魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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いろいろあって予定より二日遅れましたが、ようやく投稿できました。


FILE #82 蒼海幇vs竜ケ崎 大将戦 ― 中編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 擂台(れいだい)の上では、両チームの二大巨頭が見つめ合っていた。

 穏やかな表情のまま、直立不動する竜宮綾濃。

 対する洪 梅華(カウ=メイファ)は、脇に差した鞘に手を掛け、ゆっくりと刀を抜いた。

 

「……むっ」

 

 会場のライトを反射して刀身が輝く。だが、その光の角度に違和感を覚えた綾濃はじっと目を細めた。

 

「……それは」

 

「“逆刃刀(さかばとう)”です」

 

 問いかけるよりも早く、梅華が教えてくれた。

 そう、彼女が只今抜いた刀は、刃が逆――構えた時、刃が持ち主の方へ向く――という一見、間違えて作られたようにしか見えない代物だった。

 これには、会場からもどよめきの声が挙がる。

 

「ハッ、る●うに剣●のモノマネかよ!」

 

 チーム竜ケ崎のベンチから樹里が野次を飛ばすが、梅華は振り向かずに、「いえ」と即答。

 

「……そういえば」

 

 綾濃が逆刃刀をじっと見据えながら問いかける。

 

蒼海幇(そちら)の皆様は、固有武器を使わずに、自分の拳だけで戦っていましたね」

 

 それは、梅華が逆刃刀を用いる理由にも繋がると考えての質問だった。

 梅華は頷く。

 

「はい」

 

「その理由は?」

 

 梅華は刀を構えたまま、念じるように目を閉じて語り始める。

 

「……日本では戦後73年間、大きな争いはありません。市民団体と警察等の国家公共機関、異民族同士による衝突もありません。あらゆる力は法律によって封じられており、国民は無意識的に争いを避けようとする傾向が見られます」

 

 それは、魔法少女が社会に発覚してからも、同様であった。

 日本の社会は大きな騒動を見せることなく、比較的緩やかに魔法少女の社会進出を受け入れている。

 当然、人倫保護団体のような一般市民の団体が魔法少女相手に抗議活動を行ったり、魔法少女に排他的な処遇を行う地域も有るが……梅華の知る限り、それは小規模に見えた。

 

「…………」

 

 無表情で耳を傾ける綾濃に、梅華は話を続ける。

 

「我ら蒼海幇、皆、生まれは異国。なれど今は、日本に住み、日本を愛する者達。故に、“過去の過ちを繰り返さぬよう”努力を絶やさない日本人の精神は、敬愛して然るべきだと思われます」

 

 つまり、と梅華は、逆刃刀の銀色に瞬く“刃”に映る自分の顔を、じっと睨んだ。

 

「平和な日本の地に於いて、我らが刃を向けるべき相手は唯一つ、“魔女”のみ」

 

「成程。……もし、他に刃を向ける相手がいるとしたら」

 

「其れは……過ちを犯した自分自身です」

 

 この逆刃刀は戒め。

 常に“刃”が持ち主に向いているのは、“過った際、即座に自身を斬る為”だ――と梅華は説明する。

 

 

 

 

 ――――

 

 

「……なんだか、すっごく、カッコいいね……!」

 

 会場も静まり返って、皆、真剣に梅華の言葉に聞き惚れていた。

 お組の応援席に座る鶴乃といろはもその内だった。

 

「うん……!」

 

 やはり、蒼海幇の大将は格が違った。子供を産み、育てているのも有って人間が大きく見える。

 二人の顔を横目で見ながら、ななかはふっと微笑んだ。

 

「はい……。組織の名誉や武術家のプライドの為ではなく、近しい人達の為に全力で戦い抜く。あの方の姿勢は、お二人にとって、良い勉強になるはずです」

 

「はい……!」

 

 職業上、大先輩にあたるななかの言葉に、いろはは強く頷いた。

 ななかの膝の上には、「ママ、頑張って……!」と真剣に祈る花織が居る。

 

(子供の笑顔の為に勝つ、か……)

 

 不意に梅華の姿勢と、今の自分は、どこか似ているのかもしれないといろはは思った。

 海華が将来の自分なら――――

 この戦い、一瞬たりとも見逃してはならないと、肝に銘じた。

 

 

 

 

 

  ――――

 

 

「中国武術家と一手交えるは、武道の誉れ」

 

「参られよ」

 

 綾濃は直立不動のまま、凄まじい覇気を発する。

 対する梅華もまた、逆刃刀の刀身を鞘に戻すと、腰を落とした構えた。蒼穹の瞳が鬼神の如き眼光を瞬かせる。

 

 

 

 

 一方、チーム竜ケ崎のベンチには、大庭樹里と繚蘭百花、そしていつの間にか戻っていた高菜舞桜が座っていた。

 

「行けー!! 先生ー!! リア充なんざぶっとばせー!!」

 

「「………………」」

 

 怒声を張り上げて綾濃を応援する樹里に、両隣の子分二名は溜息。

 

「リ、リア充って……」

 

「自分もさっさと沖田の兄貴と進展すればいいものを……」

 

 ボソッと百花が呟いた一言に、樹里は顔を真っ赤にしてあたふたと慌てる。

 

「い、いや、ちが……っ!! あ、アタシとアニキは……その、健全で慎ましやかな関係をだな……っ!!」

 

「今更どの口で言ってるのか……」

 

「そ、そういって、モタモタしてるうちに取られるパターンですよね……?? あ、怜雄君からLINE来てる」

 

「私も、フィアンセから」

 

 意外と悩める恋多き乙女(?)だった樹里を放置して、スマホに集中する二人。

 が、樹里が激昂して舞桜の胸倉を掴み上げる。

 

「こんのリア充どもぉ~~~!!」

 

「ぴいいいい!!? 年下の魔法少女にはそうやってマウント取る癖に何で男の人には奥手なんですかああああああ!?」

 

「クズだな」

 

 百花が溜息混じりにボヤくが、頭に血が昇った樹里には届いてない……。

 

 

 

 

 ――――擂台の上。

 

「“居合い”ですか……!」

 

 腰を落とした梅華の構えを見て、綾濃は瞳を見開いた。

 

「最初から本気で挑まねば、貴殿に無礼と存じまして」

 

 梅華がチームの中で唯一、武器を取って戦うことを選んだのも、その理由である。

 彼女は蒼海幇随一の剣術使い。故に、刀を用いて全力で仕合うことが相手に対する最大限の礼儀と考えていた。

 

「なるほど……では、かかってらっしゃい」

 

 対する綾濃は、武器を持たず、腰を落として構えることもせず、直立不動のままだ。

 ――――何か手があるのかもしれない。

 梅華は警戒したが、固有魔法の類では無いと、長年の戦闘経験から“勘”で察知していた。

 恐らく、磨き上げた体術のみで、こちらを迎え撃ってくるだろう。

 

「……いざ」 

 

「……………………」

 

「……………………――――!!」

 

 お互いに、じっと睨み合い…………梅華が先に飛び出した。

 大きく一歩を踏み出し、綾濃の眼前まで入り込み――抜刀!! まさに神速。銀色に光る刀身が半円を描いて綾濃の首筋を狙う。逆刃刀の形状上、攻撃の際は必然的に“峰打ち”となる。しかし、工匠区の名工によって鍛え上げた鋼鉄の塊だ。梅華の剛力と相俟って威力は底知れない!

 

「ふっ……」

 

「っ!?」

 

 だが、直撃の寸前で綾濃は笑い――直後の光景に梅華は瞠目した!

 目の前に綾濃はいた。“そこ”に、気配も、魔力反応も確かに感じた。本人も呼吸音もはっきりと聞いた。故に攻撃は確実に当たると信じていた。

 だが――――空を切った。

 必殺の居合抜きは、何も無い夜空を仰ぐだけで終わった。

 

「っ!!」

 

 刹那――――真後ろから殺気。

 梅華が咄嗟に振り向き、両手で柄を握り込んだ逆刃刀を顔面の前で構える!!

 

「ぐぅ!!」

 

 瞬間、雷鳴の如き爆裂音が目の前で轟き、梅華の呻き声が響いた。

 まるで自動車が80km以上の速度でぶつかってきた様な威力だった。どうにか峰で顔は護れたものの、両腕がジンッと痛む程の衝撃が走り、両足が大きく後ずさった。

 深呼吸しながら、踏ん張り止まる。刀を下ろすと、先と同じく直立不動のままの綾濃が見えた。

 

「「「「「「……………………」」」」」

 

「…………っ」

 

 会場全体が一斉に静まり返って綾濃を凝視する。梅華も同じだった。

 今、綾濃は確かに、『攻撃』した筈。

 しかし、どんな技を繰り出したのかは、誰にも()()()()()()

 

(相手……武術奇怪)

 

 流石は達人。技の威力は凄まじい。しかし、あまり覚えの無い武術だ。

 梅華は刀を鞘に戻し、綾濃と同じく直立不動した。

 今度はじっと待ち構えることで、相手から先に動いてもらい、攻撃方法を見抜くつもりだろう。

 

「…………」

 

「…………」

 

 しばらく、お互い全く同じ姿勢で見つめ合った後――――

 

「…………!」

 

 綾濃の眼が光り、動――

 

「っ!」

 

 ――いた瞬間には、既に梅華の目の前に居た。

 

(“抜き足”!)「覚悟!」

 

 梅華は一瞬で居合の姿勢を取り、抜刀!!

 神速に薙いだ峰打ちはやはり、綾濃では無く、虚空を斬る。

 

「っ」

 

 刹那――――再び背後から殺気。梅華は振り向き……

 

(今だ!)「刮目」

 

 今度は刀を鞘に戻して、眼を見開いた!!

 あろうことか、捨て身で相手の“技”を見極めようという算段だった。

 ――――再び雷鳴が轟き、顔面に諸に受けた梅華の身体が擂台の端まで吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「梅華さん……!?」

 

 いろはの顔が蒼褪める。

 何が起きたのかは分からない。ただ、異常な破壊力を持つ一撃が梅華を襲ったのは分かった。しかも、頭に……あれでは、とても……

 

「だいじょーぶ!」

 

「え?」

 

 自信に満ちた声が聞こえて、いろはは隣を見た。ななかに抱きかかえられたままの花織が、真剣な表情で倒れ込む母親を見つめている。

 

「ママは、あんなくらい平気だよ! ねっ、ななかお姉ちゃん!」

 

「ええ……共に、信じましょう!」

 

 ななかも真剣な眼差しを向けたまま、ギュッと花織を抱き締める。

 

「……!」

 

 二人の言葉に頷き、いろはは表情を固めて、再び試合を観た。

 

 

 

 

「…………」

 

 数拍置いて――――梅華は立ち上がる。鼻が折れたらしく、力を込めて息噴くと奥に溜まった血液が床に噴射された。

 ハイリスクではあったが、ハイリターンな作戦だった。攻撃を受ける瞬間――爪先を丸めた綾濃の足背――を目がはっきりと捉えた。

 瞬間移動の如き抜き足と、回避。そして剛脚による異常な跳躍力と、今の一撃。

 竜宮綾濃の武術の神髄は、恐らく……。

 

「危ない真似を……」

 

「流石は武術師範」

 

「……!」

 

 一撃が決まったのにも関わらず綾濃の表情は苦々しいものだった。梅華は察する。

 

「やはり武器を……拳を下した相手には、本気になれませんか」

 

 先程、攻撃が当たる一瞬。まさに1秒、瞬きする程の瞬間だ。

 梅華は見切る為に武器を下ろしたが、直後に綾濃も攻撃の力を()()()のである。

 

「初手と同等の勢いのままなら、恐らく、首の骨が無事ではすまなかった」

 

「……!」

 

 綾濃がクッと顔を歪ませる。

 ――力無き者に、力を(ふる)わず――それは武術家ならば、常に肝に銘じておかねばならぬ常識だ。

 梅華は、それを算段に入れた上で、先のような“捨て身”を用いたというのか。

 

「…………」

 

 綾濃は何も返さず、表情を戻して、再び直立不動の姿勢を取る。

 

「…………」

 

 対する梅華も、逆刃刀を構えて、綾濃をじっと見つめた。

 再び、重苦しい緊張感が、会場を支配する。

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

「………………………………では」

 

 長きに渡る静寂。先に痺れを切らしたのは綾濃の方であった。

 ――――そちらから来ないなら、こちらから行く。

 技を仕掛けるべく、足を一歩、踏み出した

 

 

「待った」

 

 

 瞬間――梅華は掌をまっすぐ伸ばして、綾濃を制止する。

 

「っ」

 

 何事か――綾野は、『抜き足』を仕掛けるつもりだった足を急制動した。梅華は覚悟を決めたような真剣な表情で、綾濃を見つめて、

 

「貴殿の武術、分かった気がする」

 

 そう、言い放った。

 

 

 

 

「えー? マジかよ」

 

「魔法使ってたんじゃないのか?」

 

「してたもんなぁ、瞬間移動!」

 

 観客達も、梅華の言葉に一斉に驚いた。

 無理も無い。綾濃の戦法は正に摩訶不思議。あれを武術と見るものはまずいない筈だ。

 それは魔法少女も同様だった。

 

「えっ!? ねえ、本当にあんな武術ってあるの!?」

 

「さ、さあ……僕も魔法かと思ったけど」

 

「同じく、デス。あんな人を騙して戦うような武術は、見たことがありませン……」

 

 お組の応援席でも、鶴乃が目を見開いて、あきらと明零(ミンリン)に尋ねるが、揃って首を振った。

 幼い頃から武道を邁進してきた二人すら、綾濃の武術は初めて見るのであった。

 擂台に顔を戻すと、梅華が綾濃を捉えたまま、再びはっきりと答えた。

 

 

 

 

「恐らくは――――“忍法”

 

 

 

 

 ―――全ての観客一同が、一斉に騒めいた。

 だが、中には納得している者も数名居た。確かに、あの戦法は時代劇でよく見る忍者に近いものがあった。

 

 

 

 

 

「アイエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

 綾濃の武術が見破られて、樹里がビックリ仰天&大慌て!

 

「あのー……いちいちうるさいんですけどー……」

 

「流石だ……」

 

 舞桜がジト目で樹里を睨み、百花は梅華の慧眼に感心するのだった。

 

 

 

 

「ほう……」

 

 綾濃が口の端をニッと伸ばした。愉快そうだが、不敵な笑い方だ。

 梅華が続ける。

 

「如何に達人であろうとも、ごく一般的な武道なら、独りで魔女を89匹も殺せまい」

 

 綾濃と初めて会い、大庭樹里からそのような説明を受けてから、梅華はずっと考えていた。

 

「某の技は、貴殿に“触れなかった”……そこで、よもや、と思いました」

 

 あれは、忍法の極意――――“木化け”であると。

 実際に消えたとか、瞬間移動した訳ではない。

 はっきり見えているのに、なぜかいなくなるような“錯覚”を相手に起こす技だ。

 

 元々は、猟師の得意技であったと謂われている。

 単独狩猟をする際に、じっと気配を殺し、木と自分を同化させ、熊が近づくのを待って仕留めたそうだ。

 

「魔女と獣の性質はよく似ている。なので、恐らくは……」

 

 それだけではない。あの『抜き足』の精密さと、蹴りの破壊力も。

 

「ふふ……。そこまでご存知なら、“忍法”が如何様な武道であるかも、ご理解されている筈」

 

「はい。“忍法”とは、山で生まれ、山で培われた武芸。歴史的に見ても、あらゆる武芸の祖と言えます」

 

 ――――観客一同がまたも、騒めいた。

 蒼海幇と馴染み深い工匠区の人々にとっては、中国武術こそが最も卓越した武術であると信じていた。

 だが、綾濃の用いる“忍法”とは、それを上回るというのか。

 

「その通り。忍者は元々日本で生まれた訳ではありません。貴女は、(はた)氏をご存知ですか?」

 

「聖徳太子の側近であられた、秦河勝(はたのかわかつ)ですね。確か、“忍者の祖”であられた、と」

 

 綾濃が頷き、梅華が説明を続ける。

 

 秦河勝は、慧慈(えじ)覚哿(かくか)と並ぶ、聖徳太子の三人の側近の内の一人だった。

 かつて朝鮮半島は、高句麗(こうくり)百済(くだら)新羅(しらぎ)の三国に別れており、秦河勝も、慧慈、覚哿と同じく、その国々から渡来したと謂われている。

 

「この新羅の秦河勝は、もともと中国の呉の国の一族であられた」

 

 彼が聖徳太子のもとで何をやったかというと、孫子の兵法に基づいて『諜報活動』を行っていた。

 つまり、これが『忍者の祖』であると、梅華は解説する。

 

「そして、秦河勝の一族は、のちの服部氏の祖先……」

 

 秦氏二十九代目に当たる服部家長が伊賀服部氏の祖となり、それからは『伊賀流忍法』が伊賀服部氏に伝えられることになる。

 家長から三代目のときに、上服部、中服部、下服部に分かれ、有名な服部半蔵は上服部の直系十三代目に当たる。

 

「つまり、忍法の祖である秦一族は中国系の帰化人で、忍法の根本には“孫子の兵法”があったと……」

 

「その通り、忍法とは兵法の一つ――謂わば『スパイ』として用いられてきましたが、本来は兵法そのもの。身を隠す技術、食べ物を発見する技術、自分の与えられた状況のなかで最良に保つ技術、そして敵と戦う技術……これらはいわば枝葉。神髄にあるのは、体術と、そして心理的な技術」

 

 ――――他人の心理を利用する技術であると同時に、自分の心理をコントロールする技術だと綾濃は伝える。

 梅華は頷き、ポツリと零した。

 

「山の民……」

 

 綾濃の口元が嬉しそうに吊り上がる。

 

「ご名答。忍法や、猟師の技術というのは、全て“山”から生まれました。日本の山には、里の文化に属さない誇り高い民族が住んでいました。それこそが『山の民』……我が竜宮家は、その末裔なのです」

 

「確か、『山の民』は、十三歳になると、丹波へ赴き、二年間の修行をする習慣があると聞き及んでいます。その時、7つの法を修得すると」

 

 

 ・【軽身の法】

 

 ・【暗いところで行動する法】

 

 ・【護身の法】

 

 ・【攻撃の法】

 

 ・【つぶてや手裏剣などを投げる法】

 

 ・【秘密の連絡法】

 

 ・【身を隠す法】……

 

 

 かつて、鬼ヶ島と呼ばれた二木市の唯一神である“赤鬼”が退治されなかった理由も、『山の民』の力添えあったからだと謂われている。

 丹波で修行を終えた山の民(忍者の卵)を多く呼び寄せ、赤鬼、竜、大蛇といった神々を守護させ、外部へ諜報活動を行わせていたそうな。 

 

「私も、この7つの修業を基本にしています」

 

 忍法の修行は、密教――所謂『山伏の兵法』に基いている。

 山に籠り、獣と軽装―時には素手で殺し合い、「十穀絶ち」と呼ばれる厳しい食事制限、『印契』と呼ばれる精神統一法……何れも想像するよりも遥かに過酷な修練だろうと、梅華は思った。

 

「なるほど……色を覚える(いとま)が無かったのも、頷けますね」

 

「あ゛っ……!?」

 

 ピキピキピキッ

 

 ――――梅華は感心して言ったつもりだが、綾濃の額にごっつい血管を三つも浮かばせた。

 純粋って怖い……。

 

「人を小馬鹿にするのも今の内ですよ……」

 

「……?」

 

 馬鹿にしてないが――しかし、綾濃から殺気にも近い気迫を感じて、梅華は身構える。

 

「いくら忍法の知識が深かろうと、術を見破らねば、貴女に勝利はありません」

 

「……」

 

 綾濃がまたも直立不動の姿勢を取った為、梅華も居合の構えを取る。

 彼女の言ってることは最もだ。 

 武術とは表よりも裏の意味が大事である。例えば、空手の“型”はその動きを見られても技を盗まれないように、技を()()()()()()ある。

 型そのままでは不合理だ。“型”を役立てるには知恵――つまり、“技”の修得が必要になる。

 忍法も同じだ。

 梅華はこれの成り立ちや仕組みには詳しいが、“技”に関しては素人同然。正直なところ、見破るにはもう何度か、相手から受けねばなるまいが……綾濃の今の気迫からして、次で仕留めに掛かるのは明白。

 

「……本気で参ります」

 

「…………いざ」

 

 梅華が腰を落とす。綾濃が『抜き足』を仕掛けてきた同タイミングで抜刀。逆刃刀は綾濃に触れたが、やはり綾濃の姿が掻き消えた。

 

(…………)

 

 だが、梅華は息を乱さず――――静かに瞳を閉じる。

 

 

 

 

 ――――梅華ちゃん。どうして刀に鞘があるか、分かりますか?

 

 ――――刀の真髄は、力を隠すこと。殺すことではありませんよ。

 

 

 

 

 瞼の裏に浮かんだのは、懐かしい記憶の光景。

 子供だった頃、自分に中国武術を教えてくれた、あの人の微笑みが蘇る。

 

(姉者……)

 

 今は五強聖の一人であり、『武神』と呼ばれし女性。

 嘗ての梅華は彼女を超えようと百回拳を交えて、百回敗北した。

 今の状況と全く同じだった。どこから拳が飛んでくるか分からなくて、恐怖に怯えた。震えあがって、足が竦んだ。

 

 

 

 

 ――――梅華ちゃん。

 

 ――――目を閉じなさい。

 

 ――――視覚を失うと、他の感覚が増して、敗北よりも早く勝利を知ることができます。

 

 ――――さ、まずはここにいる鶏を50羽、捕まえてみなさい。

 

 

 

 

「…………」

 

 あの修行を、よく思い出せ。

 思考を感じろ。空気が動く。動く前に感じろ。

 

「…………――――!!」

 

 空気を切る音が聞こえた。自分の蟀谷(こめかみ)が迫ってくる“何か”を、肌で感じる。

 

「覇!」

 

 一瞬の動作で逆刃刀を鞘に戻す。必要ないと断じた。

 梅華の両手が俊敏に動き、“何か”を捕らえる。

 今だ――――敵の力を利用しろ。長所をつき、弱点をつけ。

 梅華が目を見開く。自身が捉えたのは、“綾濃の足首”――雷撃の如き一撃を放つ、必殺の剛脚。だが、“軸”を掴んでしまえばこちらのモノ。赤子の足も同然!

 

「征!」

 

 合気道の小手投げの要領で、足首を捻りまわした。綾濃の身体がそれに引っ張られて宙で旋回した後、固い床に上体を叩き付ける――

 

「くっ!」

 

 ――が、受け身を取って衝撃を防いだ。綾濃は床に手を付いた反動で、上体を起こし梅華に反撃しようと試みるが――刹那、梅華が「奮ッ!!」と掛け声。直後に綾濃が苦痛に呻いた。

 理由は明白。巨岩をも砕く梅華の手刀が、綾濃の踝に叩き落とされていたからだ!

 

「っ……!!」

 

 綾濃は無事な方の足で、梅華の手首を蹴り上げて、ダメージを受けた足を解放する。

 そして、後ろに転がりながら、相手と距離を取った。変形した骨が神経を圧迫してるのか、立ち上がろうとすると、筋肉が攣った様な激痛が走る。

 

「っ……」

 

 思わず、膝が屈めてしまう綾濃を見下ろしながら、梅華は力強く言い放った。

 

 

「“木化け”、破れたり」

 

 

 武術家にとっての急所を見事破壊したが、梅華の表情には一片の油断も緩みも無い。

 

「貴殿の“忍法”の真髄は、その鍛え抜かれた足腰から為る桁外れの跳躍力だ。軸足を破壊されては、最早“術”は使えまい」

 

 ――――だが、綾濃との勝負は()()()()だ。一時たりとて、気を抜いてはならない。

 梅華の顔には依然として強い警戒心が浮かんでいた。ゆっくりと鞘から逆刃刀を抜き、構える。

 

「…………尋常に、勝負致せ」

 

「…………よしなに」

 

 綾濃は片足で、ゆっくりと立ち上がった。

 右手がゆらりと弧を描き、脇差の鞘を掴む。

 

 

 

 

 

 

 ――――第二ラウンドが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




(参考及び引用元 今野 敏著 『孤拳伝』 3巻より)

 という訳で「アイエエエ!?ニンジャ!? ニンジャナンデ!?コワイ!ゴボボーッ!」なお話となりました。
 忍者魔法少女はまだいなかった筈なので。

 今回もなんとかギリ一万字以内におさまった感じです。
 本来は24日には投稿できる状態にしたかったのですが、トラブルが発生し、遅れました。
 決着は次回となります。
 
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