魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
八坂おけらと蒼海幇から受けた雪辱を晴らすべく……
工匠大祭の日に試合を申し込んできた、大庭樹里とチーム竜ケ崎のメンバー……
しかし、蒼海幇の中国武術の実力は、並大抵では無く……
先方の緋華仙華は、軽く捻られ……
期待して送り込んだ次鋒の繚蘭百花も、重傷を負いながらも場外寸前で勝利、という有様だった……
――――2018/07/18(土) PM19:50
――――神浜市・明京町・工匠区
――――工匠大祭会場・広場
「え~~~っと、次の崙 明零(ロン=ミンリン)なんですがぁ……」
チーム竜ケ崎のメンバーが集う観客席では、副将役の宮根 灼が、監督役の『竜親分』こと大庭樹里に、資料を片手に説明していた。
実は彼女らなりに、蒼海幇のエージェントの事は事前に調べておいたのだが……これまでの戦績を顧みると、活かされたとは言い難い……。
「対戦相手の中では最年少ですね」
「いくつだ?」
「10歳です」
「ははっ、何ださっきの奴よりガキじゃねえか」
舞桜をあてがうまでも無かったか、と樹里は陽気に笑うが、灼はムッと眉間に皺を寄せた。
「……余裕ぶっこいてんのも今の内っすよ? なんせこいつは10年に一人の“天才”と言われてるんですから」
“天才”――――と聞いて、樹里の表情が固まる。
「審判の
「なんだと……ッ!!」
「…………っっ!!」
そんなに凄い奴なのか、と愕然となる樹里の隣で。
その“天才”と戦う予定の黒髪黒衣の魔法少女・
彼女の印象は、端的に例えるなら“子兎”そのものだ。
身長175cmの仙華、武道家として鋼の肉体を持つ百花と比べると、違いは明らかである。
身長148cmというチーム随一の小柄な体躯。武術経験なんて一切無くて、衣装から露出した四肢は、白い棒きれのように華奢でしなやかである。
年齢はまだ15歳、魔法少女歴もまだ半年。人生も魔法少女も、経験が圧倒的に足りてない。
そんな自分が果たして“天才”相手に、勝てるのか――――考えるだけでも、舞桜は不安で仕方なかった。
その顔はすっかり蒼褪めており、見るからに頼りない。
「だがどんな奴が相手だろうと
「~~~~~っっ!?!?!?」
樹里がニヒッと笑ってポンと肩を叩くが、舞桜はもはや声も出せず、泣き顔をプルプルと横に振った。
「……親分、プレッシャー掛けちゃダメですよ」
「と、ととととととと、ととととととと…………」
「ト?」
「またトイレ行ってきま~~~~~~す!!!!」
さっき5分前に行ったばっかりだが……舞桜は再び ぴゅー!っと脱兎の如く駆け出していなくなってしまった。
「試合までには全部だしとけよ~~~~!!」
「あーあ……」
品性の欠片も無い言葉を張り上げる樹里の隣で、灼は、もうどうにでもなれ、とガックリ項垂れた。
☆
――――一方、お組が集う観客席では。
「凄いねっ! 中国拳法って! 感動しちゃった!!」
「あんなもの、真髄の内にも入らないヨ」
中堅戦までには、10分間のトイレ休憩が挟まれ、美雨も一旦、祭りの役員が集う場所まで戻っていた。
鶴乃が興奮冷めやらぬ様子で称賛するも、美雨は首を振った。
「美雨」
――と、そこで、不意に後ろから呼ばれて美雨は振り向く。
居たのは、大将役の洪 梅華(カウ=メイファ)だ。
「
「中堅戦、間近。しかし、
「承知」
美雨は、梅華に軽く会釈すると、鶴乃といろはの方へ振り向いた。
「面白いものが見れる。来るカ?」
その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
「え、いいの!? いろはちゃんも行く?」
「うんっ! 是非っ!」
二人はお互いに顔を見合わせて頷くと、どこかへと向かい始める美雨の後を付いていった。
――――そして、5分後。
三人は、八坂神社の裏側に生い茂る林の中に侵入していた。
祭りの喧噪とは打って変わって、物音一つ無い、墨を塗ったようにどす黒い世界を、ただ直進する。
堂々と先頭を歩く美雨とは対照的に、いろはと鶴乃は、如何にも“何かが出そう”な雰囲気に肩を竦めていた。
暫く歩を進めると――――暗闇が晴れた。
「「!!」」
いろはと鶴乃が、目を見開く。
そこに見えたのは、ライトアップされた小さな公園だった。
その中央に――――何か、人らしき影が見える。
「
「
美雨が声を張り上げると、甲高い声が返ってきた。
美雨と比べると、とても幼い声に聞こえた――――そんな子が中堅??
しかも、こんな人気の無い公園で、何をやっている??
いろはと鶴乃は色々不思議に思いつつも、美雨と共に、その子の下へ歩み寄る。
「げっ」
「なにあれ……??」
崙 明零という少女を目の当たりにした瞬間――――いろはと鶴乃は呆然となった。
予想していた通り大分、幼い子に見えた。
以前、13歳に変身していたフェリシアよりも小柄で華奢だ。外見から推測するに年齢は二けたになったばかりだろうか。
美雨を見るなり、陽の様にパアッと笑う顔はとても愛くるしい。
しかしだ――――
「ウォーミングアップは、済んだか?」
「はいっ!」
「「…………!!?」」
この子もまた蒼海幇のエリートであり、歴戦の武術家なのだと、すぐに理解できた。
片足立ちのまま、両手を広げる――――白鳥の様な姿勢でバランスを取っている明零だが、いろはと鶴乃を驚かせたのは、両手の甲と、頭に乗せている“それ”だろう。
なんと、彼女の顔の三倍はあろうかという“鉄球”が乗っていたのだ。
しかも、
それでも、一切、微動だにせず。
表情も、余裕綽綽。
「
瞬間――――
「ひいっ!!」
いろはの悲鳴!
響くのはドゴンッ!!という墜落音。
彼女の足元に、鉄球が一つ落ちた。相当の重量なのか、地面が陥没して球体の半分が埋まった。
次いで――――
ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!
と、立て続けに残り4つの鉄球が
「…………」
目の前の光景に、いろは、呆然。
更に
再び、5つの鉄球が宙を舞い――――今度は鶴乃の前に鉄球タワーが築かれた。
「んなぁっ!!」
鶴乃、ビックリ仰天。
明零が頭を振り――――あとは記述するまでもない。
美雨の前に“それ”が築かれた。
「「…………!?!?!?」」
同じ魔法少女なのか。
いや、そもそも同じ『人間』の類なのか??
彼女の超人レベルのバランス感覚と、3つの鉄球タワー建立という超絶技巧に、鶴乃といろはは暫し絶句するしかなかった。
そんな、想像を絶する光景を披露した中国衣装の幼女は、何事も無かったように、三人の下までパタパタと駆け寄る。
「あ、初めまして!! 崙 明零(ロン=ミンリン)ですっ! よろしくお願いしまーす!」
輝かしい笑顔でいろはと鶴乃に、丁寧にお辞儀する姿は、年相応の子供そのものだ。
故に、二人の混乱はますます深まった。
「は、ハジメマシテ……」
「こ、これ……一個の重さどんくらいなの……?」
鶴乃がおそるおそる尋ねると、
「
「400!!? ×15だから6t!!?? それをッ!? 軽くッ!??」
「はいっ! 呼吸法と気の鍛錬をしていたんです! 災害級の魔女に押しつぶされた時も安全でいられるようにって、宗師様が」
「明零、もう試合の時間。すぐ行くよ」
美雨は既に、背中を向けて歩き始めていた。
「あ、ごめんなさい
「あ……」
「うん……」
話してみると……確かに同じ人間、同じ魔法少女であることは分かる。
だけど、この子は自分達の様な凡人とは違う。
“特別”なんだろう。
例えば、異世界からチート能力を持って転生してきたナニカだったり……。
いろはと鶴乃は、
※ちなみに、鉄球は蒼海幇の皆さんが、後できちんと片付けました☆
☆
――――試合会場
「皆様、お待たせ致しました。只今より試合を開始します。中堅、前へ!!」
擂台の上で、再び審判に戻った美雨が声を張り上げる。
盛大な拍手と共に、赤竜隊・チーム竜ケ崎両サイドから二人の魔法少女が登場した。
西側からは、蒼海幇きっての“天才”少女・崙 明零(ロン=ミンリン)。
東側からは、チーム竜ケ崎の“秘密兵器”・
お互いに近づき、顔を向き合う。
(うわーうわー!! 小さーい! かわいいー!)
まるで人形のように可愛らしい容姿の明零に、舞桜は少し興奮。
だが――――彼女は“天才”だ。
自分の先輩である仙香を、鮮やかに叩きのめした
(ううう……。またお腹が……!)
さっき出し切ったというのに――――
緊張と恐怖で、舞桜の顔が蒼褪めていく。狼に睨まれた子兎のようにプルプルと震え始めた。
「舞桜―――――!! しっかり繋げろよ―――――!! 先生の雪辱戦はお前にかかってるんだぞー!!」
「だからプレッシャー掛けちゃダメですってば!! ってかその言い方だと副将の私負ける前提ですよねっ!?」
(ううぅぅ~、分かってます、分かってますけどぉ~~~……)
敬愛する親分の気持ちに十分応えてやりたいのだが、緊張に弱いのは生まれつきなのでしょうがない。
プルプル全身を震わせながら、お腹を抱え込む舞桜。見るからに情けない……。
対照的に、
緊張も不安も表情からは一切感じ取れない。
それもその筈――もの心付いた頃から武術に明け暮れてきた彼女は、幼少期から試合に出て、自身を魅せ続けてきた。このような大衆が集う場所は慣れっこである。
「おいおい、あの黒い方の嬢ちゃん、大丈夫か?」
「あっちの小っちゃい女の子の方が強そうだぜ?」
「すぐ終わっちゃうかもね~」
観客から見れば、この時点で既に勝敗は決まっているようなものだ。
しかし――――
(……? この人……)
高菜舞桜の感じられる魔力から推察するに、実力は凡百の魔法少女と変わらない。
――――
(……?)
どうして違和感を覚えたのか、分からない。
とにかく、戦ってる内に分かるかもしれない――と、
「っ…………よしっ!」
対する舞桜も、人の字を手に描いて三度のみ込むと、複数回深呼吸を繰り返して、どうにか落ち着きを取り戻した。
「試合開始!」
「…………」
美雨の合図と同時にゴングが鳴った。
――――しかし、
先の舞桜から感じた“違和”がどうしても引っかかってしまい、打って出られなかった。
一方、舞桜は懐から何かを取り出していた。
それは――――
(グリーフシード??)
その数、なんと5個――――舞桜は掌の上で、扇状に広げたそれらをじっと見つめる。
「どーれーにーしーよーうーかーなー?」
「…………」
ふざけているのか、と一瞬、
舞桜の表情――――先刻の緊張と不安は拭い去られ、決意を固めたかの如く引き締まっていた。
嫌な予感がする――――
無論、今なら攻撃のチャンスだ。試合に於いて先制攻撃は勝利への近道である。
しかし、
一歩後退して、舞桜の様子をじっと観察する。
「てーんーのーかーみーさーまーのーいーうーとーおーりー…………よし、これにしよう!」
舞桜が一つのグリーフシードを選び取った。
残りを懐にしまった後、選別した“それ”を胸元にある自身のソウルジェムの前で翳す。
「……んんっ!?」
瞬間、
グリーフシードに溜め込まれていた“穢れ”が、舞桜のソウルジェムに吸い込まれていく。
鮮やかな桃色が、見る見るうちにドス黒く染まっていった。
今更説明するまでも無いが、グリーフシードとは普通、ソウルジェムから穢れを吸収する為に使用するもの。
しかし、高菜舞桜の使い方は全く逆――――
「…………っ」
ぞっと、背筋が寒くなるのを感じて、
幼少の頃から一般人、魔法少女問わず多種多様な武術家と闘ってきた
正に意味不明。理解の範囲外。
故に、読めない。
高菜舞桜が、これから
故に、攻撃できない。
「よセ! このままだと……!」
「いえ」
漆黒に染まり切ったソウルジェムを見て、美雨が叫ぶ!
だが、舞桜は
ソウルジェムを凝視するその顔に浮かんでいるのは――――“微笑”。
既に、自身の勝利を確信したような、不敵な笑み。
先の子兎とは一変して、戦士と化した舞桜に、二人は身構える。
―――――瞬間、舞桜の全身を光が包み込んだ。
幾条もの漆黒の稲光が激しい雷鳴を立てて、擂台の上を駆け巡る!
突風が発生し、周囲の観客席から悲鳴がけたたましく響く。
凄まじいエネルギーの波動が、舞桜の全身から爆発的に発生したのだ!
しばらく耐えていると、風が止まった。
二人が顔を上げると、擂台の中心で大爆発が起きたかのような光景が広がっていた。夥しい量の漆黒の瘴気が、まるで火事場の煙の如く猛烈な勢いで天に昇っている。
魔力反応から察するに、高菜舞桜は
ソウルジェムに穢れを満たして、何を仕出かそうというのか?
普通に考えれば、自殺行為だ――――読めない。全く読めない。
「…………」
暫く、
鬼が出るか、蛇がでるか――――いずれにしろ、これまでの経験を活かして迎え撃つのみ。
しばらくすると、黒煙が何かに吸い込まれるように、消え失せた。
直後――――姿を顕した“それ”に、全ての人間が瞠目する。
「何、これ……?」
「卵……?」
観客席は不安の声でざわついていた。
見えたのは、直系・高さ5メートルはあろうかという、巨大な真っ黒の球体だった。
ぴきっ
「えっ?」
「どうした
「
まるで、卵の殻に罅が入ったような――――そんな音が聞こえた。
ピキッ……
ピキッ……
ピキピキピキ……ッ
「まさか…………!?」
悍ましい気配を感じて、
黒い球体の中に、“ナニカ”が居る――――
内側から殻を割って、外に出ようとしている。
ピキピキピキ……ッ
ピキピキピキピキピキ……ッ
罅が球体全体に走る。
音はどんどん大きくなる。
拙い。
――――拙い!!
「試合中止!!! みんな逃げろおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
美雨の判断は早かった。
腹の底から鳴らした怒号が、全ての観客席に響く!!
瞬間―――――
黒い“卵”が、バリンっと弾け飛んだ!!!
「OGOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
―――――
「やっちまえ。
そう呟く大庭樹里の顔は、既に勝利の歓喜に満ち溢れていた。
モンスターハンター実写版、楽しみです。
長くなったので、二つに分けました。後編へ続く!