳突きが
近距離まで飛び込まれた! 回避が不可能と見た
「ぐぅっ……!」
まるで寺の鐘を強く叩いたような轟音が体の内で反響した。
同時に、右上肢に衝撃・電流・激痛が一斉に駆け走り、
百花が更に
「っ!」
顔を横に逸らし寸手で回避に成功した。
拳がこめかみスレスレを横切った時、
――――なんて速度と風圧だ。まるで新幹線が目の前を横切ったような……。
直撃したら一溜りも無い。だが、対処しようにも考える間が無い。
右拳が回避されたと見るや、すぐさま左拳で顔面を狙う百花。
これは読めた。
そして、
(貰った!)
相手の得意な接近戦に持ち込まれて、読みが当たったのは僥倖だった。
「っ!?」
百花の背中がガクッと下がり、冷徹な顔が一瞬で焦りに染まった。
大抵の人間は、肘を決められると体の自由も奪われてしまう。
合気道の『肘固め』が良い例だ。
硬直状態となった百花の顔面に向かって、
中指が伸びていた。
(狙いは頬!)
秘孔を付き、顎を外す。
無論、即座にリカバリーされるだろうが、大きな隙は作れる。
だが、
「やらせん!!」
裂帛の気合と同時に百花が額を突き出してきた!!
中指が追突! めき、べきり、と嫌な音が響く。
「~~~~ッッ!!」
骨が粉砕!
悲鳴すら挙げられない程の激痛に、
「っ!」
だが、舌を噛んで強引に意識を現実に戻すと、中指が折れた左手で百花の肩を掴んだ。
左上肢の肘と肩を決めたまま、両膝を落として屈む。
百花の身体が、その動きに釣られてうつ伏せに倒れ込む。
「
『肘固め』が決まった状態で
左腕を抱え込んだまま、背中の上を横転した。
今度は百花の顔が激痛に歪む。
垂直に伸ばされたままの左上肢に、真横から全体重を掛けて圧し潰された。加えてあらぬ方向へ引っ張られたせいで肘と肩が粉砕した。
「まだまだ……」
「させるかっ!」
激痛に這い蹲りながらも、百花はすぐに包帯を左腕に巻き付けリカバリーしようとする。
完治する前に、心蝶は『チェーンパンチ』で追撃した。
機関銃の連射音が会場に響く。拳の散弾が百花の背中に降り注いだ。これで
「っ!?」
――と考えるのは浅慮だった。
攻撃を浴びながらも百花はごろりと転がり仰向けの姿勢になった。左腕の包帯は――完全に巻き付いている!
拙い。
嫌な予感がした。
しかし――――
「っ!!」
拳が空を切り、
まるでプロボクサーのフットワークの様に、百花の上半身が横に逸れた。
百花が
ドゴンッ――――という爆音が響く。
「ぐはっ!!」
クリーンヒット!!
新幹線の如き速度と圧力を伴った突きが、
まるで、数十キロの重りを垂直に落としたようだ。その重みに胃が圧し潰された。
そのまま、身体は場外に投げ出され――――
「っ……!!」
朦朧とする意識の中で、自分が落下寸前という事態はかろうじて認識できた。
「……」
「あっ……!」
一息付く間も無かった。
舞台に上がる事を相手が許してくれる筈も無く。
見上げると、既に繚蘭百花が自分の指の先で突っ立っていた。
ぶらさがった状態の
「終わりだ」
「……それはどうかな?」
百花の最後通牒。だが、心蝶は不敵に笑う。
まさか――――と、百花が目を見開いた瞬間――
「っ!?」
――百花の左膝がガクリと折れた。
今だ!
心蝶はグッと右腕を伸ばすと、その膝裏に向けて手刀を払う!
「私に連打を許したのが、仇となりましたねえ!!」
チェーンパンチの際、
既に全身の筋肉への血流を封じていたのだ。
万が一、反撃された場合を見越して。
相手の油断をさそうべく、時間差で効くように。
「っ」
決死の抵抗が功を為した。
百花の腰が宙に浮いた。
彼女が立つ場所は擂台の最端、そこでバランスを崩したらどうなるか――――聞くまでも無い。
滑り落ちるだけだ。
(よし、これで!)
落下する百花の体が、視界の端を横切った。
あとは、自分が再び上に登れば、勝利が確定――――
「馬鹿め」
――――だが、そんな
審判の美雨が、ポツリと、そう呟く。
「えっ?」
何が起きたのか――
背中に硬いものが当たって、我に返った。
「……あっ!」
それが地面だと気が付いた時、
自分の勝利は確定した筈――――だけど、今のは一体……?
刹那、自身の視界に映った光景に、
自分より先に落下した筈の繚蘭百花が、擂台に立っていたからだ。
しかし、
「ええ……?」
思わず、そんなの有り?――――と、ぼやきそうになった。
百花は四肢の包帯を伸ばし、自分ごと擂台全体に巻き付けて『固定』していたのだ。
その姿はまるで……
「ス、ス〇イダー〇ン……」
呻くようにそう呟いた後、
瞬間――――全身の力がどっと抜けて、意識が飛んだ。
ガクリと首が横たわる。
審判の美雨がそこで、手を挙げて声を張り上げた。
「
――――瞬間、観客席から盛大な拍手と歓声が送られた。
百花は擂台の
☆
――――一方、チーム竜ケ崎が集う観客席では。
「流石百姉! お見事でしたねえ~!」
宮根 灼が歓喜と同時に拍手を送るが、隣に座る樹里は浮かない顔だ。
「どうしました? 竜親分?」
「いや、恐れいったぜ……。まさかあの百花が苦戦を強いられちまうとは」
しかも、あんな鼻くそみたいなガキンチョに――――と、樹里は両目をグルグル回したまま担架に運ばれていく
「うーむ、やっぱり油断ならないですねえ……」
「ああ、だが次こそ楽勝だ……」
樹里はニヒッと笑って、後ろを見る。
自分と同じく黒髪黒衣の魔法少女――――
「舞桜。やってくれるな?」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
先方の仙香、次鋒の百花とは比べ物にならない程、小柄でかわいらしい少女だった。
一見、とても中堅を任せられるレベルとは思えない。
しかも、こういう場所は初めてなのか、先ほどからずっと緊張で肩を竦めていた。
「だいじょーぶだ。いつも通りやれば、な!」
「それは、分かってますけどぉ~……うう、ちょっとトイレ行ってきます~~!!」
樹里がポンと肩を叩くが、舞桜は両目を><の形にして、ぴゅーっと逃げる様に走り去ってしまった。
「……くそ。いっちまった」
「ほんとーにだいじょーぶなんですかねえー??」
「だいじょーぶさ。樹里サマが保証する!」
「はあぁ~。もうどーなっても知りませんよぉ……?」
大方、この親分は目先の勝利に囚われて、それ以外の事は碌に視野に入れてないのだろう。
盛大に溜息を吐きながらも、灼は、高菜舞桜が地元で付けられた『異名』を思い返していた。
「
不意に舞桜の“アレ”を思い出してしまい、灼の肩がぞくりと震えた。
……先日、ダンベルを誤って蹴っ飛ばしてしまい、左足の指に亀裂が入りました。
モチベーションが低下してテンションだだ下がりの為、投稿がいつもより遅れました。
次回は、もう少し早く執筆できるように致します。
それでは、よろしくお願いします。