魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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 ようやく大将戦です。

 最後の対戦カードは 

←洪 梅華(カウ=メイファ) vs 竜宮綾濃→ です!


【挿絵表示】


(イメージはmakeYo1、カスタムキャストで作成)


FILE #81 蒼海幇vs竜ケ崎 大将戦 ― 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「環いろはサン。この度は、どうもありがとうございましタ!!」

 

「は??」

 

 ――――いろははポカンとしていた。

 

 そのもその筈。彼女は“何も知らない”のだから。

 副将で敗北した子静が、突然自分の前に現れて、深々とお辞儀して感謝を述べた。

 正直、意味が分からなかった。

 

「ど、どういたしまして……っていうか、あの、私……子静さんに、何もしてないと思うんですけど」

 

「ハイ!! 何もしてませン!! けど、しましタ!!」

 

「は、はあ……」

 

 なんか訳の分からないことを断言する子静の顔は、輝いていた。

 いろは、苦笑い。

 子静は、伝えたい事だけ伝えて満足したのか、満足気な様子で踵を返して、チームメンバーの待つ控え席へと去っていく。

 

「なんだったんだろう、あの子……」

 

 いろはの隣で鶴乃が困惑するのも無理は無い。

 

「さ、さあ……?? でも」

 

 子静の大きな背中を見送りながら、いろははふふっと微笑む。

 

「いろはちゃん?」

 

「子静さん、試合前と比べて、凄くリラックスしてる感じに見えるよ」

 

「うん! 吹っ切れたって感じの顔だったよね! 何でかわかんないけど??」

 

 なにはともあれ、本人が満足そうなら良かった。めでたしめでたし。

 

 さて、色々気がかりな点はあったものの副将戦は無事終了。

 残るは大将戦――――二人は、チーム赤竜隊の控えのベンチに視線を向けた。

 そこには、大将役である、洪 梅華(カウ=メイファ)が居た。

 

「…………」

 

 精神統一の為の瞑想でもしているのだろうか、梅華(メイファ)は、腕を組み瞳を閉じたまま、石像のようにじっと座り込んでいる。

 

「う……」

 

 いろはが、思わず息を飲んだ。隣を見ると、鶴乃も肩を震わせて怯えている。

 

「な、なんかわたし……生まれて初めて“サムライ”を見た気がするよ……」

 

「同じく……」

 

 一見、居眠りしてるようにも見える梅華は、隙だらけだが、“隙が無い”と二人は感じていた。

 凄まじい威厳だ、遠目で見ても圧倒される程の。

 激しい修行の賜物なのか、赤く焼け爛れたように真紅に染まった全身の肌も、御伽話の“鬼”を彷彿とさせる。

 

「さすが中国武術家の大将……もの凄いオーラだね……!!」

 

「うん……! 確か、美雨さんから聞いたけど、チームメンバーの中では唯一大人の人だったよね? 結婚とか、してるのかな?」

 

 いやいや、と鶴乃は即座に首を振った。

 

「いろはちゃん。あれはどう見ても武術に人生捧げてますって感じじゃない? 家族など強さには無用! 男に現を抜かす暇があったら鍛錬せい!! なんて毎日言ってるに違いないって!!」

 

 鶴乃が断言した、次の瞬間――――

 

 

 

 

「ママ~~~~~~~っ!!!」

 

 

 

 

「「…………………………」」

 

 ぴゅーっと真横を横切る、小さな“何か”に、二人は硬直した。

 

「ま……っ!?」

 

「ママぁっ!?!?」

 

 数拍後、仲良く揃ってびっくり仰天!!

 梅華の方を向くと、花柄の着物姿の、紫がかった髪の幼い女の子が、彼女目掛けて真っ直ぐ突進していた。

 

花織(カオリ)

 

 梅華はベンチから立ち上がり、地面に膝を付いた。

 飛び掛かってきた幼女をがばっと抱き寄せる。女の子がパアッと愛くるしい笑顔が見せた。

 

「あのねあのね、ななかおねえちゃんたちといっしょに、松田優次郎に会ってきたんだよ!」

 

 梅華は腕の中で口を捲し立てる幼女の言葉に、うんうんと頷いていた。

 

「そうかそうか。松田優次郎はカッコ良かったか?」

 

「うん!! すっごくカッコよかった!! 握手もしてきたんだよ!!」

 

「そうか」

 

「あ! ななかおねえちゃんたちも握手したんだけど、みんな『もうにどと、手はあらわない』って言ってたよ! ママ、ゆーめー人と握手したら手をあらっちゃダメなのー?」

 

「いや、ウイルスを持っていたら怖い。人に触れた後は手を洗うのが一般常識」

 

「だよね! わたしすぐ手をあらったよ。ほら!」

 

 ツルツルに輝く白い掌を見せる花織に、梅華の表情も綻んだ。

 

「うん、花織は正しい。偉い偉い」

 

「えへへ」

 

 頭をナデナデされて、花織は無邪気に喜ぶ。

 

 

「え、え~~~っと……妹、さん?」

 

「鶴乃ちゃん現実視ようよ……。今あの子、ママって呼んでたよ……?」

 

「だ、だよね……。へえ~、大人の魔法少女はたまに見かけるけどさ。子持ちの魔法少女なんて、初めて見たよ!」

 

「うん……!」

 

 遠目で微笑ましい親娘の様子を見ながらこそこそ話し合う二人。が、その時――――

 

「むっ」

 

「「ひいっ!?」」

 

 梅華の眼が鋭く瞬き、二人は同時にビクリと肩を震わせた。

 梅華は立ち上がると、二人の前へ歩み寄ってくる。

 

「「……っ」」

 

 怒られる!? と思い身構えていた二人だったが、梅華は眼前で立ち止まると、深くお辞儀した。

 

「挨拶が遅れてしまい、ご無礼仕る……お初にお目にかかります。(それがし)、蒼海幇の洪 梅華と申します」

 

「あ、えと……環 いろはと申します」

 

「由比鶴乃、です」

 

 二人も緊張混じりに挨拶を返す。梅華は、後ろを向いた。

 

「花織、挨拶を」

 

 呼ばれて、女の子がとてとてといろは達の前まで走り寄ってきた。

 

「はじめまして!! 番井花織(つがい かおり)です! よろしくお願いします!!」

 

 花織は元気に声を張り上げて、ペコリと挨拶するが、鶴乃が首を傾げた。

 

「番井……? あれ、お母さんと名前が違うよーな……」

 

「うんっ!! ママはね! おなまえが“二つ”あるんだよ!!」

 

「???」

 

 混乱する鶴乃に、梅華はふふっと微笑む。

 

「洪 梅華(カウ=メイファ)は本名ですが、今は組織のみでの通称です」

 

 実際、梅華(メイファ)は、とっくに帰化して日本国籍を取得しており、その際、『番井梅華』(つがい うめか)という日本名に改名したのだと説明する。

 

「へえ~!!」

 

 いろんな魔法少女がいるんだなあ、と鶴乃が感心する隣で、いろはは膝を落として、花織に話しかけていた。

 

「こんばんは、花織ちゃんはいくつなの?」

 

 両手でパーとチョキを同時に出す花織。

 

「7歳です!」

 

「某が18の時に身籠りました」

 

「え?! ってことはわたしと同じ年の頃にはもうお母さんだったんだ!?」

 

 鶴乃がギョッと目を剥く。梅華はコクリと頷く。

 

「尚、“できちゃった婚”です」

 

「い、意外と早いんですね……」

 

「かの武田信玄も兵法書に記述しておりました。“疾きこと、風の如く”……要、万事迅速第一」

 

「それを、“そっち”の意味で使うのは違うよーな……」

 

 真面目な顔で、冗談みたいな事を語る梅華に、いろはと鶴乃は苦笑い。

 

貴殿(きでん)方も、気に留めている異性はいらっしゃらないのですか?」

 

「「え??」」

 

 急に“そっち”の話を梅華に振られて、二人はきょとんとなる。 

 

「私は……うーん、今は毎日忙しすぎててそれどころじゃない、かなぁ……? 鶴乃ちゃんは?」

 

「わたしは……う~む、男の子の友達はいるけど。みんな人は良いけど、ヘタレだからなぁ。魅力的な男性って本当におんじぐらいしか見当たらないよ」

 

「あはは、おんじさん、男前だもんね……。けど」

 

 いろはは、梅華に真剣な眼差しを向けた。桃色の瞳の中に羨望が強く映っている。

 

「梅華さんの事、羨ましいと思います。魔法少女って、自分の身がいつ、どうなるかわかりませんから。好きな人と恋愛する以前に、友達を作ることすらためらっちゃうと思いますし」

 

「ええ……梅華先生と花織さんの存在は、私達魔法少女にとっての“希望”となりえるでしょうね」

 

「そうだね。……って誰!?」

 

 あんまり聞き覚えの無い柔らかな声が割り込んできて、鶴乃がギョッと振り向く。

 赤毛のショートカットヘアの少女が視界に入り込んで、思わず背中が凍った。

 

 

「常盤、ななか……!?」

 

 

 明京町の治安維持部隊、チーム・アメノハバキリのリーダー。

 明京町では数多の事件を解決し、例え護るべき市民であろうと、些細な迷惑行為を行えば、迅速且つ苛烈に摘発する治安維持活動振りから、『女傑』『明京町の女帝』と恐れられる魔法少女……!!

 鶴乃は以前、チームメンバーに加入することを条件に、蒼海幇の力を背景に参京商店街を救うことを約束されるが断った。

 以降、ななかには強い警戒心を抱いている。

 

 …………が、桃色の法被を着て、頭に『I LOVE(はーと)松田☆』と書かれたハチマキを巻いているので、ギャップが酷すぎる……。

 

「ご無沙汰しております。由比鶴乃さん。この前は、ご無礼を働き、申し訳ありませんでした」

 

 ペコリとお辞儀をして謝られたので、鶴乃は「はあ、どうも」と頭を下げる。

 

「で、なに、その恰好?」

 

「見ての通り。今の私は愛に生きてます」

 

「いや、たぶんその愛は一生届かないと思うけど。相手のハードル高すぎて」

 

「ご心配なされず。松田優次郎様との人生設計プランは完璧ですっ」

 

「あ、絶対ダメなやつだこれ……」

 

 ふんすっと鼻息を吹かすななかに、鶴乃は絶句。

 完全に『アイドル追っかけオタク』と化したななかに、以前の迫力は微塵も無い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃――――

 

 

「八坂の」

 

「なんだKBG(クソバカゴキブリ)」

 

「バカゴキから更にランク下げんなっ!! ……ニヒッ、アタシらが勝ったらどーなるか、分かってんだろうなァ?」

 

「へっ、分かってらい……。おけらさんの店で盛大に勝利を祝ってやるぜ。勿論、“タダ”でな……!!」

 

「わーいやったー☆☆ ……じゃなくって、罰ゲームだっつの罰ゲーム!」

 

「とっくにKBGとか呼ばれてる方が罰ゲームな気がするけどな……」

 

「それはお前らが勝手に言ってんだろーが!! とにかく、そのKBGに匹敵する辱めを受けてもらうぜ!」

 

「おう、そんなら覚悟はできてるぜ……。こっちの大将が負けたら、この……“工匠南わかまつ幼稚園”のスモッグ服を着てやらあ!!」

 

 ばばん、とおけらはどこからともなく、小さな制服を取り出した。

 樹里、困惑。

 

「ああ、うん。……いや、まあ、確かに普通なら罰ゲームだけど……お前の体型で着ると、罰ゲームじゃない……。

 …………ってえーい!! こんなスモッグ服はどうだっていいんだよ!! 罰ゲームはこっちで決めさせろっての!!」

 

「ああっ!?」

 

 樹里は、おけらからスモッグ服を強引に分捕ると、ポイッとどこかに放り投げた!

 そして懐から、バリカンを取り出す!!

 

「まさか……!?」

 

 嫌な予感がして、おけらの顔が青くなる。

 

「クックック……。八坂の! 先生が勝ったらお前と蒼海幇の連中には、一週間“丸坊主”で過ごしてもらう!!」

 

 ここにいないチャンシャオランも含めてな! と樹里は恫喝する。

 おけらは冷や汗を垂らしながらも、胸を張って、威勢を張った。

 

「へっ……女の命を刈るたぁ良い根性してんじゃねえか。っしゃ!! 神浜の女に“逃げる”の字はねえ! 受けて立つぜ!! だが、分かってんだろうなァ!? 梅華の大将が勝ったら、おめぇらも罰ゲームを受けるんだぞ!」

 

「はっ、どうせお前の考えることだ、大したことはねーと思うが、教えてくれよ」

 

「ふん、後でほえ面かくなよ……。負けたら……おめぇら全員、“これ”を着やがれ!!」

 

「そ、()()は……!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっちはあっちで、なーにやってんだか……」

 

 良い年して、小学生レベルの意地の張り合いをしてる大人二人に、鶴乃は呆れる。

 彼女の近くでは、ななかと梅華が互いに挨拶を交わしていた。

 

「七香、大儀。花織の面倒を見てくれて、ありがとう」

 

 ペコリと丁寧にお辞儀する梅華に、七香もニッコリ笑ってお辞儀を返す。

 

「いえいえ、梅華先生には日頃から華道に武道と、お世話になっていますから、これぐらいは」

 

 気にしなくていい、とななかは言いたげだが、梅華の両眉が八の字に下がっていた。

 

「然し……松田優次郎はまだ撮影中の筈。抜け出してきて、本当に良かったのか……?」

 

「何を仰います」

 

 即答。ななかは首を振って真剣な瞳で梅華を見上げた。

 

「梅華先生の大事な試合を、応援しない訳には参りません」

 

「本当に忝い……。花織、お礼を」

 

 近くで、いろはと戯れてる娘を呼んだ。

 花織は、ななかを視認するや否や、「あっ!!」と声を挙げて一目散に駆け出していく!

 そして――――

 

「ななかおねえちゃーん!! ありがと~~~~!!!」

 

「わっと!」

 

 ぴょこんっと飛び上がって、ななかの胸へとダイブした。

 ななかは慌てて抱き止める。花織はキラキラした目を向けて、

 

「えへへ、ななかおねえちゃん大好きー!!」

 

「ふふっ、もう、花織さんったらっ」

 

 頬をすりすりと擦り合わせてきた。ななかも満更でない様子である。

 

 

「へえ……」

 

 いろははその様子を見て、驚いた。

 神浜中央図書館で、阿峡(あかい) (まこと)から聞いた話では、てっきり鬼のように怖い人のような印象を抱いていたが……意外だった。

 

「子供が好きな方なんですね」

 

 不意に呟くと、梅華が微笑みながら、うんうんと頷いた。

 

「美しきかな友情」

 

「「「「梅華姉様!!!」」」」

 

 ――――と、そこで。

 中国風衣装の少女のグループが、梅華の下へ駆け寄ってきた。

 (ウー) 豪杏(ハオジン)率いる“赤竜隊”のメンバー……(ツァオ) 美篶(メイイェン)(シャオ) 心蝶(シンディエ)、羅 子静の四名である。

 彼女達は梅華の前で横一列に並ぶと、一斉に拱手を送った。

 同時に、四人を代表して、豪杏が声を張る。

 

「我ら赤竜隊一同! 梅華姉様の“勝利”を心より祈っておりマス! 必ずや、あのような不義の輩共に然るべき制裁を」

 

「豪杏!」

 

「はっ!」

 

 話の途中で、梅華がぴしゃりと一喝。豪杏が気をつけの姿勢を取る。

 

「試合、大祭一環。故に、重要なのは勝敗ではなく、集まってきてくれた地元の方々に楽しんで頂ける試合を目指すのが、某の役目」

 

「えっ!? し、しかし……万が一、姉様が敗北なされたら我ら一同丸坊主でございマス!! それは、流石に……」

 

 うろたえながら意見する豪杏に、梅華は首を振って答えた。

 

「それもお客様に笑って頂けるなら、構わない。鍛錬と思い、耐え忍ぶべし」

 

「……はっ! 失礼致しましタ!」

 

 豪杏は腑に落ちない様子だったが……敗北した際は、潔く受け入れるつもりの梅華の度胸に、改めて感服した。

 頭を下げて謝る。

 すると、隣でななかに抱きかかえられたままの花織が、心配そうに母親の顔を覗き込んでいた。

 

「花織さん?」

 

「ママ……」

 

「……」

 

 悲しそうな声を聞いて、母はとっさに振り向いた。

 梅華は真剣な表情で、娘と見つめ合った。

 

「わたし……ママが負けちゃうのは、嫌だよ」

 

「そうか」

 

 梅華は娘の言葉に頷いた。そして、花織に近づき、その頭を撫でる。

 

「……花織が臨むのなら、母は全力を尽くして勝利を手に入れよう」

 

「ママっ!」

 

 微笑みながらそう囁く母に、花織の顔がパアッと輝く。

 

「ほんとっ!?」

 

「うん、本当。約束する。ほら、指切り」

 

「うん!」

 

 親子二人がお互いの小指を絡ませて、固い約束を誓う。

 それを見届けた後、ななかは梅華に頭を下げた。

 

「梅華先生、ご武運を」

 

「うん」

 

「ママ! 頑張って!」

 

「うん」

 

 真剣な眼差しで、二人に拱手を送る梅華。

 

「梅華姉様! やはり」

 

「豪杏……某が“勝利”を目指すのはあくまで花織の笑顔の為。この子を含めて、この場にいらっしゃった方々の為に誠心誠意を尽くすのが、祭りの役員の使命と。今一度、胸に誓え」

 

「はっ!! 承知致しましタ。ご武運を!」

 

「「「ご武運を!!!」」」

 

 赤竜隊から拱手を送られて、梅華も拱手を送り応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――擂台(れいだい)の上。

 

 

 いよいよ大将戦が始まろうとしていた。

 熱気に滾る観客達の盛大な拍手を浴びながら、両チームが誇る二大巨頭が、舞台の上に立つ。

 

 蒼海幇サイドは、組織随一の剣豪・(カウ) 梅華(メイファ)

 

 竜ケ崎サイドは、二木最強の武神・竜宮綾濃。

 家柄は古武道の名門。

 その上、空手、柔道、剣道、合気道……あらゆる武道の高段位を取得。

 対魔女戦では96戦無敗。

 内89戦がソロで無傷。

 対魔法少女戦に至ってはなんと、200戦無敗……

 

 衣装も相まって正に紅鬼・黒龍と称するに相応しい二人は、その場で見合っただけで、観客一同の背中に冷たい緊張感を走らせた。

 この戦い、“何か”が起きる――――観客の誰もがそう予感したが、何かは想像できなかった。

 

「…………お子様が、いらっしゃったのですね」

 

 凄まじい緊迫感の中、綾濃が沈黙を破るように口を開いた。

 梅華は少し困ったように目を泳がせてから、頷いた。

 

「……よく驚かれます」

 

 その仕草がどこか恥ずかしがってるようにも見えて、綾濃はふふっと笑う。

 

「かわいらしいではありませんか」

 

「ええ。某の宝です」

 

 梅華も微笑むが――そこで何かに気付いたのか、はっと目を見開いた。

 

「失礼ながら……貴殿は某と同じ年とお見受け致しますが……されたことは、無いのですか?」

 

「何が?」

 

 

 

「“婚活”」

 

 

 

 ピキッ

 

 

 ――――綾濃のこめかみの血管が、一瞬、太く浮き上がって見えた。

 

 

 

 

 

 

(……今、あの人、地雷踏みましたね)

 

(ははっ、あいつ、終わったなっ)

 

 その時、チーム竜ケ崎のベンチでは、百花と樹里がそう囁き合っていたという。

 

 

 

 

 

 ――――長い硬直の末、綾濃は深呼吸してから、答え始める。

 

「………………いえ、鍛錬と武道館の経営で忙しいので、そのような事をする(いとま)は」

 

「ほう、それは勿体無い」

 

「勿体無い……ッ!?」

 

 

 ピキピキッ

 

 綾濃の額に、再びごっつい血管が浮かぶ。しかも二つ。

 

 

「某も貴殿と同じような時が有りましたが……やはり、家族を作るのは良いことです。夫と娘は生きる支えになりますし、護るべき者が傍に在れば、心身は単身の頃よりも遥かに強靭と成ります」

 

 非合理な。

 綾濃は、喉元から出かかった言葉をどうにかぐっと飲み込んで、

 

「………………成程、心得ておきましょう」

 

 再び深呼吸してから、梅華を力強く見据えて、そう答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は、大庭樹里の起こした珍騒動。

 

 だが、それによって開かれた試合の熱は――――今、最高潮に達していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ・ママさん魔法少女を書きたいと思った人生だった……。
 ・小さな女の子と姉妹みたいに戯れるななかさんを書きたい人生だった……。


 どうにか、大将戦にいきつくことができました……(震え

 一部ラストはバトルとギャグで締めたい――――そんなノリで、思い付きで書き始めた『工匠大祭 編』ですが、まさかここまで長引くとは、思いもよりませんでした。

 とりあえず拙作における、蒼海幇や、ななかさん達のキャラクターは一通り書くことができたかな、と。

 ラスボス戦は、やちよさんの魔法少女ストーリーにとっといてあるので、こちらではオリキャラ同士の誰得バトルをお楽しみください(ぉ
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