魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
――――2018/07/18(土) PM20:15
――――神浜市・明京町・工匠区
――――工匠大祭会場・広場
物議を醸しだした中堅戦は、一先ず、両チーム監督役の
避難した一般客も、観客席に戻り、再び副将戦への期待に熱を挙げていた。
歴史に残る大激戦が繰り広げられた擂台の上は、見るも無残な程ボロボロになったが、今では時間が経過したことで、修理も終わってすっかり元通りに――
「――って、ちょっと待って!?」
突然、観客席から鶴乃が立ち上がり、誰にでも無くツッコム。
「時間経過って!? そりゃ前回投稿から約1カ月以上経ってるけどさ! 作中じゃたった10分だよ!? 修理の暇すら無いのになんでいきなり元通りになってんのっ!?」
――――全くもってその通りである。
「鶴乃ちゃん、あんまりそういうこと言っちゃダメだよ……」
「だけどいろはちゃん、これはいくらなんでもツッコミ所満載――」
「恐らく、あの方ネ」
なんかメタな事を言い合う二人の間に、審判の
首を傾げる鶴乃。
「あの方?」
「我らが蒼海幇、最高幹部衆・五強聖の一人、
「え? ルオって……もしかして」
その名前を聞いて、ある事に気付いたのは、いろはだった。
美雨が何も言わずにコクリと頷くと、今度は、後ろから
「美雨。
「ン、スマン」
美雨が、会釈して豪杏に謝った。
二人のやりとりを聞いて、いろははハッとなった。
「
豪杏が振り向いた方向――赤竜隊・控えのベンチには、やや青みがかった髪のツインテールの、細身の少女が体を丸めて座っていた。
「アッ、はっ、ハイ! だ、大丈夫です!」
豪杏に声を掛けられるや否や、
瞬間、鶴乃といろはが驚いたのは言うまでも無い。
彼女は、でかかったのだ。
それは、胸部に生える豊かな丸みもそうだが、身長もかなり有る。相対する豪杏よりも一回りは高い。173~5はあるだろうか。胴はかなり引き締まっているが、魔法少女衣装から露出した四肢は、バキバキの筋肉の塊だった。細身が多い蒼海幇の魔法少女の中でも、彼女だけは激しい鍛錬を積んでいたのは容易に想像できる。
「今は、姉君のことは気にするナ。いいカ」
「はいっ! 行って参ります!
「うむ」
豪杏が拱手を返すと、
「豪杏」
子静を見送ると、横から声を掛けられる。
豪杏が振り向くと、大将役の
「梅華姉様」
「うん。其方から見て、
問われて、途端に豪杏は渋い顔を浮かべた。
「はい……
そこで豪杏は、いきなり胸をぐっと掴んだ。
「……
苦々しい顔を浮かべて呟く豪杏に、梅華は頷く。
「うん、
「はい……。彼女は優秀な姉君と常に比べられてきましタ。故に、仕方ないとは思いますガ……メンタルが不安定なのは、武闘家としても、魔法少女としても、致命的です」
「うん……」
二人は、子を見守るような眼で
彼女と闘う相手は、
一見、緋華仙香、繚蘭百花のような強者には見えない。
だが、高菜舞桜の例がある。
副将を任せられたのは、それなりの理由があると見るべきだろう。
☆
――――一方の、チーム竜ケ崎サイド
副将の宮根 灼が控えのベンチから立ち上がる。
「じゃー親分、そろそろ行ってきますねー!」
「おーがんばれよー。期待してねーけど」
「……え? あれ? ちょっとそれ酷くない?? もう後が無いんですけど。私負けたら敗北確定なんですけど??」
ベンチにぐでっと寄り掛かりながらあんまりな事を言う樹里に、灼がジト眼で睨む。
「舞桜も負けたしなー……」
樹里がはあぁ~、と溜息。
「自分から喧嘩吹っ掛けた癖になに早くも負け認めてるんですか……。先生っ! 先生は私の事、応援してくれますよ、ねっ☆」
「…………」
ぴょこん、と大将役の綾濃の下に飛び込んで、輝く目を向ける灼。
綾濃はしばらく沈黙した後――――グッと、サムズアップ。
「灼さん、散り様は美しくあれ、よ」
「そうそう、盛大に当たって砕けて……って、あっるぇー???」
一切期待されてませんでした。
二人からぞんざいな扱いを受けて、段々腹が立ってくる灼。
「あーもう! この宮根 灼! 相手が誰であろうと、いつも通りゆるーく戦って、サク―っと勝ってきちゃいますからね!」
プンプン怒りながらも、灼は擂台の上へと駆けあがっていく。
その様子を見送りながら、樹里と綾濃は、笑い合った。
「くくく、灼……お前は、ナニクソって苛ついてる方が丁度良いんだよ……!」
「ふふふ、下手に持ち上げたら図に乗ってしまいますからねぇ……」
それに――――樹里は不敵な笑みを浮かべた。
(今度こそ目にモノ見せてやるぞソウカイヘイ。灼に大した実績は無い。だが、“無敗”だ……!)
☆
――――こうして、副将戦が開始された。
「…………」
右手にラケットを握り締めており、一般的なテニスプレイヤーといった格好だ。
大方、飛び道具がメインだろう。一気に距離を詰めれば勝負が付けられそうだが、相手の固有魔法が分からない以上、迂闊に前に出るのは得策ではない。
さて、どうするか――――
「ふふん……」
対する灼は、軽くスイングの練習をしながら、不敵に笑っていた。
強そうには見えないが、一筋縄ではいかなそうだ。
「
いきなり灼が沈黙を破ってきたので、
「そうだガ……なにカ」
「知ってますよ。だって、お姉さんが、蒼海幇の最高幹部ですからね☆」
“姉”を話題に出されて、子静の眉が、ピクリと反応。
「……今、姉さんは関係ない筈ダ」
「いやいや、せっかく会えたんだし、聞かせてくださいよー? 確か、5歳の頃から武術教室に通い始めて14歳の頃に国内最高クラスの武術表演者に送られる『武英級』を取得。15歳の頃に武術選手権大会で、全国優勝を果たす! いやーすんごい経歴ですよねー!! 憧れちゃいます!!」
「……うるさイ」
捲し立てるように、
灼は、微笑みながらボールを真上に投げる。
「あれー、もしかして怒っちゃいました? そういえば
パンッと、灼は目線まで落ちたテニスボールを軽く弾き飛ばす。
球は一直線に、子静に向かっていく。
「……ハッ!」
弾き飛ばすつもりで、勢いよく突きを繰り出した――――筈だった。
「っ!?」
直撃の瞬間――――
まさかの衝撃に、
球は予想以上に重く、右拳には電流が走り、足は思わずよろめいてしまう程だった。
「そんな……」
有り得ない――――と
姉弟子達から毎日、100回もの投石を受け、それを拳で砕いているのだ。
魔力で生み出したものとはいえ、あんな軽々しく打った球に拳が負けるなど……。
「前方不注意☆」
「っ!!」
灼の掛け声に、慌てて首を上げて前を見た。
二球目が既に迫ってきていた。
迂闊だった、打った音すら聞いていなかった――――だが、まぐれは二度も無い、今度こそ……。
「くぅ……!」
やはり、重い――!
球は弾いたが、拳から肩に掛けて鈍い衝撃が痛みと共に走り、
その様子を見ながら灼は笑う。
「あっれー? どうしましたー? 中国武術なら、あれぐらい軽ーく凌げる筈ですよねー?」
「くっ……」
痺れる拳を摩りながら、灼を睨む
「もしかして、お姉さんの事で気が散っちゃいました? ごめんなさいねー。でも、ダメですよー、戦闘中に余計なこと考えちゃー!」
「分かってル……!」
「これが、魔女戦だったら、死んじゃってますから……ね!」
再び灼が緩やかにサーブを打つ。
――――
――――自分の事しか見えていない。故に、貴女は、“未熟者”なのです。
――――足手纏いは、必要有りません。
――――魔女と闘えば、“死ぬ”だけです。
(分かっているって……姉さん……っ!)
灼の言葉のせいだ。
忌々しい記憶が蘇ってきて、
そうだ、余計な事は考えなくていい。
集中しろ。相手の打った球は自分の身体の“何処”を狙っている――――見極めろ!
「っ!」
そこだ――――と
「っ!?」
驚愕した。
接触する寸前で、テニスボールが
そして、
「ぐふっ!!?」
下腹部に鋭い痛みが走り、子静の身体が大きくよろめいた。
目線を下に向けると、消えた筈の球が自分の腹に突き刺さるように喰い込んでいた。
「なっ……!」
馬鹿な。よく狙って打った筈――有り得ない。いや、しかし……まさか、
「もしかして、見落としちゃいましたー?」
「っ……!」
灼の何気ない一言に、
胸中の不安を、見事に言い当てられた。動揺が、隠せない。
「お姉さんの事、すんごいコンプレックスなんですねー?」
――――うるさい、黙れ。
「わたし、一人っ子なんで、気になるんですよねー。優秀なお姉ちゃんがいるって、どんな気分?」
――――
――――同じ姉妹でも、どうしてここまで違うのかねえ――――
――――
――――お前と姉の違いは唯一つ、“努力が足りない”――――
「!! 黙レっ!」
頭の中が騒がしい。
忌々しい。比較するな。自分と姉は違う人間だ。黙れ。黙れ。黙れ。
黙って、私をちゃんと見ろ――――!!
子静は、かぶりを上げて、怒声を張り上げた。
動揺と感情が高ぶり、完全に視野狭窄になっていた。
視界は灼しか映していない。
その状態が、とっくに灼の罠に嵌っていることにすら、気づけなかった。
6月は仕事とプライベート双方が忙しかったため、執筆はおろか、勉強の為の読書をする暇すらありませんでした。
今月からはいくらか余裕ができるので、10日おきぐらいに投稿できれば。