魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost 作:hidon
――――観客席。
「おいおい、あの嬢ちゃん、泣いてるぜ?」
「蒼海幇の魔法少女でしょ? 強いんじゃないの?」
「けど、相手の姉ちゃんに指一本触れてねーじゃねえか」
「山場のない副将戦だな……」
「おーい! 真面目にやれー!!」
子静の心境など、知った事ではない観客達は次々と心無い野次を飛ばす。
そして、お組の応援席でも……
「ねえ、あの子、本当に拙いんじゃないの?」
「うん、応援してあげたい、けど……」
鶴乃とあきらも難しい顔で、這い蹲ったまま泣く子静を見つめていた。
ガンバレ、負けるな、と応援したいが、あの状態では逆効果かもしれない。
「あっちは……?」
「お頭は?」
鶴乃は、少し離れたチーム赤竜隊のベンチに座る、豪杏を。
あきらは、隣に座るおけらに目を向ける。
二人共、自分達と同じく複雑そうな面持ちで、擂台の上をただ、眺めていた。
何か言いたい事があるのに、言えないのだろう。
「なんだか、むずがゆいよ……」
「うん。……けど、あれじゃあどうにも……」
あきらと鶴乃も、諦めるしかないと思った。
観客席全体が静まり返り、微妙に冷めた空気が覆い始める。
「――――!」
だが、その雰囲気の中で只一人、抗おうとする少女が居た。
「いろはちゃん?」
隣でいきなり立ち上がったいろはを見て、鶴乃は目を丸くする。
瞬間、いろはは大きく口を開いた。
「子静、ガンバレ~~~!!!」
子静の敗北は濃厚。
この副将戦を観る価値は無い。
次の大将戦に期待しよう。
観客の誰もがそう諦めていたが為に、いろはの応援には、全員がギョッと振り向いた。
「ちょちょっ! いろはちゃん!?」
応援はマズイって、と鶴乃はいろはを座らせようと手を引っ張るが、彼女はそれを払い、引き締まった顔で子静を見据えていた。
「ここに子静さんのお姉ちゃんがいたら、そう言ってた筈です!」
「……っ!」
気合を込めた一喝に、鶴乃を含めた観客達がハッとなる。
灼が、いろはの方を振り向いて、冷笑を飛ばした。
「何を馬鹿な――」
「バカなことヲ!!」
「は……?」
応援を送った先の子静から、まさかの言葉を返されて、いろはの眉間にぐっと皺が寄る。
「そんな事は絶対二有り得なイ!!」
「…………!」
いろはが、拳をギュっと握り締めた。
「姉さんは私を捨てたんだ! 何をしても無駄だって! だから」
応援しないで――――と、涙目を向けてそう訴える子静。
「ッ!!」
カチン。
その一言が、いろはの逆鱗に触れた。
「お姉ちゃんを馬鹿にしないでください!!」
いろはの怒号が、この場に居る全ての人達の耳に際限無く響き渡る。
全員がその言葉に唖然とした。
だが、一番驚いていたのは、子静であった。
怒り頂点のいろはの顔――――確か、何処かで見た記憶がある。
「痛い目に遭って、馬鹿にされて、泣く程辛い思いをして……それでもっ」
拳を震わせながら、カッと目を剥いた。渾身の力を腹に込めて、叫んだ。
「必死で戦ってる妹を応援しないお姉ちゃんなんて、世界のどこにも存在しません!!」
そうだ。あの怒った顔は――――忌々しいものではない。
ずっと探し求めていた、懐かしいもの――――
☆
「子静……何故、馬鹿にされても言い返さないのです?」
いつだったかは忘れたけど、うんと小っちゃかった時の事。
不意に神翔からそんなことを問われたのを、思い出した。
「うん。だってしょうがないよ。お姉ちゃんと違って、私、ノロマだし、馬鹿だもん」
確か、私は何気ない気持ちで笑ってそう言ったっけ。
「お姉ちゃんも、私みたいなのが妹だと、嫌でしょ?」
そういうと、神翔は怒った顔をしたんだ。
今、私を叱ったあの子みたいに、こう吠えた。
「お姉ちゃんを馬鹿にしないでください!!」
――――
<子静さん……>
「!」
記憶の海に浸る中で、突然今の少女の声が割り込み、子静はハッと我に帰る。
いつの間にか、涙が止まっていた。
視線の先にはいろはが、険しい顔のまま自分を見つめていた。
<いきなり怒鳴ってしまってごめんなさい。お姉ちゃんと比べられてきて、ずっと辛い思いをしてきたんですよね。だけど……本当に、
「え……?」
それは小さかった時に見た、姉の顔と瓜二つに見えて。
子静は食い入るように、彼女の顔を見つめ返した。
<私にも、妹がいました。妹がいつも居た頃は、嫌なところばっかり目に入って、よくケンカもしたんです。妹なんていなくなってしまえば……なんて思ったことも、ちっちゃい頃はよく有りました。だけど、いなくなってから……不思議と、楽しい思い出だけが、蘇るんです>
「…………」
<子静さん……。お姉ちゃんとの思い出。本当に、嫌なものしか、無かったんですか……?>
「…………」
子静は俯いた。
俯いて、よく考えた。
ずっと姉が、自分を見限ったのだと思っていた。
だけど――――本当は違うんじゃ無いか。
だって、姉は……。
あの時、私を叱った後、何て言った?
『姉如きの為に貴女は自分の人生を諦めるのですか?』
『正直になりなさい。馬鹿にされて嫌だと思ったでしょう。悔しいと思ったでしょう。 だったら耐える必要などありません。貴女を馬鹿にした連中など、貴女がぶちのめしてやればいい』
『貴女は恵まれた体格と、強力な腕力がある。それを自分を示す為に使わずに、いつ使うのですか?』
――――そうだ。
<子静さん。自分で言ってましたよね……“見捨てられた”って>
「…………」
<お姉ちゃん、本当に子静さんを突き放すつもりだったのかな、て……>
「…………」
<詳しい事は分かりません。だけど多分、子静さんに違うモノを求めてたんじゃないかなって、思ったんです……>
そうだよ。
この子の言う通りだ。姉さんは小さい時、私を見捨てなかったじゃないか。
私の良さを認めてくれてた。
負けるな、ガンバレって――近くで応援してくれたお陰で、私は馬鹿にした連中に仕返しできたじゃないか!
――――おやめなさい。
そうだよね、姉さん。
姉さんは、見捨てたんじゃない。ちゃんと目の前で、待っててくれてたんだ。
だから“あの時”、私は目を背けずに、逃げずに、しっかりと示さなきゃいけなかった。
自分の気持ちを、感情を、姉さんに真正面からぶつけなきゃいけなかったんだ!!
姉さん。
あの時、姉さんに否定されて、嫌だったよ。悔しかったよ。
だから…………いつか――――
「ガンバレ子静!!!
負けるな子静!!!
立ち上がれ!!!
貴女を馬鹿にした奴なんて、ぶっとばせー!!!」
“お姉ちゃんと良く似てる子”の応援だけが、耳朶を叩く。
冷え切った心が、ジンと熱くなった。
<ありがとう>
私はテレパシーで、一言、その子に礼を述べると、顔を戻す。
「ハッ、応援したって無駄無駄。 もう、
バシンッと今まで聞いたよりも遥かに強い音が響いて、子静は顔を上げた。
対戦相手の宮根 灼がトドメのスマッシュを放つ。
球は高速で子静の顔面に向かっていく!
そして――――衝突まで残り1mの所で、消えた!!
「これで、ゲームセット!!」
灼が勝ち誇った笑みで、そう断言する! が――――次の瞬間!!
「あだ~~~~~~!?!?」
バコンッ!!という大きな衝突音。
直後に見えた光景に、観客全員が驚愕した。
球は
何が起きたのか、と、観客全員がざわめいた。
そして、子静の方へ目を向けると――――一斉に目を剥いた。
「…………!!」
そこには、『這い蹲った姿勢のまま、右腕を振りきった状態の子静』が居た!!
その様子から推測できることは唯一つ。
今の一瞬で、消える球を受け止めて、灼に投げ返した……? そうとしか思えない。
「な、なんで……?? ……っ!?」
目の前で星がチカチカと瞬きながら、灼はどうにか上体を起こした。
そして、相手の方を見て、ギョッと身震いする。
そこには、鬼の顔をした羅 子静が立ち上がっていた。
「私には、目標がアル」
「……!」
形勢逆転された、と灼は確信した。
今、子静は、床に這いつくばる灼を見下ろしている。
「いつか、姉を……私を馬鹿にした羅 神翔を……この手でぶちのめすっ!!」
「ひっ」
「宮根 灼!! お前如きの言葉で立ち止まってる暇はナイ!!」
「ひいいいいっ」
詠春拳の構えと同時に、向けられた剛腕は正に岩石そのもの。
あんなもので殴られたら一溜りも無いと灼は悲鳴を挙げる。
(何で急にやる気に……って、あのピンク頭のせいかぁ~~~!!!)
未だざわついている観客席の中で、いろはだけが子静に「ガンバレ」「負けるな」と懸命にエールを送っていた。
(畜生あのガキィ……黙らせてやるっ、よ!!)
苛立ちを顕わにした灼が矛先をいろはに変えた。
擂台の中央まで駆け出すと、バシンッ、とスマッシュを打ち出す!!
しかし――――ギュンッ!! と、高速で横から飛んできた大きな影がいろはと重なった。そして、自分の球がフッと消えて、ビュッと風切り音!!
「いでええええええええええええええええ!?!?!?」
再びバコンッというけたたましい音と共に、灼の顔面に激痛が走り、身体が吹き飛んだ!!
「バカめ、お前の相手は私ダ。どこを狙ってイル!?」
見えたのは、右手を振りかぶった子静の姿。
その鍛え上げられた剛脚で一瞬の内に、灼の真正面に立ち塞がり、球を投げ返した、という訳だ。
剛速球は再び灼の顔面にぶち当たり、情けない悲鳴を上げて端まで飛んだ。
<灼――――!? 無事か―――――!?>
場外寸前で灼の身体は止まった。
しかし、ダメージは大きい。灼は目をグルグル回しながらもどうにか立ち上がり、テレパシーで声を掛ける親分に訴える。
<親ぶーん! あのピンク頭っ!! あいつの応援のせいですー!!>
聞いた途端、チーム竜ケ崎のベンチで樹里が立ち上がる。
「よし百花、命令だ! あのピンク頭の口を塞いで来いっ!!」
「いやです」
しかし、きっぱりと断られてしまい、樹里が焦る。
「何っ!? だったら仕方ねえ! この樹里サマ自ら」
瞬間、百花は樹里の手首を、ギュッと掴んだ。
「少し黙って」
「あ痛って~~~~~~~!!?」
ぐっと力を籠めると、骨がミシッと軋む音がした。樹里が痛みの余り情けない悲鳴を挙げる。
「だ、だーめだこりゃ……」
その様子を眺めながら、灼は顔に青筋を浮かべて、ガックリと項垂れた。
「くっそー! こうなったら……とっておきだっ!」
灼が子静の方へ振り向き、そう吠えると背後に魔法陣が出現する。
子静が息を飲んで、身構えた。
魔法陣からは黒いテニスボールが、大量に出現した。
「分身魔球っ!!」
「……!」
ニィッと残忍に嗤う灼。
やはり、とっておきか――――子静は目を細めて、宙に舞い漂う黒い球一つひとつを注視する。
「私がこのラケットを振った途端、勝負が決まる!」
「……」
勝ち誇る灼を前に、呼吸を整える子静。
「さーて、四方八方から迫る球を、どう捌くのかな?」
瞬間――――ギュンッとまたも子静が消える。
「えっ?」
「これカ」
灼が素っ頓狂な声を挙げるのと同時に、パシッと“何か”を掴んだ音がした。
まさか――と思い振り向くと、その剛脚を用いて勢いよく飛び上がり、黒い球の一つを握り締めていた。
「っ!! わああああ!! タンマタンマ!! それにはもう一つ仕掛けが」
「返すゾっ」
言い切るよりも早く、子静は腕を振り被っていた。
ビュッと風を切る音と同時に、剛速球が灼の足元に叩きつけられる!!
「あっ」
逃げようと思った時にはもう遅い。
ズッドオオオオオオオオオンッ!!!――と、黒いテニスボールは激しい轟音を挙げて大爆発!!
大ダメージを負ったことで、魔法陣と他の黒い球も消滅した。
爆風を諸に浴びてボロ雑巾と化した灼は、そのまま高く吹き飛ばされて、場外の地面に背中を叩きつける。
「あいたっ!」
「試合終了!
「ハッ!?」
審判による判定が聞こえて、灼は慌てて起き上がった。
見えたのは、擂台の上で拍手喝采を受けながら、観客達に拱手を送る子静の姿。
「そんな」
驚く間も無く、脳内に親分のヒステリックな叫び声が響いた。
<灼ッ!! 今だ!! “奥の手”を使えッ!!>
瞬間、灼の瞳の闘志が燃え上がる。
そうだ、まだ、
「固有魔法……」
灼が右手首に嵌められたリストバンドを外すと、中から『腕時計』が現れる。
「『リプレイ』!!」
叫ぶと、腕時計から小さな魔法陣が出現した。
時計の針が、逆方向に回転する。
☆
――――…………
――――――――…………
―――――――――――――…………
「副将戦! 始め!!」
審判の美雨の合図が聞こえて、灼はハッと
向かい合うのは、自分を睨みながらも、距離を取って様子を伺う羅 子静。
目線を下に向ける。先ほど、子静から攻撃を受けた箇所を摩ってみる。
自分の身体には痛みも無く、傷一つ無い。
(よっしゃ!)
成功を確信して、灼は笑った。
そう、これこそが、固有魔法『リプレイ』の効果だ。
自分が“敗北”した試合に関してのみ、一度だけ時間を試合直前まで巻き戻して、仕切り直す事ができる。
当然、灼以外の人間に、『リプレイ』発動前の記憶は引き継がれない。
相手の癖や弱点を完全に把握した上で、再戦を臨める――――灼が“無敗の女”と及ばれた最大の理由であった。
(ふふふ…………)
勝利を確信した笑みを浮かべて、灼が“何も知らない子静”を睨む。
(さっきはよくもやってくれたな~……自信を取戻されると非常に厄介だ。そしてあのピンク頭……奴の心を叩き折ったら、あいつも潰すことを計算に入れておかなきゃ)
灼は頭の中で戦略を練る。
同じ轍は踏むまい。
子静は、この時点では自分を用心深く観察しているだけ。
果敢に攻めてくることはしない筈――――
「えっ?」
等と思うのは、油断に過ぎなかった。
視界から子静が忽然と消えて、灼は目をぱちくりさせる。
瞬間――――全身が影に覆われた。
「先手必勝!!」
とっくに灼の懐に飛び込んで、拳を振り被っていた子静が吠えた!!
「な……!」
「破ッ!!」
呆然となる灼に向けて、裂帛の気合と同時に拳を打ち出す!
ドカンッ!! と爆音を挙げて下腹部に直撃!!
「~~~~~~ッ!!!」
筆舌に尽くし難い激痛の余り、宮根 灼、声も挙げられずに撃沈!!
ガクリと両膝が折れて、ばたりと前のめりに倒れる。
「……………もう二度と、心は折らせナイ……」
子静はそう呟いた後、しばらく、灼の様子を伺っていたが……動く気配はない。
「宮根 灼、戦闘不能! よって羅 子静の勝利!」
「ふぅ~」
審判からそう判定が下されて、子静は安堵の溜息を付いた。
あまりに呆気ない幕切れに、観客席がざわつくが、子静は意に介さず、倒れ伏したままの灼に拱手を送り、踵を返した。
瞬間――――
「えっ?」
今度は、子静が驚く番だった。
“ぐにっ”と、
それが滑るように前に転がったため、子静の右足が浮き上がり、バランスを崩してしまう。
「わったったった!」
慌てて両手をバタバタ振り回し、片足でどうにかバランスを持ち直そうとする子静。しかし、
「うっ!?」
ゴチンッ、と後頭部に何か固いモノが衝突した。
前のめりに倒れそうになる子静。
「なっ」
顔面から床に衝突する瞬間――――“落ちていた物”に、子静の肝が冷えた。
それは黒くて丸い、宮根 灼がとっておきとして召喚した、テニスボール型の爆弾!!
「っ!? うっぎゃああああああああああああああああああ!!!!」
回避する間も無く、顔面とそれが接触!
瞬間――ズッゴオオン!!――と轟音を挙げて大爆発!! 子静の身体が宙を高く舞い、場外まで投げ出された。
「あうっ」
頭から地面に落っこちて、子静の視界に星が散らばる。
「判定訂正!! 羅 子静、場外!! 宮根 灼の勝利!!」
「えっ?!」
途端、響いてきた審判の声に、子静は慌てて顔を上げた。
擂台の上を見て、愕然となる。
そこには、下腹部を摩りながらも、ゆっくり立ち上がる宮根 灼が居た!!
「……ふふふ……心に余裕が有っても……“慢心”は……禁物ってね……」
そう呟いてほくそ笑む灼だが、顔面は冷や汗がダラダラ流れており、青白く染まっていた。
ギリギリで立っているのだろう。両膝もガクガクと震えている。
「な……なんて人だ! わざと相手に打たせて、気を失った振りまでして、隙を作るなんて!!」
驚愕するあきらに、サムズアップを向けて微笑む灼。
「(本当は違うんだけど……)
そ、そうでーす……! ざ、ざまぁみ……ろ……」
そこで、灼の意識はプツン、と切れた。
ばたん、と前のめりに倒れ込む。
「美雨姉様……」
「惜しかったネ、子静。相手は気絶したガ、先に場外なったお前の負けヨ」
「くっ……」
子静は場外の地面に這いつくばったまま、苦々しく歯噛みした。
副将戦は、あっさりと終幕した。
観客席が、終始静まり返っていたのは、言うまでもない――――
☆
チーム竜ケ崎の応援席では――――
「よぉし! 灼、よく頑張ったな!!」
ぐるぐる両目を回しながら担架に運ばれていく灼を遠目で見送りながら、樹里は満足そうに笑う。
「竜親分」
すると、背後から声を掛けられて振り向いた。
固有魔法を使ったのだろう。完全復活した様子の繚蘭百花が歩み寄ってきていた。
「あの様子ですと……固有魔法を用いたようですね」
言いながら百花は、樹里の隣に座る。
「それでも先手を喰らった時は、一瞬ヒヤッとしたがな……けどこれで大将戦だ!! 先生、お願いします!!」
「よしなに」
樹里に頭を下げられて、竜ケ崎最強の魔法少女――――竜宮綾濃が音も無く、ゆっくりと立ち上がった。
彼女と戦うは、蒼海幇随一の刀術使い、
両陣営が誇る二大巨頭の激突が、間もなく始まろうとしていた。
次回からいよいよ本編内でのラストバトルとなります。
☆
※おまけ
副将戦後、審判の
「……なるほど、そんなことが」
「はい、確かに宮根 灼は、固有魔法で時間を巻き戻しました」
「しかし、同年代の中でも一番要領の悪かったお前が、真っ先に奥義を修得するとはね……」
蒼碧拳には、五強聖のみが扱うことのできる“奥義”がある。当然ながら、その修得方法は秘伝とされており、門下生が教われる事はまずない。
だが、子静が修得していたと知って美雨は驚いていた。
要は宮根 灼が固有魔法を発動させた時、子静も奥義を発動させていた。巻き戻る前の記憶を
「私でさえ、宗師から教わっていないよ」
というより、“奥義”は、身体及び精神面に激しい負担を強いるので、老師は無暗に門下生に教えてはならない――――と、組織の掟に定められていた。
「悔しいですか?」
「いや。けど、いつ覚えた?」
そこで子静の表情が照れた。頭を掻いて恥ずかしそうにポツリと呟く。
「いえ、その……教えて貰ってたんです。姉さんに」
「
「はい。蒼海幇に入った頃、美雨姉様を始め、同年代の子の武術を見て萎縮してた自分に、毎朝二時間はこれを続けなさいって、“呼吸法”を、姉さんが……」
あの頃は全く気づけなかったが、今思えばアレは、“奥義”の為の呼吸法だったのだ。
毎朝続けている内に、自然と身についていた。そして――――
「宮根 灼が時間を巻き戻す直前に、姉さんの声が聞こえたんです」
呼吸法を維持したまま、奥義の発動方法を教えてくれたのだ、と子静は言う。
そこまで聞いて、美雨はやれやれと溜息を吐く。
「神翔老師も困ったものね……。お前の身に、何も無かったから良かったものを」
「ええ、全く……。でも、私ならできるって、信じてくれていたのかもしれませんね」
そう呟く子静の表情は実に晴れ晴れとしていた。
「姉さんに見捨てられた……。ずっとそう思って生きてきました……けど、今もどこかで、姉さんは私の事を、見守ってくれていたんですね」
「家族を心配しない人間はいない。血の繋がりがあるなら尚更よ。子静、それを教えてくれた環いろはに、感謝するんだね」
「はい!」
子静は拱手をして美雨の下を離れると、いろはがいる『お組』の応援席へ向かった。
背中を見送りながら、美雨は考える。
(良い傾向だ。
よもや、此度のチーム竜ケ崎の乱入も、五強聖の誰かが仕組んだ事では?
――――いや、流石にそれは考えすぎか、と美雨は一人苦笑した。